アニコムの小森代表取締役が挑む「予防型保険」の未来像とは?――ペット保険「国内シェア、ダントツNO.1」の創業者に聞く。

少子化に並行して到来した日本のペットブーム。今や15歳未満の子どもの数より犬猫の数が大幅に多くなった。
そんな時代に先駆け、ペットが病気や事故に遭い動物病院にかかった時、人間の保険と同様に自己負担分だけ支払えばすむ画期的な「動物健康保険」を開発したのが業界シェアNo.1のアニコム損害保険だ。代表取締役の小森氏が大手損保会社を退社し、独立してまでやりたかったのは、「予防型保険」を創り出すことだった。ペットが健康で長生きできるよう、遺伝子解析や腸内フローラ(細菌叢)の研究を取り入れるなど、日々革新を続ける予防型保険とはどういうものか。自らを「社会実験屋」と呼ぶアニコム ホールディングス株式会社 代表取締役の小森伸昭氏にお話を伺った。

犬と猫のイメージ

これまでなかった新しいペット保険のかたち

――これまでの損害保険は、契約者がいったんかかったお金を全額立て替えて支払い、後日保険会社に申請して、保険で賄える金額を受け取るものでした。御社のペット保険の特徴を教えていただけますか?

小森 当社では、ペットが病気やケガをした際、提携している動物病院で治療を受け、アニコムの保険証を窓口で提示しますと、診療費の3割または5割を支払えば済むシステムを導入しています。
当社は飼い主さんが窓口でいったん診療費の全額を支払い、後日保険会社に請求していたそれまでの仕組みを、病院がまとめて保険会社に請求ができるようにし、さらにはアニコムと動物病院の顧客管理を連動するシステムを開発しました。病院の負担をなくしたことで、今では全国約6,400、国内動物病院の半数以上と提携しています。
飼い主さんは急な出費に悩まず安心してすぐに病院に連れて行くことができますし、動物病院からすると、多少の保険金請求業務で、アニコムのペット保険に加入しているペットたちの、いわば「かかりつけ病院」となることができますので、双方にメリットがあります。
また、ブリーダーやペットショップにも代理店としてアニコムの保険を扱ってもらうことで、喜んでいただけるサービスを行っています。動物は環境が変わると病気やケガなどをしやすいため、最初の1カ月間は「100%の補償」といった商品を提供しています。その結果、「お客様からのクレームも減り、安心してペットを売れるようになった」と喜ばれています。
こうして飼い主さん、動物病院、ブリーダーやペットショップのすべてに喜んでいただき、おかげさまでアニコムのペット保険は、現在約75万頭のご契約をいただくまでになりました。

アニコムのペット保険は、通院・入院・手術で受けた診療費を補填(ほてん)するフルカバー型商品で、補償割合が70%と50%のプランがあります。現在、対象となる動物は15種。哺乳類、鳥類、爬虫(はちゅう)類なども含め、多様な種類を取り扱っています。

小森氏

――これは大変画期的な試みですね。人間の保険治療の点数制度と同様、この治療にはいくら、その処置にはいくらといった金額の標準化を行ったのでしょうか?

小森 それはあえて行いませんでした。日本の医療には競争原理がありません。ここに疑問を投げかけ、新しいことに挑戦しようと思いました。人間の医療には、内科、外科、耳鼻咽喉科、眼科、脳神経外科などのように、専門医がいます。しかし、獣医師は基本的には全科診療を求められていて、全ての動物種の病気、ケガを診なければなりません。病気、医療機器、薬などの知識をすべての動物について持たなくてはならないのです。これはほぼ不可能ですよね。得意不得意の分野もありますから、獣医師の技術や治療方法によって金額が違っていいのではないでしょうか。この動物、この病気だったら、この病院というカテゴリー分けができたら、選ぶ側にも非常に有益だと思います。病院側もすべての動物の病気に対応していたら、設備投資もたまったものではありません。
動物の目の治療実績が豊富な病院、鳥の治療実績が豊富、爬虫類の治療実績が豊富など、特性を活かし、なるべく自由な競争をすることで、動物医療経済を活性化できるのではと考えています。最低限のところには縛りがあってしかるべきですが、プラスアルファの部分には、自由競争を入れることで医療経済が格段に変わり、正しく回るのではということを実証したくて、保険治療の点数制度を導入しませんでした。

その代わり、病院での治癒効率や、入院日数、おおよその診療費などの統計データを徐々に公表しています。それによって、皮膚の病気だったらこの病院の治癒率が高いからここへ行こう、という流れになりますよね。この症状であればこの期間この薬を出す、その時の平均診療費も公表していく、そうした仕組みを作っていこうと考えています。

犬と猫のイメージ

――そうした情報開示がこれまでされていなくて、ペットの飼い主さんは病院で提示されるままの金額を支払ってきたということでしょうか?

小森 ペット業界は、真の意味での品質保証が公に開示されていない珍しい業界だったと思います。人間の病院は診療科目が分かれていますので、その病院で対処できなければ紹介ネットワークがあり、専門医を紹介します。しかし、動物病院の場合、全種・全科診療が基本ですから、この病気に対してはもっと実績があり専門的な病院があったとしても、なかなか紹介が進みません。その病院で本当に正しい処置、投薬がされたのか、治療費は適正だったのか、分からないのです。
これが自動車の損害保険であればどうですか? 保険金支払いには厳しい査定が入り、修繕箇所、修理費が適正かチェックされますよね。これからは、動物の保険もそうあるべきだと思いますし、そうしていきます。

そして、この品質保証の課題は、保険のみならず、ペットフード会社やブリーダー、ペットショップなどペット業界のすべてが関連しているのです。
例えば、犬の交配ですが、狩猟用、愛玩向けなど、特性に基づいて掛け合わせが行われてきました。犬はもともと狼だったわけですが、優しい性格のもの同士を掛け合わせ、人間に従うものを作ってきました。このようにペットは、人間の都合の良いもの同士を掛け合わせてきた歴史があります。近年はそこに、かわいさ優先で、どうしてもブリーダーの近くにいるかわいいもの同士が掛け合わされてしまいます。
実は、「この犬種はこの遺伝病がある」ということの多くは、交配で決まるのです。分かっていながら交配してしまうということもこれまではありましたが、それを回避すれば動物の健康寿命も伸びていくと考えます。

小森氏

健康を自動サポートするナビゲーション・システムを創りたい

――御社はグループ内に研究所があります。そこではそういった遺伝子関連の研究をしているのですか?

小森 疾患関連遺伝子に関する研究を進めています。例えば犬の全ゲノム解析ですが、塩基約24億個を3日間数十万円で行うことができるようになっています。ただ、ゲノムの99%はどの犬でも共通なので、残りの1%を調べれば、その犬がどんな病気になりやすいかが分かるのです。
遺伝子異常を生み出さない組み合わせでブリーディングすれば、遺伝病の発生率を抑えることができます。
全ゲノム解析は数十万円ですが、1%の解析であれば2万円以下で可能です。ブリーダーやペットショップへのこうしたサービスの提供はすでに開始しています。ブリーダーは、掛け合わせとなる親犬を、ペットショップではその子犬の遺伝子検査を行い、その結果を管理できれば、禁忌の掛け合わせをなくすこともできます。
この解析結果をもとに、来年の今頃には、特定の犬種では遺伝病を大幅に減少させることも期待されます。

――遺伝子研究に加えて腸内細菌の研究もされていますね。

小森 遺伝子は変えられない生命の設計図、生き方の指南書です。しかし、遺伝子だけでは説明がつかないことがあります。遺伝病の遺伝子を持っているのに、病気を発症しない個体がいるのです。
そこで、遺伝子への刺激の与え方が影響しているのではないかと考え、腸内細菌に着目しました。
腸内細菌叢(さいきんそう)と疾患の関連について、その多様性が著しく変化することでさまざまな疾患の原因になりえることや、疾患兆候との相関性があることは、人の医療分野においても明らかになっています。短鎖脂肪酸などは本来の遺伝子では作れず、腸内細菌が産生していることも分かってきています。
また、腸内細菌は、犬と猫とで異なります。犬種によっても異なります。となると腸内細菌はどこから来たのでしょう? 食事、生活環境、運動など外的要因から生まれるのです。腸内細菌を見ることで、病気と健康の間を見える化できるのではないでしょうか。薬やサプリメントに頼らない方法、つまり食事、生活環境、運動の改善を提案することで、まずは犬猫の世界で健康の自動サポートをナビゲーションするシステムを創り、ゆくゆくは人間にも応用できたらと考えています。

小森氏

――遺伝子研究と腸内細菌研究を活用し、ペットの病気やケガを未然に防ぐ予防型の保険を創りたいと思われた経緯を教えてください。

小森 私は大学を卒業後、大手損保会社に入社しました。保険業の本当の役割とはなんだろう、とずっと考えていました。事故が起きたら補填する、病気になったら補填する。でもそれだけでいいのか。できることなら、事故も病気も未然に防ぎたいですよね。保険会社には保険金を支払うたびに集積していく膨大なデータがあります。そのデータを分析することで、未来の事故や病気を予測し、病気や事故を「予防」することを新しい価値として提供していく保険会社を創りたいと思ったのです。つまり、「もしも」に備えると同時に、「もしも」を未然に防ぐ保険を創りたいと。
20年前にそれを会社に訴えたのですが、その時は「ちょっと無理があるよね」と言われ、実現できませんでした。それなら起業して自分で創ろうと思い退社したのです。

しかし、保険業は膨大な開業のための資本が必要です。既存の大手が潤沢な資本のもと、しっかりと社会に根を張っており、保険のベンチャー企業はほとんど失敗しています。

私はもともと動物好きの家庭で育ち、弟は獣医師になり、母親は息子たちと犬の名前を間違うほど「ペットは大事な家族の一員」という家庭で育ちました。
そこで、ふとペットの保険はどうかと思いついたのです。弟の賛同もありました。ペット保険自体が日本にはまだあまりなかったですし、病気や事故から未然に守る保険を創りたいという自分の夢、いわば「壮大な社会実験」が、ペット保険の世界でなら実現することができるのではないかと思ったのです。
ところが、世の中は甘くはなくて、初めのうちは加入者がなかなか集まらず資金が底をつき、自殺まで考えた時期もありました。
ペット共済から始まり、ありがたいことに、徐々に拡大してきたため、保険会社になる必要があり、金融庁から保険会社としての免許を得る必要がありました。これは極めて厳しく、気が遠くなるような膨大な書類の提出を必要とする長いレースでした。

小森氏

――そして、今では国内シェア、ダントツのNO.1のペット保険会社に成長しました。

小森 当社では今、提携している約6,400の動物病院からの保険金データを一元管理しています。このため医療費の請求データ、どんな種類の動物がどんな病気や事故に遭い、どんな薬でどう治療されたか、膨大なデータが日々蓄積されています。そこに当社の遺伝子研究と腸内細菌の研究の成果を合わせて、ディープ・ラーニングの解析も使えば、予防型保険が創れると考えています。
遺伝子異常を持たない個体同士の交配で遺伝病リスクをなくし、腸内細菌の状態を見て健康でい続けるためのアドバイスをします。例えば、1月は糞(ふん)を採取、2月は微量採血、3月は尿、4月は唾液、5月は涙、6月は被毛など…。月ごとに検査すれば、どんな生活をしているのか、どんなご飯を食べ、どれだけ運動しているのか、皮膚病や糖尿病などの兆候はないかなどさまざまなことが分かります。
判定結果によって、提携動物病院で健康診断を受けてもらう。アニコムに入ったら病気やケガをせずにすんだ、それどころか若がえったというようにしたいと思っています。物言わぬペットと会話ができるようにしていくのが目標です。

小森氏

動物への愛から生まれたOne to One コミュニケーション

――定期的な検査を通じて物言わぬペットと会話する、動物に対する愛情を感じます。ペットの写真が入った保険証も、とてもかわいいですね。

小森 自慢の保険証です。飼い主さんによっては写真を撮るのが苦手な方もいらっしゃいますから、こちらで画像を少し加工して差し上げることもあります。時々、加工しすぎだとお叱りを受けることもありますが(笑)。
嬉しかったのは、お客様から、「うちの子、かわいいでしょうと、保険証を宴席で見せたら、他にも持っている方がいて、互いに見せ合ってペット自慢をしました」などの声をいただいたことです。自分の保険証と一緒に、愛するペットの顔写真入りの保険証が財布に並んで入っている、という幸福感を味わっていただいています。

ペットの顔写真入り保険証

――御社のコールセンターもペット愛にあふれているとお聞きしています。

小森 企業のコールセンターというのは、普通、お客様の要望を聞き、迅速にできるだけ短い時間で対応すると思いますが、うちは長さを競います(笑)。できるだけ長くお客様とお話をして、ペットに関する相談事をしっかりお聞きし、それに1つひとつきちんと対応する。それに加えて「ふふポイント」があります。お客様をふふっと笑わせたら1点。お客様に幸せな気持ちになってもらう、そうしたOne to One コミュニケーションを大切にしています。
また当社は、2010年からペットに関する身近なご相談や、アニコムグループ「どうぶつ健保(ペット保険)」の給付実績など、さまざまなデータを掲載した『家庭どうぶつ白書』 を発行しており、Webでも閲覧できます。

――小森さんにとって動物とは、どのようなものなのでしょうか?

小森 親、その親、そしてその親と自分の先祖をずっとさかのぼっていく。どこまでたどれますか?
クロマニヨン人ですか? いえ、私たちの祖先は、バクテリアです。その証拠が遺伝子に記録されています。基本は、全員バクテリア。進化の過程で細胞分裂のミスや、さまざまな突然変異が繰り返されて、魚になったり鳥になったり、犬や牛や馬になったり、私たち人間になりました。でも根底は一緒。だからすべての生き物、動物と通じているのです。だから食べることもできます。タンパク質の基本構造が同じなのです。違っていたらものすごいアレルギー反応を起こしますよ。

さらに、呼吸できるのは、酸素を排出する植物のおかげ。全ての命がつながっていて、コミュニケーションをとっています。「人間」という言葉がありますよね。私は昔からずっと、「人間」と「人」の意味の違いを考えていました。「人間」の「間」には何があるのだろうと思っていましたが、それはコミュニケーションなのだと。「人」と「人」の間には、会話や文字があり、音楽があり、芸術があります。
「人間」という言葉を作った人を超えたい、もっと先を行きたいと思い、最初社名を「命間(めいげん)」にしようと思ったくらいです。「命」と「命」のコミュニケーション、社会を表している良い社名だなと。しかし、社員には受け入れられませんでした(笑)。では、英語にしてみたらどうか。全てのものに命や魂が宿るという「アニミズム」の考え方と、生命と私たちを繋ぐ「コミュニケーション」をコンバインドして、社名をアニコムとし、無限大の価値創造を目指しています。

「ani(命)+ communication(相互理解)= ∞(無限大)」

――無限大の価値創造を生むために、今後どのようなことをお考えでしょうか?

小森 当社グループ全体では、従業員数が約700人、そのうち100人以上が獣医師です。研究所、医療機関もグループ内にあり、世界で一番理系の社員が多いユニークな保険会社だと思っています。その特性を活かし、遺伝子や腸内細菌の研究に加え、現在は再生医療への取組みも始めています。こうした知見を蓄積し進化させながら、将来はペットだけでなく、人間の予防型保険もできたらと考えています。
また高齢社会の先頭を走っている日本において、ペットと一緒に入れる老人ホームなど、いつまでもペットと飼い主さんが一緒にいて健康で幸せに暮らせる環境を構築していくための、壮大な社会実験をこれからもご提案していきたいと思っています。

TEXT:栗原 進

小森伸昭(こもり・のぶあき)

アニコム ホールディングス株式会社 代表取締役、アニコム損害保険株式会社 取締役 1969年兵庫県生まれ。京都大学農学部へ入学し、3年次に経済学部へ転部。1992年経済学部卒業。同年東京海上火災保険株式会社(現東京海上日動火災保険)入社。1996年経済企画庁出向。2000年株式会社ビーエスピー(現アニコム ホールディングス株式会社)を設立し、代表取締役社長に就任。2007年に損害保険業免許を取得し、日本に「ペット保険」という市場を作り出す。2008年アニコム損害保険会社がペット保険販売開始。2010年東証マザーズ上場。2014年東証一部へ市場変更。