脊椎を持った動物は魚類へと進化し、魚類の一部から四足動物へ。さらに、四足動物は両生類・哺乳類・爬虫類へと枝分かれし、そのうち爬虫類(カメ、トカゲ、ヘビ、ワニなど)の一部のグループが「二足歩行のできる爬虫類」——「恐竜」へと進化した。恐竜は太古の昔に地球上を支配していたものの、隕石の衝突とその後に訪れた「長い冬」によって絶滅した。

そんな恐竜の生態解明に挑む研究家がいる。アラスカなどをメインフィールドに発掘調査を繰り返し、“恐竜博士”として数々のメディアにも登場する古生物学者・小林快次さんだ。小林さんの研究におけるポリシー、そして恐竜研究の先には一体何が見えてくるのか、話を伺った。

恐竜研究の魅力とは?——その「不安定さ」が面白い

――古生物学者を志したのはいつ頃のことでしょうか?

小林 恐竜研究が盛んな福井県の生まれですが、いわゆる「恐竜マニア」の少年ではありませんでした。ただ、中学生のときに子ども向けのイベントでアンモナイトの化石発掘を体験してから、徐々に恐竜の世界にのめり込んでいきました。

――当時、恐竜のどんな点に心惹かれたのでしょうか?

小林 発掘作業では、見た目はただの石なのに、割ってみると中から数千万年〜1億数千万年前の生物が現れる。タイムマシンに乗ったような気分になり、子どもながらに感動を覚えました。しかも、初めての化石発掘では自分だけ化石を見つけることができなかったんです。元来負けず嫌いな性格でもあり、なぜ発掘できなかったのかを子どもなりに真剣に考えていました。当時、仮に見つけられていたら、この仕事をしていなかったかもしれません。

――高校卒業後に渡米され、ワイオミング大学地質学地球物理学科へ進学。さらにサザンメソジスト大学地球科学科では博士号を取得し、日本に帰国されています。アメリカに残ることは考えていませんでしたか?

小林 もちろん、1つの選択肢ではありました。周りの仲間も私がアメリカに残ると思っていました。ただ、渡米前に古生物学者・冨田幸光先生(現・国立科学博物館名誉研究員)に「留学してもいつか日本に帰ってきて、日本の恐竜研究をレベルアップさせてほしい」との言葉をいただき、渡米中もずっとその言葉が頭の中にありました。当時の自分が本当にそれを実現できるかどうかはともかく、アメリカで研究者としての礎を築いたのならば、活動拠点を日本に移すことはずっと考えていました。

――あらためてお伺いします。「恐竜研究」という領域では、具体的にどのような研究を行うものなのでしょうか?

小林 一般的な「動物学」と根本的な違いはありません。違いがあるとすれば、獲得できるデータ量です。現生動物なら野生の中で観察でき、獲得できるデータ量も膨大です。しかし、今は存在しない恐竜が研究対象になると、発掘した化石を丹念に調査し、生態学や生理学の見地から恐竜の“痕跡”を復元していかなければいけません。

恐竜研究の魅力とは?——その「不安定さ」が面白い

――やはり、その痕跡を探すには「全身骨格」が必要なのでしょうか?

小林 必ずしも全身骨格が必要というわけではありません。発掘から復元までの作業は、現場にある痕跡から謎を解明していくサスペンスドラマのクライムシーンに似ていると感じます。「全身骨格」の発掘は、殺されたその人が誰なのかを突き止めていくようなケースです。

でも、歯や指の骨などの「部分骨格」が見つかっても、そこから「さまざまな種類の恐竜が同じ場所・同じ時代に棲んでいた」といったことが判明することもあります。「生痕化石」(地層中に見つける足跡などの化石)にしても、「どんな恐竜が、どんな環境下で、どんな様子で歩いていたか」を再現できます。いずれも貴重な研究対象です。

――どれかに優劣があるわけではなく、それぞれに独自のアプローチがあるのですね。

小林 だからこそ、獲得できるデータが少ないという理由で「恐竜研究はダメ」だと短絡的に考えてほしくないんです。少ない痕跡からいかに最大限の情報を引き出し、よりコンプロマイズできる(歩み寄れる)仮説を組み立てられるか——。そんなことに挑んでいて、実はその“不安定さ”が恐竜研究の面白さでもあるんです。データが少ないからこそ、より詳しい分析、あるいは今までなかったような分析が必要となる。そう考えると、恐竜研究の進歩が現生動物の研究にもつながっていくかもしれません。

「ない」が繰り返されれば「ある」の可能性が高まる

――現場での発掘調査は、どのように行われているのですか?

小林 対象フィールドは環太平洋に面するアメリカ本土、アラスカ、中国、モンゴル、日本などを主としています。広いエリアで発掘調査を続けることで、アメリカとアジアの恐竜の違いや、中緯度と高緯度の環境での適応の仕方の違いなどがわかっていきます。とはいえ、エリアをそこだけに限定しているわけでもなく、アフリカだって南極だって行きたいところはたくさんある。あとはお金次第ですね(笑)。

アラスカでの発掘作業風景

アラスカでの発掘作業風景

――発掘では特にどんな部分にお金がかかるのですか?

小林 アラスカでの調査はヘリコプターをチャーターする必要があり、それだけで1,000万円ほどの費用がかかることもあります。大規模な発掘作業になれば、壊れやすい化石標本を保護する石膏のジャケットが大量に必要になり、そうした材料にもお金がかかる。発掘後のクリーニング等にも人件費がかかります。

――「ここに化石がある」という確信はどこから?

小林 恐竜の化石は「地層」の中に埋まっています。それらの地層を丹念に観察すると、深い湖からもう少し浅い湖になり、さらにそれが川になり、その次には氾濫が起きて……といったように、本のページをめくるように1枚1枚のストーリーが見えてくる。だから、一見ただの砂漠と思える場所でも、歩いてみると当時の環境が頭の中で描き出すことができます。そうした時間軸も照らし合わせながら地層を見ていくと、化石がありそうな場所がわかってくるんです。

――お話を聞けば聞くほど、非常に根気のいることのようにお見受けします。発掘調査における原動力とは?

小林 見つからないことも成果だと信じることです。もし、その場所に化石が「ない」となれば、他のところに「ある」確率が上がる。「ない」ことが繰り返されるほど、その後に「ある」の確率が上がるわけです。この話は、子どもの頃のアンモナイト化石発掘で化石を見つけられない私に、先生が教えてくれたことです。「出るまでたたけ」と。

実際にこれまでの経験を通してそう感じましたし、これが私の最大のモチベーションです。失敗なんかあり得ない、と考えています。さまざまな人の助言も、研究の原動力になっていると思います。

――恐竜化石をきちんとした許可を得ずに搾取し、裏ルートで売買する「盗掘」という世界もあると聞きました。

小林 恐竜マニアやコレクターの人に売りさばくのを目的にしているケースがほとんどです。盗掘者にも生活があるのはわかりますが、その価値がわからないままどこかへ流通するだけでなく、歯や爪などのお金になるそうな部分だけを持っていかれるので発掘現場が荒らされてしまいます……。あれはもう怒りでしかないですね。

わかっているのは氷山の一角。何十万のうちのたった1,000種類

――小林さんも新種の恐竜を複数発見されています。現在、世界で何種類くらいの恐竜が発見されているのでしょう?

小林 だいたい1,000種類くらいでしょうか。ある研究者は2億3000万円前〜6600万年の間に「およそ2,000種類の恐竜がいた」という論文を発表していますが、今この時代を生きている哺乳類が5,000種類、鳥類は1万種類くらい存在しています。1億7000万年の間、どの時代にも数千種の恐竜がいたと考えて“かけ算”していけば、何十万という種類がいてもおかしくはありません。

現在、解明されている恐竜は氷山の一角に過ぎないんです。だからわかっていることも少なく、研究が進んでそれまでの仮説が覆されることもたびたびあります。

――最近は子どもたちに人気のティラノサウルスにしても、その姿や形にさまざまな諸説があります。

小林 かつては「ウロコに覆われていた」という説が一般的でした。しかし、あるとき「ユウティラヌス」というティラノサウルスの仲間の化石が見つかり、彼らに羽毛が生えていたことがわかった。それによって「ティラノサウルスも……」と考えられるようになったのです。でも、最近になってまた別のティラノサウルスの仲間の化石が見つかると、そこにウロコの化石が残っていて、再び「羽毛はなかった」と考えられるようになりました。

先ほどの「不安定さ」の話にもつながりますが、こうした「ある」「ない」の議論が僕ら研究者の間で過熱していくことで、恐竜研究は進歩します。それぞれに根拠があれば、どちらが正しいかはまったく問題ではない。少ない証拠から研究者各々がいかに解明していくかが重要なんです。

――最近は恐竜の「肌の色」も解明されていますよね。ビジュアライズされた恐竜図鑑も人気です。

小林 もちろん、すべての恐竜の肌の色が解明されているわけではありませんが、化石から色を再現できるケースもあります。ある研究者が頭足類(イカやタコなど)の墨の化石を研究していて、その研究のなかでメラニン色素を作る細胞小器官「メラノソーム」を見つけました。別の研究で恐竜の羽毛の化石にそのメラノソームが見つかり、どのような色をしていたのかが推測されました。現生鳥類の祖先と言われる「始祖鳥」の羽毛も、その一部が黒色だったことが化石標本から解明されています。

わかっているのは氷山の一角。何十万のうちのたった1,000種類

――派手な色の恐竜がいたかもしれない?

小林 現生の鳥を見ていても、だいたい白、黒、茶、灰色の4色を基礎にしていますよね。どんな野生動物でも、派手な見た目をしていたら外敵に見つかりやすくなってしまうため、地味な容姿に進化した動物が多いのは当然のことです。しかし、非常に色鮮やかな花がたくさん咲いている熱帯地方では、その環境下に適応するため、派手な容姿に進化した鳥もいます。同様に考えれば、派手な容姿をした恐竜がいたとしても不思議ではありません。

恐竜研究の意義とは

――「基礎研究」と呼ばれる世界には「今すぐに役立つのかわからないけれど、将来的に何かの役に立つかもしれない」という大義名分があると思います。恐竜研究に従事する皆さんは、ご自身の研究の意義をどのようにとらえていますか?

小林 一つは教育的側面から考えることができます。恐竜が嫌い、という人に僕はあまり会ったことがありません。相手が子どもであれ大人であれ、恐竜を通じて何かを伝えることができると思いますし、科学に対する興味を持ってもらうきっかけとして「恐竜」は格好の対象だと思います。

私が研究者として在籍している北海道大学にも、恐竜研究を志した学生が殺到しますが、入学後、段々と他にも面白い分野があることを知り、別の道に歩み出す。それでいいと思います。ちょっと寂しい気持ちもありますが(笑)。

――サイエンスの面白さに気付くきっかけとして、確かに恐竜は受け入れやすいですね。

小林 もう一つ、研究的側面としての意義も常々考えています。私は化石発掘のため、北極圏に近いアラスカでたびたび調査を行いますが、当然、冬は大量の雪が降りますし、日照時間も短い。エネルギーが入ってこないから食糧も少なくなる。とてもこんなところでは生きていけません。しかし、恐竜はそうした環境下でも冬を過ごすことができた。彼らはただの「二足歩行のできる爬虫類」ではなく、極限の環境下でも生活できた、とても優秀な生命体でした。

にもかかわらず、彼らは絶滅しました。恐竜の絶滅には諸説あり、さまざまな要因が重なったと考えられますが、特に大きかったのはメキシコのユカタン半島への巨大隕石衝突に端を発するものです。隕石衝突によって大量の粉塵が大気中をただよい、日光を遮り、その結果、地球上の気候が激変。長期間に及ぶ寒冷化をもたらし、生態系を破壊した……と考えられています。

――6600万年前に起こった恐竜の大絶滅ですね。

小林 優秀と考えられた恐竜でさえ、絶滅を回避することはできなかった。これは、我々人類でも同じことがいえると思います。地球上の生命は38億年の歴史のなかで「5回」の壊滅的絶滅を経験しました。その最後が、恐竜の大絶滅です。そして今「第6の絶滅」の真っ只中です。

恐竜研究の意義とは

――「第6の絶滅」とは?

小林 “人類”が自らもたらす絶滅です。世界人口は70億人を突破しました。エネルギーや食料など消費している“コスト”を踏まえると、全人類が普通の生活を送っていくためには、地球2個半が必要だと言われています。世界人口はこれからもまだまだ増えていき、必ずや深刻なパンク状態がやってくるでしょう。

6600万年前よりも遙か昔、2億5000万年前にも地球上で大絶滅があり、そのときは地球上に存在していた9割以上の生命が失われました。「第6の絶滅」は、それ以上のとんでもない規模です。そして、人間の時間的感覚ではその危機感を把握することができません。

――そこに小林さんの研究の意義がある?

小林 常日頃から数百年、数千年、数万年のレベルではなく、数千万年、数億年というダイナミックなレベルで生命の歴史を巨視的に見つめています。化石という痕跡からタイムマシンに乗って「我々生命に何が起こってきたのか」を知ることのできる古生物学は、人類を絶滅の危機から遠ざけることのできる唯一の学問だとも思っています。

幸い、人類は恐竜と違って「考える力」と「伝える力」を持っています。“自分”という個体のための環境ではなく、次の世代、また次の世代のための環境を変えるにはどうしたらいいのか。その答えは「考える力」と「伝える力」で導き出すことができるし、恐竜の生きた時代から学ぶべき点も多いのではないかと思います。

 

TEXT:安田博勇

小林快次(こばやし よしつぐ)

1971年福井県生まれ。1995年アメリカ・ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年アメリカ・サザンメソジスト大学地球科学科で博士号を取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学招聘准教授。モンゴルやアラスカ、中国、カナダなど海外での発掘調査や恐竜展の監修など、恐竜研究の最前線で活躍中。