誰も取りこぼさない社会をつくる――傍らにいて、一緒に食べるだけでみんなが幸せになる「こども食堂」

新型コロナの影響で、経済も社会も生活も大きく変化している。
子どもを中心に置いた多世代交流の地域づくりの場である「こども食堂」は、全国約4000カ所のうち約半数が休止したが、残る半数はフードパントリー(食材や弁当を手渡しする拠点)に切り替えたり、ドライブスルー方式にしたりして、粘り強く活動した。
そのこども食堂に食材提供や資金面で支援しているのが、「NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」である。
理事長を務める湯浅誠氏(東京大学人間支援工学分野特任教授)は、コロナ禍に伴う「在宅リスク」に警鐘を鳴らしてきた。親子ともストレスが募り、そこに生活困窮が加わるとDV(家庭内暴力)や虐待につながりやすい。こども食堂は、そうした家庭のライフラインにもなってきた。
こども食堂の運営者は、子どもの貧困問題にも深い関心を寄せている。生活危機に陥った子どもや家庭を支えることで、こども食堂は子どもの貧困対策という点においても存在感を示した。
「むすびえ」は、2025年までにこども食堂を2万カ所に増やす計画を進めている。全国の小学校区に1つの割合だ。コロナ禍に立ち向かうこども食堂や子どもたちの現状について、湯浅理事長に伺った。

(この取材は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言発令中、Web会議システムを介して行いました。)

公衆衛生のサイクルが経済や生活の危機とリンクする

――新型コロナは、非正規労働者や中小事業者、フリーランスなどの生活困窮を生み出しています。今の社会状況をどのように見ておられますか。

湯浅 コロナは世界的な危機を招いており、感染拡大を抑え込むためにほとんどの国が「ステイ・ホーム」を強化するという公衆衛生サイクルを強力に回してきました。このサイクルを回せば回すほど経済危機サイクルが回り、その先にある生活危機サイクルも回ってしまうのが今回の特徴です。
生活困窮に陥った家庭では、場合によってはDVや鬱(うつ)や虐待が起きて社会不安を増大させます。緊急事態宣言が解除されても、油断するといつ第2波が発生するか分からない状況であり、いつになったら以前のような生活環境に戻れるのか分かりません。つまり、私たちは公衆衛生、経済、生活という3つのシステムの危機が当分リンクするという、大変厄介な状況の中にいます。
とりあえず今できることは2点あります。1点目は、公衆衛生サイクルを回しても、経済や生活のシステムに直結しないよう、両方の間に線引きし、時間差を生じさせることです。政府の緊急経済対策にある一律10万円給付や持続化給付によって、破綻を少しでも先延ばしすることがそれです。
もう1点は、コロナが完全に終息する時に備えて、経済や生活システムを逆回転で回してV字回復できるよう準備をしておくことです。
私たちは生活システムを守る立場から、こども食堂やこども食堂が行う食材配布活動を支援しています。こういう取り組みは、政府の10万円支給とはまた違った意味で、人が人に寄り添うことを通じて経済的厳しさがDVや鬱や自殺に直結するのを防ぐ役割を持っています。人々が生活困窮に陥って事件化しないよう、何とか歯止めをかけたいと思っています。

子どもの貧困は表面的には極めて見えにくい

出典:むすびえ

子どもの貧困は表面的には極めて見えにくい

――日本では子ども7人に1人が貧困です。GDP世界第3位の国でなぜそうなるのでしょう。表面的には見えにくい貧困の現状や背景についてお聞かせください。

湯浅 貧困率は、所得が国民の平均値の半分に満たない人の割合です。2012~15年にかけて一時下がりましたが、全体の傾向として貧困率は上昇しています。ただ、貧困と言ってもアフリカに見られる難民のような状態ではありません。正しくは「相対的貧困率」といって、飢えていなくても人並みの暮らしができない状態のことを指しています。
子どもの貧困率は今13.9%、ひとり親世帯に限れば50.8%です。人口換算では280万人が、他の子どもと同じような暮らし方、例えば私立学校を受験するとか、修学旅行に行くとか、大学に進学するとか、そうしたことができない状態にあります。
ただ、表面的には分かりません。他の子と同じような服装をしているし、学校給食のおかげか極端に痩せているわけでもない。子どもの貧困は極めて見えにくいのです。
貧困の要因を上流にさかのぼって行けば、やはり雇用状況の変化に原因があることは否定できません。1990年代から非正規雇用が増加し、低収入世帯が増えていることが挙げられます。
ちなみに日本全体の貧困率は15.6%です。低年金や無年金の高齢者が増えており、全体の貧困率を高めています。男女別では、女性は男性より低収入です。しかも平均寿命が長いので、夫に先立たれた高齢女性の貧困率は4割近くになります。

――コロナによる雇用への影響をどのように見ておられますか。

湯浅 米国の失業率は14.7%に跳ね上がりましたが、日本の3月の数字は2.5%で、2月から0.1ポイントしか上がっていません。今後コロナがいつ終息を迎えられるのか分かりませんが、社会がこれだけ騒いでいるわりには、今のところ日本の失業率は大きな数字になっていません。
その理由は、リーマンショック(2008年)の時に企業はかなり派遣切りを行って社会的な批判を浴びました。また採用を抑えたために社員の年齢構成がいびつになった反省から、今回は極端な解雇というやり方では対応していない可能性があります。
他方で注意が必要なのは、当時に比べて非正規率が増え、ギグワーカー(インターネット等で募集する単発の仕事で収入を得る労働者)や、飲食業など自営業者の人たちが、失業率に現れないところで深刻なダメージを受けていることです。
政府の支援策に「特例緊急小口貸付」があります。市町村の社会福祉協議会が窓口になり、1世帯あたり最大20万円を2~3日中に借りられる仕組みですが、この窓口に3月末頃から人が溢れ、相談件数が激増しています。相談員たちは、生活が苦しい人が日本中で増えていることを実感しています。

高齢者は葬式、子どもは修学旅行が孤立のきっかけになる

――湯浅先生は「貧困の大きな問題点は孤立に結びつくこと」と述べておられます。具体的にお話ししていただけますか。

湯浅 「貧困」と「貧乏」は区別する必要があります。貧乏はお金がないことですが、お金がなくても幸せに暮らしている人はいくらでもいます。本当に問題なのは、お金がないことが社交面で孤立に結びつくこと。貧困を算数的に言えば、「貧困=貧乏+孤立」となります。
例えば高齢者でよくある孤立のきっかけは、お葬式。年を取ると、友人やお世話になった方、田舎の親せきなどの葬式が増えますが、顔を出すには香典や旅費がかかり、低年金や無年金の人には大きな負担になります。周りが香典を3万円出す時に、自分だけ3千円というわけにはいかない。葬式に行かなくなると、親せきや周りの人に顔を合わせにくくなります。それがきっかけで近所との付き合いがなくなり、認知症を発症しても介護サービスの網から漏れたり、だんだん物が片付けられなくなって、ゴミ屋敷になったりします。葬式に行かないことで黄信号がともり、坂道を転がり落ちて行くのです。

高齢者は葬式、子どもは修学旅行が孤立のきっかけになる

出典:Shutterstock

――身につまされますね。子どもの場合はいかがでしょうか。

湯浅 子どもの黄信号は、例えば修学旅行に行けないことです。旅行の事前学習での計画づくりや、事後の思い出話でみんなが盛り上がる時、仲間に参加できません。その数カ月間、修学旅行に行けない子どもはクラスの蚊帳の外に置かれます。そこから独り孤立する「ぼっち」が生まれ、いじめのターゲットになったりします。何かの拍子に事件になると赤信号で、大騒ぎになります。
元をたどると、たかだか葬式に行けないだけ、修学旅行に行けないだけ。されど・・・、本人にとっては疎外感による大きな心の傷を負うことになるのです。

在宅リスクに生活困窮が加わると複合的ハイリスク

――コロナ禍によって子どもの孤立がさらに深刻になる心配はないのでしょうか。

湯浅 不安や困窮の度合いが深い人がたくさんいます。黄信号が赤信号になりやすく、青信号と黄信号の境目だった家庭が黄信号になりやすいという状況です。
テレワークが急速に普及していますが、生活システムの中で「在宅リスク」が新たに高まっています。もちろん、毎日家族と一緒で楽しいという人もいますが、それがストレスになる人もいます。
子どもが走り回って仕事にならない、子どもも友達と遊べない。母親もゲームばかりしている子どもにストレスがたまる。これが深刻化すると、手を上げたり暴言を吐いたりして、虐待やDVになります。
在宅リスクに生活困窮が加わると、深刻な複合的ハイリスクになります。これは世界中で起きており、日本だけ例外と考えることはできません。これまでは悲惨な事件が起きて初めてみんなの関心が向けられるのですが、事件が起きないように前もって手を打つことが大切です。

東京大学人間支援工学分野 特任教授、社会活動家 湯浅誠氏

バッファーのない生活をしている弱者ほど打撃を受ける

――お話を伺っていると、コロナでは社会的弱者が最も打撃を受けているという気がします。

湯浅 コロナは医学的には金持ちも貧乏人も等しく罹患するリスクがありますが、社会的には弱者に襲いかかります。バッファーやゆとりのない人ほど深刻な打撃を受けています。東日本大震災の際は、障がい者の死亡率は一般の人の2倍でした。地震発生の直後だけでなく、後日、暮らしへの影響などが複合的に絡んでくるからです。阪神淡路大震災やリーマンショックの時も同じでした。
政府の緊急対策は、財政状況を考えれば大盤振る舞いはできないので、必要なところに絞り込むことが大切です。第2次補正予算では、コロナの影響が深刻な業種や地域、社会的弱者を重点的に支援することが問われます。
「アフターコロナ」とか「ニューノーマル」とか言われていますが、コロナは世の中に不可逆的変化を起こすと思います。ベクトルからすると、2方向あるのではないでしょうか。1つは生活圏の拡大、もう1つは、生活圏の縮小です。
生活圏拡大では、ICTが仕事や生活の中にますます浸透していく。在宅勤務が一気に進み、Webシステム会議が普通になり、アフターコロナではICTを駆使した勤務形態や生活から後戻りしない環境が進むでしょう。
一方、移動しなくても暮らしができるとなると、生活圏縮小が起き、身近なところで充実感を求める気持ちが高まっていきます。フェイス・ツー・フェイスで顔を合わせることや、地域でのリアルな交流を求める力が強くなると予測しています。その欲求に応える存在として、こども食堂はますます重要になります。

バッファーのない生活をしている弱者ほど打撃を受ける

出典:むすびえ

フードパントリーに切り換えて活動を継続

――こども食堂は全国に約4000カ所ありますが、今どのような状況なのでしょうか。

湯浅 緊急事態宣言後の4月中旬の調査では、食堂をそのまま運営できているところは10%でした。しかし、46%はフードパントリー(お弁当や食材の手渡し)に切り換えていました。つまり計56%ががんばって事業を継続しており、感激しました。フードパントリーでは「3密」を避けるためにドライブスルー方式で実施しているところも多くありました。
こども食堂の過半数は、地域の女性たちがボランティアの仲間を募ってやっています。他にNPO法人とか宗教団体、社会福祉法人など、運営主体は多様化しています。
ありがたいことに緊急事態宣言が発出されて以来、こども食堂へのみなさんの関心が高まりました。全国のこども食堂に食材や物資を配っていますが、「新型コロナウイルス対策緊急プロジェクト」では、マスクを何万枚も寄付してくださった企業や、食材をトン単位で提供してくださった企業があります。コメ、野菜、果物、飲料、菓子、缶詰、アルコール製剤等もいただきました。寄付金も多くの団体や個人から寄せられています。
こども食堂は、東日本大震災の翌2012年に東京で初めて誕生し、2010年代を通じて広がっていきました。私たちはコロナを機に、2020年代に子ども食堂を全国に定着させ、25年までに今の5倍の2万カ所、つまり全小学校区にこども食堂があるという状態の実現を目指しています。

フードパントリーに切り換えて活動を継続

出典:むすびえ

こども食堂を多世代で交流できる場にしたい

――こども食堂の役割は、子どもの貧困対策だけでなく「地域の多世代交流の拠点」にもあると述べておられます。

湯浅 こども食堂の8割は、「どなたでもどうぞ」という形で運営されており、保護者や高齢者もいらっしゃっています。今、地域の多くの世代の人が一緒に集まれる場所はとても少なくなっています。
この国が本当に必要とするグローバル人材とは、外国語が堪能で世界で活躍する人というだけでなく、年齢・性別・職業・生活レベルなどが異なるいろいろな人と間合いがきちんと取れ、自分の常識が通用しない人や、文化や伝統や考え方が違う人とも、一緒に協働しながらリーダーシップを発揮できる資質のある人です。大人といえば自分の親しか知らない環境で育った人が、いくら何カ国語しゃべれても真のグローバル人材になれるわけはありません。
子どもが地域のいろいろな大人たちと一緒に食事をしながらおしゃべりをすることで、その考え方や行動からさまざまなことを吸収することは、とても大きな意味があります。自分の親を相対化する良い機会にもなります。だから、こども食堂を誰でもアクセスできる場所にしたいのです。
鹿児島で最初にこども食堂を開いた方は、3歳のわが子が保育園で友だちができず心配していたそうです。ところが、こども食堂で大人たちと一緒に過ごしているうちに、積極的になり社交性をしっかり身に付けたと言います。そんなエピソードは山のようにあります。

こども食堂を多世代で交流できる場にしたい

出典:むすびえ

地域のおばちゃんたちのたくましさに感服

――「むすびえ」の役割や活動をもう少し紹介していただけますか。

湯浅 「NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」を設立したのは2018年です。「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる」をビジョンにしています。少子化の中、せっかく生まれてきた大切な子どもたち。誰もが伸び伸びと成長できるよう皆で応援したいと設立しました。
こども食堂はこういう大変な時こそ支援が必要ですので、全国から集めた食材や物資を、ハブになってくれる延べ681カ所(5月11日現在)のこども食堂を通じて、さらにその先のこども食堂へ、そして子どもたちへと配布しています。
4月からは助成金制度も創設しました。こども食堂への助成金で地域の飲食店からお弁当を定価で買い、それをフードパントリーで困窮する家庭や子どもに配ります。お客が来なくて困っている飲食店を支え、子どもも支える仕組みです(6月15日現在140団体総額5000万円を助成)。また、こども食堂の運営者たちが「食品衛生管理責任者」の資格を取るための助成も行っています。
運営者の多くは地域の女性たち、特に「おばちゃん」たちです。冷蔵庫にある物だけで何とか食事を作るような柔軟さ、臨機応変さが特徴で、そのたくましさには感服します。子どもたちの家庭がよく見えているので、感染リスクがあっても「あの子はどうしているのかしら」と、何かしないではいられない人たちです。顔を合わせられないならLINEで話す、文通する、電話をする。「今できること」に柔軟に取り組むのは、こども食堂のおばちゃんたちの本領発揮です。
近隣の住民から「コロナで外出自粛の折に集まって何しているのか」と苦情が出ることもありましたが、こども食堂の人たちは迷いながらも一生懸命に子どもを支えてきました。私たちは、がんばっている人たちの孤立を防ごうと、オンライン飲み会や交流会を開いて励まし合っています。

東京大学人間支援工学分野 特任教授、社会活動家 湯浅誠氏

初めは迷わず声をかけてみよう

――「何かこども食堂のお手伝いができないか」と言う人が増えています。どうすればどのような支援ができるのか、初心者への手ほどきをお願いします。

湯浅 「何かしたいが、何をすればいいのか分からない」という気持ちは、街角で白杖をつく人が、どちらの方向に進むのか躊躇しているのを見かけたとき、どう声をかけたらいいのか迷うのと同じです。そんな時は「何かお手伝いしましょうか」と率直に聞けばよいのです。最初は勇気がいるかもしれませんが、簡単です。
こども食堂に1000円寄付してもいいし、フードパントリーで食材の詰め合わせを手伝ってもいい。食事をする子どもたちの傍らで一緒に食事しながら話をするだけでもいい。やり方はフェイスブックで質問してもいいし、電話をかけてもいい。運営にあたる人も利用する人も、最初はみんなそうだったのです。
なお、私たちは5月22日からクラウドファンディングもスタートしました。それを応援してくださるのも、もちろん大歓迎です。
https://readyfor.jp/projects/kodomoshokudo-fund/announcements

TEXT:木代泰之、写真提供:湯浅誠(その他の提供元は各写真に記載)

湯浅 誠(ゆあさ・まこと)

東京大学人間支援工学分野 特任教授、社会活動家
1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2008年暮れの日比谷公園での「年越し派遣村」村長や、その後の自立生活サポートセンターもやい事務局長として知られる。2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。2014~19年法政大学教授を経て、現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『子どもが増えた!人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『「なんとかする」子どもの貧困』(角川新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。
法政大学の教育実践で「学生が選ぶベストティーチャー」を2年連続で受賞した。「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018受賞。IBM「富士会議」メンバー。