シミュレーションで時間を超越する

河口教授がコンピューターによる作品作りを始めたのは大学生のころ。コンピューターが高価で希少な時代であった。コンピューターはアートにとって対極の存在。そんな時代に、作品づくりにコンピューターを持ち込んだ。

河口洋一郎教授「プログラムは、ゼロから世界をつくることができました。それはまるで自分が創作の神になったような体験だったのです」

当時は描画ソフトなどのミドルウェアはなかった。だから、すべてを自分でプログラムする必要があり、制作には大変に時間がかかったという。その苦労を乗り越えて、ディスプレイに自分の造形世界が形作られていくことは、他に代えがたい創造の快感があったという。

河口教授は「僕にはやりたいことがありすぎる」と語る。やりたいことをやりきるには時間が足りなさすぎるという焦りが常にあり、人間の寿命は短すぎるというのだ。

この問題を解決するためのツールとして、コンピューターが非常に役に立った。コンピューター上でのシミュレーションは、自然界に流れる時間とは別の時間軸を自由に設定できるからである。

「古生物学などの研究は、自然界の中の時間に自分も巻き込まれながら取り組まなければいけません。ただ、僕にはやりたいことがたくさんあった。だから自分が時間をコントロールできるシミュレーションを使うことを思いついた」

河口氏がコンピューターによる作品づくりを始めたころは、アートとして見ると、描画されたものは稚拙であったかもしれない。しかし、河口氏は自然界の原理的な美に近づくための手段として、コンピューターによるシミュレーションの可能性にいち早く気づいていたのだ。

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