神獣や神々、もののけなどを通して独自の死生観を描き出す作風で多くの心を掴む、新進気鋭のアーティスト、小松美羽氏。2020年8月放送の「24時間テレビ」(日本テレビ)の「チャリTシャツ」を手がけ、希望と祈りを鳩と狛犬で表現したデザインが話題となっている。2015年、30歳の若さで大英博物館に作品が永久所蔵されるという快挙を成し遂げた同氏のファンは海外にも広がっており、公式インスタグラムのフォロワー約13万人のうち過半数はアジアを中心とした外国人だという。

作品を待ち望み、ウェイティングリストに名を連ねる数百もの人たちに向け、精力的に作品を制作する一方で、大勢のギャラリーの前で大型の作品を仕上げていくライブペイントや、VRといったテクノロジーと融合した作品にも積極的に取り組む。人々の心を動かす作品はどう作られているのか。制作の原点にある思いを語ってもらった。

なるべく「自我を出さない」ライブペイント

ライブペイント

ライブペイント中はなるべく自我を出さないという

——作品はもちろん、小松さんの気迫あふれるライブペイントも話題です。大勢のギャラリーを前に絵を描かれているときは、どのような思いで描かれているのでしょうか。

小松 ライブペイントで心がけているのは、なるべく自我を出さないということです。自分の意図を反映して作品を作るのではなく、自我の代わりに、その土地のエネルギーや集まってくださった人たちのエネルギーを受けて描いていきます。一方、自宅のアトリエで描くときは、毎朝、まず祈りを捧げ、瞑想をします。瞑想している間にいろいろなものが頭に浮かんでくるので、それを作品に落とし込んでいくのです。

ライブペイントでは最近、「自分がイメージしていたものが絵として現れた」と言われることが多くなりました。昨年末、台湾で行ったライブペイントでは、会場にいらした方が、私が描き始めて10分か15分くらいで、「どうしてもこの絵を買いたい」と申し出てくださったそうです。後で、「なぜそう思われたのか?」と伺ったところ、「自分の頭の中で思い描いていた絵と同じものが描かれたから」とのこと。ご自身が描いているかのような感覚を持ってくださったのかもしれません。

——まさに「自我」ではないところで制作されているのですね。最初にライブペイントを開催された2013年から変化はありましたか。

小松 会場の人たちと私の共感性は年々高まっている気がしますね。また、ライブペイントを通して、私自身、多くのことを学んでいます。

昨年行った、ベネチア国際映画祭でのライブペイントでも不思議なことがありました。会場はラッザレット・ベッキオ島で、かつてペストが流行した時代に、感染した人たちが強制収容されていた場所です。ここで描き始めたところ、私の頭の中にいろいろな声が聞こえてきて、途中から涙が止まらなくなってしまったんです。この悲しみの感情に引き込まれてしまってはいけない、この気持ちを汲んで絵を描くことで、悲しみも含めて次世代につなげないといけない。そう思って描き切ったのですが、終わって会場を見たら、集まってくださったイタリアの人たちが涙を流していました。さらに、これには後日談があって、イベントの様子を映像で見たイタリアの貴族の家系の方が、「この絵はイタリアに残すべきだ」と言って買ってくださったんです。ただ「買いたい」ではなく「この地に残したい」と言ってくださったことに感銘を受けました。

「祈り」に込める思い

イスラエル訪問

イスラエル訪問でも「祈り」への思いは強くなった

——これまで国内外で数多くの展覧会を開催されていると伺いました。最近は特に「祈り」をテーマにしたものが多いように思いますが、どのような思いを込めて創作されているのでしょうか。

小松 「祈り」は、人種や貧富などに関係なく、誰にでもできる素晴らしいことだと思っています。仕事で海外に行く機会が増え、京都のお寺のように、人々の祈りが集まる場所を数多く訪れるうちに、その思いは強くなりました。なかでも記憶に残っているのは、2016年にイスラエルを訪れたときのことです。キリストが洗礼を受けたヨルダン川の両岸に、川で隔てられた2つの地域、イスラエルとパレスチナの若い兵士がそれぞれ銃を持って立っていました。緊迫感のある光景の中、ヨルダン側の兵士の小屋に止まっていた白い鳩が、イスラエル側に飛び立ったのです。

国境というものは人が勝手に引いたものであって、鳩は関係なく自由に飛んでいくんですね。そのとき私は、自分が描いている神獣の本質や、国境を越えた祈りの根源のようなものが見えた気がしました。神獣が守る差別のない世界と私たちの世界をつなげたい。そう祈りながら絵を描いています。

——台湾やイタリアをはじめ海外にも多くのファンがいます。海外での高い人気や評価について、どう感じられていますか。ご著書の中で、大和力(やまとぢから)を世界に伝えたいという表現もされていますね。

小松 アートシーンが活発な地域からは声もかかるし、そこでしっかり仕事をすれば、より多くの人たちに知ってもらえるので、ありがたいと思っています。特に、現地の言葉で記事にしてもらえることは重要で、それだけ世界の人に知ってもらう機会が増えますから。ただ、私自身は、「日本だから」「世界だから」という意識は持っていません。それこそ、鳩が国境など関係なく自由に飛んでいるように、私も国境を意識せず、求められるところに出かけていって、求めてくれる人に絵を描いているだけです。

私は常々、「大和力を世界に発信したい」と言っていますが、この言葉の「和(わ)」は、活動初期に日本的なものを意識していた時期もあったのですが、今は、自分(私)という意味に捉えています。自分もその中の一部であるということで、「大調和力=グレートハーモニゼーション」という意味合いも込めて「大和力」と表現しているんです。

たとえば、日本の着物は「呉服」とも言いますが、その語源は中国の呉からきていると言われています*。日本では、外来品からさまざまな要素を抽出してそれらを組み合わせ、独自の伝統をつくり上げました。このように古来より、さまざまなものを包み込み、融合して新しいものをつくり上げてきた。このような力を私は「大和力」だと思っています。私自身も、これまでの過程で多くの人と出会い、助けられて、さまざまな経験や学びを得て成長してきました。他者から「役割」や「使命」をいただき、今があると思っています。異なる文化や宗教、考え方をすべて包み込み、融合するこの「大和力」を、私はアートを通して世界に伝えていきたいですね。

*「呉服」の語源については諸説あります。

日本のアートシーンにはポテンシャルがある

株式会社風土のチーム

小松さんを支える株式会社風土のチーム

——世界を自由に羽ばたいている小松さんから見た日本のアートシーンは、どのように映りますか。小松さんは、プロデューサーの高橋紀成氏や、所属する株式会社風土でチームを組んで活動をされていますが、そうした活動スタイルは海外では一般的なのでしょうか。

小松 海外のトップアーティストと呼ばれる人たちは、会社やチームなど、体制を整えてプロジェクトを動かしている方が多いと思います。私も、幸いなことにチームで活動ができているので、創作に専念できています。一人だったらとてもSNSまでカバーした活動はできないでしょう。日本では、「たとえお金にならなくても絵を描き続ける」「生きているうちには評価されなくてもいつか評価されればいい」という姿勢を美徳とするような風潮が戦後から続いてきたこともあって、なかなかこうした体制をつくることが一般的にはなっていないようです。もちろん考え方は人それぞれですが、チームで活動することは、作品を多くの人に知ってもらうためにとても大切なことだと思っています。

残念ながら、世界の先進国に比べて日本はアートの市場規模が小さく、閉鎖的な傾向もある。とはいえ、その一方で、美術学校を数多く有する珍しい国なんです。美術館に長蛇の列ができ、アートを愛する人たちもたくさんいます。優秀なコレクターさんも多く、世界に遅れをとっている日本のアートシーンを作家以上に憂いている方も少なくありません。つまり、本来、日本のポテンシャルは高いはずなのです。たとえば、日本ではアートは一度飾ったら飾りっぱなしということが多いかと思いますが、ニューヨークのオフィスなどでは、たいてい最先端のアートが飾ってあります。いつもアートに注目して、常に新しいものに切り替えていくのです。取り巻く社会の視点が変わり、日本のアートシーンがさらなる飛躍を遂げる原動力になればいいですね。

アートと人をつなげるテクノロジー

チャリTシャツのデザインを創作中

2020年「24時間テレビ」チャリTシャツのデザインを創作中

——VR作品を作られたり、ブログで4コマ漫画を発信したり、インスタライブを通してライブペイントの中継をされたり、テクノロジーも積極的に取り込んでいらっしゃる印象です。

小松 台湾の会社と共同でVR作品『祈禱』を作る機会をいただいたことで、テクノロジーを使って、アートへの接点を創出する可能性について考えるようになりました。

たとえば、テクノロジーを使えば、身体的なハンディキャップなどで移動が難しい人たち、何らかの理由でアートにつながりにくかった人たちがアートを感じる機会を増やせるかもしれませんよね。技術の進歩によって、再現性がさらに高まり、展覧会に出向かなくてもアートに触れることができるようにもなるでしょう。チームである利点を活かし、私自身だけでなく、さまざまな視点からテクノロジーは活用していきたいですし、関連情報はアンテナを立ててキャッチしていきたいと思っています。

——そのように、常に新しいことに挑み続けていらっしゃいますが、新しいものや価値観を生み出していくために大切なこととは何だと思われますか。

小松 私自身ができるのは、地道に創作していくことだけです。ただ、新しい分野の方々、新しい技術を持っている方々から、「小松美羽と仕事がしたい!」と声をかけていただけるご縁は大切にしようと心がけていますね。VR作品も、台湾で私の絵を愛してくださる人との出会いがあり、その出会いを発端にVRプロジェクトとして話が進んだ結果です。だから、ご縁のある方々と、次はどんなことをしようかと話すことができる時間はとても大切にしています。

アートは人の魂を救う薬

小松美羽『Pray for Prosperity –幸せに生まれ、幸せに栄える–

小松美羽『Pray for Prosperity –幸せに生まれ、幸せに栄える–』

——新型コロナウイルス感染症の影響によって、世界中の人々が何らかの形で日常生活に制限を受けざるを得ない状態が続くとみられています。そのような「新しい日常」の中で、アートの意義や役割についてあらためて考えることはありましたか。

小松 人が生きていくのに大切なのは、衣食住、そして「薬」だと思っています。薬を必要とするのは体だけでなく心も同じ。その心を健康に保つ、心の病を治すのはアートではないでしょうか。人類は、長い歴史の中で、戦い、いがみ合う時代も経験してきました。肉体が生きていくだけなら必ずしも必要ではない音楽や芸術が、どんな時代を経ても消滅することなく残ってきたのは、それが人の心に必要なものだからでしょう。不確実な未来に向けて多くの人が疲弊している今、必ずアートは求められると信じています。私も、心の薬になるような作品を創りたい、その思いは強くなりました。

——展覧会やライブペイントなど、イベントの開催が難しい状況が続いてきましたが、8月以降はイベントの開催が予定されていると伺いました。

小松 今年(2020年)の春以降、多くの展覧会が中止や延期になってとても残念な思いをしましたが、8月に、東京と広島で個展の開催が決定しています。東京・銀座のホワイトストーンギャラリー本館・新館で開催する「小松美羽展『祈り』(8月24日〜9月13日)と広島県廿日市のウッドワン美術館で開催予定の「小松美羽展『自然への祈り』(9月5日〜11月8日)です。どちらも、コレクターさんの協力を得て、海外で展示された大型の作品も含めた展示になる予定なので、ぜひ楽しみにしてください。*

当初の予定だと、VR作品『祈禱』も発表する予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、今回は見合わせることになりました。昨年、ベネチア国際映画祭や台湾で公開して好評をいただいた作品なので、日本でも早くお見せできる情勢になって欲しいです。

*展覧会の最新情報は小松美羽さんの公式HPをご確認ください。

——これからの活動について、構想やお考えがあれば、ぜひお聞かせください。

小松 私は、「覚醒→進化→達成」というテーマを掲げ、3年周期を意識して生きるようにしているんです。これは、周期内に各テーマを達成するという考え方ではなく、起きた事柄をどう捉えるか、ということ。今年2020年は「進化」の年に当たります。

昨年は、国内外の多くの人たちと仕事をする中で、たくさんのご縁をいただきました。今は、その出会いによって生まれたパワーをエネルギーとして絵が描けている状態で、それを「進化」と捉えています。未来に向けて「大和力」を伝えるべく、何よりいただいた縁への恩返しとして、創作し続けていきたいですね。

小松美羽さん

取材は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からオンラインで実施された

TEXT:佐藤淳子
写真提供:株式会社風土

小松 美羽(こまつ・みわ)

現代アーティスト。1984年、長野県坂城町生まれ。幼少期から画家を志す。女子美術大学短期大学部入学後、銅版画の制作を始め、銅版画の作品「四十九日」が高い評価を受け、プロ活動のきっかけに。その後、アクリル画や焼き物への絵付けなど制作の幅を広げ、2014年には出雲大社に絵画「新・風土記」を奉納。2015年には有田焼の狛犬「天地の守護獣」が高い評価を受け、大英博物館に永久所蔵される。死生観や神々、神獣、もののけなどをテーマにした作品が注目を集め、台湾、イタリアをはじめ海外にもファンが多い。