公共インフラの老朽化が全国で深刻な事態になっている。1960~70年代の高度成長期までに建設された多くの道路や橋、上下水道、建築物(公共施設)などが、いま一斉に更新の時期を迎えており、地震などがきっかけで危険視される市庁舎や橋が使用停止になる事例が多発している。
『朽ちるインフラ』の著者・東洋大学大学院の根本祐二教授(公民連携専攻)は、更新費用は今後50年間で総額450兆円、年額9兆円と試算する。
公共事業の予算が減る中で、国や自治体は更新費用の増加にどう対応すればよいのか――この「待ったなし」の難問の解決策として根本教授が提唱するのが「省インフラ」という新しい発想だ。小中学校を統廃合し多機能化して町づくりの拠点に変える、公営住宅は廃止し民間の空き住宅を利用する、庁舎や各種施設はリースにするなどの方策により、インフラの量を競う従来行政からの脱却を図る。公と民の連携を重視する根本教授に、インフラ老朽化の現状や処方箋を伺った。

米国のインフラ老朽化を30~40年遅れで追う日本

――公共インフラの安全性が問われています。老朽化の現状と、その背景や原因について説明していただけますか。

根本 橋を例にとって説明しましょう。日本では1950年代に大量の建設ラッシュが始まり(表1参照)、ピークの60~70年代には年間1万本近い橋を建設しました。第2次世界大戦後の復興から高度成長期に向かう時期であり、社会経済活動の基盤として次々と整備されたのです。この公共投資はわが国の高度成長の源になり、大きな意義があったと思います。

表1: 米国・日本の年次別橋りょう建設数の推移

表1: 米国・日本の年次別橋りょう建設数の推移
(資料:平成18年度国土交通白書を編集部で一部編集)

しかし現在、これらの橋が老朽化しています。老朽化すると、使用停止や通行規制になる橋が増えます。2013年のデータでは、全国で使用停止が232本、通行規制が1149本あります。このままでは、崩壊に近づいていきます。高度成長期に集中投資した結果、老朽化も集中して起きているのです。

米国では日本より30~40年早い1930年代に橋の大量建設が始まりました。世界恐慌で落ち込んだ経済と雇用を下支えするため、ニューディール政策の一環として大量のインフラを建設したのです。80年代になると一斉に老朽化し、あちこちで事故が起きました。それと同じ状況が30~40年遅れて今日本で起きているのです。

日本全土に73万本の橋がありますが、日常的に管理されているのは比較的大規模な少数の橋だけです。予算がないために実態調査ができず、実態が把握できないために更新や維持補修の予算要求ができない、という悪循環に陥っています。
老朽化自体は当然起きることなので仕方ありません。問題は、むしろ老朽化を放置せざるを得ない、つまり十分な対策を取るための財源がない、あらかじめ準備していなかったという点が問題なのです。

市庁舎が地震で使用停止に、根本原因は老朽化

――橋以外のインフラは、どんな状況なのでしょうか。

根本 建築物(公共施設)の破損や上下水道に起因する道路の陥没などが問題です。建築物の事例としては、病院や学校、図書館などでコンクリートが剥げ落ちる事故が起きています。内部の鉄筋がさびて膨張する爆裂現象が主な原因です。

2016年の熊本地震では、宇土市役所が崩壊寸前となり、東日本大震災では震度6以下だった福島県庁や水戸市役所、郡山市役所などの庁舎が使用停止になりました。地震がきっかけでしたが、根本的な原因は老朽化にあります。
1981年の建築基準法改正で震度7での耐震性が求められるようになりましたので、多くの施設は耐震補強されましたが、耐震補強だけでは寿命が延びるわけではありません。大規模改修や更新をしなければ安全性を維持できないということです。
建築物の老朽化は首都圏と近畿圏で特に顕著です。東京五輪(1964年)や大阪万博(1970年)など、公共投資を集中的に実施するタイミングが、他地域より早かったためと考えられます。

下水道管の損傷に起因する道路の陥没は現在、全国で年間3000件以上起きています。上水道管は水圧がかかっているので管に若干の亀裂が生じただけで破裂し、地面から噴き出します。下水道管は、圧力はかかっていませんが、一度穴が開くと下水がじわじわ流出して空洞を広げ、道路の陥没を引き起こします。

このままでは日本の最大のセールスポイント「安全」が損なわれる

――先生の試算では、老朽化したインフラの更新費用は今後50年間で459兆円、年平均9.17兆円という膨大な数字が示されています。この試算の根拠を説明していただけますか。

根本 これは2017年3月時点で「個別積み上げ方式」によって計算した数字です。この方式は公共インフラの種類別(建築物、道路、橋、上下水道管、浄水場、下水処理場、空港、港湾、病院、ごみ処理場、機器類)の物理量にそれぞれの更新単価をかけて算出した金額です。物理量とは建築物なら延べ床面積、道路は舗装面積、橋は本数、上下水道管は距離などです。

最も金額が大きい建築物は年額4.63兆円、道路1.32兆円、橋0.42兆円、上下水道3.03兆円で、その合計が9.17兆円です。これが永遠に続きます。50年間であれば459兆円となります。

市庁舎が地震で使用停止に、根本原因は老朽化

――9兆円は毎年の国家予算の約1割にも相当する大きな金額です。もしインフラの補修や更新が財源不足のために進まない場合、どのような事態が予想されますか。

根本 2011年に上梓した『朽ちるインフラ』冒頭の「崩壊のシナリオ」で、私は最悪時を想定した未来図を書きました。予想されるのはインフラの故障や使用停止です。橋やトンネルは崩壊の危険が高まって通行禁止になり、交通や物流がマヒします。庁舎や公民館、ホールなど多くの公共施設も使えなくなり、住民サービスは機能不全に陥ります。いたるところで赤さびた歩道橋、でこぼこの道路といった光景を目にすることになります。上下水道や公共施設の使用料は大幅に値上げされるでしょう。
こんなふうに都市機能が損なわれると、日本の最大のセールスポイントである「安全」が脅かされます。海外からの観光客は激減し、外資系企業などが日本から撤退する事態も起こりかねません。

――「崩壊のシナリオ」では、国債金利の急上昇による国家財政の破綻や、その影響にも触れておられます。

根本 国の予算は税金で足りない分を大量の国債発行でまかなっています。今は金融緩和による低金利で発行できますが、国内投資家が保有できる臨界点を突破すれば、国債金利が急上昇を始めます。よく言われる「日本の負債残高は大きくても、国内投資家が大半を保有しているので心配ない」という話が崩壊するのです。国債金利の急上昇は国の財政を破綻させ、経済に打撃を与え、地方債を発行する自治体財政にも波及します。

インフラ老朽化による膨大な更新費用は、これまで「隠れ負債」として先送りされてきましたが、その財源を国債発行で捻出することは不可能になります。言うまでもなくこの未来図はフィクションですが、何もしなければノンフィクションになってしまいます。

更新費用が必要になることをみんなが失念していた

――たくさん公共投資をすれば、いずれ多額の更新費用が発生することは自明の理ですが、なぜこんなことになったのでしょうか。

根本 公共事業予算は、増大する社会保障予算に押されて削減され続けてきました。その結果、減少する予算の中で増大する更新費用を捻出しなければならない、というジレンマに陥ってしまったのです。

行政の会計は企業会計原則とは異なっており、減価償却が終わった資産があっても、次の予算の準備がありません。これを予見できなかった責任は、公共事業を推進した官庁、分捕り合戦を演じた政治家、われわれ経済学者、受益者である住民にもあると思います。

政治家は、新しい公共施設や道路などを造ることは選挙に役立つので熱心ですが、今あるものを造り替えるだけの仕事にはあまり関心がありません。住民も、今あるものをしっかり残すことがいかに大変であるかを認識し、それに取り組む政治家を応援していれば、政治家の行動は変わったでしょう。また経済学者が書く教科書は、いまだに公共事業の波及効果など需要面だけを見ているものが大半です。「更新投資は当たり前だから、学者が言うまでもない」という考え方なのです。

その結果、自分の家の建築であれば先々のことを考えるのに、国全体の話となると誰も考えていなかった。今思うと、子どもでも分かるような単純な理屈を、みんなが失念していたのです。
私は更新費用の試算を、内閣府PFI推進委員会(PFI:民間資金を公共施設の整備に活用する手法)の場で発表しました。PFIの手法を公共施設の新設だけでなく、インフラの更新投資にも適用すべきであると考えたからです。
PFIは理念として客観主義や透明性、競争原理、リスク、契約を重視します。これまで更新投資の実現を妨げてきたのは官尊民卑の発想、政官財の癒着、リスクの無視、馴れ合いなど、戦後の日本経済の構造そのものです。これらの阻害要因を取り除くことができるシステムとして、PFIに期待しています。

更新費用が必要になることをみんなが失念していた

「省インフラ」こそ、これからの方向

――先生は更新に必要な年額9兆円を削減して危機から脱出するための多彩な処方箋を示しておられます。分かりやすく解説していただけますか。

根本 簡単に言うと「省インフラ」です。国債発行に頼ってインフラの規模を維持するのではなく、できるだけインフラを造らないで幸せになれる新しい道を探っていくという発想です。
9兆円の内訳は、「建築物(公共施設)」と「土木インフラ」がおおむね半分ずつです。このうち前者の公共施設については、基本的に役所と学校だけ残して後は全部やめる、というのが将来のあるべき方向です(表2参照)。

表2: 省インフラはこうして実現する

表2: 省インフラはこうして実現する (インフラ老朽化対策・・・東洋大学PPP研究センター標準モデル)  (資料提供:根本祐二教授)

その手法としては、広域化、ソフト化(民営化・リースなど)、集約化(統廃合)、共用化、多機能化の5つを駆使します。
具体的には、学校を統廃合し多機能化する、子育て支援や市民文化事業をソフト化する、公営住宅は民間の空き住宅を利用する、図書館は移動図書館や電子図書館に変える、過疎地の上水道は給水車や地下水専用水道にする、などいろいろな「省インフラ」が考えられます。長年の「省エネルギー」で培った発想を、インフラ分野で生かします。

公共施設の場合、従来の発想では1つの施設が1つの機能に対応します。しかし、どの施設も駐車場や玄関ホール、受付、給湯室、階段、トイレのように共通するスペースが半分ぐらいあり、施設を1つにまとめれば無駄がなくなります。用途を決めない部屋を造り、地域の事情に応じて教室、保育室、集会場、図書室、高齢者のいこいの家などに変更できるようにしておくのです。

「モビリティインフラ」という方法もあります。中山間地の集落に図書館やスーパー、診療所などを建設すると維持費がかかりますが、車を移動図書館や移動スーパー、お医者さんの往診車にして走らせれば、財政負担が大きく減ります。これが「モビリティインフラ」で、固定費を変動費に変える工夫でもあります。

東洋大学PPP研究センターは民間企業27社の参加を得て「省インフラ研究会」を立上げました。各社の持つ多種多様な技術を生かして、新しいインフラの在り方を検討・提言しています。

小中学校は町づくりの拠点として建て替える

――表2を見ると、教育の場である学校の統廃合や他施設との共用化・多機能化が重視されています。学校の位置付けも変わるのでしょうか。

根本 小学生の人数はピーク時に全国で1300万人いましたが、今は50%減の650万人です。しかし、小学校数はこの間25%しか減っていません。つまり数をあまり減らさずに小規模校化しているのです。小規模校の良くない点は、クラス替えができない、先生の専門性が低くなる、部活の選択肢が狭いなどいろいろあります。本来、子どもたちは1学年2学級以上の環境が望ましく、学校教育法上もそうなっているのですが、実際には下回っている小学校が増えているのが現実です。

公立の小中学校は現在3万校あります。学校数を維持しようとすると、生徒数の中途半端な学校が増え、財政は苦しくなります。私たちはこれを2万校減らして1万校に統廃合することを提言しています。法律にかなう人数できちんとした教育ができるよう、必要な学校を絞り込んでしっかり残します。
同時に学校の講堂は町のホールとしても使い、図書室は地域と共用にするなど、地域に不可欠な機能を学校の中に取り込んでいく。つまり学校を町づくりの拠点として大胆に整備し、老朽化による災害のない建物として活用をするのです。

土木インフラの費用も劇的に削減できる

――残り半分(4.5兆円)の土木インフラも省インフラが可能なのでしょうか。

根本 公共施設と異なり単純に減らしにくい土木インフラは特に省インフラが必要です。センサーやドローンを使った新しい点検技術の導入で障害を未然に防いでコストを減らす工夫が始まっています。
また、先の話になりますが、あちこちの集落に住んでいる人々が1カ所に移住して集まれば、そこにインフラを効率的に集中投資できます。人の移住なのでハードルは高いですが、実現できれば、これまで削減できなかった土木インフラの費用を劇的に削減できます。先ほどの公立小中学校を統廃合して残した1万拠点が、人々が移住する町になります。
将来は、自動運転にも期待しています。道路や上下水道などの補修にあたっては、自動運転に必要なインフラを道路に設置できるよう一斉改修するのが合理的です。老朽化対策を未来への投資として生かす発想です。その際には、将来の技術進歩に備えて容易に取り換えられるようにしておくことが肝要です。

行政に求められる情報公開、市民も議論に参加を

――先生は「質の高いスマートなインフラ」の構築を提唱しておられます。その実現のためには行政と住民はそれぞれどのような心構えで臨むべきでしょうか。

根本 インフラの老朽化に取り組むには、何より客観的な情報の把握が大切です。大きな変革に対しては、たいてい反対意見が出てくるので、正確なデータが重要なのです。住民には自分の生命や財産に影響を及ぼすことを知る権利がありますから、行政は情報公開を徹底すると同時に、計画策定の段階から住民に会議に参加してもらって意見を聞くことが欠かせません。これは海外では日常化しています。
高齢化は、知識や経験の豊富な人材が会社をリタイアして地域に戻るという効果を生み出しています。こうした人材はぜひ自分の町の「省インフラ」実現のために活躍してほしいと思います。

TEXT:木代泰之

根本祐二(ねもと・ゆうじ)

東洋大学経済学部教授。1954年鹿児島県生まれ。1978年東京大学経済学部卒、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行) に入行。
関西支店企画調査課長、プロジェクト・ファイナンス部次長、首都圏企画室長、地域企画部長を経て2006年から東洋大学経済学部教授。現在、同大学院経済学研究科公民連携専攻長、PPP研究センター長兼務。専門は公民連携、地域再生。
著書:『朽ちるインフラ』 (日本経済新聞出版社)、『地域再生に金融を活かす』 (学芸出版社)、『「豊かな地域」はどこがちがうのか―地域間競争の時代』(ちくま新書)他。