2013年12月9日、仙台市内のホテルにてIBMリーダーズ・フォーラム2013東北が開催され、各界のリーダーが集結した。日本IBMでは石巻に新しいオフィスをオープンし、東北の復興にも積極的に取り組んでいる。冒頭の日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役社長マーティン・イェッターの挨拶を皮切りに、第一部ではパネル・ディスカッション、第二部では講演が行われた。

変革期におけるリーダーシップの重要性

イェッター社長はまず、IBMが今年2月に宮城県石巻市にオフィスを開設したことにふれ、地域の成長や雇用の促進に貢献する決意を示した。また、岩手県久慈市におけるフード・トレーサビリティーのプロジェクトをはじめ、IBMの社会貢献プログラムであるスマーター・シティーズ・チャレンジを通じて行った福島県伊達市における農業の先導的再生を実現するための取り組みなどを例に、IBMが東北の復興を引き続き支援していくことを来場者に伝えた。
「ソーシャル、モバイル、クラウドなどの潮流が一度に押し寄せ、ビッグデータの時代が到来、事業環境が激変している。まさに10年に一度の変革期であり、これまでの発想の延長線上でシステムの開発や運用を行ってはいられなくなる。さらに市場のグローバル化が進み、企業は国境を越えた競争にさらされることになる。アナリティクスを活用して社会に存在するあらゆる形のデータにどう対処し、データから何を引き出せるかで企業の競争力が決まり、その命運が分かれる。成功のためにはよりスマートな企業へと進化を遂げ、ビッグデータを駆使した意思決定や価値の創出、顧客へのきめ細かい対応を行っていかなくてはならない」
また、ソーシャル・ネットワークの中で育ってきた新卒社員を例に、今後企業にとって新たなテクノロジーを最大限に活用できる人財と企業文化がますます重要になることを指摘し、「このイベントがこれからの企業に求められるリーダーシップを考える機会になることを願っている」と熱く語った。

震災後の東北にこそ「成長におけるチャンス」を

パネル・ディスカッションのテーマは、「成長におけるチャンスとリスク」。壇上に仙台経済同友会幹事で株式会社清月記代表取締役の菅原裕典氏、公益財団法人東北活性化研究センターのフェロー、牛尾陽子氏を迎え、日本アイ・ビー・エム株式会社専務執行役員システム製品事業担当で福島出身の三瓶雅夫氏も加わり、ジャーナリストでキャスターの三神万里子氏が司会を務めた。

パネル・ディスカッションの登壇者

菅原裕典氏菅原氏は、「東北の街では、震災前からシャッター街になっていたものを震災で失い、行政や地域、そこに住む人々が、再起のためにがんばっていかなくてはならない。経営者としては、これまで“NOと言わないことを社是にして葬儀業を行ってきたが、今回の震災で、あらためて弔うことの大切さを認識した。我々にどんなサービスを求めるかは、お客様によってそれぞれに違う。震災後の今は特に、我々には一人ひとりのお客様のニーズに応える究極のサービス業が求められていると感じている。今後は、日本ならではの質の高いサービスを武器に海外進出を進める一方で、終活の新しい形のひとつとして、ライフスタイル・コンシェルジュを新たに置き、クラウドを活用した電子アルバムなどのサービスの提供に力を入れていきたい」と語った。

牛尾陽子氏牛尾氏は、「震災後、復旧は着実に達成されているが、復興はこれからしていかなくてはならない。震災前に比べ、水産業の水揚げは7割、観光業も7割まで戻したが、今、必要とされるのは風評被害防止のための情報発信だ。東北がこんなにも変わったということを世界に発信していくことが必要だが、これまで県という行政区ごとに縦割りだった東北が、震災を機に、オール東北としてひとつとなって情報発信ができるようになった。オール東北としての潜在力は計り知れず、これは東北としてのチャンスだ」と、会場で呼びかけた。

 

今後の企業の成功の鍵は「個客価値の共創」

「テクノロジーは企業の変革を加速する最高の原動力になる」と、日本アイ・ビー・エム株式会社取締役専務執行役員でグローバル・ビジネス・サービス事業担当のケリー・パーセル氏は第2部の冒頭で力説した。

ケリー・パーセルIBMが2003年から全世界で行っている調査においても、CEOが、「今後3年から5年で自社に影響を及ぼす外部要因」として捉えているもののトップは、2010年まではずっと「市場の変化」だったが、昨年、「テクノロジー」が1位となり、今年も引き続き、「テクノロジー」がトップに挙げられたという状況である。これは、経営層にとって、「テクノロジー」は、もはや戦略遂行のための単なるインフラではなく、新しいビジネスを創出するものになっていることを示している。

パーセル氏は、企業に必要とされるのは「個客価値の共創」であり、そのためには、第1に「顧客の影響力を受け入れ、経営に活かす」こと、第2に「デジタルと実世界の融合」、第3に「魅力ある顧客体験をデザインする」ことが重要だと指摘する。今後は、各企業がいかにテクノロジーを活用し、上記の3つのステップを演出できるかどうかが、マーケティング戦略及び自社のポジション確立において重要なポイントとなるだろう。

個客価値の共創を実現するために、テクノロジーが欠かせない

続いての講演では、日本アイ・ビー・エム株式会社取締役副社長執行役員の下野雅承氏が、「今、ソーシャル・メディア・ネットワーク、モバイル、ビッグデータを分析するアナリティクス、そしてクラウドがキーワードである」と指摘した。

下野雅承氏これらのテクノロジーはそれぞれが別々に存在しているのではなく、また、どれが最初に必要かということではなく、4つの仕組みが相互に依存しながら、企業のイノベーションを誘発することが特徴だ。
「ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウドは、すべての企業活動に影響を与えるものである。だが、その中で特にクラウドが今後の鍵となる」と分析する。「クラウドという言葉が存在しなかった昔も、ネットワーク・コンピューティングという言葉でその必要性が説かれていたように、クラウドの概念そのものの重要性は、以前から取りざたされていた。今は、企業を取り巻く環境そのものが変わり、クラウドの活用の可能性が以前より劇的に広がっている」
かつて時間をかけて行ってきた開発も、システムの進歩によって速度が速まっている。変化する消費者行動に対応し、スピードに遅れず、優位に立つためにもクラウドの活用が欠かせない。

IT活用で被災地と消費地をつなげ!

最後の講演は、「高価値水産業を支えるIT活用の可能性」と題して、国立大学法人岩手大学地域連携推進センター副センター長で教授の小野寺純治氏、有限会社北三陸天然市場代表取締役小笠原ひとみ氏が登壇し、岩手県における産官学の連携で行った水産クラウドの取り組みをビデオと共に披露した。

小野寺純治氏震災により多大なダメージを受けた三陸の水産業であるが、その復興にも三陸特有の復興のポイントがあると小野寺氏は強調する。
「三陸の水産業の特徴は、湾の中で漁業が行われること。いわば、中山間地漁業であり、それぞれの湾で魚の味が違う。現状では、それぞれの湾の魚が一緒くたになって消費地へ運ばれるが、フランスのワインのシャトーのように、湾ごとに違った魚の味を、きめ細やかな情報とともに、消費者に届けたい。それを可能とするのがIT技術であり、クラウドの活用だ」

 

IBMがシステム開発を行った水産トレーサビリティの実践プロジェクトでは、有限会社北三陸天然市場が東京築地の料亭に、タグ情報をつけた三陸の魚を届けた。

小笠原ひとみ氏「魚につけるタグに、ずいぶん多くの情報を入れることができることに驚いた。震災から、とにかく復興していかなければならない、その思いでがんばってきましたが、今後は、付加価値をつけた商品作りをすすめたい。今、ハーブを使った干物の商品化が進んでいます」
小笠原氏は今回のプロジェクトを通じて感じた思いを、来場者に伝えた。

 

展示の目玉は、2013年7月よりIBMの傘下となったSoftLayer

会場には、次世代の先進クラウド・サービスを実現するためのビジネス・イノベーションの展示も行われ、2013年7月より新たにIBMの傘下となったSoftLayerのサービスに注目が集まった。SoftLayerは、すでに世界140カ国で提供されており、世界で最も信頼がおけるクラウド・サービスとしての実績を持つ。カフェ形式の展示スペースでは、実際にその場でサービスを体験できる無料トライアルも実施。3種類のクラウドをハイブリッド構成で利用できる点や、世界13カ所のデータセンターを結ぶ高速ネットワーク接続など、既存のクラウド・サービスにはないハイパフォーマンスなサービス内容に熱心に耳を傾ける姿が見られた。

SoftLayer CAFE

他にも、ビッグデータと経営を組み合わせるクラウド活用例、地方都市をモデルにしたビッグデータ活用例や、サイバー・セキュリティ技術、IBMの最上位サーバー製品であるIBM® zEnterprise System、高性能フラッシュ・テクノロジーを採用した超高速ストレージ、IBM Flash Systemの展示が行われた。

IBM Flash Systemの展示

text:野田香里