立命館アジア太平洋大学(APU)学長 是永駿氏(左)× 日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長執行役員 マーティン・イェッター(右)

世界の経済システムは、グローバル化とICTのめざましい進展によって急速な変容を遂げている。グローバルに活躍できる人材の育成は、日本経済の活性化や企業の成長にとってますます重要度を増しており、これにどのように取り組めばよいかがこの国の大きな課題だ。
別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)は、学生や教員の半数近くが外国籍というユニークなグローバル人材育成の拠点校である。一方、IBMは世界約170カ国で事業を展開しており、両者は大学、企業と立場は異なっても、グローバル化の先陣を切って時代を切り開いてきた点で一致する。
2013年11月、APUの所在地である別府市で全国IBMユーザー研究会連合会(iSUC)大会が開催されたのを機に、是永駿APU学長とマーティン・イェッター日本アイ・ビーエム(以下IBM)社長による対談を企画した。テーマはグローバル人材の育成。日本ではなぜ今グローバル人材が必要なのか、大学と企業における挑戦の試み、インターンシップや企業のキャリア制度などについて、それぞれの立場から存分に語り合ってもらった。

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APUの学生の卒業後の進路

――APUの学生の卒業後の進路や教育プログラムについてお聞かせいただけますか。

是永氏是永 APUは開学から13年たち、95%という高い就職率を誇っています。国際学生の約60%は日本で就職し、一部上場企業など日本経済の中核となる会社に多く就職しています。就職については、入学時から4年生までキャリア・スタッフがついて面倒を見るので、学生は入学直後からキャリア・プランを作っていけます。

残りの40%のうち、30%は母国に帰って就職し、10~15%は大学院に進学します。APUだけでなく、国内では東京大、京都大、大阪大、早稲田大、慶應大、一橋大など。海外ではイェール大、スタンフォード大、マンチェスター大、香港大などに進んでいます。

混沌とした現代社会に生きる我々に求められているのは、国際的センスと広い意味でのマネージメント能力です。第2次世界大戦が終わって68年が経過しましたが、東アジアでは平和共存や相互理解とは程遠い対立の構図が続いています。この対立の構図を和解と共存の構図に変えるには、お互いが対話や交渉を通じて合意点を見出すという方法を取らなくてはいけません。

APUはアジア太平洋地域の平和共存や相互理解、未来創造のために存在している大学です。就職するにせよ、大学院に進むにせよ、APUは理想的なプラットフォームを提供していると自負しています。

学生と企業、双方にメリットのあるインターンシップ

イェッター ところでAPUさんでは、学生が企業で一定期間研修生として自分の将来に関連のある就業体験を行えるインターンシップを実施されていますか。

是永 もちろんプログラムがあります。学生にとってインターンシップは大変いい経験になります。

イェッター 私はIBMのキャリア・プログラム設計に参画しましたが、そこにインターンシップを取り入れました。企業としては、学生たちが卒業するとインターンシップを経験した企業に入社する可能性が高くなるし、そうなった場合すでに基礎的なトレーニングを受けているので、即戦力になってくれます。学生のほうも実務経験ができる利点があります。

是永 インターンシップは国内外のいろいろな企業と連携して実施していますが、もっと拡大したいと思っています。ある学生が英国企業で受けたインターンシップは5~6カ月という長さでしたが、それは例外で、普通は1~2カ月です。

イェッター氏イェッター IBMは3カ月のインターンシップを提供しています。これぐらいの期間があると学生は環境に慣れて、取り組むプロジェクトや企業の仕組みについて理解が進みます。IBMは世界に幅広く内容の濃いソリューションを提供していますが、インターンシップによって、その製品やソリューション、プロジェクトを理解することができます。同僚との交流で人的なネットワークも作れます。学生のために個別のメンター(助言や相談ができる先輩)も準備しています。

グローバル化で変革を迫られる人事システム

――イェッター社長はドイツに生まれ、米国、インド、日本などで働いてこられました。海外で仕事をすることの意味をどのように考えておられますか。

イェッター 海外で働く意味は2つあると思います。1つはプロとして自分に与えられた職務をきちんと果たすこと。2つ目はもっと重要で、その国のさまざまな文化を体験し、商習慣を理解し、コミュニケーションのやり方を学ぶことです。その国のビザや就労許可証、運転免許証などを取ることなども貴重な体験になります。相手の意図も分かるようになり、よりよい指導者になれます。

是永 ところで、外国人の視点で見て、日本の年功序列制度についてはどうお考えですか。

イェッター 私が日本の社長に就任したときに、「今後の昇給等の基準はすべて成果主義による」という方針を発表しました。IBMに入社する若者はキャリア志向の人が多いので、成果主義を健全なプレッシャーにしてキャリアを高めてほしいというのが理由です。ソリューションを重視しリスクを恐れない若い人たちに活躍の機会を与えたい。年功序列がそんな彼らの気勢をそいでしまわないようにしたいと思っています。

他方、中高年の社員は年功序列に慣れているし経験は重要なので、一気に成果主義に移行するのではなく、両方を組み合わせた制度にしました。この方程式がどうなっていくのか、今後を見ていきたいと思います。

是永 APUの国際学生の60%は日本企業に就職すると言いましたが、その学生の一部は入社後に転職してしまいます。その理由の1つは「日本独特の年功序列の仕組みになじめない」というものです。

イェッター 年功序列が日本のビジネスにこれほど深く組み込まれていることを、私は知りませんでした。しかし、世界は急速に変化しており、日本は才能ある人材を必要としています。ドイツでも長い間、米国などへの人材流出が問題になっていました。人材のキャリア改革を早く進めることができなかったからです。

対談風景是永 そうした問題に対応するには、企業だけでなく大学の人事システムやコンセプトも根本から変えないといけません。
APU自身も変化に合わせて改善する必要があると思っています。特に教員の人事については、フルタイムの専任教授以外に、任期制教員の採用も進めています。APUは国際的な大学になるという非常に先進的な目的やシステムを備えていますが、他の大学でもこれに追随する流れが出ています。

イェッター それは産業界にとっても、アカデミズムとの結びつきを考えた際にはプラスになるし、学生にもプラスになりますね。

text:木代泰之

是永駿氏

これなが・しゅん
是永 駿

立命館アジア太平洋大学 学長、学校法人立命館副総長・理事
1943年 福岡県生まれ。1966年、大阪外国語大学外国語学部中国語学科卒業。1971年、同大学大学院外国語学研究科中国語学専攻修士課程修了。博士(言語文化学)。
1973年 鹿児島経済大学講師、1976年 大分大学経済学部助教授。1980年大阪外国語大学外国語学部助教授。1989年 大阪外国語大学外国語学部教授(中国語・中国文学)。1992年 カナダ(アルバータ大)、アメリカ(イェール大)にて在外研修。
2003年 大阪外国語大学学長。2008年 立命館アジア太平洋大学特別招聘教授を経て2010年1月 立命館アジア太平洋大学学長、現在に至る。
1991年『芒克詩集』の翻訳が第29回藤村記念歴程賞受賞。

マーティン・イェッター氏

マーティン・イェッター
Martin Jetter

日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長
1959年、ドイツ生まれ。シュトゥットガルト大学工学部、同大機械工学修士課程卒業。
1986年 ドイツIBMにアプリケーション・エンジニアとして入社。1999年 IBMドイツ・オーストリア・スイス インダストリアル事業。1999年10月 IBMコーポレーション会長兼CEO補佐。2000年 ドイツIBM プロダクト・デザイン・マネジメント担当ゼネラル・マネージャー。2004年 IBM中東ヨーロッパ グローバル・ビジネス・サービス事業担当。2005年 IBM北東ヨーロッパ地域統括 グローバル・ビジネス・サービス事業担当。2006年 ドイツIBM ゼネラル・マネージャー。 2011年 IBMコーポレーション コーポレート・ストラテジー担当バイス・プレジデント兼エンタープライズ・イニシアチブ担当ゼネラル・マネージャー。 2012年 4月 日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役を経て、2012年 5月 日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長、現在に至る。


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