対談風景小林 本人の気持ちに火をつけるという意味では、直接起業家の姿を見ることが効果的ではないかと思います。ベンチャー経営者を招いて学生向けのイベントを開くと、終了後には参加者の目の色が変わっています。多くの学生から、「自分もあんなふうに生き生きと仕事をしたい」といった感想が寄せられます。起業家のナマの声を聞き、ナマの姿を見ることで、数百人の学生が大きなインパクトを受ける。参加した数百人がすべて起業するわけではありませんが、どこかの企業に就職するにしても、企業選びや入社後の行動は変わるのではないかと思っています。

北城 もう一つはおカネの問題です。以前と比べるとハードルが下がったかもしれませんが、創業時の資金集めはいまも簡単ではありません。何も実績がないアイデア段階では、どうしても友人や知人、親戚などに頼らざるをえません。この時の出資は、1人が50万円とか100万円程度でしょう。そして、ビジネスモデルが形になり始めたところで、成功した起業家やスタートアップを支援するベンチャー・キャピタルなどが数百万円から500万円を出資する。さらに、企業が成長してきたら、今度は金融機関系のベンチャー・キャピタルなどの出番でしょう。

このようなエコシステムをもっと豊かなものにしていく必要があります。特に重要なのは最初のステップです。実は、起業を応援する「エンジェル税制」という制度があるのですが、残念ながらあまり知られていません。

小林 確かにあまり知られていないかもしれませんね。

北城 2008年に経済産業省の主導で生まれた制度なのですが、アメリカにもないような優遇税制で、たとえば創業時に100万円を出資した投資家は、所得の高い人なら40万円近く所得税から引かれます。友人などにも頼みやすくなるのではないでしょうか。経済産業省の認定を受けるにはいくつかの条件がありますが、それほど難しいものではありません。私自身も、エンジェル税制を利用して何社かのベンチャー企業に投資しています。また、何社かの社外取締役も務めています。

小林 ベンチャー経営者にとって、企業経営の経験を基にしたアドバイスは貴重です。また、北城さんのような方が投資してくれればやる気も増すでしょう。そのような意味で、最近は世代間の交流が大事だと感じています。高校や大学の同窓会、出身地が同じ人たちの集まりなどを、経営者OBや経験豊富な経営者と若手起業家をつなぐ場に成長させることができるかもしれません。さまざまな機会をとらえてベンチャー企業、あるいは若手経営者をサポートする環境をつくっていきたいと考えています。

北城 私自身もベンチャー企業を支援する活動を、今後とも続けていくつもりです。

北城恪太郎氏

きたしろ・かくたろう
北城恪太郎

日本アイ・ビー・エム 相談役。1944年生まれ。1967年慶應義塾大学工学部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。常務取締役などを経て93年に代表取締役社長に。その後代表取締役会長となり、IBMアジア・パシフィック プレジデントも務める。2012年より現職。経済同友会終身幹事、国際基督教大学理事長、文部科学省中央教育審議会委員なども兼務。

小林雅氏

こばやし・まさし
小林 雅

インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー。東京大学工学部卒業後、1998年アーサー・D・リトル(ジャパン)に入社し、ベンチャー・インキュベーション事業の立ち上げなどに従事。エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)パートナーを経て、2007年に独立し、約100億円のベンチャー・キャピタル・ファンドを設立。インフィニティ・ベンチャーズ・サミットの企画・運営責任者を務める

photo(main):Thinkstock / Getty Images


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