日本の閉塞感を打破するのは、スピードとチャレンジ精神 ――テラドローン徳重徹社長に聞く、グローバル・メガベンチャーへの挑戦

東南アジアを中心に、EV(電動2輪、電動3輪)を製造販売してきたベンチャー企業テラモーターズ株式会社。2016年からは、ドローン事業を国内外で展開している。
ドローンメーカーは世界に数多いが、ソフト・システム・サービスの分野でのビッグプレーヤーはまだ登場していない。テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長の徳重徹氏は、そこにチャンスを見出している。
ここ20年間、日本のエレクトロニクス企業は1980~90年代のブランドの輝きを失い、企業内でイノベーションを起こせないことに悩んできた。
徳重社長は「閉塞感を打破するには、何よりも経営のスピードアップ、そして挫折を恐れないチャレンジ精神だ」と力説し、日本がかつて持っていたベンチャー精神の復活をリードしたいと意気込む。
目指すは、グローバル・メガベンチャー。今年中にドローンのビジネスモデルを確立して一気に世界展開に持ち込み、いずれはアップルやサムスンを超えるインパクトを世界に与えたいという。
1カ所にとどまることなく、常に新分野に果敢に挑戦する徳重社長に、日本企業論や自社の将来展望について語っていただいた。

テラモーターズがアジアで製造販売する、EV(電動2輪、電動3輪)   写真提供: テラモーターズ株式会社

テラモーターズがアジアで製造販売する、EV(電動2輪、電動3輪)   写真提供: テラモーターズ株式会社

テラモーターズがアジアで製造販売する、EV(電動2輪、電動3輪)/写真提供:テラモーターズ株式会社

自動車は大変革の時代。ベンチャーにもチャンス

――テラモーターズは創業から8年経ちました。今アジアではどのようなビジネスを展開しておられるのでしょうか。経営の概況をご紹介ください。

徳重 ベトナム、バングラデシュ、インドに拠点(支社)を持ち、EV(電動2輪、電動3輪)を各国で約1万台ずつ、合計3万台販売しています。売上高は約30億円。社員は現地の人たちが計約200人、日本人が10人という陣容です。

アジア市場では価格がすごく大事で、バイクは5~10万円、3輪は20万円前後に設定しています。バングラとインドでは各15%のシェアを取り、トップグループの一角を占めています。
創業から5年間は「EVの将来見通しは厳しい」という予測が一般的でした。ところが独フォルクスワーゲン(VW)が2015年にディーゼル車の環境対応で不祥事を起こしたのをきっかけに、欧州の自動車メーカーは一斉にEVの方向に動き出しました。今、EVに追い風が吹いています。

EVとガソリン車は仕組みも産業構造も全く違います。長年ガソリン車を手がけてきた大手メーカーはエンジン関係の人材を多く抱え、そう簡単にEVに舵を切ることはできません。EVは極論すると電池とモーターの組み合わせであり、大手企業では特に何を自社のコアにするか、差別化が難しいのです。
自動車業界は今、自動運転、電動化、シェアリング、コネクティッドという4つの大きな流れに直面しています。こういう大変革の時代こそ、私たちベンチャーのチャンス到来なのです。

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

――グローバル市場で生き残っていくために、特に必要なことは何だと思われますか。

徳重 それは「スピード」と「チャレンジ精神」ですね。
熟慮に熟慮を重ね、ほぼ確実に成功する見通しがついてからやっと決断をするという日本の企業体質では、今は世界と戦えない。他国の企業は、初めから責任者が自ら乗り込み、その場で話がどんどん決まっていきます。

それに対し、日本企業の多くは、担当者がまず「海外視察」で現地に赴き、帰国してからは分厚い報告書作成に時間を要し、本社の決裁はなかなか下りない。
東南アジアの国では「日本はNATOだ」と言って首をすくめます。北大西洋条約機構じゃありませんよ。「No Action Talk Only」だというのです。Talk Onlyならまだしも、ろくに言葉も発しないで視察だけして帰り、それっきり反応もないことが多いと言うのです。

私は、1カ月のうち、半分から4分の3は海外に出向き、先方の責任者と直接ビジネス交渉をします。
そして、「60%でGO!」をモットーに、アクションをとるようにしています。
だいたい60%くらいいけると思ったらスタートし、そこから軌道修正していく。そして、うまく軌道に乗ったらなるべく若い人や現地スタッフに権限委譲をして鍛え、自分は支援の立場に回る。
今は、グローバルに物事が猛スピードで展開している時代です。「クオリティ」も大切ですが、まずは「スピード」と「ボリューム」を重視して、迅速かつ臨機応変に行動していく姿勢が重要なのです。

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

ドローンのソフト・システム・サービスは大きく伸びる

――経営の新しい方向であるドローン事業についてお聞きします。2016年にテラドローン(株)を設立し、自ら社長を務めていらっしゃいます。なぜドローンに着目されたのでしょうか。

徳重 ドローンの研究を始めたのは、EVが世界に普及するにはしばらく時間がかかると考えていた時期でした。ドローンを新しい経営の軸にしようと考えたのです。
IT分野の過去のビッグトレンドは、まずパソコン、インターネット、スマホ、IoTと移ってきました。ドローンはIoTの一角に位置付けられており、これから伸びるという感触がありました。

事業が世界トップになれるかどうかは重要なポイントです。EVは東南アジアで健闘していますが、世界のトップになるのは容易ではありません。しかし、ドローンは事情が違います。
パソコンの場合もビジネスはまずハードに始まり、ソフト・システム・サービスに移って行きました。
これから大きく伸びるのは、ハードではなく、ソフト・システム・サービスです。ドローンも同じだと考えています。
ハードでは中国メーカーのDJIが売上高2500億円、時価総額2兆円でトップですが、これから伸びるソフト・システム・サービスではまだ圧倒的なトップ企業がいないのです。私たちの会社は今その一角にいます。この領域なら世界トップを取れるかもしれません。それには世界基準の経営力、圧倒的なスピード、現場力の3つが必要ですが、それこそ当社のカルチャーです。勝てる要素があると判断して、ドローンに乗り出したのです。

大企業からは生まれにくいイノベーション

――投資家の人たちは当初、リスクが大きいという理由で反対だったそうですね。

徳重 そうです。「EVで苦労して、やっといい数字が出始めているのだから、早く上場しなさい」と言われました。しかし、それは私が考えるイノベーションの在り方とは違います。

日本ではこの20~30年間、革新的なことをやってみようという空気がどんどんなくなっています。特に大企業はそうです。理屈やロジックを語るだけではイノベーションは起こせません。
私の出身地の山口では、幕末に高杉晋作がイチかバチかの功山寺挙兵(1864年)に立ち上がり、その気迫で長州にイノベーションをもたらしました。高杉自身、おそらく勝てる戦いだとは思っていなかったでしょう。

私が感動した映画に『陽はまた昇る』(2002年公開)があります。1970年代前半、それまで右肩上がりだった日本経済が初めてマイナス成長に陥った時期の製造業を描いた作品です。家電メーカーでは業界8位にすぎなかった日本ビクター(現:JVCケンウッド)の技術者たちが、「世界のソニー」の家庭用ビデオのベータマックス方式に対抗して、VHS方式を開発した実話を映画化したものです。
日本ビクターの技術陣がやったことは、ある意味むちゃくちゃで、ベンチャーそのものでした。会社のお荷物となった部署で、100人近い技術者がVHSに夢と希望を託し、会社に悟られないように極秘で開発し続けたのです。しかも通産省は「ベータマックスに一本化しろ」と迫ってくる。そんな苦境の中、パナソニックの松下幸之助氏に自宅門前で直訴までして大逆転したのでした。

今、こんな情熱や空気感は日本の企業にはありません。イノベーションも起きようがない。だからこそ、私たちベンチャーが引っ張って行かねばならないと考えています。

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

ドローン事業は豪州を皮切りに世界に一気に展開

――ドローンのこれからのビジネス展開についてお聞かせください。

徳重 今、手がけているのは土木測量、農業、送電線などの点検という3分野です。豪州政府と共に鉱山や鉄道を対象にした実証実験に取り組んでおり、順調に進んでいます。土木測量は広大な地域をレーザースキャナーで3次元化して調べます。かかる時間は人手でやる場合の10分の1、費用は3分の1に抑えられます。送電線では碍子(がいし)の破損などを数千枚の画像で調べており、AIを使うことを検討しています。

ドローンはIoT、ビッグデータ、クラウド、ロボティクス、AIのほとんどに絡んできます。専門家と話していると、新しい事業アイデアが次々に湧いてきます。
こうした事業を、豪州を皮切りにグローバルに展開しようと、現在試行錯誤しているところです。今年中には常識を覆すような海外法人のビジネスモデルを確立しようと思っています。情報が世界を瞬時に駆けまわる時代は、ビジネスは世界同時多発的にやらないと勝てません。

テラドローンのドローン         写真提供:テラドローン株式会社

テラドローンのドローン/写真提供:テラドローン株式会社

活気があったかつての日本を、若い世代に伝えたい

――徳重社長は大学を卒業して大手損保で働いた後、シリコンバレーでインキュベーション(ベンチャー育成)事業を6年間手がけられました。自ら創業に至った思いをお聞かせください。

徳重 シリコンバレーのすごさは、例えばグーグルからスピンアウトした社員たちがさらに多くのベンチャーを創業し、活躍している点にあります。幕末の日本で言えば、吉田松陰が松下村塾を作り、多くの人材を輩出したことに通じます。最終的に重要なのはやはり教育だと思います。

私はバブル崩壊前の勢いのあった日本を知っている最後の世代です。これからの日本をもっと活気のある国にしたい、今のままでは悔しい、という思いがあり、自分はその思いを若い世代に伝えていく人間になりたいと考えています。私が創業したのはそういう理由があったからで、他のIT起業家の方とはやや文脈が違うと思います。

日本では、ベンチャーといえばニッチ(隙間)と思っている人が多い。確かにニッチを狙えば成功確率は上がりますが、売上げが10億~20億円になると上場して終わり、と言うケースが多いのです。
私はそうではなく、最初からグローバル・メガベンチャーを意識してきました。グローバル・メガベンチャーといえば、時価総額は10億ドル以上。私たちも時価総額では目標が見えてきたかなという感じを持っています。日本の基準では上場できるレベルにありますが、それはまだ先の話です。

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

調達金額が日本の10倍も多いシリコンバレー

――シリコンバレーでの体験が徳重さんの人生観に強烈な影響を与えたのですね。

徳重 シリコンバレーではベンチャーが産業を創っています。これを知ったことが、私の人生の転機となりました。野球の米大リーグに出かけて行った野茂英雄投手のように、日本人はもっと世界を目指して誰かが突破しなければいけないと思いました。
日本では偏差値の高い人ほど起業家精神が低い傾向にありますが、シリコンバレーでは、スタンフォード大学の人たちの言うことはかなりクレイジーです。チェンジ・ザ・ワールドみたいなことを本気で考えている。これは驚きでした。最初から世界で勝負するんだというマインドが強いのです。

シリコンバレーでは調達できるお金の金額がすごく大きい。日本では6億円調達すればまあまあ、60億円ならトップ・オブ・トップですが、シリコンバレーはざっと日本の10倍です。最近は中国も金額が大きくなり、2000億円とか3000億円というケースがあります。調達額が大きいと、ベンチャーとして取れるリスクの大きさがまるで違うのです。
ベンチャーでは突然何が起きるか予測できません。米国の起業家で作家のポール・グレアムが「スタートアップをやることは、繰り返し顔面を殴られるようなものだ」と述べていますが、まさにその通りです。殴られて1度はシュンとなっても、すぐ立ち上がってモチベーションを継続することが大切です。なぜ自分はこれをやっているのかという信念やバックボーンが問われます。

私も1年前、15億円の融資を受ける計画が突然キャンセルされました。相当落ち込みましたが、今年に入って別のところから10億円を調達することができました。精神的にタフでなければやっていけません。(笑)

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

失敗によって、次に向けたエネルギーが蓄積される

――「ベンチャー経営は人材がすべて」と述べておられます。どのような人材を採用し、どのように育成しておられるのでしょうか。

徳重 世界的な事業展開をしたい、勝てる会社を日本で作りたい、という当社のビジョンに共感できる人、そして何よりモノやサービスを創り出すのが好きな人を採用しています。リーダーになるとか、世界で勝つビジネスマンになるというモチベーションは、今の世の中に流れている空気感、すなわち適当に食べていければいいとか、仕事もライフもそこそこ楽しく、というのとは別物です。

育成に当たって心がけているのは、若手に一段と高いテーマにチャレンジする機会を与えることです。失敗してもいいのです。失敗すると情けないし恥ずかしいから、次は頑張ろうと思う。それが次に向けたエネルギーの蓄積になります。
今の日本の若者にはそうした機会が少なすぎます。社会システムも失敗しないように作られている。よく大学生から「失敗しないためにはどうしたらいいですか」と聞かれますが、そこがそもそも間違っています。高杉晋作も、勝つかどうかではなく、やらなければならなかったから決起した。つまり信念で挑んだのです。

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

――1980年代に世界を席巻した日本の大手エレクトロニクスは、いま往年のブランド力を失っています。何が問題なのでしょうか。

徳重 テクノロジーの大変化が起きているにもかかわらず、大企業はスピード感、チャレンジ精神、リスクテイクに欠け、いまだにひと昔前の成功体験から抜けられないでいると感じます。
失敗しない人が出世するような減点法ではいけない。それは今の日本社会全体に言えることです。企業経営者は特に、「今変えなければ、明日はない」というぐらいの思いでリスクを取る決断が大切です。

外資系コンサルティング会社によると、新しい破壊的な技術革新が現れると、海外の経営者は前向きに捉えるのに対し、日本の経営者はマイナス、つまりやられると見ているというのです。
私が学生だったころは、大企業にイノベーションを語れる経営者がいっぱいいましたが、今はあまりいません。デフレ経営では「ここを切れ」でよかったけれども、今や新しいものを作ることが求められる時代になっているにもかかわらず、です。

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

ベンチャー精神を日本に取り戻すのが自分の役割

――そうした問題点の一方、日本企業の良さも挙げておられます。日本企業の将来性や可能性をどう見ておられますか。

徳重 日本企業の根底には、サムライ精神の潔さ、世のため人のためという「利他的」な姿勢、納期を守る信頼感、規律ある実行力などがあり、世界最強だと言えます。先輩たちが培ってくれたこれらの伝統や遺産は本当に素晴らしい。他の国の企業だと入り口で疑われますが、日本企業に対して信頼感が醸成されているので、ビジネスがとてもやりやすい。
この遺産を生かし、あとは蛮勇を奮って経営のスピードアップを図り、リスクテイクをやってみることです。

インド人や中国人は強いハングリー精神を持っていますが、そのハングリーさは個人の欲望に起因する部分が大きいと思います。
しかし、日本人の場合は、むしろパブリック(公共)の思いを大事にします。松下幸之助さんの水道哲学(水道水のように低価格で良質なものを大量供給し、消費者に行き渡らせようという思想)などはその好例です。

戦後の名経営者の1人である土光敏夫さんが書いた本を読むと、ベンチャー企業的なことがいっぱい書いてあって驚きます。当時の大企業経営者はそうした気概を持ち、リスクを取っていたことが分かります。
しかし、日本企業がバブル崩壊後に輝きを失ってからは、そうした経営者がいなくなりました。いるのかもしれないけれど、世の中全体が、わずかな失敗も許さず、寄ってたかって徹底的にバッシングをするので、志を持った経営者が次第に排除されているのかもしれません。
私に期待されている役割があるとすれば、「スピード」や「リスクを恐れずチャレンジする」というベンチャーの精神を日本社会に取り戻すことだと思っています。

テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長 徳重徹氏

TEXT: 木代泰之

徳重 徹 とくしげ・とおる
テラモーターズ株式会社/テラドローン株式会社 代表取締役社長

1970年山口県出身。九州大学工学部卒業。住友海上火災保険株式会社(現・三井住友海上火災保険株式会社)にて商品企画・経営企画などに従事。退社後、米 サンダーバード経営大学院にてMBAを取得、シリコンバレーのインキュベーション企業の代表として IT・技術ベンチャーのハンズオン支援に従事。帰国後2010年4月にテラモーターズ株式会社を設立。2016年にテラドローン株式会社を設立。 著書に『世界へ挑め! 』(フォレスト出版 )、『「メイド・バイ・ジャパン」逆襲の戦略 』(PHP研究所)、共著に『世界で勝て! 日本人よ「スーパーベンチャー起業」で本物の復活を目指せ』(ヒカルランド)などがある。