ダイバーシティ実現にはプロフェッションを持つことが大切 ――チェンジウェーブ佐々木氏インタビュー

プロフェッションを見つけるための自問自答

――自分の志と向き合った結果、どのようなマインドセットが起こるのでしょうか。

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佐々木 実際にやってみるとわかるのですが、自分と向き合うというのはなかなかしんどいものなんです。簡単に見つかる訳でもない。ただ、私の経験則では、少なくとも社会人として数年の経験をもっている人であれば、2-3か月間真剣に向き合えば、当面のテーマは見えてくる。そうすると「それに向かっていくには、うちの会社のあのリソースが使えるな」とか「いまの仕事はこういう意味があるんだ」とか、「目の前のチャンスから登ってみよう」というふうに、会社との付き合い方まで、自分自身がデザインできるようになっていきます。

――企業にとっても、そうした社員が増えることには大きなメリットがありますよね。

佐々木 環境が激変し、会社を経営すること自体がとても難易度の高いものになっています。経営者1人ですべてを判断するのはとても難しい時代です。共通のゴールはありながらも、社員が自分たちで考えながら自走し、これがよいと思うことをやっていけるか。しかも、それを「誰かに頼まれたから」やっているのではなく、「自分がやりたくて、自分で決めてやっている」とすれば、同じことをやるにしてもコミットメント力が全く違います。これからの組織の成長を左右するものがあるとしたら、やはりこういった「個」が当事者意識をもって変化を自発的に起こしていく力をいかに多くレバレッジできるか、ということなのではないでしょうか。

シンプルなルールさえ守ればOK=グローバル型ダイバーシティ

――“変革屋”としてさまざまな企業を見てきて、佐々木さんは日本のダイバーシティ経営がどこまで進んでいるとお思いですか。

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佐々木 変わろうとしている企業は、実際に多いと思います。女性管理職育成にしても、経営幹部育成にしても、今は「経営者やリーダーとしての責任・スキル」を問うだけでなく、それを「本人たちの個性、志、人生観」に根ざしたものにしようとしている。最先端の企業になると、個が輝いた先に今までのビジネスの延長線上ではない、新しい事業が生まれてくる可能性があると信じ、会社や業務の枠組みにとらわれない個人の「ビジョン」を明確にするプログラムを始めていたりします。

ただ一方で、「これまでイデオロギーの中ではメインストリームに入らない人々」の強みや経験を理解し、それを活かそう、という方向のダイバーシティに関しては、まだまだこれからだと思います。経営幹部向けのダイバーシティ研修でも、「メンタルを病んで復帰してきた男性」や「子供もほしいけれど、仕事も頑張りたくて悩んでいる中堅女性」などが登場するロールカード(ロールプレイ用のカード)を使いシミュレーションしてもらうのですが、カードを読んだ瞬間に「こういう人は困るんだよね」という発言が出ることは珍しくありません。

グローバルだと、必要最低限守るべきシンプルなルールと、出すべき成果が決まっていて、それさえクリアしていれば、後はどんな生き方・働き方をしようが個人の自由、というスタイルが成り立ちますが、日本の大企業の場合は、職務要件が1人ひとり契約上決まっているというよりは、総合的に良い仕事してほしい、ということが多いですし、ルールが守れず出すべき成果が出なければ即退場、という雇用環境ではない難しさがあります。

一方、それが出来ないとすると、やはり1人ひとりの「個」とじっくり向きあって、お互いの強み・違いをきちんと理解し、すり合わせながら、組織パフォーマンスを最大化するしかない。でも、それには今まで以上のマネジメントパワーがかかる。

いまの日本は、どちらの道も「実行が難しい割に、費用対効果が漠然としている」という認識から、まだどちらにも振り切れていないのが実状だと思います。だからこそ、中途半端感があるのではないでしょうか。日本が抜本的にダイバーシティ推進を加速するには、どちらにも舵を切らないことによる機会損失の大きさを経営が本当の意味で理解し、「シンプルルール型」に構造を変化させるか、個を深く理解する「刷り合わせ型」を追求するか、どちらかにマネジメントを振り切ることが重要だと思います。

自分でつくりあげていく方向に仕事やものごとは進む

――では、これからのダイバーシティのある社会の実現性について、佐々木さんはどのように未来予測していますか。  

佐々木 「個」が多様な働き方をし、「個」の強みと志を軸に活躍していくということは、これまでのように、常に1人が1つの企業に所属して、1つの名刺で、長時間労働で働いて結果を出し、ピラミッドの階段を上がっていく、という型は崩れていくでしょう。働く時間と場所は柔軟になり、2枚目、3枚目の名刺を持ち、多様な個がプロジェクトごとに集まり協働する、ということが当たり前になってくると思います。

そうした社会では、個が自分の強みと個性を活かし、自ら主体的に動くことが大前提になります。誰かから与えられたり、今ある環境のなかで選んでいったりするのではなく、自分で選択肢をつくる方向に、物事は進んでいくはずです。だからこそ、「自分が何屋でいたいのか」「どういうプロフェッショナルでいたいのか」という個が明確に立っているかどうかは、これまで以上に「未来を切り開く道」を行くか、「未来に左右される道」に行くかの分かれ目になっていくと思います。

――最後に、チェンジウェーブとしての目標は?

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佐々木 私たちの次の目標は、「ボーダー(境界線)」を崩す仕掛けを作ることです。最近は、地方創生の領域もお手伝いしています。長野県塩尻市の行政課題を、リクルートさん、ソフトバンクさんの幹部候補生と、市の職員の皆さんタッグを組んで議論し、市長に施策提案する、という仕掛けです。このような、大企業と行政がタッグを組んで地方創生に取り組む、というコンセプトはまさに「民間は民間、行政は行政」というボーダー(境界)を崩すものです。

現時点では行政側は大企業の人たちがどういうリソース・解決策を持っているか理解できていないし、大企業は行政がどんな課題を持っているか必ずしもすべて把握できていない。行政の課題や企業の事業成長が見える化される仕組みを創れば、今後こういう仕掛けも自然に広がる可能性があると思っています。

企業に対して個別にアプローチすることはもちろん続けますが、今後はもっと多様な「個」が、あらゆる「ボーダー(境界線)」を軽やかに超えてどんどん新しい協創ができる、そんな大きな変革プラットフォームを仕掛けていきたいと思っています。

TEXT:安田博勇

佐々木裕子

ささき・ひろこ

佐々木裕子 チェンジウェーブ 代表

東京大学法学部卒、日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニー入社。シカゴオフィス勤務の後、同社アソシエイトパートナーとして8年間の間、金融・小売・通信・公的機関など、数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。退社後、株式会社チェンジウェーブを創立し、変革実現のサポートと変革リーダー育成に携わる。傍ら、自らの出産と同時に、子どもの可能性を引き出す託児サービス事業“creche bebe”を立ち上げる。
主な著書に、「21世紀を生き抜く3+1の力」「実践型クリティカルシンキング」「数字で考える力」(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


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