2015年に国連が定めた「SDGs」(2030年までに達成すべき持続可能な社会のための17の開発目標)に、「ジェンダー平等を実現しよう」という項目が盛り込まれ、日本でも女性が輝ける社会についての議論が活発化している。しかし、それ以前から、女性がいきいきと働くための組織づくりに取り組んできたのが、全身脱毛サロン『KIREIMO(キレイモ)』などを運営する株式会社ヴィエリス代表取締役社長兼CEOの佐伯真唯子氏だ。女性が長く働ける環境づくりなど、従業員満足度を第一義に考えた組織づくりが評価され、国連「SDGs推進会議」ではSDGs No.5「ジェンダー平等の実現」について、2018年、2019年と2年連続でスピーチし、「女性活躍社会」を牽引するトップランナーとしての期待を集める存在でもある。

女性が安心して働き続ける社会を目指す佐伯氏は、いかにして事業を成長させていったのか。そして日本で「女性活躍」を実現するためにはどういった課題があるのか。自身の経験を交えながら、「ジェンダー平等」のリアルを語ってもらった。

「女性は結婚して辞めちゃうでしょ?」上司の言葉に感じた理不尽

──佐伯さんが「女性の働き方」や「女性のエンパワーメント」について問題意識を持つようになったのは、どのようなきっかけがあったのでしょう。

佐伯 振り返ってみれば、母親の存在がすごく大きかったと思います。私は4姉妹の長女だったのですが、共働きの家庭で、母はしっかり子育てをしながらバリバリ働いていたんです。でも母は、男性と給与の格差があることや、女性だから役職に就けないこと、やりたい仕事をやらせてもらえないことなどをよく話していました。当時は、そんなものなのかくらいに思っていたのですが、自分が就職した時に、それを実感することになりました。

新卒で就職した会社では、企画部署に配属されたのですが、同じ大学、同じ学部卒の同期の男性は企画の仕事をやっているのに、私にはいわゆる事務仕事しかまわってこない。さらに最初から男女で給与に差がある。あまりにも理不尽に感じたので、上司に「どうして私と彼とで仕事が違うんですか?」と聞いたところ、「だって女性は結婚して辞めちゃうでしょ?」と言われて。ああ、なるほど、母が言っていたのはまさにこういうことだったのかと。

佐伯真唯子氏

その会社は、社長や部長はもちろん、主任、係長に至るまで役職者全員が男性で、私はここでキャリアを積むことはできないんだなと感じました。ちょうどその頃に、プライベートで通っていたエステサロンで、女性たちが楽しそうに働いている姿を目にしたんです。美しい物に囲まれながら、妊娠しているスタッフも、お子さんがいるスタッフも、皆がいきいきと働いているのを見て感銘を受けました。それがきっかけとなり現在にいたります。

──エステサロンの仕事に興味を持ち、そこからヴィエリス立ち上げに至るまで、どのような経験を積まれてきたのですか?

佐伯 最初の会社を1年で辞めて、すぐに専門学校に通い、エステサロンに入社しました。そこでは役職者全員が女性だったんです。私には衝撃で「こういう会社もあるのか、よし、私もここで頑張ろう」と。その会社では部長職まで就かせていただいたのですが、自分が理想とする組織を自分でつくりたいと思い、ヴィエリスの創業メンバーに加わりました。

従業員満足度が高いからこそ顧客満足度も上がる

──佐伯さんが理想とする組織とは、どういうものだったのですか?

佐伯 まず、自分がいちエステティシャンとして働く中で感じたのは、従業員満足度がお客様満足度と比例しているということでした。美容業界には、長時間労働や、辞めたらすぐ雇えばいいというような考え方で、スタッフが定着しづらい雇用問題があり、結果としてお客様へのサービスも低下していました。つまり、スタッフを大切にしていないことは、お客様を大切にしていないということと同じなのではないかということ。スタッフが満足してハッピーでなければ、お客様をハッピーにすることなんてできないですよね。まず、スタッフが働きやすい職場環境をつくって、そしてお客様に良いサービスを提供する。だからこそ売り上げにつながるんだという想いで、組織をつくり上げていきました。

──離職率が高いといわれる美容業界で、業界平均の半分程度という離職率の低さもヴィエリスの特徴だと思います。従業員満足度を上げるために、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

佐伯 起業当初は、私が「良い」と思う規定や制度を設けることからスタートしたのですが、スタッフの声に耳を傾けながら、どんどん改善・追加していきました。

しかし、従業員数が300人を超えたあたりから、人数が増えるとどうしてもギスギスした空気になりやすいなと感じ始めて。それは、「ありがとう」とか「すごいね」とか、そういうコミュニケーションが希薄になっていくからなんですよ。

そこで、まずは上長がスタッフを褒める文化を作っていこうと、全社SNSを使ったコミュニケーションを推進しました。「今日はお客様にこんなお手紙をいただきました」とか、「コールセンターの◯◯さん宛にお礼のメールが届きました」とか──私自身も「マネージャーの◯◯さんのこの取り組みが素晴らしい」と、スタッフの良いところを全社に届くように発信していきました。そうするうちに、先輩後輩問わず、社員同士が褒め合う文化が生まれてきたんです。

佐伯真唯子氏

──それは素晴らしいですね。職場環境の改善や制度見直しに関する意見も、全社SNSですくい上げているのですか?

佐伯 全社のSNSではさすがに言いづらいこともあるはずなので、忌憚ない意見をもらえるように、四半期に1度、Web上で答えられる全匿名の従業員満足度(ES)アンケートを行っています。皆さん言いたい放題書いてくれるので、とても参考になります(笑)。

そのアンケートでの意見から、弊社では13種類の雇用形態を設けることにしたんです。

13種類の雇用形態

▲13種類の雇用形態

──雇用形態が13種類もあるのですか。従業員の方々は自分のスタイルにしっかりマッチした働き方をできそうですね。

佐伯 この業界では土日祝日も勤務日となることが多いのですが、土日祝日も休める勤務形態や、5時間勤務・6時間勤務など、勤務時間も選べるようにしています。やはり、結婚や出産なども含め、さまざまな事情を持つ人たちが、それぞれ自分に合った働き方を選べる、「家庭の事情で仕事を諦める」というようなことが、なるべくない会社にしたかったんです。

もちろん、雇用形態が多様化するほど労務管理などのコストや手間もかかるのですが、働きやすい環境を整えESを上げることで離職率が低下すれば、採用コストを抑えることもできると考えています。

──社員の採用に関しては、どのように行っているのでしょうか。

佐伯 本部系の社員の採用では、まず、一次面接から私が出ていきます。応募者の方にはびっくりされますし、社内でも止められているのですが(笑)、弊社に興味を持ってくれた人に純粋に私が会ってみたくて。そこで直接、良い組織にしていきたい、誰もが楽しく働ける環境を作りたいという思いを伝えています。そして、私が「一緒に働きたい」と思ったら、次に現場責任者の面接を経て、最終的には人事の判断で採用を決めます。実はそのほうが効率的だとも思うんです。会社の理念や思いを伝えたうえで「働きたい」と共感してくれた人が、次の選考に進んで現場のことを知り、最終的に応募者と会社の双方が「一緒に働きたい」ということになる。創業当初から、この採用スタイルを続けています。

日本の女性が抱えがちな「インポスター症候群」を乗り越える

──世界的にSDGsに向けた取り組みが進むなかで、日本でも「女性活躍社会」の実現について議論されることが増えてきました。しかし、2019年に世界経済フォーラム(WEF)が発表した各国の「ジェンダー・ギャップ指数」を見ると、調査対象153カ国中121位と、日本は「ジェンダー平等」の実現に遅れをとっているのが現状です。その一番の原因はどこにあり、それを改善していくためには何が必要だとお考えでしょうか?

佐伯 やはり、女性がなかなか意見を言いづらい社会であるということと、その改善が重要なのではないかと思っています。例えば、女性議員が何か意見や質問をする際、その発言の内容ではなく、まったく関係ない服装のことなどでバッシングを受けたりすることがありますね。日常生活でも、女性が少し強い口調で意見などを言うと、すぐに「ヒステリーだ」なんて言われてしまったり。日本にはまだまだそうしたミソジニー的な風潮が残っているように感じます。

また、女性の自己肯定感が低いことも一因にあるとも思います。これは「インポスター症候群」と呼ばれるもので、「どうせ私なんて」とか「私なんかができるわけがない」と、自分を過小評価してしまう。一説によると、日本の約7割の女性が自己肯定感が低いとも言われています。

企業による職場環境の改善努力も必要ですが、同時に、個人個人の意識の持ち方を変革していく必要もあると私は考えています。大切なのは、自分のやりたいこと、達成したいこと、変えていきたいことを、まず自分としっかり向き合い対話しながら導き出し、それを目指して行動していくというマインドではないでしょうか。

佐伯真唯子氏

──真の「ジェンダー平等」を実現させるために、組織や企業のリーダーたちは、どのような意識を持つべきだとお考えですか?

佐伯 私が前職で本部長を務めていたとき、今思えば私も「インポスター症候群」だったんです。まわりから求められている「本部長の姿」を演じようと、肩肘を張って、本当の自分とどんどん乖離してしまっていました。常に機嫌が悪くピリピリして、どんどん自分も追い込まれていって。ある日、それらがすべてあほらしく感じて、本来の自分を出すようにしたんです。すると、すごく気が楽になりました。まわりも私の顔色をうかがわなくてもよくなって、すごく風通しの良い組織に変わったという実感もありました。

こうした実体験があるからこそ、自然体の自分を晒け出す勇気も必要だと私は考えています。そうすることでコミュニケーションが円滑になり、部下からの意見も引き出しやすくなります。ただトップダウンで「こうしてください」というのは、お互いのためにならない。部下にとっては、上司というだけで話しづらいのは当たり前なので、へりくだるのではなく、少しでも建設的な意見を引き出せるようにリーダー自ら変わっていくことが大切なのではないかと思います。

トップ自らが「働く女性」としての経験を伝える

──お話を伺っていると、従業員のモチベーションが高いからこそヴィエリスは事業を拡大していったのだと思います。佐伯さんご自身は、どのような点がお客様に評価されているのだと思いますか?

佐伯 サロンの立ち上げ前に、お客様の本音を知りたくて、ナイトクラブで働く方々や大学生など、いろいろな層の方のリアルな声を自ら聞きに行ったんです。そうすると、「予約が取れない」「(脱毛が)痛い」「(施術中)寒い」という声が多かった。そこをどう改善していくかを徹底的に考えたうえで開業したので、お客様の声から生まれた脱毛サロンだという自負があります。

──その姿勢は、まさに従業員の声を聞きながら業界改革を進めてきた過程と同じですね。佐伯さんは国連の「SDGs推進会議」で2年連続でスピーチされていますが、その経験は社内にも影響をもたらしていますか?

佐伯 嬉しいことに、先ほど話した全社SNSで、スタッフたちからSDGsに関する投稿が増えてきました。「ジェンダー平等」だけではなく、サステナブルな社会の実現を意識した取り組みが、店舗や個人単位でも自発的に行われるようになっています。「スタッフ全員、割り箸をやめてマイ箸を持つようになりました」「ビニール傘をやめました」とか、私が「こうしてください」と言ったわけではないのに、一人一人の意識がSDGsに向き始めていて、とても良い流れになっていると感じています。

会議などで、私が「SDGsに向けての取り組みを推進しよう」といった話をした覚えはないんです。ただ思い当たることがあるとしたら、CEO室の者からの提案で、このインタビューのように、私の生い立ちやこれまでの人生のことを、社員に語る機会を設けているんです。「インポスター症候群」になった経験や、仕事で壁にぶつかったことや、最近の悩みなども話しているのですが、そこにひとりの働く女性の話として、社員が共感してくれているのかもしれないですね。

佐伯真唯子氏

TEXT:杉浦美恵、PHOTO:品田裕美

※本記事は、緊急事態宣言発令前の取材に基づいて制作しています。

佐伯真唯子(さえき・まゆこ)
株式会社ヴィエリス代表取締役社長兼CEO
FOUNウィメンズダイヤモンドコミッティチーフコーディネーター、世界連邦青年会議事務次長

大学卒業後、大学の企画事務スタッフとして入社。その後、美容専門学校に入学し、エステティシャンとしてのキャリアをスタート。2013年、株式会社ヴィエリスに創業メンバ―として入社。2019年3月より代表取締役社長 兼 CEO(最高経営責任者)に就任。同社の運営する「全身脱毛サロンKIREIMO(キレイモ)」は全国で70店舗を展開。社員の98%が女性という同社での女性が働きやすい組織づくり、若い世代へのSDGs啓蒙の取り組みなどが高く評価されている。「国連ニューヨーク本部SDGs推進会議」に働く日本人女性初のスピーカーとして2018年、2019年と2年連続参加。