AIやIoT、ブロックチェーン、量子コンピュータなどの最新テクノロジーにより、私たちを取り巻く世界は目まぐるしく変わり始めています。しかしその一方で、貧困や飢餓、環境汚染など、さまざまな問題が残されているのもまた事実です。

では、テクノロジーの力で、そうした問題を解決することはできないのでしょうか? 「プラスチックバンク」は、この問いに答えを与えてくれるかもしれません。

人類がこれまでに生産したプラスチック80億トン、そのほとんどが「廃棄」に

プラスチックの発明は、私たちの暮らしを飛躍的に便利にしました。ペットボトルのドリンクやプラスチック容器に入ったシャンプーなど、生活のさまざまなところで使用されています。しかし、便利な反面でプラスチックは高い耐久性ゆえに分解されにくいという性質があり、海洋ごみの問題をはじめとした環境汚染の原因ともなっています。

プラスチックが実用化されたのは1800年代のことですが、それからわずか200年余りの間に、人類は80億トンを超える大量のプラスチックを生産してきました。そして驚くべきことに、そのほとんどがいまだにリサイクルされない「廃棄ごみ」の形で、世界中のあらゆる場所に放置されているというのです。

世界中に放置されたプラスチックをすべて回収してリサイクルすることができれば、その価値はなんと4兆ドルにものぼるといいます。しかし、これを実現するのは口で言うほど簡単ではありません。

眠れる資源で世界の海と貧困層を救え!

現在、世界中の海には1.5億トンにのぼるプラスチックが投棄され、年間800万トンのペースで増え続けているとされています。海を汚染する廃棄プラスチックの約8割は、廃棄物管理のインフラが整っていない後進国から流出していると言われ、そうした問題の根源を改善しなければ真の解決にはつながらないでしょう。しかし、衣食住も満足に確保できず、日々の安全すらおぼつかない、貧困にあえぐ人たちに、環境美化のためのリサイクル活動に取り組む余裕などあるでしょうか?

そこで、「プラスチックによる海洋汚染と貧困層の救済の2つの問題を一気に解決する」というコンセプトのもとに生まれたのが、デビッド・カッツ氏が率いる「プラスチックバンク(Plastic Bank)」です。

プラスチックごみが「通貨」に替わる

プラスチックバンクは、使用済みのプラスチックを回収してリサイクルし、製造業者や大手小売業者などに販売するビジネスを展開しています。画期的なのはその回収の仕組みで、回収されたプラスチックを現金ではなく一種の仮想通貨で買い取るとともに、その仮想通貨を使って食料や水、日用品などを購入できる仕組みをつくり上げたのです。

既にいくつかの途上国で取り組みが開始され、現地の回収員が日々たくさんのプラスチック廃棄ごみを回収して、生活の糧を得ています。廃棄プラスチックを再利用するエコシステムを構築したことにより、プラスチックバンクは海洋汚染と貧困層の救済の2つの問題解決に活路を見出したのです。

基盤を支えるブロックチェーン・テクノロジー

このプラスチックバンクの取り組みを水面下で支えているのが、ブロックチェーンです。ブロックチェーンは、取引の記録をいくつものコンピュータに分散して管理して、データの改ざんを防ぐことができます。ブロックチェーンを応用することで、取引の内容を高い信頼性で保証することが可能となります。

プラスチックバンクは、回収員に対してブロックチェーン上で発行されたデジタルトークンとして報酬を支払い、回収員はこのトークンを使って加盟店で商品を購入します。トークンの発行や管理、商品購入時の決済には専用のアプリを利用しますが、IBMはこれらのシステムの構築にIBM Blockchain、Hyperledger Fabric、IBM LinuxONEサーバーなどの技術で貢献しています。

プラスチックバンクの現在の活動拠点はハイチやフィリピンといった途上国がメインですが、同じ仕組みを世界中のどこでも展開することができるとカッツ氏は語っています。プラスチックバンクのエコシステムが世界規模に張り巡らされ、プラスチックの廃棄ごみが信頼性の高い世界共通の「通貨」に生まれ変わる日が、いつかやってくるかもしれません。

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