IBMのAI「Project Debater」が人間相手のディベートで魅せた

人工知能(AI)開発の究極の目的の一つは、人間と同様の知能を獲得することにあります。現在、その境地に辿り着くことはできていないものの、IBMのAIシステム「Project Debater」が成し遂げた快挙は、AI開発において重要な前進となりそうです。

AIがディベートで人間のチャンピオンに勝利

2018年6月、サンフランシスコで開催されたイベント「Watson West」において、IBMのAIシステム「Project Debater」が、ディベートチャンピオンである人間相手に勝利を収めました。

ディベートの論題は「政府は宇宙開発に助成金を出すべきか」。両者それぞれ4分の持ち時間でオープニングスピーチを行い、相手の主張に対する反論を行った上で最後に2分間の要約を述べるという形式で進められました。Project Debaterは、議題に対して賛成の立場で主張を展開。最終的に両者のスピーチについて簡単な投票を実施したところ、聴衆の大半がProject Debaterを支持すると回答したのです。

これは、1996年にチェスのチャンピオンに勝利したディープ・ブルー、2011年にクイズ番組「Jopady!」でクイズ王を打ち負かしたIBM Watsonに続くAI界の快挙です。

Project Debaterとは?

Project DebaterはIBMリサーチが開発したAIで、複雑な議題について人間と討論を交わすことのできる世界初のシステムです。

近年、AIは目覚ましいスピードで進化を遂げていますが、一方では人間の言語を理解したり、自ら論理を構築したりするといった領域においては、まだまだ未成熟な部分が多く残されていると言われています。Project Debaterはそうした領域に対する果敢なチャレンジであり、AIに人間の言葉を学ばせるという観点でも、非常に意義深い試みです。

Project Debaterが論理を構築する方法

Project Debaterはディベートのテーマを与えられると、インターネット上などにある関連情報を参考に賛成・反対両サイドの主張を構築します。

Project Debaterの特筆すべき点は、事前に準備学習を行わない点にあります。議題に対してどんな情報を集めるべきか、どのような主張をすべきかについて人間が事前に指示を与えたり教育したりするのではなく、AI自らが情報のなかから最も説得力のある情報をピックアップし、「自分の主張」を組み立てます。もちろん、討論相手の主張を聞き取って論旨を理解し、それに対する反論を組み立てる作業もProject Debaterが自力で行います。

現在、Project Debaterの性能はまだ完璧とは言えず、確度の低い情報を誤ってピックアップして主張を構築してしまうこともあるようですが、今後徐々に改善されていくことでしょう。

Project Debaterが目指すもの

Project Debaterの目的の一つは、人の意思決定を支援することだといいます。

高度情報化社会に暮らす私たちの周囲にはさまざまな情報が溢れていますが、なかには明らかに間違ったものもあれば、曖昧なもの、内容の薄いものなども含まれています。今後、Project Debaterのように自ら情報を探して解釈し、賛成・反対両サイドの意見をまとめられるシステムが発達していけば、人間が正確な判断を下すためのサポートが可能になります。

AIが人間に迫る能力を持つことについて、「AIが人の仕事を奪う」といった意見をしばしば耳にしますが、AIは人間と敵対する存在ではありません。むしろ私たちを支援し、能力を拡張してくれる頼もしいパートナーだと考える方が、ずっと理に適っているのではないでしょうか。

 

photo:Getty Images