今日からあなたもリーダーだ! 「権威で牽引」せず「共感で動く」組織をつくる

漫画『宇宙兄弟』をモチーフに、新しい時代の“リーダー論”を綴った著書、『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。』を2018年に上梓した、株式会社ナガオ考務店代表の長尾彰氏。組織開発ファシリテーターとして、企業から教育現場まで、さまざまな組織で過去15年以上、3,000回以上にわたりチームビルディングを行ってきた。

日本企業における典型的なリーダーは、明確な意思で組織を統率し、組織を引っ張っていく「牽引型リーダー」で、その素養は限られた人だけが持つものと思われがちだ。しかし長尾氏は著書の中で、「リーダーとは、生き方や働き方のハンドルを自分で握っている人のこと」と綴っている。長尾氏は、誰にでもリーダーシップを発揮する場面が“必ず”あるのだと言うが、それはどのような場面なのか? その独自のリーダー論から、今の時代に生きる一人一人が、何を大切にビジネスに取り組むべきか、そのヒントを探っていきたい。

「自分たちで決める」課程こそが重要

──「チームビルディング」と一口に言っても、要望は企業ごとにさまざまだと思います。具体的にはどのようにクライアントとかかわっていくのでしょうか。

長尾 「何をしたらいいのかわからないけど、とにかくいい会社にしたい、でも何から手をつけていいかわからない」というような、抽象的な要望の会社に行くことが多いんですよ(笑)。だから、定期的かつ継続的に関わらせてもらうようにしています。課題から一緒に考えていこうというスタンスです。

だいたい社長が一人で悩んでいるというケースが多いです。だから「みんなで、会議形式ではなく、ラフな雰囲気で話しましょう! 」というところから始めますね。社員の中には、社内の課題がすでにわかっている人もいるかもしれない。だからまずは、いろいろな意見を聞いてみればいいと思うんです。でも現実では、「自分は社長だから、目指す方向を社員に示さないとならない」と気負っている人が多い。まずは社員が何を求めていて、何を思っているか聞く。今起きていることがわかれば、どこに行きたいのかも見えてくるはずです。

──「このポジションにこういう人を置きましょう」というようなアドバイスから入るわけではないのですね。

長尾 そういうものではないです。自分たちの中で「目的」「ビジネスモデル」「役割」などを話し合って「納得して行動する」プロセスがないと――要は外発的な動機付けではなく、内発的な動機に基づいた組織づくりを促していかないとダメです。そして、「うまくいくということは何をもって判断できるのか」という評価指標も含め、それを自分たちで決められる組織にしていくのです。自分たちで「私たちにとって良いというのはこういうことだ」という基準を決められない限り、プロジェクトにせよ企業そのものにせよ、良い結果には結びつかないのではないでしょうか。

長尾氏

共感でチームをリードする「愚者風リーダー」

──そのような視点から見ると、明確な意思で統率する「牽引型リーダー」は必ずしも必要ではないということでしょうか。とはいえ実際は、ご著書でも書かれているように、日本企業には「牽引型リーダー」が多い傾向がありますよね。

長尾 「牽引型リーダー」をトップとするほうが、従来の日本企業の組織構造に合っていたからだと思います。義務教育から、校長・教員・生徒といった権威的な組織構造で運用する日本社会の特色かもしれませんね。でもその構造では、トップの意思決定が間違っていたら全部が間違ってしまうし、多様化の時代において、同質化、平均化された考えしか生まなくなってしまう。

──現代は、リーダーを目指さない若者が増えていますが、それはそのような環境が影響しているのでしょうか。

長尾 そうですね。権威型組織でトップに立って、手本を求められ、失敗したら責任追求される……どう考えても大変そうじゃないですか(笑)。これだけ情報が増えて、さまざまなことを自分で選択可能になってきているのに、「こうすべき」と言っても、言われても無理が生じる。だから、「個か全体か」ではなく「個も全体も」ということで、当事者の合意に基づいて運営される組織が、これからのビジネスには必要だと思うのです。

──つまりこれからのビジネスで目指すべきは、著書の中でも書かれていた、牽引型である「賢者風リーダー」ではなく「愚者風リーダー」である、ということですか。

長尾 理解してもらえると嬉しいのですが、決して、完璧なリーダーを否定しているわけではなくて、「無理することはないから、やりたいようにやってみようよ」というメッセージなんです。あの『「完璧なリーダー」は、もういらない。』のタイトルの後には、「愉快なリーダーがほしい。」という続きのフレーズを考えていました。その人と働いていると楽しくて上手くいく、だから一緒にやりたいと思ってもらえる、そんな魅力のあるリーダーが今こそ必要だと思います。

「賢者風リーダー」は全てを把握してみんなをリードする文字どおり賢い人で、そうしたリーダーももちろん必要な場面があるでしょう。一方で、「愚者風リーダー」は、自分が何をしたいのか、何が心地よいのかというところに敏感になって、「自分がリーダーシップをとれること」「周りをリードしていきたいと思えること」でリーダーシップを発揮するという考え方です。

我慢して何かに従わなければいけないとか、従わせなければいけないということになると、どんどん辛くなってくる。一人一人が自分のワクワク感を探すことこそが、リーダーシップの開発に直結しているのではないでしょうか。自分の中で「良い」と思えるもの探して、そのワクワクに共感を得て物事を進めていくリーダーシップをもっと大事にしましょう。そう考えると、誰もが発揮できるリーダーシップがあるのです。

長尾氏

自分が2年半で培ったチームワークを、たった5日で構築できた

──そもそも、長尾さんが「チームビルディング」の重要性を考えるようになったのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

長尾 高校のバスケ部での体験と、大学で体験した冒険教育のプログラムがきっかけです。高校のバスケ部には1年生部員だけで60人もいて。それだけいると部活に対してさまざまなスタンスの部員がいるのに、僕は、「俺たちのゴールは2年半後にインターハイに出ることだ」と考え、その目標に対して正論ぶった主張をしたりしていたんです。社会人になってからもそうなのですが、僕は、何か達成すべき目標に対して、最短距離で効率よい方法を主張する、という人間でして。良かれと思っての行動なのですが、自分勝手で協調性に欠けると言われる傾向もありました。とはいえ、2年半の活動を通じて、バスケ部ではみんなととても良い関係性を築くことができました。

その後、大学2年の時に4泊5日の「プロジェクト・アドベンチャー」という冒険教育のプログラムに参加しました。これは「チームで提示された課題に取り組み、結果について振り返り話し合う」というワークショップだったのですが、そこで、高校のバスケ部活動で得たものと同レベルの関係性と感触を得られたことに驚いたんです。

高校で2年半かけて培われたものが、わずか5日間で得られた。これはすごいことだなと。そこで「チーム」ということを強く意識したし、冒険プログラムの中で、「この人がいたから物事がうまく進んだし、この人がいたからこのチームの関係性がつくれたな」と思う人物がいると気づいたんです。職業を尋ねたら、「ファシリテーター」だと。それで、じゃあ僕もファシリテーターになろうと思いました。

長尾氏

他者に何をしてあげたいのかがわかれば、今日からあなたもリーダー!

──自分のワクワクに対する共感でチームをリードする「愚者風リーダー」が成立するという考え方の下であれば、誰もがリーダーになれますね。しかし、具体的にどうやってリーダーシップを発揮していけばいいのかを一人一人が考えるのは、まだ難しいように感じます。

長尾 「リーダー」という言葉は、何をリードするのか宛先不明なまま使われることが多いと思います。ビジネスにおいても、資金面を担当する、制作を担当する、営業を担当する──ケースバイケースで役割が違うのに、リーダーといえば、漠然と「賢者風リーダー」をイメージしてしまう。極論かもしれませんが、自分がリードしたい宛先、自分と他者がいっしょになって何をしたいのかがはっきりしていれば、今日からあなたはリーダーなんです。それでビジネスが上手く回れば、みんなハッピーじゃないですか。

──確かにそれが、これからの組織の理想像かもしれませんね。

長尾 会議とか大きな規模ではなく、まずは隣の人、身近なところで話して、みんなで共感を育んでいけばいいと思います。それは、先述でも触れていますが「完璧なリーダーでなく、愉快なリーダーを目指そう」という思考です。たとえば「『宇宙兄弟』の六太」をはじめ、「『釣りバカ日誌』のハマちゃん」「『スターウォーズ』のハン・ソロ」など、完璧ではないけど彼らがいると上手く回るみたいなリーダー像です。

長尾氏

──とてもわかりやすいですね。では、そんな組織を作り出すために、自分がリーダーなるために、明日からできることはありますか?

長尾 うーん。定時になったら率先して帰ってしまう、というのはどうでしょう。難しいと思いますよね? でも通常業務内で仕事をマネジメントするのは上司の責任、それで成果が出ないのだとしたら社長の責任。どんどん帰ろう(笑)。もちろん、その仕事をしたいのであれば残業すればいいですし。

また、やりたくない仕事を与えられたら、「私はこの仕事はやりたくないです」と伝えてみましょう。もちろん、ただ「やらない」と言うだけでは、「何をしに会社に来てるんだ」ということになってしまいますので、「もっと違うやり方でやりたいです」と、自分が正しいと思う方法を伝えるのです。

あなたのその行動に対して「それは違う」という反論が、どこかから来るかもしれません。その時は、そこで話し合って擦り合わせていくべきです。「私はこう思って動くけれども、もっといい案があるなら教えてください」と。上司は困るかもしれませんが、上司だって部下の対応に困ってしまう経験があると成長できるんです。上司が成長すれば組織が成長します。先ほども話したとおり、その「話し合う」プロセスをみんなで持つことが重要です。そうやって、お互いが上下関係なく、その人にしか発揮できないリーダーシップをとっていくことこそが、これからの組織において大切なことなのです。

TEXT:杉浦美恵

長尾彰(ながお・あきら)

株式会社ナガオ考務店代表。組織開発ファシリテーター。様々な組織・集団がグループからチームに進化・成長するための促進を始め、事業・商品開発やサービスデザインの支援など、目的に応じた多様なアプローチで組織開発を実施している。株式会社ナガオ考務店代表取締役、学校法人茂来学園理事ほか、複数の法人の経営にも携わる。