プラスチックによる海洋汚染が深刻だ。海ガメが飲み込んだ大量のプラスチックの映像に心を痛めた人は多いだろう。人間の生活を便利で豊かにしてきたプラスチックだが、ほとんどは石油資源から作られ、いつまでたっても分解しない。燃やせば二酸化炭素(CO2)を排出し、地球温暖化の原因となり、今大きな問題となっている。
それを解決しようと、東京大学大学院農学生命科学研究科の岩田忠久教授は、「生分解性バイオマスプラスチック」の開発を目指している。原料は再生産可能な植物や、微生物がつくるセルロースを始めとする多糖類。使用後は海洋や土の中の微生物によって完全に分解され、マイクロプラスチックの拡散を防ぐ。さらに、自動的に「生分解のスイッチ」が入るプラスチックも開発中だ。
7月1日からレジ袋の有料化が始まった。欧州に比べて、この分野の規制で後れを取ってきた日本だが、ようやく環境重視の方向にかじを切り、新しい高機能プラスチックへの期待が高まる。
「用途に応じて、プラスチックの特性や分解速度を自在にコントロールできるようにしたい」と言う岩田教授。世界が注目する「生分解性バイオマスプラスチック」の最前線を伺った。
(この取材は、新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、Web会議システムを介して行いました。)

石油合成プラスチックは、環境中ではほとんど分解されない

――バイオマスを原料にしたり、生分解性を持つプラスチックが、なぜ今世界の脚光を浴びるのか、その社会的背景から説明していただけますか。

岩田 現在プラスチックは99%が石油から作られ、全世界では3.5~4億トン、日本では1100~1200万トン生産されています。この石油合成プラスチックの課題は2つあります。1つは、原料として有限な石油資源を使うこと。もう1つは使用後の処理のやり方です。本来はリサイクルするのが最も良いのですが、実際には半分を燃やしています。
例えば、誰もが思い浮かべるポリ容器や、衣類のようなものだけでなく、いま新型コロナ対策で使われているマスク、空間を仕切る透明なついたて、医療用の防護服などもまた石油から作られています。ウイルスが付着している可能性があるので燃やすしかなく、二酸化炭素が発生して地球温暖化につながります。
この問題を解決するのが、植物資源を原料にしたバイオマスプラスチックです。バイオマスプラスチックを燃やせば二酸化炭素が発生しますが、その炭素は元々植物が持っていたもので、光合成によって再び植物の内部に吸収され固定化されます。長い時間軸で見ると、炭素は植物とプラスチックをぐるぐる回っているので、「カーボンニュートラル(中立)」なのです。
一方、回収しきれずに山や海、土壌など自然環境中に捨てられるプラスチックもたくさんあります。石油合成プラスチックはほとんど分解されずに微小なマイクロプラスチックになり、環境に悪影響を与えます。その解決策として、微生物の力で二酸化炭素と水に完全に分解できる生分解性プラスチックが注目されているのです。

図1

図1:環境にやさしいバイオプラスチック 提供:岩田教授

石油合成プラスチックより高性能化することが課題

――「バイオマスプラスチック」、「生分解性プラスチック」、「生分解性バイオマスプラスチック」と出てきました。その関係を改めて整理していただけますか。

岩田 下の表1で説明しましょう。原料がバイオマスか石油か、生分解性があるかないかによって4分野に分けています。

表1

表1:バイオマスプラスチックと生分解性プラスチック 提供:岩田教授

バイオマスプラスチックは原料を石油に依存せず、再生産可能な植物バイオマスから作るという話で、生分解性の有無は問いません。ただ石油から作ったものと同じような製品を作ったのではコストで負けてしまうので、熱や衝撃に強い高機能のプラスチックを目指しています。例えばレジ袋に使うバイオポリエチレンは、サトウキビから取り出したデンプンを原料にしますが、コストは石油合成の3~4倍です。使ってもらうためには石油をしのぐ高性能にする必要があります。
一方、生分解性プラスチックは、生分解するかしないかという機能の話なので、原料が石油か植物かは問いません。このようにバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックは全くコンセプトが違うのです。従ってバイオマスプラスチックだからといって、生分解性プラスチックであるとは限らないのです。(逆に図の右上にあるように、石油合成プラスチックの中にも、生分解するものもあります。)
4分野の中で、左上にある生分解性バイオマスプラスチック(ポリ乳酸、微生物産生ポリエステル、化学修飾多糖)が地球環境にとって最も望ましいことは言うまでもありません。研究者も企業も国のサポートを受けながら一生懸命に取り組んでいます。

経済成長を優先し、環境問題には目をつぶってきた

――「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の開発には、長い歴史があったと聞きます。

岩田 そうです。プラスチックと地球環境の問題は、プラスチックが大量の生産・使用され始めた約60年前から指摘されていました。しかし、ずっと経済成長が優先され、生活の豊かさを追求する中で、この問題には目をつぶってきたのです。
1980年代には、生分解性プラスチックが開発されましたが、分解されるということは裏を返せば「強い」「長く使える」といった性質と裏腹な関係にあり、結局、「使えない」とされてしまいました。
1997年には京都議定書で温暖化防止がうたわれ、関心がカーボンニュートラルのバイオマスプラスチックに集まりましたが、とても大量生産のレベルには達せず、これも下火になりました。
2015年頃から、海洋汚染の原因になるマイクロプラスチックが問題視されるようになりました。そこでもう一度生分解性プラスチックへの期待が再び高まり、同時に、二酸化炭素削減の観点からバイオマスプラスチックにも脚光が当たるようになりました。

コロナ禍は、みんなでプラスチックを考える良い契機

――コロナ禍の新しい生活様式の下では、マスクなど医療用品だけでなく、食品包装用の石油合成プラスチックの使用量がかなり増えています。

岩田 マスクはポリエチレンやポリプロピレンから作られていますが、軽くて丈夫なので、ウイルスから身を守るために世界中で使用量が増えているのは仕方がありません。ただ、マスクをその辺に捨てる人がいますが、これは駄目で、回収して燃やすという後処理が大切です。
一方、7月から有料になったスーパーやコンビニのレジ袋の代わりは、お気に入りのマイバッグを持参するなど、用途に合わせて対応すると良いと思います。単純に「プラスチックは良くない」と決めつけるのではなく、何が問題か、代替できるものはないかを冷静に考えていく必要があります。
マスクを燃やすと二酸化炭素が出ますが、もしバイオマスプラスチックでマスクを作ることができれば、先ほど言いました「カーボンニュートラル」になります。コロナ禍はみんなでプラスチックを考える良い契機になると思います。

岩田忠久教授

自然界にある多糖類から直接プラスチックを作る

――バイオマスプラスチックの原料として、木材やトウモロコシから抽出されるセルロースやデンプン、ミドリムシや虫歯菌などが作るパラミロンや新規多糖類を挙げておられます。その特徴を説明していただけますか。

岩田 現在、バイオマスプラスチックの原料は主にトウモロコシなどのデンプンです。デンプンを加水分解してグルコースに変換し、それをもとにポリ乳酸、バイオポリプロピレン、バイオPET(ポリエチレンテレフタレート)などを作ります(図2)。

図2

図2:多糖類からの高性能バイオマスプラスチック  提供:岩田教授

しかし、デンプンを原料にすると食糧問題とバッティングします。私たちはデンプンの代わりに木材のセルロースや、ミドリムシが体内に蓄える「パラミロン」、虫歯菌が作る多糖類など、自然界にある多糖類を原料にしてプラスチックを作ろうとしています。
多糖類はグルコースに分解されますが、私たちはグルコースにはせずに、多糖類の長い構造を生かして化学修飾し、直接プラスチックを作ろうとしています。
ミドリムシや虫歯菌から作ったプラスチックは300~350℃の熱にも耐える優れた熱物性を持ち、石油合成のPETを上回っています。服の材料にしようとすれば、アイロンの200℃の熱に耐えなければいけませんが、十分クリアしています。また遺伝子組み換え大腸菌を使って超高分子量の高強度繊維も開発しています。

プラスチック中の結晶の量や大きさで生分解速度を変えられる

――生分解性プラスチックについては、「分解速度のコントロールが重要」と述べられています。その理由やメカニズムを説明していただけますか。

岩田 生分解性プラスチックには、農業用、土木建築用、野外レジャー用、水処理用などがあります。分解はそれぞれの用途に応じて、速すぎず遅すぎず適切にコントロールする必要があります(表2)。 

表2

表2:生分解性プラスチックの期待される用途  提供:岩田教授

生分解性プラスチックを分解するのは自然環境中にいる特定の微生物です。この微生物は周囲に水があると、加水分解する酵素を出してプラスチックの分子鎖(ポリマー)を短く切断し、水に溶けやすくします。それを自分の体内に取り込んでエネルギーに変え、最終的に二酸化炭素と水に分解します。
プラスチックは分解が中途半端だと、マイクロプラスチックとして環境中に残ってしまいます。ですから微生物の力で完全に二酸化炭素と水に分解することが重要です。

土中での生分解性プラスチックボトルの分解のようす

写真1:土中での生分解性プラスチックボトルの分解のようす 
出典:日本バイオプラスチック協会

分解速度のコントロールは、微生物が出す酵素がポリマーを短く切断する速度を変えることで可能になります。その際、プラスチックの結晶の量が多かったり結晶が大きかったりすると、微生物は切断しづらいので分解速度が遅くなり、逆に非晶部分の量が多かったり結晶が小さかったりすると、分解が速くなります。
また、プラスチックの分子がらせん構造のものと、真っすぐ伸びている構造のものでは、らせん構造の方が分解はゆっくり進みます。つまり、プラスチックの結晶の量や大きさ、分子構造を制御することにより、1カ月で分解したり1年で分解したりとコントロールできるのです。
開発に当たっては、理化学研究所の大型放射光施設「スプリング8 (SPring-8)」を活用しました。スプリング8は世界最高性能のX線発生装置です。プラスチックの結晶構造だけでなく、プラスチックを分解する酵素の3次元結晶構造も解析し、プラスチックと酵素の両面から分解速度をコントロールする研究を進めています。

――生分解性バイオマスプラスチックの分解の様子を調べるために、海底にプラスチックを置く実験をされています。その目的や内容をお聞かせください。

岩田 生分解性プラスチックを土中に埋めると分解することは分かっていますが、海洋や河川ではどのように分解するのか、ほとんど分かっていません。そこをきちんと把握するのが目的です。
私たちは昨年9月、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の協力を得て、静岡県初島沖の深海850メートルの海底に生分解性バイオマスプラスチックを3セット沈め、1年ごとに引き上げて、その変化を調べようとしています。水温は4℃、微生物が少ないので、分解速度は遅いことが予想されます。もう1つ、今年3月にも南鳥島沖5500メートルに1セット沈め、来年3月に引き上げる予定です。

自らを分解する酵素を、あらかじめプラスチックに埋め込んでおく

――今後の重要な研究課題として、ゴミになったらすぐ分解を始める「生分解性のON/OFFスイッチ」を挙げておられます。これはどのような仕組みなのでしょうか。

岩田 使用中は十分に機能し、使い終わって環境中に出たらすぐ分解が開始するようなスイッチが入るプラスチックがあれば理想的です。そこで自らを分解する酵素をあらかじめプラスチックの内部に埋め込んでおきます。使い終わったプラスチックが海で紫外線を浴びるとひび割れが起き、内部に水が入る。すると酵素による生分解スイッチがONになり、プラスチックを分解するという仕組みです。実現すれば海洋汚染を救う素晴らしい対策になります。近くその論文を発表する予定です。
他にも、例えば海ガメがプラスチック破片を飲み込んだら、胃酸による酸性度(㏗)の変化でスイッチが入ったり、海の塩分濃度の変化でスイッチが入ったりする仕組みも検討しています。

岩田忠久教授

レジ袋規制はEUが先行。日本も勝負はこれから

――7月1日から、スーパーなど小売店でもらうレジ袋が有料化されました。効果は期待できるでしょうか。

岩田 レジ袋の有料化は、消費者の環境意識を変えるという点で重要な政策です。家庭で生ごみを出すにはポリ袋が必要なので、一気に削減とはいきませんが、地球温暖化や海洋汚染防止の意識を高めることが期待できます。
日本は従来、プラスチックを減らすための規制をあまりやって来ませんでした。企業経営への影響を配慮して、思い切った方針を打ち出さなかったのです。
一方、ヨーロッパは厳しく規制しています。各国にはそれぞれ法制度があるので、EUが最初に法律を作って企業に守らせています。フランスはすでに2016年からレジ袋の配布を禁止し、使うなら生分解性プラスチックのみと決めています。EUは日本の高レベルの研究成果を活用し、実用化で先行しています。日本もここからが勝負だと思います。
日本が2030年に導入を目標としているバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総量は、約200万トン。全世界で生産されるプラスチック4億トンに比べると微量ですが、変革への第一歩になるでしょう。

海外留学して世界のコミュニティに入ることが重要

――先生は「若い研究者は海外留学して世界のコミュニティに入ることが重要だ」と述べておられます。ご自身の体験を基に若い世代へのアドバイスをお願いします。

岩田 科学はどの分野でも、必ず世界に同じような研究をしている研究者がいます。「日本には〇〇という研究者がいるから、ぜひプロジェクトあるいは国際会議に参加してもらおう」と思われるようでないといけません。国際的なコミュニティに入り、研究内容について情報交換すれば、科学の発展に貢献でき、日本の研究者に世界の動きを伝えることもできます。
世界の著名な研究者たちと知り合うには、国際学会で発表するだけでなく、海外留学することが大きなチャンスとなります。日本の研究設備や技術力は欧米に引けを取りませんが、外国の考え方や文化を知るにはやはり留学が必要です。異文化を体験的に学ぶには、できるだけ30歳前に留学するのがいいと思います。
私は20代でフランス政府給費留学生として、グルノーブルにあるフランス国立科学研究センター・植物高分子研究所に留学しました。優れた研究者・開発者の先生たちに教わり親しくなっただけでなく、同世代のワールドワイドな横のつながりもできて、その後の研究生活にとても役立っています。私たちの学部では、そういった意味でも留学を支援しています。

TEXT: 木代泰之

岩田 忠久(いわた・ただひさ)

東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 教授
1989年京都大学農学部林産工学科卒業。1991年京都大学大学院農学研究科林産工学専攻修士課程修了。フランス国立科学研究センター・植物高分子研究所での留学を経て、1994年京都大学大学院農学研究科林産工学専攻博士課程修了・博士(農学)。
1995年より理化学研究所・基礎科学特別研究員、理化学研究所高分子化学研究室・研究員を経て、2001年より同・副主任研究員。
2006年より東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 助教授に着任。2007年より同准教授、2012年より現職。2018~19年総長補佐。2006年度繊維学会賞、2010年度ドイツイノベーションアワード受賞、2018年度高分子学会賞を受賞。