やる気を引き出す!沼田晶弘先生に聞く、ビジネスにも通じる自主性の育て方

「ダンシング掃除」や「勝手に観光大使」などのユニークな方法でクラスの子どもたちの「やる気」を引き出し、カリスマ教師と呼ばれている人がいる。「ぬまっち」こと、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭の沼田晶弘氏だ。「子どもたちが『ワクワク』して『楽しい』と感じたら、やりなさいと言われなくても勝手にやってくれる」――それはビジネスにおけるマネジメントにも当てはまると、沼田氏の元には社員の「やる気」を引き出したい企業からの講演依頼が増えている。

今、教育現場では、受け身ではなく能動的に学ぶアクティブ・ラーニングが注目されている。アクティブ・ラーニングの最先端を走る沼田氏に、子どもや社会人の「やる気」の引き出し方について伺った。

全ては子どもの「やる気」を刺激するため

――沼田さんは東京学芸大学教育学部のご出身ですが、もともと教師になろうと思っていらっしゃったのでしょうか。

沼田 実は、教師を目指していたわけではないんです。相手が子どもであっても遠慮せず本気で話してしまう性分ですし、向いていないだろうなと。

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭 沼田晶弘氏

――小学校の先生になるまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

沼田 アメリカの大学院に留学してスポーツ経営学を学んだ後、帰国してからは短期大学で教えたり、塾の講師をしたりしていました。そのうち小学校での仕事の話をいただき、ちょうど昼の仕事がしたいと思っていたので転職しました。塾の仕事が終わるのは夜11時頃で、一緒に飲みに行ける友だちがいなくて寂しい思いをしていたんですよね(笑)。

当初、相変わらず子どもは苦手だと思っていましたが、彼らの素直な反応がとても新鮮でした。大学院でコーチングを学んだときに感じたのですが、大人は羞恥心もあるし演技力が高いので、ダイレクトな反応を出すことを躊躇してしまいます。一方、子どもは喜怒哀楽の表現が豊かでわかりやすい。「子どもって面白いなぁ」と思っているうちに、どんどん受け持ちのクラスの子どもが好きになり、小学校教師という仕事にはまっていきました。

――沼田さんは子どもたちの「やる気」を引き出すために、「勝手に観光大使」「U2(Under 2 minutes)」など、ユニークな方法を数多く実践されています。それぞれどのような工夫が凝らされているのでしょうか。

沼田 「勝手に観光大使」は社会科で都道府県の特色を勉強する際、担当する都道府県を決めて観光大使に「勝手に」就任し、PR資料を作成して発表会を行うというものです。ただ「都道府県について調べよう」と言われるより、観光大使になりきってプレゼンテーションするほうが「ワクワク」しますよね。また、みんな頑張ってすごい資料を作成するのでもったいないと思い、僕が「勝手に」各都道府県に郵送しています。すると、7年前から行っているこの取り組みはマスコミで話題になったこともあり、郵送したほとんどの自治体から返事をいただけるようになりました。実際に返事がくると子どもたちは大喜びですし、知識が定着するのは言うまでもありません。

「勝手に観光大使」資料作成にむけた情報集めの様子。提供:沼田晶弘氏

「勝手に観光大使」資料作成にむけた情報集めの様子 提供:沼田晶弘氏

沼田 「U2(Under 2 minutes)」は低学年に九九を覚えてもらうために編み出しました。縦横それぞれ1から9までの数字が書かれた81ますの表に、数字をかけ合わせた答えを書いていきます。ここまでは計算ドリルと一緒ですが、僕は2分という制限時間を設定してF1の曲を流してゲーム感覚でやってもらいます。もし2分を切れたら「U2」の称号がもらえるので、子どもたちは必死で計算します。「U2」の称号が欲しいので家庭でも毎日81ます計算に取り組み、結果的に計算のケアレスミスが少なくなるんです。

子どもたちに前向きに物事に取り組んでもらうためには、面白さやゲーム性の向上が重要です。それを前提にして、学んでもらいたいことに合わせて、子どもたちが楽しめるような仕組みを考えています。

「やる気」の栄養源を見つけ、プロデュースする

――子どもたちが喜んで取り組む様子が目に浮かぶようです。

沼田 大人の反応が子どもの「やる気」につながるというプラスのスパイラルを生み出すケースもあります。その一例が、一昨年の秋、1年生のクラスで初めてやった「サンマ・パーフェクト・骨抜き・フェス」略してSPHFです(笑)。僕はサンマの塩焼きが大好きで、「サンマって美味しいよ。骨をスーッととれる大人は格好いいし」という話をしていたら、子どもたちが目を輝かせて「やってみたい!」と言い出し、SPHFを実施することになりました。

SPHFでは3つのルールを決めました。1つ目は手とお箸だけを使う。2つ目は家での練習は好きなだけやって良い。3つ目は練習や本番中に泣いたら失格。SPHF発表日までの2週間で、最多で7回サンマを食べた児童がいましたし、発表日前日は35人中21人がサンマを食べていました。

SPHFを思いついたとき頭に浮かんだのが、保護者の方々の笑顔でした。家で魚を食べない子でもすすんで魚を食べるようになるし、子どもがサンマを上手に食べられると嬉しいですよね。さらに、サンマの上手な食べ方を発表すると同時に、サンマへの感謝の手紙を子どもたちに書いて読んでもらったのですが、「僕のために釣られてくれてありがとう」という言葉を聞いて、大人のみなさんは「かわいい!」と大喜び。大人のリアルな喜びの反応は子どもの「やる気」の栄養源になるので、うまくプロデュースできたかなと思います。

ビジネスの場面でも、何が「やる気」の栄養源になるかは、その人がどんな状態であるかによって違いますよね。同じ仕事を任されるとしても、入社1年目と5年目では、仕事の熟練度も上がっているし、ビジネスへの理解も深まっている。1年目ならただ任せるだけでやりがいを感じてくれるけれど、5年目だとそうはいかないと思います。そこで上司がその状況を理解して、工夫する必要があるのです。

SPHF開催後には児童と共にPDCAチェックも行った。提供:沼田晶弘氏

SPHF 開催後には児童と共にPDCAチェックも行った 提供:沼田晶弘氏

沼田 SPHFもふざけた取り組みに見えることもあると思いますが、僕は子どもたちが楽しく学ぶ方法はないかを毎日真剣に考えています。ビジネス的に言うのであれば、KPIとKGIをどこに置くのかということです。学校教育という場では、やっぱり子どもたちが伸びていくことがゴールで、そのためには自主的に学んでいく必要があります。僕が1つの授業にどれだけ時間をかけて準備したのかということや、どんな授業をしたのかというようなことでは子どもたちの状態は測れません。子どもたちの学びの後押しをするのが教師としての僕の役目ですから、授業に趣向を凝らすのはそのための手段なのです。

――そういったユニークなアイデアは自然に浮かんでくるのでしょうか。

沼田 学校という狭い世界にいると思考の幅が広がらないので、意識的に学校外の人と会うようにしています。僕はあまり本を読まないので、人と会って情報交換をするのがインプットになります。話していて面白いと思ったことを、いくつも頭に溜めておく。すると授業をしているときに「これだ!」とアイデアが出てきますね。

苦手は「悪いこと」ではない

――やり方次第で子どもたちは自ら行動するようになるのですね。ビジネスの場でも同じことが言えると思いますが、どうしたら部下や後輩の自発的な行動を促すことができるのでしょうか。

沼田 仕事にも「ゲーム性」を取り入れると良いと思います。その際のポイントは、「課題」「報酬」「制限」の3点を設定することです。「課題」と「報酬」の明確化に関しては、既にビジネスの場でよく言われていますよね。でも、それだけだとつまらないんですよ。なぜなら、「できないかもしれないドキドキ」や「選ぶ楽しさ」がないからです。時間や費用、条件などの「制限」があることで、工夫することの面白さを感じられるんです。また「報酬」に関しても、数千円程度の報奨金を渡すだけでも十分効果的だと思います。

上司の役目は、部下がやっている仕事のやり方や方向性のズレを調整すること。ちょっと頑張ればクリアできるようなストレッチゴールを都度設定し、部下の背中をそっと押して成功体験をつくってあげることができれば理想的ですね。

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭 沼田晶弘氏

――沼田さんのように「やる気」を引き出せる先生や上司が増えれば、学校や職場の雰囲気はより良くなっていきそうですね。そのためにはどんなマインドや行動が必要なのでしょう。

沼田 上司が完璧な存在ではないと、部下にさらけ出してはどうでしょうか。教師というと完璧な存在であると思われることも多いですが、僕も、自分が不得意なところは認めて伝えるようにしています。例えば、漢字テストの丸付けが苦手だと正直にクラスの子どもに話したら、何人かが手伝ってくれるようになりました。最終チェックは僕がやりますが、丸付けをする子どもは自然と漢字を覚えるようになり、僕も負担が減って助かる。まさに一石二鳥です。

ビジネスでも同じで、自分が不得意なところは素直に部下に任せてしまえば良いのです。現代は個よりチームの力が重視される時代です。面白いことにそれは人気漫画にも反映されていて、かつては『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』のように圧倒的な能力を持つ主人公が活躍していました。それが今は『ONE PIECE』に代表されるように、1人の抜きん出た人物が何でもこなすのではなく、チームで補完しあうストーリーに変わっていますよね。何でも1人で完璧にできる必要はない。苦手であることは「悪いこと」ではないんです。

――確かにチームプレイや適材適所の重要性はよく耳にします。上司に任せてもらったら部下は張り切りそうですね。

沼田 僕がしばしば言っているのは、「やらされる」と「任される」は本質的には同じということです。でも、上司に頼られたら嬉しいし、頑張ってしまいますよね。上司の頼み方次第で業務に対するモチベーションは変わると思うので、ワーディングも相手や状況に合わせて変えてみると良いのではないでしょうか。

これからの教育に求められること

――AIなどテクノロジーの発達した社会が到来し、仕事や求められる能力も変化していくと言われています。AIと共存するために、これから人間が磨くべき能力は何だと思われますか?

沼田 僕は、子どもたちには、AIが苦手とする「考察し、判断する能力」を身につけてほしいと思っています。情報処理能力などAIの方が得意としている分野はあるので、勝ち負けを争うのではなく、人間はAIを味方にできるようになればいいんですよね。

判断能力を鍛えるために、僕のクラスでは「新聞オピニオン」と題して、好きな新聞記事のサマリーと自分の意見を書いてもらっています。低学年だと理解が十分でなく乱暴な意見もありますが、それなりに自分の意見を表現できるようになります。これからは言われたことをこなすのではなく、自分の意見を持ち発信する力が重要と言われているのは周知の通りです。さらに言えば、僕たち教師側もアクティブ・ラーニングが必要とされるなら、教え方を変えながら柔軟に対応することが求められているのです。

テクノロジーが発展すると、これまでは「やること」自体が大事だと思っていたこともやらなくなります。たとえばテレビ会議もこれから増えていくでしょうし、そうすると移動しなくなり、時間も労力も交通費も削減できます。営業職も、既に「何回営業に来てくれたか」だけで判断されることはなくなっているのではないでしょうか?

ただ、僕は、テレビ会議は魔法瓶のようなものだと思っていて。つまり、温まった熱を逃さない効果はあるけど、「沸騰」させるのは難しいんですよ。オフラインで一度会って関係性を築けているならまだしも、初対面で画面越しに話すとなると、なかなか白熱しない部分もありますよね。単純に新しいものが全て「良い」わけではありませんが、良い部分は認めて取り入れる、自分が柔軟に変化できる力は、これからを生き抜くためには重要なんじゃないかと思います。

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭 沼田晶弘氏

――最後に、日本の教育に対するメッセージはありますか。

沼田 「教育を変えたい」という大それた考えはありません(笑)。確かに教育について意見を求められる機会は多くなっています。ですが、僕のやり方が絶対に正解だとも思いません。なぜかというと、それぞれの教師のキャラクターも、その目の前にいる子どもたちもまったく違うからです。取り入れられるエッセンスがあれば取り入れて、その方の性格や子どもたちに合った方法に昇華していただきたいですね。

教育の現場で1点問題だと思うのが、どんなに子どもたちの満足度を高めようが、学級崩壊しようが、教師の給料は一律で変わらないという点です。たとえば、極端ですが、担任するクラスが運動会で優勝したらボーナスアップなど、教師のモチベーションを向上させる仕組みも必要だと思います。

同時に、先ほども言ったとおり、教師は完璧な存在になる必要はなく、子どもを輝かせるための伴走者になればいいという意識が浸透すれば、教育現場はより良い方向へ変わっていくと思いますよ。

TEXT:小林純子、PHOTO:品田裕美
※本記事は、緊急事態宣言発令前の取材に基づいて制作しています。

沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)

東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。
1975年東京生まれ。東京学芸大学卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。同大学職員などを経て、2006年から現職。
児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が話題となる。
教育関係のイベント企画を数多く実施するほか、企業向けにやる気を引き出す声かけや、リーダーシップ、コーチング、信頼関係構築などの講演も精力的に行っている。
著書に、『One and Only〜自分史上最高になる』(東洋館出版)『自分で伸びる小学生の育て方』(KADOKAWA)など多数。