星の綺麗な生まれ故郷「星取県」(鳥取県)で育ち、小学生で手塚治虫監修のマンガ『アトム博士の相対性理論入門』、中学生になると『ホーキング、宇宙を語る』を読み、心を動かされた。東京大学で天文学を学ぶようになった岡島礼奈氏は、2001年「しし座流星群」を目にし、その美しさにすっかり魅了されたという。

「夜空をキャンバスに、人工の流れ星を描く」。当時抱いたひらめきを胸に、2011年、岡島氏が宇宙ビジネスのベンチャー企業「株式会社ALE」を立ち上げ、今年で8年が経過した。近い将来、同社がてがける人工流れ星が、夜空を彩る予定だ。

実現に至るまでのこの間、日本の宇宙ビジネスを取り巻く状況はどう変化したのか。サスティナブルな地球環境を考える時代においての宇宙研究、さらにはその根底にある基礎科学の果たす役割とは? エンターテインメントと宇宙をつなげる同氏に、これからの宇宙ビジネスについてお伺いした。

世界初となる人工流れ星プロジェクト

──世界初の「人工流れ星プロジェクト」についてお聞かせください。

岡島 天然の流れ星の正体は、宇宙空間に漂う直径数ミリ程度のチリです。そのチリが大気圏に突入する際、流れ星となります。私たちが現在進めているプロジェクトは、宇宙のチリを人工的に作りだそうというものです。具体的には、高度約400㎞を回る人工衛星から、ALEが独自に開発した直径約1cmの人工流れ星の粒(以下、流星源)を放出し大気圏に突入させることで、人工的に流れ星を発生させる仕組みです。

「人工流れ星プロジェクト」は、人工衛星から物質を放出して流れ星にするという意味においても日本ではもちろん世界的に見ても初の試みになります。このプロジェクトでは、約200kmもの広範囲なエリアから、数百万人以上の方に同時に流れ星を楽しんでいただけます。一般的に、花火の観覧可能なエリアは直径約10kmのエリア内と言われますので、かなりの広範囲で見ることができるものです。ALEは、「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションを掲げており、このプロジェクトが、多くの方にとって、科学への関心を持つきっかけになればと願っています。

地上から見る人工流れ星のイメージ

地上から見る人工流れ星のイメージ(提供:株式会社ALE)

人工流れ星の粒(流星源)のサンプル

人工流れ星の粒(流星源)のサンプル

──今年(2019年)の1月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケット「イプシロン4号機」で、流星源を載せた人工衛星「ALE-1」が無事、打ち上げられたようですね。

岡島 「ALE-1」は現在、高度500km付近で、地球のまわりを航行中です。「ALE-1」は高い安全性を誇りますが、流星源は、高度約400km付近に位置する国際宇宙ステーションより下層から放出することに決めました。そのため、約1年半をかけて、軌道降下を行う予定です。

ただ、人工衛星降下には太陽活動の影響を受けることが想定され、高度500kmの高さを航行中の「ALE-1」が、流星源放出予定の高度に到着する想定時期には幅が出ます。「ALE-1」と並行して「2号機」の開発も進めており、2020年春以降に海外の民間企業のロケットを使って、国際宇宙ステーションより下の高度に打ち上げる予定です。「ALE-1」と「2号機」はともに約400粒の流星源を搭載しますが、3号機以降の人工衛星では、1000粒単位でより多くの流星源を載せられればいいな、と検討しています。まずは、「ALE-1」もしくは「2号機」が、人工流れ星放出の初回ミッションを無事、終えてくれることを祈るばかりです。

宇宙ビジネスのいま

人工衛星初号機「ALE-1」

人工衛星初号機「ALE-1」(提供:株式会社ALE)

──ALEを立ち上げられて、約8年が経ちます。その間、宇宙ビジネスの市場規模は拡大し続けていますが、日本ではその9割が官需であると言われています。この8年間、宇宙ビジネスはどのように変化してきたのでしょうか。

岡島 なにより私自身が驚いていることは、「ALE-1」をJAXAのロケットにより打ち上げられたことですね。ALEを設立した8年前を振り返れば、思いも寄らないことでした。当時は、宇宙ビジネスの多くがベンチャー企業発のものであり、産学連携はあっても、産官学連携を叶えることは、非常にハードルの高い話だったからです。

「イプシロン4号機」には、公募により選定された7つの部品・機器の実証テーマを軌道上で実証するための小型実証衛星1号機、弊社の人工衛星「ALE-1」を含む超小型衛星3機、そしてキューブサット3機の合計7機の人工衛星が搭載されています。民間企業をはじめ各大学機関の研究グループが連携した、まさに産官学連携チームによるロケットなんです。ロケットの機体自体も、JAXA以外で初めて民間企業が開発に携わりました。

個人的な見解になりますが、国が宇宙ビジネスをバックアップしていこうという気運が高まっているように感じます。特にここ数年はその傾向が顕著です。

──そのような気運を後押しする、なにか具体的な動きがあったのでしょうか?

岡島 2018年に、JAXAは、事業意思のある民間事業者等とパートナーシップを結び、宇宙関連ビジネスの事業化までを目指す研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」を開始しました。いわゆるオープンイノベーションによる取り組みなのですが、宇宙業界以外の分野からの人材や技術、資金などが糾合され、宇宙ビジネス推進の求心力として機能し始めたように思われます。ALEも今年のはじめに、J-SPARCと「人工流れ星プロジェクト」以外での新規事業創出に向けたパートナーシップを締結したところです。

岡島礼奈氏

いま、役目を終え宇宙に漂っている人工物同士の衝突による宇宙デブリ(宇宙を漂うゴミ)の拡散、人工衛星との衝突事故などを起こす前に、運用終了後の小型人工衛星などを大気圏に突入させることで焼却する必要があります。そのため、JAXAと共に人工衛星を大気圏まで自動的に誘導する装置の共創開発を進めています。ALEでは、宇宙デブリ拡散防止や衛星寿命の長期化など、サスティナブルな宇宙開発への取り組みにも積極的に関わっていきたいと考えているんです。

──その他にも、宇宙ビジネスの領域において、ALEはどのような独自性を発揮されていくのでしょう。

岡島 ALEでは、「人工流れ星プロジェクト」の実現に向けて、流星源が通過する高度60~80kmの高層大気圏の観測研究を行ってきました。流星源を放出する方向や速度など、さまざまな角度から検証した詳細かつ正確なデータが必要だったからです。これらの研究から、私たちには、「リエントリー(宇宙から地球への再突入)」を安全かつ適切に行うためのノウハウや技術が培われてきたと自負しています。リエントリー領域の研究を極めることで、エンターテインメントの創出だけではなく、さまざまな宇宙事業の創出に貢献できるはずです。

たとえば、ここ最近現実味を帯びてきた宇宙旅行への活用も見込んでいます。当面の宇宙旅行は、高度100km圏で行う弾道宇宙旅行になります。一般市民を載せたロケットを、いかに安全に高層大気圏にリエントリーさせられるかという重要な課題に、ALEの研究成果を活かせる可能性があるでしょう。

基礎科学がつくるサスティナブルな地球、そして宇宙

──ビジネスをエンターテインメントとして完結させず、そのノウハウを理学や物理学などの基礎科学に活かし貢献することで、どのような価値が生まれるのでしょうか。

岡島 世の中にイノベーションをもたらすためには、基礎科学の力がなによりも必要です。歴史を遡れば、相対性理論からGPSが生まれ、素粒子論から半導体が導き出されたように、基礎科学には、私たちの生活に恩恵をもたらす大きな力が秘められているのです。「速くなる」とか「小さくなる」といったような工学によってもたらされる変化と比べ、基礎科学には、生活をガラッと変えてしまう変化をもたらす力があると信じています。

さらに基礎科学の本質的なところを考えると、まず人間の好奇心といった本能的なものがある。哲学に並ぶところもあるのですが、人間が人間たる所以を考えるに必要な学問だと思うのです。世の中が便利になるにつれ、テクノロジー的な考え方だけだと「便利最高、人間最高」になってしまう気がして。だからこそ、基礎科学的な手法や考え方をすごく大事にしています。

岡島礼奈氏

私は、東京大学理学部の天文学科から大学院に進みましたが、そこで、日本の天文学は国からの支援に頼らざるを得ない状況に置かれていることを思い知りました。私の指導担当であった先生が、研究費を確保するために、日々苦心されていたからです。大変優秀な研究者である先生が研究に専念できず、資金集めに心を砕かなければならないことは、非常に残念に思われてなりませんでした。

なぜ資金が集まらないのかという理由を考えた時に、基礎科学の研究には時間がかかり、解明された発見がすぐさまビジネスに結びつくかどうか、収益を出せるかどうかは、予測不可能だからだと推測しました。そのため、天文学とビジネスをつなぐことは、資金面においても、また、研究面においても、基礎科学の発展に貢献できると考えています。

──ALEでは「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションも掲げられています。「宇宙を文化圏にする」という構想については、どのようなロードマップを描かれているのでしょうか。

岡島 先ほどお話したように、高度60~80kmの高層大気圏におけるリエントリーのスペシャリストになりたいです。この研究をバックボーンに、現在、「ALE Flying lab(エール フライング ラボラトリー)」という事業コンセプトを推進しています。これは、流星源の放出を終えた私たちの人工衛星内部で、無人によるさまざまな宇宙実験を行えないかという計画です。

高度60~80kmの高層大気エリアは、地球の地上から近いエリアにもかかわらず、あまり研究が進んでこなかった分野です。ですから、そのエリア内における実験結果は、宇宙開発における有効な知見になるはずです。ALEの研究者チームは、すでに世界各国の研究者ともコラボレーションを始めています。

岡島礼奈氏

人類が宇宙に住み、地球上と同様に文化圏を築くという構想においても、人工流れ星プロジェクトを進めるために蓄積してきたデータが役に立つのか、さまざまな角度から検証し可能性を探っています。私が生きている間に叶えられるものなのかどうかはまったくわかりませんが(笑)。「ALE Flying lab」は、宇宙開発のさまざまな目標に向け、まずはその一歩。さらにまた次の一歩。というように歩んでいきたいですね。

──宇宙ビジネスの発展に伴い、サスティナブルな地球環境づくりと宇宙ビジネスは今後、どのような関わりを築いていけるのでしょうか。

岡島 これからの宇宙と地球の理想的な関わりを予測する前に、そもそも、「なぜ、人類は宇宙に行きたいのか」を考える必要があります。いちばんわかりやすい答えは、何十億年後かに、人類が地球に住めなくなるかもしれないという学説に基づくものでしょう。その他にも、経済成長、地球環境、さまざまな理由に起因するかもしれませんが、私自身を動かしているのは、やはり本能的なもの、「好奇心」です。

宇宙にはどんな世界が広がっているんだろう。はたして生命体は存在するのだろうか。知りたいことは尽きません。私は、そんな知りたいと思う好奇心こそが、基礎科学をはじめ、すべての学問の根本にあると思うんです。ひいては、人間とはなにか、どこからきてどこにいくのだろう、という根源的な問いにつながっていきます。

ひとりの天文学者として、テクノロジーの発達によって世の中が加速度的に変化している今だからこそ、時折、その根源的な問いに立ち返るべきだと心がけています。宇宙開発もサスティナブルな地球環境づくりも、そして、AIやロボットなどテクノロジー開発においても、根源的な「人間」の本質について深く思考することが必要なのではないでしょうか。

その上で、宇宙ビジネスがサスティナブルな地球環境づくりにどのように関われるかということについては、たとえば、小惑星探査機「はやぶさ2」などが宇宙空間で採取した土砂等のサンプルに、おおいに関心を持っています。宇宙の惑星・小惑星は、地球に比べ、圧倒的に過酷な環境下に置かれている、いわゆる砂漠化の極限状態です。そこで採取したサンプルをもとに研究を進めることで、宇宙における人間の生存環境を生み出す術を解明できるとともに、地球上の過酷な砂漠地帯を緑化する手がかりがつかめるかもしれません。

極限状態である宇宙で人間が生きられる環境を研究することで得た有益な知見、それを地球環境に還元することで、サスティナブルな地球環境づくりを後押しすることができると考えています。また同時に、地球という星が、いかに豊かで恵まれているかということにもあらためて気づかされるはずです。

岡島礼奈氏

──最後に、宇宙ビジネスを進めていく上で、大切にされている思いがあればお聞かせください。

岡島 「the Pale Blue Dot(淡く青い点)」という1枚の写真があります。1990年にボイジャー1号によって撮影された、宇宙から見た地球の写真です。1994年に、物理学者・天文学者であったカール・セーガン博士も、同名の著書を出版されています。その本の中で、広大な宇宙から見れば、地球は本当に小さな点に過ぎないと書かれているのですが、私も本当にそう思います。そんな小さな世界の中で、人類は思いあがってはいけない。宇宙に漂う塵のような点の中で生きるしかないのだから、「淡く青い点」をかけがえのない世界ととらえ、大切にするしかない。私は、このセーガン博士のメッセージが大好きで、折に触れ、リマインドするようにしています。

宇宙の中で人類の利益が最優先になってはいけません。未来に思いを馳せる時、宇宙から地球を俯瞰してみるという視点こそ、人類を謙虚にさせ、ひいてはサスティナブルな宇宙開発、地球環境づくりに向かっていけるのではないかと信じています。

TEXT:岸上雅由子

岡島礼奈/Lena Okajima(おかじま・れな)

株式会社ALE 代表取締役社長/CEO。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学博士/天文学)を取得。2011年に株式会社ALEを創業。世界初の「人工流れ星」実現へ向け事業を推進。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」を会社のMissionに掲げ、今後はエンターテイメント事業で構築した技術や知見を他領域で有効活用することにも注力。従来取得できなかった高度宇宙環境データを関連機関・企業へ提供するなどサイエンス領域への貢献をめざす。