「カタリバ」は、悩める10代の心のサードプレイス――ナナメの関係が切り拓く若者の可能性と未来

悩める10代が気軽に語り合い、やる気を育む「カタリバ」の活動が全国に広がっている。親や教師とのタテの関係でも友人同士のヨコの関係でもなく、利害関係のない「ナナメの関係」が特長だ。ゆるく語り合えて心の逃げ場ともなる「サードプレイス」を提唱し、さまざまな理由で適切な教育の機会を得られなかった10代に意欲の火を灯す。運営しているのは、認定NPO法人カタリバだ。
被災地への支援から始まった「コラボ・スクール」は、今や支援を受けた高校生たちが自立し、支援する側へと行動する「マイプロジェクト」にも発展している。
認定NPO法人カタリバ 代表理事の今村久美氏に、ナナメの関係が切り拓く10代の可能性と未来についてお話を伺った。

10代の成長を促す語りの場

――10代の子どもたちに新たな成長の機会を提供する認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ )を立ち上げられた経緯を、教えていただけますか。

今村 カタリバは2001年、私が大学生の時に立ち上げました。昨今、ダイバーシティという言葉があちこちで聞かれます。多様な価値が共存する社会を目指していく中で、教科書で学習する価値観とは異なる経験をしてきた人たちが教育現場にかかわることで、10代、特に高校生の意欲をもっと引き上げることができるのではないか、そういう思いでカタリバを設立しました。

――なぜ、そうした場が必要だと思われたのですか。

今村 大学時代のことですが、家庭が裕福で多くの教育機会を得られた人たちに出会いました。親の持つソーシャル・ネットワークによって、こんなにも子どもたちの経験が違ってしまうのかと思い知らされたのです。未来を自分で切り拓ける可能性は、家庭の経済状況や環境が与える教育によって左右されると感じました。そこで、どんな環境で生まれ育っても、意欲さえあれば未来に希望が持てる社会にしていきたいと強く思いました。

日本は社会全体を見ると、教育のレベルは高いです。大学で養成を受けた教員が日本中、離島にまで配置されている。そんな平等な教育環境がある国は世界にも例がないでしょう。
しかし、平等性はあっても、そこから突き抜けて成長していくには、家庭の所得が高くなくては難しい。アメリカのように過度なドロップアウトもほとんどなく、おおむね平等です。思春期にもっと能力を伸ばして突き抜けて行けるはずの子どもたちが、家庭環境によって制約を受けているのはもったいないと痛感しました。

今村久美氏

――そこで卒業を待たず在学中にNPOを立ち上げたのですね。

今村 私の実家は飛騨高山で土産物店を経営しています。今では地元高山のキャラクターにもなっている「さるぼぼ」は、私の父が起業して土産物として作りました。私は、近くでその様子を見ていました。仕事は自分で作り出していく。サラリーマンの家庭だったら、親が仕事をしている姿を見るのは難しかったでしょうが、私は親の仕事を見て育った。それは私にとって環境的な価値だったのかもしれません。

また2001年当時は就職氷河期で、特に女性が就職するのが大変な時代でした。
そこで気づいたのです。私にとって大切なのは、将来やりたい仕事を就職カタログから選ぶことではない。どんな環境の子にもそれぞれにとって有用な教育資源に気づける機会を与えること、それが自分の目指すべき仕事であり、社会にとっても必要なことなのではないかと。
東京のような便利な大都市で生まれて十分な教育投資を受け、世界に出て経済合理性の中で勝っていく。それも1つの幸せかもしれません。でも、地方で生まれ育ち、経済合理性だけではない幸せを発見できる人材が、さまざまな環境で育った人の中から出て来られるよう支援する仕事も大切ではないか。株主論理の世界ではなく、10代の子どもたちに価値観を育む教育の橋を架けられたらと思い、NPOを立ち上げました。

――現在の10代の悩みや課題はどのようなものですか。

今村 触れるメディアがものすごく変わってきました。これまでは、テレビ、雑誌、広告などでした。現在は、かなりの多くの時間をSNSに費やしています。情報を受けるだけでなく、自ら発信することも可能です。
また、カタリバを立ち上げた時より、中高生が多様な学びを得られる塾や、NPOのプログラムなど学校外の場所も増えています。チャンスを掴めた子は、どんどん新しいチャレンジができます。例えば、クラウドファンディングで1千万円集めて起業するなんて、私が10代の頃は想像すらできませんでした。今は世界から資金調達ができます。
またSNSで、あることについてもっと詳しく知りたいと思えば、専門家にアクセスしたり、世界中の識者とつながったりすることも、やる気と勇気さえあればできる。すでに実践している高校生もいます。
その一方で、同質性の高いコミュニティーの中だけで生きていて、いじめられて悲しい思いをしている高校生もいます。このような分断と格差が10代から始まっていることが問題だと思います。

今村久美氏

タテでも、ヨコでもない、ナナメの関係とは?

――そこで今村さんが提唱されている、「親や教師とのタテの関係」や「同年代のヨコの関係」ではない、「ナナメの関係」が重要になってくるのですね。

今村 高校生の悩みが、1つのソリューションで解決できるなんて幸運としか言いようがありません。大事なことは、「ゆるく対話的な関係性で語れる人」が何人いるかということです。語り合える人とナナメの関係を作っていくことは、広い社会への橋渡しにもなります。学校やSNSコミュニティーの中の悩みというのは、実はとても小さいことだと気づかせてくれる機会になると思います。そうした多様なお兄さん、お姉さんが周りにいる場を提供することがカタリバの重要な仕事です。

――「ナナメの関係」のメリットを教えていただけますか。

今村 ナナメの関係は、年齢だけのことではなく、養育責任者でも評価者でもない点が重要です。両親は理想を描きがちで、生まれてからのその子のことを分かっている分だけ、過干渉になります。学校の先生は教える人であるとともに評価者ですから、どうしても教師と生徒の関係になります。利害関係のないお兄さん、お姉さんや、おじさん、おばさんの関係であれば、「自分の中でもやもやとしてまだ固まっていないんだけどさぁ」とゆるく語り合える逃げ場、つまり心の「サードプレイス」になることができます。
特に、自分たちより少し先輩の大学生のお兄さんやお姉さんとの対話を通して、自分の夢や目標を見つけていってほしいと思っています。

また、ヨコの関係も高校生の年代ではすごく重要です。時にヨコの関係が、すごく同質性の高さを生んで過剰ないじめになります。特に、SNSの招待制のコミュニティー内でいざこざが起きると、周囲の大人たちは気づかないのです。教室内でのいざこざなら、先生が介入できますが、今のSNS内のいざこざは空間移動し、家に帰っても続くのです。クラスの誰かが自分を攻撃しても、誰も助けてくれない。これはとても解決難易度の高い課題です。そこにナナメの関係の誰かがいたら、「そんなこと気にしなくていいよ」と言ってくれます。そうした逃げ道を社会の中で作っていきたいのです。

――カタリバでは、どのように10代の皆さんに機会を提供しているのですか?

今村 3つあります。
1つ目は、「こちらから出向いて行く」ことです。大学生を中心とするお兄さん・お姉さんたちが学校を訪問し、中高生と対話する「カタリ場・プログラム」によって、まずはカタリバの存在を知ってもらいます。よほど意欲があり、また周りに「行って来なよ」と言ってくれる人がいない限り、中高生がちょっと教育色があるところに行くのは面倒臭いと思いますよね。だからこっちから押し掛けるのです(笑)。
体育館に集まった「面倒臭いなぁ」という顔をしている子どもたちに、「私たちは先生ではないですよ」というところからカタリ場・プログラムを実践していきます。

2つ目は、やる気になった中高生たちが活用できる常駐型施設や単発型のイベントを仕掛けていきます。学校の中で得た気づきや、「もっとやりたい、もっと知りたい、もっとつながりたい」と思った子どもたちに、「もっとやれるよ」という場所を提供します。この居場所は、行政と連携して取り組んでいるケースが多いです。例えば、中高生が放課後に通える秘密基地を設けて、貧困や家庭内暴力に悩む子どもたちにアナウンスして、事前登録制で家のように毎日通ってもらい食事と学習支援を提供するなど、多様な形で地域ニーズに合わせて居場所や施設を作ります。これが2つ目の「外に出て行く場所を作る」です。

3つ目は、行政や学校にカタリバの職員をコーディネーターとして送り、「学校をカタリバ的に変えていく」ことです。現在、岩手県の大槌町には、カタリバの職員が高校の魅力化推進員として高校の職員室に籍を置いて働いていて、地域のコミュニティーの中で教育との橋渡しをする企画を策定しています。島根県雲南市でも高校をより魅力的にするために、学校に多様な人が参画できるカリキュラムを構成する支援を行っています。

今村久美氏

「東京にないもの」を見つけたゆきちゃんのプロジェクト

――被災地での支援も積極的に行っていらっしゃいます。岩手県大槌町では、放課後の学びの場「コラボ・スクール」も運営し、支援される立場を卒業した中高生が自ら行動を始める「マイプロジェクト」へと発展していますね。

今村 活動を始めた頃、コラボ・スクールを開講している日には必ず通ってくる中学3年生の女の子がいました。名前は、ゆきちゃんです。お母さんがいなくて、家の建て直しという問題も抱える家庭環境でした。そのゆきちゃんが、高校2年生の時に東京で開催したカタリバのプログラムに参加した時、「東京の夜空には星が見えない」と言いました。
ゆきちゃんは学校の勉強はあまり得意ではありませんでしたが、もともと理科教科の天体は大好きでした。震災前にはすごい天体望遠鏡を持っていて、よく星空を観察していたそうです。震災から2年、3年たって、お世話になってきた人たちがたくさんでき、大槌町に来てくれる人たちに自分もボランティアとして何かをやりたいと思うようになったのです。
そして、「何もなくなった大槌にあって、東京にないものを見つけた。それが星空だ。私がボランティアになって星について説明してあげる」と、目を星のようにキラキラさせて話してくれました。

私たちは「この芽を摘んではいけない、ぜひ盛り上げよう」と決めました。
まずは、Facebookに思いを書こうよと勧め、その時に思ったことを書く。すると、彼女をこれまで支援してきてくれた人たちが、すごい勢いで「いいね」をしてくれる。人にいっぱい出会ってきたことで、自分の発信が共感してもらえると分かった瞬間でした。
さらに、「星のガイドをしたい」その思いを投稿したクラウド・ファンディングで30万円ほど集まって、新しい天体望遠鏡を購入することができました。三鷹の天文台に同行して勉強し、星のことを語れるようになり、星のことを知りたくて大槌町に来る人を募集したら、たくさんの人々が集まってくれました。地域の小学生も参加して、彼女は生まれて初めて教える側になったのです。ものすごい自己肯定感、自己有用感を感じて、これまで支援される側の時にはなかった誇らしげな表情で星のガイドを行いました。
サービスは提供側になった方が学びがあるんだ、自分はこれがやりたいという「マイプロジェクト」を日本中の高校生が持てるようになったらいいなと、ゆきちゃんから教えてもらいました。震災復興でかかわらせてもらったのですが、支援した私たちの方がギフトをもらったと思っています。

そして、全国高校生「マイプロジェクト・アワード」を作りました。最初は、学校の先生に反対されました。岩手県は、部活動の加入率が100%。「部活をしないで、定期テストの勉強もしないで、星がどうのこうの言っている」と。そこで、全国大会で発表するんですよと先生を説得して、分かってもらいました。
マイプロジェクトは2013年にスタートし、文部科学省の後援も付きました。その翌年には、文部科学大臣賞を出せるようになり、最近では、カリキュラムの中にマイプロジェクトを取り入れたいという学校も増えて、現在120の学校が導入しています。昨年の大会へは全国から2700人もの応募がありました。

――最初は反対していた学校も、カリキュラムに取り入れるようになった。中高生たちのやる気が大人を変えたのですね。

今村 そこが教育の本質だと思うのです。子どもたちが変わると、親も教育者も周りの人も変わっていきます。むしろ、子どもが変われる機会よりも、大人が変われる機会のほうが少ないと感じています。
ここまでできるのだということを見せてあげると、大人も子どもたちの可能性を信じられるようになる。これが今、日本中で起きているのです。

――コラボ・スクール、学校や教育機関に派遣するカタリバのスタッフの育成はどのように行っているのですか。

今村 断定的にものを言わない、相手の可能性を信じる、などのスタンス研修やコミュニケーション研修を行っています。貧困や家庭内暴力がある家庭の子どもたちの担当や被災地に派遣するスタッフには、さらに時間をかけて研修を行います。目の前の子どもが苦しんでいる姿を見ると、どうしても救ってあげなきゃという感情になります。しかし、その子の家庭の所得レベルもその子の持っている特性も外部から変えることはできません。最も大事なことは、その子が成長したいと思っている面に光を当て伸ばしていくことです。

今村久美氏

学校と社会の境界線をとかす

――これからカタリバで取り組んでいきたいことは何ですか。

今村 2020年、カタリバは創立20周年を迎えます。この20年で高校生を取り巻く環境は劇的に変わってきました。高校を卒業しすぐに大学に入らなくても、自分が納得するタイミングで大学生になっていいし、新卒で就職しなくても、社会はもっと待ってくれます。働き方も多様化してきています。
しかし、こうした変化はあまり高校に伝わっていません。少子化の影響で、社会での若者の価値も高まっています。もっとわがままに自分が今何に時間を使いたいかをじっくり考えながら、成長していくことが可能な社会になってきていると伝えていきたいです。

同時に、「自分と異質なもの」と出会うことの難易度が上がっていることも、あまり共有されていません。目にする広告は、プロフィールや行動履歴から自分に最適化されたものばかり。自分と似通った人とだけ過ごしていることに気づかず日々生きてしまう。それが可能性を引き出す視野を狭くしています。その分断に釘を刺せるような企画を、これからも実施していきたいですね。

2001年から2010年は、「学校に社会を運ぶ」を事業のキーワードとしてきました。2011年は「学校を社会に開き、10代の日常に伴走する」、2020年は「学校と社会の境界線をとかす」がキーワードです。例えば、兼業教員がもっと増えてもいいと思うのです。週2日は企業、残り3日は学校で教員として働く、といった風に。
今していることは本当に全部学校でやらないといけないのでしょうか。「前へならえ」や「回れ右」など、果たして必要なのでしょうか。戦後作られた集団一斉的なものより、もっと社会のニーズ、社会の実態へととかしていっていいのではないか、個別最適化した学びへと移行していいのではないかと思います。公平さというのは、これまで「一斉にやる」だったけれど、これからは、「公平に個別に選択をしていく」教育になっていくでしょう。その成果を実証できる、説得力のある事例を作っていきたいです。
日本中の10代が、楽しく生きやすいと思える社会を皆で作っていきたいと思っています。

今村久美氏

TEXT:栗原進

今村久美(いまむら・くみ)

認定NPO法人カタリバ 代表理事 1979年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学在学中の2001年に任意団体NPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は、被災した子どもたちに学びの場と居場所を提供する「コラボ・スクール」を運営するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。2015年より、文部科学省中央教育審議会 教育課程企画特別部会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員。日本IBM有識者会議「富士会議」のメンバー。 受賞歴: 2016年12月 平成28年度 未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー「内閣総理大臣表彰」 2014年3月 第17回地球倫理推進賞(国内活動部門)・文部科学大臣賞 2009年6月 内閣府・男女共同参画「チャレンジ賞」 2008年12月 日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009 キャリアクリエイト部門、他受賞多数