アポロ対談
月と人間とコンピューター

NHK解説副委員長 村野賢哉
東京大学教授 野村民也

ロケット打上げだけは男性上位

『無限大』創刊号表紙1969年8月に発行された冊子版『無限大』vol.1より転載しています。
掲載内容や人物の所属組織、役職名は発行当時のものです。

本誌 村野さんはアポロ10号の打上げをご覧になったそうですね。

村野 この間、アポロ10号の打上げの様子を、アメリカから放送するために、主としてケネディ宇宙センターとテキサス州ヒューストンの人間宇宙センターを中心に取材などをしました。ケープ・ケネディには、ケープ・カナベラルといっていた1959年に最初に行きました。NASAができてから半年ぐらいのときでした。それから64年、66年、今度と4回になります。ヒューストンは3回目です。いろいろ変化していておもしろい面もありました。

野村 打上げのときはどこにいらしたんです。

村野 ケネディにいました。ロケットが打ち上がっていくところを見ないと、感じが出ない。東大ロケットの打上げ以来、病みつきになって、野村先生のじゃまをしながら、内之浦に行っては見ています。ロケットの打上げだけは女性だけには任せられない、とかねがね思っています。アメリカのNASAの連中も“これだけは、アメリカがいくら女性が強くても、任せられない”といっている。あのダイナミックな感じは、男の世界にしておいてほしいという感じですね。ケープ・ケネディではジェミニの打上げも見たし、サターン5型ロケットの1台前の、サターン1型ロケットの打上げも見ています。サターン5型の打上げは今度が初めてだったけれども、すごいですね。

 放送のときも、なんと表現していいかわからなかった。地震とか鳴動とか、さまざまいったけれども、報道席から8キロぐらい離れていたので、打ち上がってから音が聞こえてくるまでに20秒ぐらいかかったと思います。しかし、音というよりもまったくの震動で、報道席のイスといわずテーブルといわず、上下左右、あらゆる方向から揺すぶられました。ものすごい電気あんまに乗せられたような感じで、音というよりも「バリバリ」とすぐそばに雷がたて続けに落ちているようでした。

 3分前にオートマチックに点火指令が働き出して、着火はリフトオフの9秒前。われわれが、火がふいたなと思えるのが、打上げのマイナス5秒。たいへんな水をかけて冷やすので、蒸気の煙が出る。日の当たりぐあいではネズミ色に見えるけれども、これが発射台の回りにたちこめる。実際に浮き上がるのは、正確に予定されたゼロのところです。その間に燃料を40トンぐらい消費するようですね。最初、燃料を詰めてあった重量からリフトオフのときの目方を引いてみると、40トンぐらいになる。それで一応重力に打ち勝つだけの推力が出るんでしょうか。

壮観の陰に80%のアボート

野村 壮観でしようね。

村野 ただ、遠いんですよ。炎が出てはじめてほんとうの大きさがわかります。ロケットの高さというが、長さは110メートルあるけれども、3倍ぐらいに見えました。打ち上がった瞬間は煙に隠れてしまい、8秒か10秒ぐらいすると、煙のなかからロケットの頭が出てくる。そのとたん、世界中から集まっていた500人くらいの報道関係者がいっせいに拍手した。ジェミニなどの打上げのときは、野天だったせいもあるけれども、「GO, GO」と声援する記者連中もいた。いっせいに拍手するのは、アポロになってからのようです。あの瞬間には、みんな応援団になってしまう。日本のロケットを打ち上げるときは、野村先生をひやかしたり、悪口を言ったりする人が多く、いっせいに拍手を送るほど応援団が多くない。あれを見て、ちょっとさびしいと思いました(笑)。

野村 アメリカでは宇宙飛行士の安全に対して、国民は安心していますか。万が一のことがあるんじゃないか、と……。

村野 アメリカ人全体が、ロケットに限らず、アメリカならばなんでもできるんだ、という気持のほうが強いようですね。あんまり不思議に思わないんじゃないですか。日本だと、東大が人工衛星をやるといっても、“そんなことが日本でできるのかい。なんかインチキをやっているんじゃないのかい”なんて……(笑)。特にアポロ8号が去年の暮、月を回って帰ってきて、完全にソビエトを抜いたとだれでも思っている。子どもたちにも聞いてみたけれども、放送で打上げの場面もさんざん見ているので、別に興奮もしない。あたりまえなんだ、という感じを持っていますね。

野村 よく「アボート」(abort)という言葉が出てきますね。「途中で止めてしまう」ということですね。ことに人間の乗ったやつの場合、やたらにこの言葉が出てくる。途中で何か失敗したときに、どうやったら人間を無事にもどすことができるか。その関係のことをものすごくいっしょうけんめいにやっている。

たとえば、こういう計画のための計算のうち、どう飛んだらどうやろうという、うまくいくほうの計算と、失敗したときにどうやったらもどってこれるかという計算とを比べると、あとの「アボート」のほうが80%くらいを占めている。コレクション(修正)を、途中で2、3回やる。第1回で全部取り切れなかったら、第2回、第3回とコレクションする。しかし、第1回のときに少なくともどのぐらいの範囲にまではいっていなければ、あとはだめだ、とかいったことがいろいろある。途中でそうなったらどうする、ということを、いろんなケースにわたってやっている。

アポロ10号に乗り込む宇宙飛行士たちの画像

アポロ10号に乗り込む宇宙飛行士たち。秘書嬢が持つスヌーピーのぬいぐるみの鼻に触れ“バイバイ”のあいさつをしているのはスタフォード有人宇宙船船長。

宇宙への至宝=コンピューター

村野 リアル・タイム・コンピューターはIBMのシステムですね。アポロ、サターンのコントラクターにIBMがなっているようですね。

野村 コンピューターはいくつかに分かれていると思います。打上げ直後の割合に近いところ、つまりケープ・ケネディから見えなくなるぐらいまでの範囲、それから地球を回る軌道にはいったところ、それから月に向かって飛び立つ範囲、そのそれぞれによって、どう飛んで行くかというのを追っかけていく方法が少しずつ違っている。強力なレーダーの装置があって、そのデータは、地上のゴダードの研究所に集まり、そこでオンライン処理が行なわれ、またもどってきた。いまはたぶんヒューストンでオンライン処理して、もどされてきている。精密なレーダーで、時々刻々のデータをとっている。

 雑音などでデータが乱れる。そういう乱れたデータのなかから、現在位置のいちばん正しいデータはこれだ、というデータのスムージングとか、この先はどこに行くという予測とか、そういういくつかのプログラムを分割処理するしくみになっている。かりにレーダーがターゲットを見失ったとすると、そのレーダーが少し先の予測される位置のあたりを捜す。レーダーはひじょうにシャープなものだから、1回はずれると、なかなかつかまらない。それまでの軌跡をずっとたどって、先に伸ばしていけば、つかまえることができる。

 アポロ船上のコンピューターは2つの系統がある。1つは、サターンというロケットそのものの誘導(ガイダンス)、コントロールのためのものです。3段目の頭の部分にインストルメント・ユニット(IU)というのがあり、そこにこのガイダンス用のコンピューターがはいっています。この部分は打上げまでしか使わない。飛び立ったあとは、もう1つの、宇宙船のなかのコンピューターになる。IUにはいっているコンピューターは、打上げのときの加速度とか姿勢の変化とかが加速度計、ジャイロスコープで測定されたものを取りこんで、現在自分がどう飛んでいるかということを知る。決められたコースに乗って飛ぶためには、どういうふうに舵をとっていけばいいかということを、それをもとにして計算する。
 IUのところのコンピューターは3台あって、3つの系統に分かれていて、それがみんな同じことをやっており、3つとも全部一致したときに初めて正しいデータとして扱う。

 また、IBMのものではないが宇宙船のなかにも同じようなユニットがついている。宇宙船が切り離されてしまったあとのナビゲーション、ガイダンスのために使われる。打上げのときは、IUのところのユニットが働き、切り離されて、月に向かうのが具合が悪くなったら、上のほうのやつでも似たようなことがやれるようになっているわけです。ただ、こっちのほうは、デュアルになっています。

村野 東海道新幹線などの場合は、ATC、CTCのコントロールをやっているけれども、ほんとうは速度を上げるのも落とすのもオートマチックにできる。運転手が居眠りしたりするおそれもあるので、速度を上げるほうはわざわざマニュアルにしてある。それと同じわけですね。だから、コンピューターの目もりを、上と下とでしょっちゅう読み合って、確かめ合っている。地上との通信が完全に維持されていることは、宇宙飛行のなかで、人間性にとってひじょうに重要な意味を持っていると思います。

コンピューターの実際の役割

野村 ある地点からある地点に行こう、という場合、ロケットは一定のところを回って行く。何マイル上がって、何マイル移動しなければならない、と。加速度がわかっているから、それが何秒間続けば何マイル上がるか、ということがわかる。水平方向の加速もわかっているから、その方向に何マイル行くためには、何秒間でいいか、ということがわかる。あらかじめ決められた道に沿って行けるわけです。

 しかし、その測定自身には誤差もあるし、測定計自身にも雑音があるから、それを修正しなければならない。また、ある程度は先を予測しなければならない。現在、取りこんでいるデータが100%誤差がなければ話は簡単だけれども、若干のバラツキをともなっている。それをいくつも取りこみながら、スムージングをやり、さらに先を予測していく。それと違っていれば、自動制御で修正していくわけです。

村野 話が飛びますが、野村先生のほうでやっているラムダ・ロケットが無誘導ロケットだということで、それがすなわち無軌道だと思いこんでいる人がずいぶんいるんですよ。もともとロケットがでたらめに飛んでいるんだったら、それを修正するにはたいへんなエネルギーがいる。できるだけ小さなエネルギーでうまくコントロールするためには、無誘導であっても、できるだけ正確にスムーズな軌道を飛んでくれなければ困る。それが前提にあって、誘導ということがあるわけです。

野村 サターンなどは、最初の打上げの重量が3,000トン近い。しかも、燃料タンクなどは割合に薄っぺらい。ごついものにしたら、戦艦大和ぐらいになってしまうから、上がるものではない。だから、ロケットはあんまり乱暴な動かし方はできない。そんなことをしたら、全体がひしゃげてしまう。最初垂直に上がって向きを変えるわけですが、最初の段階での誘導は、とにかくロケットがこわれないように、という制御をやらなければならない。コースに入れようとするのはだいぶたってからです。空気がなくなってから、初めてコースに入れる。ロケットの進路の曲げ方も、やはりコンピューターによって、一定のプログラムで決められるようになっています。そういうこともオンボードのコンピューターがやっている。

村野 地上からコントロールしているんじゃないんだ、ということがいちばんよくわかるのは、月を回る軌道に乗るときです。月のそばをすり抜けるときの速度はちょっと早過ぎてもほうっておくと、月の回りを回ることができない。月の引力とバランスがとれて、月の周りを回れるように、速度を落とさないといけない。そのエンジンに点火する時点は、ちょうど月の裏側にはいったときのようでした。地球からの電波が届かないところです。これは宇宙船に積まれたコンピューターが、あらかじめ組まれていたプログラムと自分で測定したデータとで修正し、いまの高度でいまの速度なら、この燃料を何秒間噴射して、速度がどこまで落ちたときにエンジンを止めるべきだという判断をし、エンジン系統に指令を出します。8号と今度の10号と、2回とも実にうまく成功した。40分ぐらいは裏側にはいっているけれども、安心できるわけです。

野村 8号のときには、それがうまくいくかどうかわからない、ということで、心配したけれども、やがて宇宙船が顔を出して、コンタクトできたときは、たいへんなどよめきでしたね。10号ぐらいになると、少し慣れてきて……(笑)。

村野 11号では、もう打上げのときの緊張なんかは、あまり報道の対象にならないんじゃないか。月面着陸のほうに焦点がいく。しかし、われわれの経験では、大小を問わず、打上げの瞬間の雰囲気は同じですね。打上げは、何回見ても同じ絵だから、もういらない、という人もあるけれども、NASAの連中に聞いても、“いつも成功の確率はフィフティー・フィフティーだ”といっていますね。気持としては。そのくらいのリスクを背負っている。といっても、たった1人ではなくて、全体のシステムのなかで緊張感を持って打ち上げるわけです。

野村 特に人間が乗っているということもあるし……。

月面の写真

カワグチツトム / PIXTA(ピクスタ)

10号はなぜ月に着陸しなかったか

村野 10号で着陸に至らなかったのは、着陸船の目方が、十分に減らせなかったことと、着陸するときのレーダーとコンピューターとの組み合わせが、完全に着陸できる状態にまでいっていなかったことと、2つ理由があったようです。

野村 アメリカとしては、いままでの技術の蓄積だけれども、ひじょうに得意なわけですね。ただ、サーベーヤーが月にランディングをやった。あれなどもクローズド・ループのランディングだ、と。レーダーで地上からの高さを測る。対地速度も測れる。高さ何キロだったら、速度は毎秒何メートル、というのをあらかじめつくっておいて、それに沿って降りる。しかもサーベーヤーのときはこしゃくなことを言っていました。どしんと落ちると噴煙をまき散らすから、10メートルぐらいのところでいったん止めてから降りるんだ、と。そういうのがまだ完成しなかったということでしょうね。

村野 そうらしい。サーベーヤーのときは人間が乗っていないからよかったけれども……。今度はランディング・ギアーも4本あるし、ひじょうに細かく場所を選んで降りるようです。それに積んである小型コンピューターは、デュアル・システムのコンピューターを積んでいる。

 日本でコンピューターを完全デュアルにしているのは、NHKに置いたのだけだ、と聞いたことがあります。コンピューターが2台あるだけではデュアルとはいえない。1つが故障したらもう1つを使うというのでは、あくまでも予備ですね。デュアルというのは、完全に2つが連動していて、片方がいけなくなったときには、もう1つがちゃんと動いている。国鉄の緑の窓口はそうなっていない。1つの系統が故障すると、それが受け持っている切符は全部売れなくなってしまう。放送の場合、1つの系統が故障したためにある番組が脱落したということでは申しわけない。予備といっても、つねに完全に同じ状態で作動できるというかっこうにしておかないといけない。しかし、宇宙船のような、秒の何十分の1というようなリアル・タイムではない。宇宙船のような、ほんとうの意味に近いリアル・タイムのコンピューターは、地上ではあまり需要はないんでしょうね。

野村 そうでしょうね。

村野 地上だったら、故障を起こしても、“ちょっと待ってくれ”といえるけれども、宇宙船ではそれがきかない。

野村 いまおっしゃった、月を回る軌道にはいる作業なんてのは、ひじょうにクリティカルな仕事ですね。コンピューターをたよりにたよっているんだから、それが途中で故障したら、おいそれと間にあわない。

 コンピューターがICなどの開発によって小型化されたということが大きなことです。あの設計そのものはMITがやった。あそこのインストルメンテーション・ラボがあとのガイダンスやナビゲーションの全体のシステムもやったし、実際のチェック・アウトもやった。メーン・コントラクターになったわけです。オンボードのコンピューターも含まれている。リアル・タイムの処理のためだけではなくて、プログラムのためにもメモリーのキャパシティーがとても大きなものでないといけない。普通のコアのメモリーではとても追いつかない。コアには違いないけれども、針金のつなぎ方をくふうして、メモリーの容量を増やした。そういったことも大きな要素になっていると思います。MITの実力はたいへんなものだと思います。

村野 それだけ故障しないものをハードウェアの上でもつくりあげたということでしょうね。とにかく、アポロ計画からコンピューターを抜いたら、骨抜きになってしまう。

宇宙開発のためのIBMシステム

アポロ10号のNASA施設内の写真

アポロ10号の愛称はアメリカの人気マンガからとられた。司令船がチャーリー・ブラウン、月着陸船がスヌーピー。2つの人形がNASA職員の緊張をほぐす。

野村 テレビで「このぐらいの幅のなかにはいって帰ってきたと……(手まねで)。あの段階では、はいるにきまっているんですよ。

村野 それでもヒヤヒヤはさせますよ。また、そうでないと、私のほうも終わりまで見てもらえない(笑)。

本誌 村野さんがお帰りになった直後の解説をおうかがいしていたんですが、あんな失敗するかしないかという段階はすでに過ぎているんだ、と……。

村野 技術者としても、乗っている宇宙飛行士のトレーニングの面も、やるだけやったんだ、ということですね。今度のアポロ10号で、宇宙酔いと宇宙カゼがなかった。打上げの4日前にケープ・ケネディに行っておりましたが、そのときプレス・キットを見ていたら、宇宙飛行士の“大将”の宇宙飛行部長のスレトーン ― 最初の7人のうちの1人で、心臓を悪くして、1度も飛んでいない、ひじょうにきびしい人らしい ― のアイディアで、打上げの3日前にT-33というジェット練習機で、宇宙飛行士が3人とも、フロリダのまん中へんで無重力飛行をやっている。午前中はそれをやって、午後は月面の勉強をした。われわれが普通考えると、それまで千何百時間という激しい訓練を受けてきて、いよいよ打上げの3日前ぐらいになったら、休ませてやろうというところだと思うけれども。そういうことを知って、これはいままでの宇宙酔いなどに関する1つの実験だと思いました。そのせいかどうか、今度は宇宙酔いがなかった。やれるだけのことはやったということが自信に結びついているんだと思いました。

本誌 ヒューストンのIBMに、標語があるんですね、“宇宙船は数十万個の部品から成り立っている。たとえ十万分の1のパーセンテージの不良でも、それだけ不可避の失敗率が含まれることになる”と。

村野 さっき野村さんがおっしゃった着水時のコントロールも、IBMのシステムのようですね。確かに2度のアングルではいってくるというのは、ぼくらの初等数学の頭で考えると、とてもたいへんなことなんです(笑)。

野村 ぼくが“帰ってこられるにきまっている”といったのは、あの段階になれば、うまくいっていることがわかってしまっているからですね。200人ぐらいの人が2年ぐらいかかった処理のプログラムがある。たいへんな蓄積です。理論的なものを、実際のコンピューターが処理できるものにしあげるためには、それだけの人手と時間がかかるわけです。そういう技術を尽しているから、宇宙船が帰ってくるときには、どこを通っているかなんてことはよくわかっている。

野村 最初はわからないことばかりだから、何十という不確定のファクターを入れる。ところが、あんまり不確定要素が多過ぎると、かえって全体の見通しを誤ることもある。つまり、みんなイコール・ウェートだと思って最初はやる。そのうちに、だんだんと実際の結果との照らし合わせができてくると、そのうちでプライマリーに利くのは何かということもわかってくる。そこでそういうものにウェートをおいた処理をやるようにする。

村野 アポロの新しい技術開発のうちでどれがいちばん優れているかというとなかなかむずかしいけれども、10年前にケネディが言ったターゲットに間にあうように、あれだけの複雑なものを仕上げてきたシステムの偉大さには脱帽したくなる。

 もちろん若干のトラブルはあった。サターン5型にしたって、最初の打上げがたいへん遅れたし、2発目はエンジンの振動や何かで失敗している。とにかく3人の人を殺した。いろんなトラブルがあったにもかかわらず、目標年次に間にあわせ、とにかく足並み揃えて仕上げた。個々に見ると、シミュレーターの発達とか、いまや飛行機にも使われ出したイナーシャー・ガイダンスのテクニックとか、軍用のミサイルの技術とか、そういう波及効果もはかりしれないものがあるように思います。

“宇宙には登るべきエベレスト山があるからだ”

野村 昭和39年にヒューストンに行ったときは、草ぼうぼうで、建物が1つか2つあっただけだった。テキサスだから、牛がいたし……(笑)。

村野 ただ、あといつ、どうやって、止めるかというところまで、システムのなかにはいっているのかどうか(笑)。いまそれがたいへんな問題になっている。10号が地球に帰ってきた日に、ペインというNASAの長官が記者会見でメッセージを読んだ。“われわれは10号の成功によって、確実に月に行けることを知った。しかし、11号で月面に着陸することが、この計画の終わりではない。われわれが宇宙を探る仕事は、これから始まる。なぜならば、そこにはわれわれが登るべき宇宙のエベレスト山があるからだ”と。その背景では、はっきりソビエトに勝ったということがある。いままでアメリカの国民のプレステージをかきたてて、とにかく巨大な予算をとって、推進してきた目標がここで1つ済んでしまう。一般には、“勝負あった。これで終わりだ”という印象が強い。

 ところがペイン長官は“ここから始まるんだ”と強調しました。アポロは今年中に13号まで上げ、それから年に3つずつ、2年間の計画は持っている。その先には、1カ月も地球の周りを回る研究室とか、さらに一般のお客を乗せて地球の周りを回る宇宙船の計画とか、いっぱいあるけれども、そこまでいけるかどうかこれからの問題です。さらに火星に軟着陸し、21世紀には人間が火星に降りるとか、とにかく1つの山に登ってみたら、まだ先に高い峰があった。というかっこうで、どんどん進めるものかどうか。その瀬戸際に立っているわけです。

本誌 では日本のペンシル・ロケットから始まった計画は、どこまでやるというのでしょう……。

村野 やはり峰が次々と出てくる。科学研究というのはそういうことだと思いますよ。

野村 いまNASAの曲り角といわれているのは、けっきょくは人間計画のほうですね。実用ということになると、どんどんそのほうに移っていくから……。けれども、科学的な探索はずいぶん壮大な夢を科学者たちが持っていますね。

村野 だから“登るべきエベレスト山が宇宙にある”という言葉は真理だと思います。59年に初めてケープ・ケネディに行ったとき、ワシントンで“なぜアメリカは宇宙開発をやるのか”と聞いたら、やはり“山登りは山があるから登る。われわれも、宇宙があるから行きたいんだ”ということでした。これはアイク時代です。ケネディになってから、ソビエトに追いつき追い越せ、と。それも開発目標としての意義はあっただろうけれども、ここでまた「エベレスト山」にもどってきたことはいいことですね。
 だから、日本の独自の研究も野村先生のほうでぜひ続けてほしいんですよ。

野村 いや、どうもありがとうございます。

※掲載内容や人物の所属組織、役職名は発行当時のものです

photo(main):Thinkstock / Getty Images

村野賢哉氏

村野賢哉

NHK解説副委員長 1922年東京生まれ
1946年6月早大理工学部卒 電気工学を専攻

野村民也氏

野村民也

東京大学工学部教授 東大宇宙航空研究所
1923年東京生まれ 1945年9月東大工学部卒 電子工学を専攻


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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