火星や月、小惑星を目指す宇宙開発競争が激しくなっている。人類はこれまでに200を超える探査機を約70個の天体に送り込み、膨大な探査データを集めてきた。その結果、宇宙には有用な鉱物資源が大量にあることが明らかになり、その採取や運搬手段の検討が始まっている。「宇宙大航海時代」の幕開けである。
比較惑星学の第一人者である東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻の宮本英昭教授は、地球資源がいつか枯渇する日に備えて、鉄やプラチナなどを大量に含む小惑星の利用を提言する。
火星は、35億~40億年昔は地球と同じように水が豊富に存在しており、現在も微生物などの生命が存在している可能性がある。宮本教授は、火星の衛星フォボスに探査機を着陸させ、岩石のサンプルを持ち帰る計画を推進している。
「人類が地球に誕生したことに必然性は存在するか、という究極の問題に迫りたい」という宮本教授に、宇宙の資源利用と生命の存在について、最新の知見を基に語っていただいた。

地球外にある物質をその場で使う――それが宇宙資源

――昨今、宇宙の資源利用に注目が集まっています。太陽系ではどの天体にどのような資源が存在しているのでしょうか。

宮本 宇宙にはさまざまな物質があり、その中のどれが資源なのかを、きちんと定義しておく必要があります。現在の宇宙探査は地球にある資源を用いて行っていますが、近い将来、人類の活動は地球外にもっと広がると考えられます。そうなると地球にある資源だけでは不十分で、地球外にある物質をその場で使う方が経済的に有利となるでしょう。その場合、その利用できる物質を宇宙資源と呼びます。
なぜ経済的に有利かというと、エネルギーの問題があるからです。地球は太陽系の岩石質の天体としては、最も大きい天体です。重力が大きいので、地球からモノを搬出するには大変なエネルギーを消費します。これはとても非効率なので、なるべく現地にある物質を使いたくなるわけです。

太陽系惑星。 (1930年に発見された冥王星は、2006年に国際天文学連合(IAU)により、惑星の定義から外されている)

太陽系惑星。 (1930年に発見された冥王星は、2006年に国際天文学連合(IAU)により、惑星の定義から外されている)

例えば、人間が月へ行って活動する場合、身を守るには宇宙放射線を遮へいすることが絶対必要です。それには月にある土砂を遮へい物として使う方が、地球から土砂を持ち込むより効率がよいでしょう。その場合、土砂を宇宙資源と呼ぶかもしれません。

――そういう定義を踏まえた上で宇宙空間で活動する際、経済的に有用な資源にはどんな物質があるのでしょうか。

宮本 これはどのような活動を宇宙空間で行うかにより、大きく異なるので、現段階でどれが有用資源であるとは、言いにくいところです。ただし使いやすそうな物質はあります。筆頭は小惑星です。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)の探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰った資料を分析したところ、イトカワは地球に降ってきたある種の隕石(いんせき)と同じ組成であることが分かりました。つまり隕石を調べれば、小惑星の成分を予想できることがわかったのです。
隕石の中には、鉄、ニッケル、プラチナ(白金)などの金属を多く含むものがあります。このことは、小惑星にも同じ成分の有用な鉱物があることを示しています。
地球表面にある鉱物はたいてい酸化しています。これは地球上に高濃度の酸素が存在しているためで、酸化鉄などが代表例です。人類は酸化鉄を一度還元して金属鉄に戻して利用しているわけですが、これには大きなエネルギーが必要です。
しかし、宇宙空間には地球ほどふんだんには酸素がないので、鉱物はそう簡単には酸化しません。ですから小惑星には、酸化鉄ではなく、金属鉄として存在しているものも多いのです。これらを獲得できれば、宇宙空間で活動をする際に経済的なメリットがあるかもしれません。

宮本先生

東京ドームシティの宇宙ミュージアムTeNQ(テンキュウ:東京都文京区)にて

直径3kmのM型小惑星には金属鉄が200億トン、プラチナも1億トン

――その小惑星は太陽系のどのあたりにあり、どのようにして生まれたのでしょうか。

宮本 太陽系が形成された時、残されたガスやチリが冷却・凝縮したものが小惑星で、ほとんどは火星と木星の間に小惑星帯として存在しています。地球の近くにもあり、少なくとも300万個はあると想像されています。そのうち約80万個は軌道も分かっています。

太陽系の小惑星は、ほとんど火星と木星の間に小惑星帯としてリング状に分布している

太陽系の小惑星は、ほとんど火星と木星の間に小惑星帯としてリング状に分布している

種類別では、地球近傍にはシリカと鉄やマグネシウムの酸化物でほぼ構成されるS型が多く、火星以遠では炭素、水、有機物などを含む黒色のC型が大半です。他に鉄やニッケルを多く含むと想定されるM型などがあります。

先ほど言いましたように、現時点では宇宙資源は宇宙で使うというのが大前提です。ただ、何百年先になるか分かりませんが、科学技術が進歩して、仮に直径3kmのM型の小惑星を地球に持ち帰ることができれば、200億トンの金属鉄と1億トン以上のプラチナを手に入れることができます。これは産業革命以来200年をかけて人類が利用した金属鉄の総生産量を上回り、プラチナも総生産量の2倍以上に匹敵する量です。

地球外でしか見つからない特殊な物質を地球に持ち帰る時代が来るかというと、これは考えにくいです。というのも、小惑星は300種類程度、月や火星でも1000種類程度の鉱物でできていると考えられていますが、地球には5000種類ほどの鉱物があると考えられているからです。これは地球の歴史が原因です。
小惑星イトカワはS型、つい先日の2月22日に「はやぶさ2」が着陸した小惑星リュウグウはC型ですが、地球はこのS型とC型の小惑星が集まって出来たようなものと考えられております。すると46億年前に誕生した直後の地球には、こうした隕石に含まれる程度の鉱物しかなかったでしょう。
ところが、地球形成後に中心核の形成やプレートテクニクスの影響でもみくちゃになり、火山噴火、熱水、放射線、生命活動などの影響を受けて変性し、その過程で多くの鉱物が生まれました。そのため太陽系の固体天体の表面に見つかる鉱物のほとんどは、地球でも見つけることができると考えられています。

宮本先生

地球中心部の鉄に溶け込んだプラチナやニッケル

――プラチナやニッケルはレアメタルと呼ばれ、地球上では希少な物質です。宇宙にはたくさんあるのでしょうか。

宮本 プラチナやニッケルは鉄に溶けやすい性質を持ち、地球形成の際に、中心部にある鉄の中にたくさん溶けてしまったのです。鉄に溶けずに残ったごく少量のプラチナやニッケルが地殻に存在し、レア扱いされているのです。
コンドライト隕石という、地球形成時の平均的な成分組成を持つと考えられる隕石を調べてみると、プラチナ族の元素や金が、地殻の数十倍から数千倍も多く含まれる場合があります。といっても、他の構成元素と比べると遥かに含有量は少ないのですが、地球ほど極端にレアでない場合もあります。
ただしレアかレアでないか、という議論は不毛です。太陽系全体の質量のうち、99.86%は太陽の水素とヘリウムが占めています。残りの0.14%が太陽以外に存在する質量であり、そのほとんどが水素とヘリウムです。つまり私たちは太陽系でみれば、ごくレアな元素を使って生きていると言えます。

――先生は「人間が宇宙へ行って、最も必要とする資源は水だ」と述べておられます。水はどのように確保するのですか。

宮本 水に限らず、揮発性成分を確保することは、宇宙で活動する上で必須の推進剤という意味で重要です。もちろん生命の維持にも必要となりますが。宇宙は真空でごく低温でないと氷であっても昇華して消えてしまいますが、例えば月の極域(地球の南極・北極に相当)には太陽光がほとんど当たらない低温領域があるので、氷が揮発せずに貯まっている可能性があります。
彗星のしっぽの部分に探査機を入れて調べたところ、彗星が有機物などを含む汚れた氷でできていることが分かりました。もし、過去にすい星が月に衝突していれば、これが極域に水をもたらした可能性があります。
火星は探査がまだ十分ではありませんが、過去に水が流れた痕跡があり、現在も地下に水があってもおかしくありません。
また水は電気分解すれば水素と酸素に分かれます。ロケット燃料だけでなく酸化剤として使えるので、資源として重要なのです。

宮本先生

地球の資源を産業革命以降の短期間で採りつくした人類

――先生はいずれ枯渇する可能性のある地球資源対策としての、宇宙資源の活用を挙げておられます。地球の持続可能性についてはどのように考えておられますか。

宮本 資源量と人口との適切なバランスが重要であることは、古くから議論されています。例えばイースター島の話が有名です。モアイ像で知られる暮らしやすい島で、とても繁栄しましたが、人が増えすぎたこともあって資源が足りなくなり、文明が滅びてしまったとする説があります。

地球でこれと同じことが生じてはいけません。地球の一生を1年と仮定すると、人類が生まれたのは12月31日の午前10時40分、産業革命は午後11時59分58秒ごろの出来事です。それからたった2秒のうちに、人類は使いやすい資源、例えば銅の硫化物などをかなり採りだしてしまった。それまで地球が粛々と蓄えてきた資源を、このように使うのが良いことか、難しいところかと思います。

地球上に生まれた人類の総数の7%は、今生きている人々と言われています。つまり地球では急速に人口が増えている。しかもぜいたくです。食物連鎖の頂点にいる人間がウシを食べるためには、大量の草とそれを育てる太陽光が必要です。太陽から地球に届くエネルギーの3分の1は人間が食べていると計算した専門家もいます。
さらに環境問題はもっと複雑です。試験管で飼っているバクテリアに栄養液を与えると、バクテリアは一気に繁殖しますが、やがてフンで水が汚れて死んでしまいます。地球の人類がこれと同じになってはいけません。工業生産による汚染を除去するには、汚染するよりはるかに多くのエネルギーや資源が必要になります。
つまり使いやすい資源を環境破壊しながら利用することは、将来に対する借金をしているようなもので、大変だと気付いた時は、地球を元に戻すにはもう手遅れなのかもしれません。

持続可能な社会を作るために必要な資源とエネルギーの確保が、地球のみで賄えるかまだわかりません。私は究極的には地球外の資源やエネルギーを使うほうが、結果的に循環型社会に近づくのではないかと思います。ただし、人類はこれを可能にする技術力を持っているわけではありません。そのため広く議論されている二酸化炭素の削減やリサイクル技術の発展、さらにそうした危機意識を持つことなどが、やはり重要であると考えます。

――小惑星や月などの宇宙資源は、将来、どのような方法で採取・利用すればよいのでしょうか。

宮本 月面での活動を支える重要なものは、原料とエネルギーです。インフラ建設に役立つ素材は月にある金属やシリカ、エネルギー源は太陽光、氷、場合によっては放射性元素です。月で重要なのはプラチナや金ではありません。小惑星には鉄やニッケル、揮発性成分が豊富に含まれるものがあるので、これを月や月周辺に持って来ることも考えられます。

いま、月の周回軌道に有人ステーションを建設する計画があります。2024年から米国が中心になって、26年までに完成させようとしています。それを建設したら、資源やエネルギーを自ら供給することが必要になるので、小惑星を持って来るアイデアがあります。
太陽光発電、原子力、イオンエンジンなどのエネルギーを駆使して小惑星を移動させ、月の周回軌道に投入します。有人ステーションとドッキングし、月の表面で精錬することもあり得ます。このブレイクスルーのためのキーテクノロジーは、原子力発電や超巨大な太陽電池などのエネルギーです。

火星の表面すれすれで飛ぶユニークな衛星フォボス

――先生は「火星衛星探査計画」を立案され、火星の衛星フォボスに着陸して岩石のサンプルを持ち帰る計画を進めておられます。NASA(米航空宇宙局)や欧州、ロシアも火星探査を計画して競争になっています。探査の目的や見通しについてお聞かせください。

火星の衛星フォボス Credit:G. Neukum (FU Berlin) et al., Mars Express, DLR, ESA

火星の衛星フォボス Credit:G. Neukum (FU Berlin) et al., Mars Express, DLR, ESA

宮本 もともとは2018年に火星に着陸し、鉱物だけでなく生命の痕跡も調べることを計画していました。しかし、技術的な課題もありました。その課題は、火星の重力が地球の3分の1と大きいことに起因します。日本は重力の大きい天体の周回軌道に探査機を投入した経験が、当時はありませんでした。安全に着陸し、さらにその表面を調査するには高レベルの技術が要求されます。

そこで火星の衛星フォボスを探査する計画を提案しました。フォボスは直径が約20kmの小さな衛星です。イトカワは300m、リュウグウは1kmですから、1桁ずつ増えており、フォボス探査は「はやぶさ3」のような位置付けに見えるかもしれません。それでもフォボスの重力はイトカワの50倍、リュウグウの5倍あり、やはり高度な技術と費用を必要とします。

フォボスは過去の探査では、あまりよく調べられていませんが、直径6000kmある火星を高度6000km、つまり軌道的には表面すれすれのところを、完全な円軌道で回っている面白い衛星です。もともと小惑星であったものが火星の重力に捕獲されて衛星になったのか、それとも別の天体が火星に衝突して無数の岩石が飛び散り、それが軌道上で1つに集まったものなのか、議論が分かれています。
このためフォボスの岩石サンプルを採って来て調べれば、どちらが正しいのか、結論がはっきりします。地球の衛星である月は別の天体の衝突によって出来たことが分かっていますが、それとも関係する興味深いテーマです。

宮本先生

火星ではバクテリアが隠れるように生きている可能性も

――ところで火星といえば、生命の有無が議論になります。生命は地球だけに存在しているのでしょうか。どのように考えておられますか。

宮本 火星の大気中にメタンが見つかっていますが、これは比較的短時間で分解してしまうはずなので、メタンがいまもどこかで作られていることを意味します。生命によるかどうかはわかりませんが。
ところでかつて火星は現在と大きく異なり、宇宙放射線から生命を守る磁場、火山、熱源のほか、水も大量にあったと考えられています。つまり35億~40億年昔の火星は、地球とかなり近い環境にあったわけで、生命が誕生した可能性があると思います。いったん誕生すると、完全に死滅するのは逆に難しいでしょう。
もし、今も生命がいるとすれば、バクテリアのようなものではないでしょうか。環境の厳しい変化に対応して突然変異しながら、地下にある帯水層などのごく限られた場所で隠れるように生きている可能性はあると思います。死滅していても化石のように何か痕跡が残っているかもしれません。

太陽系外の惑星でも、生命の可能性があり、火星より早く見つかる可能性はあります。太陽系外惑星はすでに4000個以上見つかっています。一番近いのは数光年先です。電磁波のシグナルを分析すれば、生命の存在を確認できる可能性があります。
宇宙で生命が生まれる普遍性はあると思います。地球で生命がこれほど進化したのは何らかの理由があったからでしょうが、これはよくわかっていません。

太陽系に惑星は8個あります。太陽に匹敵する恒星が1千億個集まったのが銀河であり、その銀河が1千億~2千億個集まったのが宇宙です。広大な宇宙のどこかに知的生物がいたとしても全く不思議ではありません。

コストがかかる太陽系探査には一般市民の広い支持が必要

――今日は東京ドームシティの宇宙ミュージアムTeNQ(テンキュウ)で先生にインタビューしましたが、先生は小学生などの子どもたちにも太陽系探査の意義や成果を広く紹介するための活動を続けておられます。

宮本 今、太陽系の研究は進展が目覚ましく、「宇宙大航海時代」と言われています。15世紀以降の大航海時代には、新大陸からさまざまな知識や動植物などがヨーロッパにもたらされ、それらを体系化する「博物学」が誕生しました。
それになぞらえて「太陽系博物学」と呼ぶ新しい学問体系の構築を進めています。物理、化学、地学、生物学等を広く網羅する学問です。

それを広報するために最初に始めたのがスクール・モバイルミュージアムという、最先端の成果を子どもたちに分かりやすくビジュアルにみてもらう展示です。東京の湯島小学校を皮切りに、これまでに全国の約30校で展示しましたが、展示期間中に100回も見た児童がいるなど好評です。2012年度のキッズデザイン賞を受賞しました。

宮本先生

そこに興味を持たれた(株)東京ドームの方からお誘いをいただき、私たちが科学監修を務める形で2014年に宇宙ミュージアムTeNQを東京ドームシティに開設しました。費用がかかる太陽系探査を推進するには、一般市民から広く支持されなければいけません。今後もこうした活動に力を入れていきたいと思います。

TEXT:木代泰之

宮本英昭(みやもと・ひであき) 

東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 教授 (東京大学総合研究博物館・兼任)、宇宙ミュージアムTeNQリサーチセンター長。
1970年、千葉県出身。1995年東京大学理学部を卒業し、2000年に博士(理学)取得。アリゾナ大学月惑星研究所客員研究員など経て2016年より現職。専門は惑星科学、特に探査機のデータ解析や探査計画の立案。
最先端の研究成果を社会に広める活動として、小学校に先端科学を展示するスクール・モバイルミュージアム事業(2012年度キッズデザイン賞受賞)を主催。東京ドーム内の宇宙ミュージアムTeNQを監修し、東京大学総合研究博物館との連携プロジェクトとして研究室を移設。主な著書編書に『宇宙のふしぎ なぜ?どうして?』(高橋書店)、『 鉄学 137億年の宇宙誌』(岩波科学ライブラリー、共著) 、『惑星地質学』(東京大学出版会)。