リチウムイオン電池が全盛の時代だが、より安価でレアメタルが枯渇しても心配がないナトリウムやカリウムを使う電池が、世界の注目を集めている。開発の最前線を走るのが東京理科大学理学部第一部応用化学科の駒場慎一教授である。
ナトリウムイオン電池は現在、電池容量がリチウムイオン電池の約9割、寿命は同じ程度に向上し、実用化に近づいている。原料のナトリウムは、政情不安な南米に偏在するリチウムと違って、地球の陸や海に無尽蔵にある。「夜間電力を貯蔵し、自然エネルギーの発電量を平準化する定置型の大型電池として非常に有望だ」と、駒場教授は言う。
十数年前には「実現は無理。研究はやめた方がいい」と周りの研究者からも忠告されたが、ひるまず未踏の分野を切り開き、化学界の常識を覆した。
また駒場教授が今、強い期待をかけているのがカリウムイオン電池である。すでにリチウムイオン電池と同等以上の性能を確認した。カリウムも、ナトリウムと同じように地球上に豊富に存在している。
そこでナトリウムイオン電池とカリウムイオン電池の実用化の見通しについて、駒場教授に伺った。

ナトリウムイオン電池が実現可能であることを、世界で初めて実証

――駒場先生が開発されているナトリウムイオン電池が注目を集めています。今なぜナトリウムイオン電池なのでしょうか。

駒場 私は2003~4年にフランスに留学しました。その時お世話になった先生は無機化学が専門で、1980年代のナトリウムイオン電池の研究者として著名な人でしたが、当時は誰も電池の実用研究では成功していませんでした。私が「ナトリウムイオン電池を研究したい」と言うと、先生から「もうやる意味はないよ。止めておきなさい」とアドバイスされた程です。
私は理学部の研究者なので、むしろ誰も成功していないという理由で、よりナトリウムイオン電池に興味を持ち、その研究に意欲をそそられるようになりました。
化学を応用して何かを作ろうとすれば無機、有機、物理、バイオなどの異分野との融合が極めて重要です。私は早稲田大学や岩手大学で、それらを幅広く学ぶ機会があったので、その知識を総動員すれば、6~7割は成功するという自信がありました。

帰国後、2005年に東京理科大学に赴任し、新天地で新しい研究をスタートしました。それから電極材料などの開発に工夫を重ね、2009年、ナトリウムイオン電池が実現可能であることを世界で初めて実証し、困難を経て2011年に論文発表しました。

2009年、世界初の実証:ナトリウムイオン電池

図表1)「2009年、世界初の実証:ナトリウムイオン電池」  資料提供: 駒場慎一教授

東日本大震災を機に、ナトリウムイオン電池が脚光を浴びる

――その後、エネルギーを取り巻く時代環境が大きく変わって行ったわけですね。

駒場 そうです。2011年の東日本大震災で原子力発電所が稼働しなくなりました。計画停電に備えるには、夜間電力や自然エネルギー発電を活用しなければなりません。それには電気を貯めなければならないと、にわかに環境が変わったのです。その目的に合うのは寿命の長い定置型の大型電池しかありません。
そのころリチウムイオン電池の研究開発が急速に進んでいましたが、レアメタルであるリチウムを大量輸入して大型電池に使うことは、将来技術としても、コスト面からみても大きな問題です。そこで輸入依存から脱却でき、同時に低コスト化が期待できる電池として、私が研究していたナトリウムイオン電池が脚光を浴びることになったのです。

駒場氏

南米大陸に偏在するリチウムに依存するリスク

――リチウムイオン電池は、スマホや電気自動車(EV)などで広く使われていますが、長い目で見れば弱点を抱えているわけですね。

駒場 リチウムは南米のチリやボリビアに偏在しており、地球の地殻成分の0.002%しかありません。わが国は全面的に輸入に依存しているので、原料の安定供給に不安が伴います。今は問題なく輸入できますが、もし紛争など何かの事情で輸入できなくなれば、リチウムイオン電池の生産はできません。その意味で、日本の電池産業は大きなリスクを抱えているのです。
リチウムイオン電池の電極材料には、リチウムの他にコバルトも使いますが、これもレアメタルです。価格が高いので、現在はコストを抑えるために、性能を犠牲にしてコバルトを使わないようにしています。
レアメタルに対して,ナトリウム、カリウム、鉄などは「コモンメタル(汎用金属)」と呼ばれます。リチウムとナトリウムは元素の周期表で隣にある元素で、性質が非常に似ています。ナトリウムは地殻の2.8%を占めるほど豊富、海水にも含まれていて低コストで入手できます。ナトリウムをリチウムの代わりに利用できれば、資源確保の問題は大幅に改善されるでしょう。だからこそナトリウムイオン電池の開発に取り組む意義は大きいのです。そこでリチウムをナトリウムに置き換える研究が世界で一斉に始まりました。

元素周期表からみた電池~ポスト・リチウム

図表2: 「元素周期表からみた電池~ポスト・リチウム」
リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)は周期律表では隣にある。 資料提供:駒場慎一教授

文部科学省は今、「元素戦略プロジェクト」を進めています。私たちの暮らしは多くの材料で成り立っています。資源の枯渇を見据えて、資源の豊富な汎用元素をベースに優れた材料を創出しようという計画で、私も参画しています。

――定置型の大型ナトリウムイオン電池は、具体的にどのような使い方が想定されるのでしょうか。

駒場 大きいサイズだと、原子力発電所や火力発電所の隣に巨大な蓄電所として建設します。電力需要が減る夜間の余剰電力を電池に貯めておき、昼間に使うのです。
中サイズは、1つの町・村全体や大型ビルに設置して、夜間電力を蓄電して昼間に使います。大型ビルでは、週末に自然エネルギーなどの電気を貯めておき、月~金曜日に使います。
小さいサイズでは、蓄電池を家一軒ごとに庭などに設置し、夜間電力や太陽光発電を貯めて、電気が必要なときに使えるようにできます。

いずれのサイズも、災害などの非常時や停電時に対する備えになります。専門家の話によると、こうした技術が広がれば、原発を減らしたり、火力発電所のピーク電力を抑えたりできます。また天候によって出力が変動する太陽電池や風力発電の有効利用ができるので、普及が促進されるでしょう。

駒場氏

電解液、正極材料、負極材料の改善を重ねる

――実際に開発されたナトリウムイオン電池の特色を説明していただけますか。また、どのような改良を重ねられたのでしょうか。

駒場 2009年に発表したとき、電池の容量はリチウムイオン電池の5~6割でした。もともとゼロから出発したので相当な進歩でしたが、これでは実用化は期待できません。世界中で研究が活発化した現時点では、容量はすでに9割に、寿命は同じ水準に達しています。
まず改善したのは電解液です。不純物を取り除いて純度を高めました。その方法に気付くまでに3年かかりました。電解液は炭酸エステル系の有機溶媒です。ナトリウムイオンがたくさん溶け、液中を十分動き回れるように工夫しました。

次は電極材料です。英語では、野球の投手と捕手のペアをバッテリーと言いますが、電池も「バッテリー」です。電池では,正極と負極のペアが電池性能を決める鍵となります。
正極材料は、レアメタルであるリチウムやコバルト、ニッケルの代わりに、ナトリウムや鉄、マンガンを使います。そういう物質を探索していくつも合成し、1カ月ぐらい充放電試験を繰り返して機能を評価しました。
うまく行かなければ、また違う物質を探すという試行錯誤を続けた結果、ナトリウム、鉄、マンガン、酸素の化合物をベースに、微量のマグネシウムを加えた物質が、正極材料として非常に有効であることを突き止めました。
マグネシウムは電池の効率を高め、容量を増やす働きをします。実用化するにはさらなる改良が必要でしょうが、1つの到達点であると思っています。

負極に使う炭素材料も工夫しました。ナトリウムの原子量は23で、リチウムの7より大きく、充電する時に炭素の中に入りにくい性質があります。それでは容量が増えないので、わざと炭素の原子の並び方を乱すことで非晶質炭素(ひしょうしつたんそ)として、炭素の中に原子レベルのすき間をつくり、そこにナトリウムが入りやすいように工夫しました。
こうした一連の改善により、電池容量は250mAh/gから420mAh/gに、劇的に向上したのです。

駒場氏

半導体と同じく中国・韓国に押されることを懸念

――では、ナトリウムイオン電池の実用化のめどがついたと言っていいのでしょうか。

駒場 そう簡単ではありません。リチウムイオン電池は今、量産されて価格が下がっています。中国や韓国のメーカーが生産拡大し、日本メーカーは押され気味です。このためコストが高い日本でナトリウムイオン電池を作っても、採算が合うかと言えば難しい。つまり、ナトリウムイオン電池の技術は出来ているけれども、リチウムイオン電池も進化しているので、実用化するにはそれを追い越さなければならないのです。

電池の内部では、目に見えない原子レベルの化学反応が起きていて、その実態を突き止めるのは容易ではありません。リチウムイオン電池は1980年に材料が見つかり、ソニーが1991 年に実用化するまで11年かかりました。ナトリウムイオン電池もそれくらいの年月はかかると見なくてはいけません。
中国、韓国はじめ、欧州、米国、豪州も、ナトリウムイオン電池の研究で成果を上げています。リチウムイオン電池の研究では日本が圧倒的に強かったので、各国は「別の電池で追いつけ追い越せ」と、ナトリウムイオン電池に力を入れています。中国ではベンチャー企業が安く作って超低価格のミニEVに搭載する例まで登場しています。
かつて半導体は日本が世界をリードしていましたが、今は押されている。それと同じことが電池の分野でも起きないかと懸念しています。

EVは無理でも、ハイブリッド車に向くナトリウムイオン電池

――ナトリウムイオン電池の用途として、EVなど自動車での可能性はいかがでしょうか。

駒場 ハイブリッド車(ガソリンエンジンとモーターの両方を備えた車)では有効だと思います。
ハイブリッド車は、ブレーキを踏むと回生ブレーキが発電して充電します。ナトリウムイオン電池は急速な充放電が得意なので、10秒程度であっても発生した電気を無駄なく電池に貯め込みます。また、アクセルを踏んで加速する時にも効果的です。
例えば、みなさんがお使いのスマホの充電では、リチウムイオン電池が30分かかるところ、ナトリウムイオン電池なら5分で終わるぐらい速くできます。

一方、EVの場合ですが、ナトリウムイオン電池の電気容量はリチウムイオン電池の9割ぐらいですから、早めに電池切れになってしまいます。走行距離が短くなるため、現状ではEVに向きません。
しかし、もしナトリウムを含む新たな化合物を人工的に創出してリチウムイオン電池の性能を凌駕することができれば、スマホからEVまで一気にナトリウムイオン電池に置き換わる可能性があります。

駒場氏

常識を覆すカリウムイオン電池の性能に期待

――次にカリウムイオン電池についてお聞きします。先生は電池容量の低下を抑える「濃厚電解液」を開発されたと報道されています。将来性や実用化のめどはいかがですか。

駒場 カリウムイオン電池は、2016年にわれわれの研究室が初めて論文を発表した新しい電池です。まだほとんど誰も研究していません。サイエンスとしてみると、こちらの方に意外性があって面白いです。
カリウムは地殻中に2.6%と豊富にありますが、原子量でみるとナトリウムやリチウムより重い元素です。ファラデーの法則によれば、軽い元素ほど電気を貯められるので、カリウムは本来なら電池に不向きです。しかし、やってみると驚いたことに、電圧はナトリウムイオン電池の3.5ボルトを上回り、リチウム電池と同じ4ボルトかそれ以上出るのです。
濃厚電解液はカリウムイオンの濃度を高めた溶液で、ジメトキシエタンという有機溶媒を用いました。それに正極と負極を合わせた3点セットで電池を組むことができます。正極はプルシアンブルーという、ドイツで発明された鉄やカリウムを含む青い顔料です。負極はリチウムイオン電池と同じものを使います。電流を流す負極の基板には、リチウムイオン電池では銅箔が必要でしたが、これをアルミ箔で置き換えられます。銅は10円、アルミは1円硬貨の主成分ですから、電池の低コスト化がさらに進みます。
電池の基本性能はリチウムイオン電池と同等かそれ以上なので、あとは安全性、寿命、劣化の進み方などが今後の研究課題です。
化学者である私としては、リチウム、ナトリウム、カリウムの電池の材料研究がこれからそれぞれどのように発展するか、大変興味があります。

この他、今、国内外で研究されている電池としては、大手自動車メーカーが取り組んでいるリチウムの全個体型電池、マグネシウム電池、アルミニウム電池、空気電池、リチウム硫黄電池が期待されています。ナトリウムイオン電池やカリウムイオン電池についても全個体化の研究が活発化しています。

駒場氏

電池研究の総合力は高いが、産業としては厳しい日本

――電池の開発はかつて日本が得意としてきた分野です。現在の研究水準や総合力をどのように見ておられますか。

駒場 かつて電池研究は日本の独壇場で、リチウムイオン電池もニッケル水素電池も日本で開発、実用化されました。今も研究の総合力は高いですが、産業としてはなかなか厳しい。日本が強かったリチウムイオン電池の市場は成熟し、これからはコストが安い国が有利になるので、コスト競争では日本は太刀打ちできなくなります。

ただ、電池の安全性を高める技術は日本が依然優れています。EVでは、ガソリンタンクを電池に置き換えて走行するので、ガソリンと電池が蓄えているエネルギーは同じになり、発火の危険性が常につきまとう。もし、EVが走行中に電池が火を噴いたら、乗っている人の命に関わるので、安全性は非常に重要です。でも中韓も国策としてエネルギーや電池に力を入れているので、日本が勝ち続けられるかどうか分かりません。

電極の材料研究では、大型放射光施設であるSPring‐8(兵庫県佐用町)も活用しています。充放電する電池の内部で化学物質がどう変化しているかを精密に見ることができます。物質探索の次の戦略を考えることができるので、大変役立ちます。

――先生は「他の分野の研究経験があれば、研究の行き詰まりを打開できる」と述べておられます。ご自身の経験を基にそのわけをお話しいただけますか。

駒場 私はもともと音楽好きの少年で、とくに理科が好きなわけではありませんでした。早稲田大学に入ってもオーケストラでトランペットを吹いていましたが、大学院生になった時に自分の書いた研究論文が世界で初めてだったと分かった時はうれしくて、いまだに、研究者人生を楽しんでいます。
ですから、いろいろな分野のサイエンスに興味があり、例えば学会に参加すると、直接関係がない講演も積極的に聴きに行きます。異分野のことを知ると楽しいだけでなく、新しいヒントが得られることがあるからです。学生たちにも、「研究に関係があるから聴く」「関係がないから聴かない」ではなく、幅広く見聞するようアドバイスしています。

TEXT:木代泰之

駒場慎一 (こまば・しんいち)

東京理科大学理学部応用化学科教授 (研究分野: 電気化学、材料化学)
1970年、埼玉県出身。早稲田大学理工学部応用化学科卒業、同大学理工学研究科応用化学専攻博士課程修了。1996年、日本学術振興会 特別研究員。1998年、岩手大学 助手。2003年、フランス・CNRSボルドー固体化学研究所 博士研究員 (文部科学省在外研究員)。2005年、東京理科大学 講師。2008年、東京理科大学 准教授。2013年~京都大学 拠点教授(元素戦略プロジェクト)。2013年~東京理科大学 教授。
受賞歴: 2015年、第11回日本学術振興会賞。2019年、電気化学会学術賞。