ことの始まりは、新橋の居酒屋だった――サラリーマンたちが宇宙に放つ超小型衛星「リーマンサット」

東京下町の溶接工場2階にある作業部屋。日曜日になるとサラリーマンたちが集まり、人工衛星の製作に没頭する。衛星の大きさは10cm3、重さ約1Kgという超小型衛星(キューブサット)だ。
この集まりは「リーマンサット・プロジェクト(RSP)」と言い、2018年10月には、上空400kmの国際宇宙ステーション(ISS)から実証機「RSP-00」を宇宙に放出した。今は自撮り機能を持つ「RSP-01」を開発中で、早ければ年内にも打ち上げる。
宇宙開発はJAXA(宇宙航空研究開発機構)や大企業、大学など限られた人々が担うものというイメージだが、宇宙好きの人は世の中にたくさんいる。RSPには全国から本業を別に持つ700人もの老若男女が参加し、技術者もそうでない人も、全員が何らかの役割を持ち自分たちの人工衛星の打ち上げに参画している。
ルールは、「お互いを尊重し、来るもの拒まず、去るもの追わず、出戻り歓迎」と、いたって自由でシンプル。RSP代表理事の宮本卓さんは「趣味だからこそモチベーションは高く、純粋に楽しむことができる」という。
江戸川区にある作業部屋を訪ね、宮本さんと、「RSP-01」PM (プロジェクトマネジャー)の三井龍一さんに、宇宙開発に挑戦する面白さや今後のRSP計画について伺った。

家庭でも仕事でもないサードプレイスという位置付け

――皆さん楽しそうですね。サラリーマンをもじった「リーマンサット」という名称もユニークで、親しみを覚えます。普通の市民が宇宙開発に取り組む意義を、どのように考えておられますか。

宮本 ここはあまり交通の便が良くない場所なのに、いろんな職業の仲間がやって来て楽しんでいます。宇宙開発というより、サラリーマンのサークルという感じでしょうか。
宇宙開発はJAXAや大企業がやるものだと思われていますが、このこと自体、宇宙開発が普通の人からすると遠い存在であることを示しています。僭越ながら申し上げると、本当の意味で「宇宙産業」にはまだ至っていないと思います。
例えば自動車業界であれば、メーカーは車を作り、町には修理工場があり、走らせて楽しむ人がいます。宇宙開発も、私たちのような普通の市民団体が、もっとたくさん参加できるようになり、宇宙産業として盛り上がっていくことが必要ではないかと思います。
もう1つの意義として大切なのは、リーマンサットプロジェクト(RSP)は、家庭でも仕事でもないサードプレイス(第3の場所)として位置付けていることです。ですから宇宙開発を本業とされている企業とは根本的に異なります。
私は学生のころ宇宙飛行士になりたいと思っていましたが、現在は溶接など金属加工の仕事をしています。その立場から見ると、従来の宇宙開発は、人類の持続的発展、国民生活の質の向上や安全保障など国の政策の下で、大学なら学術的な意味があるもの、企業ならビジネスになるものなどに限られているように感じています。10年前であれば、趣味のリーマンサットは打ち上げてもらえなかったかもしれません。
しかし、最近は少しずつ開放されてきて、JAXAの革新的衛星技術実証プログラムでも、エンターテインメント性のあるものなどが採用されていますし、今までにない宇宙の新しい楽しみ方が生まれている点が、時代の流れだと感じています。
ここに集まる人たちは、自分たちが作ったものが宇宙に行くことが何よりうれしい、という人たちばかりです。

一般社団法人リーマンサットスペーシズ 代表理事/ Creative Works 代表 宮本卓氏

思えば、新橋の居酒屋が発端だった

――この組織の立ち上げは、居酒屋で話が盛り上がったのがきっかけだったと聞きます。その場の話で終わらせず、行動に移したのは、皆さん元々宇宙好きだったからでしょうね。

宮本 そうでもあるし、そうでない人もいました。2014年、新橋の居酒屋で、後でご紹介するPM(プロジェクト・マネージャー)の三井龍一さんら5人が宇宙の話をしていて、「一緒に宇宙開発、やりたいねぇ~!」と盛り上がりました。同年11月にはさっそくポスターやチラシを作り、「メーカーフェア東京」というものづくりの展示会に、堂々出展したのです。ところが、小規模な展示でチラシも数が少なく、私も会場に行っていたのですがその時は出会うことができませんでした (笑)。
2015年1月には、第1回のキックオフミーティングを開いて30人ほど集まりました。私はSNSでその催しを知って参加した1人です。
当時はキューブサットを作る方向性は出ていましたが、どのように作ればいいのか誰も分かりません。30万円あればできると思っているメンバーもいました。(実際にはその20倍近くかかったのですが。)その後、何回も集まってキューブサットにどのような機能を持たせるか、ワイワイと真剣かつ楽しい議論を重ねました。
しかし、とにかく安全に確実に宇宙に行けることが先決なので、まずは基本的な機能を確認するための実証機「RSP-00」を開発し、自撮りは次の「RSP-01」に回すことにしました。
JAXAからは、いくつかの基準をクリアするように指示されました。専門業者に頼むと費用がかかるので、メンバーが所持する試験装置を持ち寄ったり、作業場はここ私の会社の2階を提供したりして、できるだけ自前のものを利用して、クリアしました。
完成した「RSP-00」(以下「00」)は、国際宇宙ステーション(ISS)(写真1)に行くJAXAの無人補給機「こうのとり」に積まれ、2018年9月23日にH2Bロケットで種子島から打ち上げられました。

国際宇宙ステーション

写真1:国際宇宙ステーション(ISS)
出典:ウィキメディア・コモンズ(Wikimedia Commons)

「RSP-00」に積んだ6,394人分の願いごとが流れ星になる

――組織の立ち上げから打ち上げまで、よく短期間で達成できましたね。打ち上げ時はどんな気持ちでしたか。

宮本 それは、うれしかったですよ!発射場のある種子島に行ったメンバーもたくさんいました。同時に東京でも大勢集まってパブリックビューイングをやり、JAXAがYouTubeで流す映像を見ていました。
「こうのとり」は上空400kmにあるISSの日本実験棟「きぼう」にドッキング。「00」は10月6日、他のキューブサットと一緒に宇宙に放出されました。私たちはJAXA筑波宇宙センターのVIPルームに招待され、放出の瞬間をモニターで見ました。
「やった~!」と感動して、みんな拍手喝采でしたが、音もなくスッと出て来たので、映像としてはあまりにも地味なものでした(笑)。通信は残念ながら機能しませんでした。
でも、「00」には「宇宙ポスト」を積んでいました。イベントや発表会などで手書きで書いてもらった願いごと6,394通を写真に撮ってSDカードに入れ、宇宙に持って行っていたのです。
「00」は今も地球を回っています。寿命は1年半から2年ぐらいと言われていて、今年中には大気圏に突入して燃え尽きます。その時、6,394人分の願いごとも一緒に流れ星になります。
「00」本体の開発費用は280万円、JAXAに払う打ち上げ費用は300万円で、合計580万円かかりました。メンバーから集めたお金と、クラウドファンディングで集めた200万円でまかないました。
他の趣味、例えば自動車であれば、1台で数百万円かかるわけですから、400人(2018年時点)のメンバーの夢を乗せていると思えば、そうべらぼうな金額ではないと思います。

一般社団法人リーマンサットスペーシズ 代表理事/ Creative Works 代表 宮本卓氏

メンバーは自分が好きなチームに所属できる

――RSPには、さまざまな仕事を持つ人々が参加されています。仕事の分担や組織運営はどのようになさっているのでしょうか。

宮本 メンバーは現在、約700人です。関東の人が多いのですが、名古屋や九州、四国の人もいます。宇宙オタクのエンジニアの集まりだと思われるかもしれませんが、決してそうではなく、デザイナーやマーケター、看護師や大工など、本業は宇宙とは何の関係もない人が大半です。下は小中学生から上は60~70代まで。20代や30代の人が多く、3割くらいは女性です。会費は取りませんが、毎月1回、茅場町で開く会議に参加してもらうときだけ、参加費をいただいています。
RSPには主に技術部と広報部があります。技術部には「00チーム」「01チーム」「02チーム」「ローバーチーム」「ロケットチーム」があり、全部で300~400人いて、それぞれ通信系、構造系、姿勢制御系、電源系などに分かれています。広報部は110人で、外部メディア課、郵便ポスト課、イベント課、クラウドファンディング課などに分かれています。他にも、どちらにも所属せずサークルなどの活動にのみ参加するメンバーもおります。
メンバーは自分がやりたいチームに属してもらい、重複していてもかまいません。エンジニアの方も広報の役割をしますし、その逆もあります。つまり配属先を決めるのは自分。RSPの名刺の肩書も、自分で自由に決めてもらっています。
技術部のローバーチームは、月面や惑星を走行する探査機に挑戦しています。いきなり趣味で月面は難しいので(笑)、まずは地球上で走るローバーを開発しています。将来的には、月面で穴を掘ったり何かを植え付けたりする機能を持たせることを目指しています。
ロケットチームは、高度100キロ超に達するロケットを目指しています。2019年には米ネバダ州のブラックロック砂漠で行われたXPRS(Extreme Performance Rocket Ships)というイベントで、ロケット打ち上げの技術実証を行いました。
衛星だけでなく、ローバーやロケットのプレゼンスも高めたいと思っています。

「01」は地球をバックにして衛星を写す自撮り機能を搭載

――リーマンサットスペーシズは、衛星の放出を行うスペースBD社との間で、「01」「02」「03」をISSから放出する契約を締結しています。今年打ち上げ予定である「01」のミッションについて説明していただけますか。

宮本 「01」には自撮り機能を持たせています。本体はすでに出来上がっていて、専用のガラスケースの中に格納してあります。ミッションを「自撮り」と決めたきっかけは、「自分たちが作った衛星が、宇宙で働いているところを見たいよね」ということでした。宇宙のきれいな写真はたくさんありますが、地球をバックに衛星を写したものはほとんどありません。また仮に衛星が破損した場合に、その部位の状況をチェックできる利点もあります。
自撮りするカメラ(約3センチ角)はマジックハンドで本体から外に10cm出てきます(写真2-2)。ISSから放出後、一定の時間が経つと、通信で撮影の指令を出します。衛星、地球、宇宙が画角に入るよう磁気トルカを使った姿勢制御を行います。レンズは撮影範囲が広い魚眼レンズを用います。AIを搭載していて、たくさん撮影した中から地球が写ったものを選択して、地球に送信する仕組みにしています。

「RSP-01」のフライトモデル

写真2-1:「RSP-01」のフライトモデル 出典:RSP


「RSP-01」の自撮りするカメラ

写真2-2:「RSP-01」の自撮りするカメラは、マジックハンドで本体から外に10cm出る。
出典:RSP

「RSP-01」PMの三井龍一さん

「RSP-01」PMの三井龍一さん

太陽電池は高性能の「宇宙仕様」に急きょ変更

――宇宙では、真空、厳しい寒暖差、放射線の影響など、地上とは異なる環境にさらされます。「01」は耐久性や安全基準を満たすためにどのような試験をされたのでしょうか。

宮本 まず真空ですが、「00」のPMを務めたメンバーの私物である真空チャンバーを使いました。寒暖差について、零下から高温まで試験できる装置を購入しています。また、半導体などの電子部品は、放射線を浴びると劣化する心配があるので、東京工業大学にある試験設備で確認しました。「01」はこの3つのテストにすべて合格しています。

真空チャンバー

RSP開発室には、なんと真空チャンバーまで備えられていた

三井 各パーツの消費電力を測定したところ、使用する予定だった地上用太陽光パネルの発電量では足りないことが分かりました。このため「01」の太陽電池は、発電効率が高い「宇宙仕様」のものを使っています。実は、3カ月前までは別の太陽電池を使う予定だったのですが、電力が足りないことが分かり、急きょ宇宙仕様のものに取り替えたのです。
しかし、厚さが0.3mmしかないので、どのように「01」の表面に張り付けるか、打ち上げ時の振動に耐えられるか、真空の中で作動するかなど、技術的なハードルをクリアするには苦労の連続でした。毎週のように作業して何とか間に合わせました。
宇宙では、すべての機能を同時に働かせると電池が消耗するので、ときどき休ませながら1年以上かけてミッションを運用する設計にしています。太陽電池以外の電子部品は、秋葉原で買える汎用品で十分やれると思います。

「RSP-01」PMの三井龍一氏

――キューブサットの打ち上げ費用は高くなっていると聞きますが、資金面の手当ては問題なかったのでしょうか。

宮本 世間では「1000万円かかる」という見方も出ているようですが、やり方次第でもっと安くできる可能性があります。それでも「00」の580万円より増えることは避けられません。そこで昨年、「01」のためにクラウドファンディングを再度実施し、前回を上回る369万円を達成できました。資金的にはクリアできました。クラウドファンディングには205人の方に支援していただいています。

三井 その内訳はメンバーだけでなく、その友人や外部の方も結構おられます。募集のやり方はクラウドファンディング課が工夫してくれました。RSP-01開発メンバーの生の声を本業と共に紹介したのです。
コメント欄には「〇〇さんがんばれ」など、うれしい言葉が並んでいました。応募の謝礼にはカレンダー、Tシャツ、充電器、アクセサリーなどを金額に応じてお渡ししていきます。
その他にも、「流れ星になる手紙」を販売したり、本の出版、雑誌への寄稿などを行ったりして、活動の認知度を上げるとともに皆さんに支援していただきました。

「RSP-01」PMの三井龍一氏

子衛星を3つ放出して人工星座を作る計画

――将来の「02」以降のミッションについてもお聞かせ下さい。

宮本 「02」は「デザイン衛星」と呼んでいて、まず見た目を格好良くすることにこだわっています。その中に「人工星座」を作る計画があります。「02」から、サイコロサイズの小さい子衛星を3つ放出し、LEDで光らせてオリオン座のようにしようという計画です。地球1周に90分かかるので、日本上空には10分間ほど見える可能性があります。
相互間の通信も行い、衛星を連携させる技術を検証したいと思います。ただ子衛星が小さいと位置を特定できず、宇宙ゴミになってしまう恐れがあるので、JAXAと相談しなければなりません。
RSPは自分がやってみたいコンセプトを全員にプレゼンした結果で決めます。本当に出来るかどうかは二の次というか、コンセプト重視なのです。メンバーの多くはサラリーマンなので、会社で出来ないことをぜひRSPでやってみたいという気持ちがありますね。
「03」から先のことは現時点では白紙です。継続して宇宙開発をやるために、「04」「05」とつないでいきたいと思います。

自分たちの衛星を世界のネットワークが支えてくれる

――超小型衛星の機能や製作技術を進化させていけば、いずれ関連市場の創出やビジネスがテーマになるかと思います。RSPとして、このあたりの未来図はどのように考えておられるのでしょうか。

宮本 RSPの基本はやはり人です。私たちは趣味で宇宙を楽しむ組織であり続けるため、組織としてビジネスをすることは考えていません。企業と違いメンバーは入れ替わることが自由ですので、ビジネス上の責任を取ることはできないのも1つの理由です。つまり、よそのキューブサットの製作を受託するような契約は基本的に難しいと考えています。
あくまで趣味。お金のためではないから純粋な気持ちで楽しめるのです。近い将来、世界中でキューブサットの開発が盛んになり、例えば東南アジアの人たちがキューブサットに挑戦したいと思って調べてみたら、日本のリーマンサットが実にいい仕事をしていた、というふうになればいいと思います。
しかし、一方で、RSPというコミュニティを中心として、そこから生まれる価値を周辺でビジネス化する、ということは充分にあり得ると思います。RSPから生じたものをビジネス化するためメンバーが起業するとか、メンバーが本業で所属する企業様と事業化を目指す、というような展開は狙っていきたい形の1つです。これまでも大学の研究室や宇宙業界の企業様と情報交換をさせて頂いていますが、今後もどんどん交流を盛んにし、RSPがさまざまな人材の交差点になっていけたらと考えています。

三井 「01」は2分に1回、アマチュア無線の周波数でモールス信号を発信します。その位置はNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)が追跡してデータを公開しているので、待ち構えていれば、世界のどの国でも電波を受信できます。自分たちのキューブサットを、世界のネットワークがつながって支えてくれるのです。

――ところで、皆さんウイークデーは本業で忙しく、休日はこの作業場に来てRSPの活動に夢中です。ご家族からブーイングが出ませんか(笑)。

三井 私の本業はシステムエンジニアで、5歳と3歳の子どもがいます。日曜日も衛星製作に没頭している申し訳ない父親なので、ただただ「家族に感謝」としか言いようがありません(笑)。

宮本 私も中学1年を筆頭に3人の子どもがいるので、以下同文です(笑)!

RSPのユニフォーム

TEXT:木代泰之、PHOTO:倉橋 正

※本記事は、緊急事態宣言発令前の取材に基づいて制作しています。

宮本 卓(みやもと・たく)

一般社団法人リーマンサットスペーシズ 代表理事/ Creative Works 代表
東京工業大学大学院修了、工学修士。専門は金属工学。大手鉄鋼メーカーにて7年間、研究開発から製造現場まで幅広く従事した後、実家である有限会社宮本工業所にて溶接の修業。2012年、独自のものづくりを発信する場としてCreative Worksを立ち上げる。東京都内の金属加工会社3社が協働する「東京町工場ものづくりのワ」に、立ち上げから参画。現場技能・技術の支援、コーディネート役を務める。東京都立城東職業能力開発センター溶接科講師歴 7年。平成24年度「東京ものづくり若匠(溶接)」認定。趣味は宇宙開発。リーマンサット・プロジェクトでは、町工場職人としての技術力を活かし、金属の筐体や部品、環境試験治具の開発などを担当している。