現役Fリーガー星翔太が提唱するデュアルキャリアという生き方

2020年FIFAフットサルW杯で日本代表として活躍が期待されているのが、日本フットサルリーグ(以下、Fリーグ)名古屋オーシャンズ所属の星翔太氏だ。トッププロとして最高のパフォーマンスを披露する一方、株式会社アスラボの代表取締役を務めている星氏は、自身を「プレイングワーカー」と呼ぶ。引退後の選手が歩むセカンドキャリアではなく、現役選手が実践するデュアルキャリアという生き方。星氏が考える、これからのアスリートの在り方と社会におけるキャリアについてお話を伺った。

アスリートとして培ったスキルは一般社会でも武器になる

――星さんはフットサル日本代表として活躍されるトッププロでありながら、会社経営者としてビジネスにも携わるという「デュアルキャリア」という生き方をされています。

 現役のうちから、アスリートとしての経験や価値を生かして、一般社会でもう1つのキャリアを歩んでいく。だから引退した後も、もう1つのキャリアで社会を生きていくことができる。僕はそういう意味としてデュアルキャリアを捉えています。

最初にデュアルキャリアという言葉に触れたのは4、5年前でした。普段は東京で働いているけれど週末になると田舎で農業をしている生活をデュアルキャリアと呼んだのがその起源だろう、と言っているテレビ番組を見たんです。仕事と並行してそれとは違う人生も持っている生き方、そういうマインドってすごくいいなと共感したのを覚えています。

――アスリートのキャリアというと、引退後の人生を指す「セカンドキャリア」や「キャリアチェンジ」といった言葉はよく耳にします。

 はい。その言葉には、アスリートとしてのキャリアが終わった後、社会人としては全く別のキャリアを始めなければならない、といった意味をともなっていると思います。だけど僕が考えるデュアルキャリアはそうではありません。アスリートとして生活していても普通の人と同じ「社会」に生きているのだから、アスリートと社会人としてのキャリアは別軸ではなく同じ軸の上にあり、キャリアは続いているという考え方です。現役であっても自分のいる世界以外の社会と日頃からつながっていれば、引退しても次のキャリアにスムーズに移行できると思うんです。

星氏

――とはいえ、プロのアスリートの方々は日々の練習や試合で忙しく、なかなか他のことには目が向かないのではないでしょうか。

 確かにほとんどのアスリートは、選手としての人生を最優先しています。だからといって社会に興味がないかというと、そんなこともない。僕の場合、ちょっとしたアルバイトくらいの経験はありましたが、大学時代からプロとして活動していたので、社会での経験がほとんどありませんでした。そのため、いわゆる社会人と呼ばれる人たちは何をしているんだろうなという興味は常々持っていたんです。好奇心や探究心から、ビジネスの世界ではみなさんどういう仕事をしていて、どういうふうにその仕事が成り立っているのかを知りたいと思っていました。選手としても、スポーツ以外の世界と接することで得られる知識が、アスリートとしての成長の糧となると考えていたんです。

――思うだけでなく、星さんの場合は実際にアクションを起こされました。

 直接のきっかけとなったのは2016年のFIFAフットサルW杯と、その後に負った怪我でした。日本代表としてFIFAフットサルW杯に出場するというのは、言うまでもなく選手人生を賭けた大きな目標で、もちろん僕もそこに全力を注いでいました。実は大会の直前までグロインペイン症候群という股関節の怪我をして、一時は現役復帰できるかどうかもわからないような状態だったんです。それでもどうにか代表の座を射止めてFIFAフットサルW杯の予選に臨んだけれど、そこで敗戦してしまい、本大会には出場できずに終わった。目指してきた目標が閉ざされてしまったわけです。本大会に行けたら、また違う世界を見ることができたのだろうけど──行けなかったことで、フットサルだけを求めてきた自分には、人として何かを伝える能力がないんじゃないかという気持ちが芽生えました。

なんとか気持ちを入れ替えてプレーしようと国内リーグに戻ったら、今度は右膝の前十字靭帯を切ってしまったんです。病院では「手術をすれば6カ月で治る」と診断されました。その6カ月間をどう過ごそうか、そう考えたときに頭に浮かんだのがデュアルキャリアでした。自分の中で中途半端に眠らせているフットサル以外の世界を知りたいという気持ち。それを実現するのに、この6ヶ月間はいい機会になる。そんなとき、企業のブランディングやセールスプロモーションを事業としている株式会社エードットという会社の伊達晃洋社長を紹介され、考えていることをお伝えすると、「インターンをやりませんか」と誘っていただけたんですね。

星氏

31歳。現役アスリートがはじめて触れたビジネスの現場

――エードットにインターンとして入社して、どのような感触でしたか。

 最初はセールスプロモーションの部署に配属されましたが、それこそ電話の掛け方や名刺交換の仕方も知らないような状態でした。お客様に提案する資料を作るのに文章作成や表計算、プレゼンテーションなどのソフトを覚えて、資料を作り、それを持って営業先にも足を運ぶ。新卒入社で覚えるようなことを31歳ではじめて学んだ感じです。

途中からは、怪我のリハビリとインターンを両立するのに適した環境ということで、PR部に異動しました。PR部では、「PRの手法を学べば選手としての自分の価値を高めることもできる」と教わり、最終的には自分自身のプレスリリースを作ってメディアに取材してもらうというセルフプロデュースのようなことをやりましたね。アスリートとビジネスマンを兼ねる「プレイングワーカー」という言葉を思いついたのもこのときです。

優れたスポーツ選手には、10教えてもらったことを基礎に、自ら学んで12にすることが得意な人が多いと思います。僕も人から技術を学ぼうとか吸収しようとかいうことに対してはかなり貪欲なマインドを持っているので、それがビジネスの場面でも役立ったと思います。お客様との電話も、最初はマニュアルで学ぶんですけれど、僕は他の人の電話に聞き耳を立てて、どういうテンションで声を出して、どういうふうに相手との距離感を縮めているのか、実際に見て身につけることが多かったですね。

他にもアスリートなら誰でも備えているであろうスキル──集中力やレスポンスの速さ、コミュニケーション能力、何でもやってみようとする探究心や行動力、あるいは自分がいるフィールドで輝きたい――といったマインドがビジネスでも通用すると知ることができたのは大きな収穫でした。

――会社で働いてみて、アスリートであることのメリットを感じられたのですね。逆にデメリットとなることはありましたか。

 これは僕自身、そうなってはいけないと最初からマインドセットしていたので困ることはなかったのですが、相手が自分のことを知っていて当然だろうとか、そういうプロフットサル選手としての自分自身のプライドはデメリットになると予想していました。肩書きをはずして素の星翔太で勝負しようと心がけていたのでそれほどのことはなかったけれど、やはり色眼鏡で見られてしまったり、ストレートには言われず相手が気を遣っているなあと感じたりする場面はありました。そうなると本音で話すことができなくなってしまいますよね。これはデメリットでした。

星氏

――その後、選手として復帰されたあと、2017年にアスラボをエードットの子会社という形で起業されましたね。

 インターンをしていたときに、社内で、何かスポーツのサービスをしたいよねという話が出たんです。僕が中心となって進め、現在も共同で代表をしている五十嵐雅彦と2人で会社を設立しました。本社は東京で、僕は普段はクラブのある名古屋にいて、練習の合間や自由な時間にメールや電話で会社や取引先とやりとりをしています。東京に行く機会も多いので、そういうときはスケジュールを集中させて人に会ったりしますね。メディアだったり他業種の方だったり、人や案件を会社とつなげるような活動のほか、SNSでプロジェクトを発信することもしています。

メインの事業は「アスラボサービス」というスポーツレッスンで、現役のアスリートを講師に、彼らがスポーツで培ったスキルやマインドを一般の人たちに伝えるといったサービスを提供しています。アスリートは、素晴らしいスキルやマインドを持っていると思うのですが、残念ながら、それを積極的に外の世界に発信しようという人は少ない。そもそも、自分たちのスキルがビジネスで通用することにも気がついていなかったりするんです。そして、アスリートの多くは、現役中のキャリアと引退後のキャリアを別のものとして捉えています。

アスラボサービス

アスラボサービス(フットサル)の様子(写真提供:株式会社アスラボ)

――星さんはそうは考えていらっしゃらないのですね。

 はい。アスリートに、講師という立場で社会と接してもらうことで、自分たちのスキルやマインドがビジネスの世界でも通用するんだということを知ってもらう。キャリアはチェンジするものではなく続いているものという意識を自然と身に付けてもらいたいと考えています。これは、何もトップアスリートだけではなく、そこまでは到達できていないアスリートにも言えることです。なぜならば、たとえ失敗や挫折があったとしても努力して結果を出すという過程はアスリートなら誰もが経験し、それは必ず社会で役立つものだからです。

もう1つ注力しているのは、アスラボがコミットして2018年に設立した山梨県の女子サッカークラブ「FCふじざくら」です。このクラブの最大の特徴は「プレイングワーカー制度」を導入している点で、選手は全員がオフィシャルトップパートナーである富士観光開発株式会社の社員を兼ねています。目指しているのは「競技でも一流、社会でも一流」といえる、女性アスリートの新しいロールモデルとなるべき選手を輩出することです。僕たちはここを起点にデュアルキャリア、プレイングワーカーという生き方を浸透させ、日本のスポーツをリノベーションしていこうと考えています。

星氏

アスリートだけでなく、日本全体にデュアルキャリアを

――スポーツをリノベーションするとはどういう意味でしょうか。

 日本人はスポーツというと、学校体育の影響なのか、どうしても身体を鍛えるとか、努力して練習して良い結果や記録を出すことだと捉えがちです。しかし、スポーツという言葉にはもっと広い意味があって、そこには身体を動かして楽しむことはもちろん、試合を観戦したり、それについて語ったり、あるいは競技を支える活動をしたりといったことも含まれています。スポーツは人生を豊かにしてくれるものだし、そこで得られるスキルやマインドは社会にも還元できるんです。スポーツで得られるさまざまなものを、事業を通して人々にとってもっと身近な文化へとリノベーションする。アスラボではこれを1つのビジョンとして掲げています。

一部のメジャースポーツを除けば、日本にはスポーツで大金を稼ぐことは好ましくないといった空気がいまだにあります。しかし、スポーツをリノベーションするためには、僕はアスリートはもちろん、コーチなどのスポーツに関わる人達ももっと稼げるような世の中にならなければいけないと思います。日本は施設の設備や試合のオーガナイズといった点では世界一と言っていいほど素晴らしいのですが、興行的に選手が稼げる環境かというと、そうとは言えないでしょう。とくにマイナースポーツは難しいですよね。

プロ化することで、試合に出るほかにスポンサー営業やスクールの講師など、プレー以外の収入や社会との接点をより多く持てるようになってほしいと思います。選手個人には、自分の収入を得るためにどのようなキャリアを積むのか、自分が携わるスポーツをどう成熟させていくのか、そういったマインドを備えていってほしいです。

星氏

――デュアルキャリアやプレイングワーカーという生き方を提唱されているのも、スポーツをリノベーションしたいという思いからですね。

 一般的にアスリートは、現役引退後は「スポーツ」というピラミッドの頂上から下りて、「ビジネス」というピラミッドを下から登り直すと考えがちですが、デュアルキャリアやプレイングワーカーといった生き方で大切なのは、その考え方を改め、培ってきたアスリートとしてのスキルやマインドをいかに可視化するかだと思います。

アスリートは「アスリートであること」が価値になっていると思うんです。正直な話、現役で活躍しているうちはまわりにリスペクトされやすい環境だし、日本代表のようなピラミッドの頂点にいる選手は、社会でもたとえば企業の社長さんであるとか、やはりその世界のピラミッドの頂点に立っている人と直接会って話ができたりする機会が多いものです。ところが引退して選手でなくなった途端、それが難しくなる。だったら現役でいるうちにいろんな人に会って、スポーツ以外の世界に触れる機会を増やし、自分が何をしたいのかを見つけておいたほうがいい。また同時に、アスリートとしての自分のストーリーをちゃんと相手に伝えることができるようになっておく必要もあるでしょう。

僕は現在34歳ですが、普通はインターン以外に社会人経験のない34歳の人間を雇ってくれる企業は少ないと思います。だけど、スポーツ選手としてのストーリー、日本代表としてのストーリー、怪我から復帰したストーリー、そういったものをきちんと伝える力があれば、相手はそこから、コミュニケーション能力があることや、学ぶ力、結果を出そうとする力があることを読み取ってくれます。

この考え方は、アスリート以外の方にも通用すると思うんです。日本有数の大企業のトップでも、終身雇用が怪しくなってきたと言っている。そういう社会では、1つの階段だけを上ってきた人よりも、いろんな寄り道をして上ってきた人の方が評価されるかもしれない。自分の興味のあることでも何でもいいから、デュアルキャリアという生き方を考えてみるといいのではないでしょうか。

名古屋オーシャンズ エンブレム

――今後のスポーツ界に提案していきたい活動、フットサル選手としての目標をお聞かせください。

 アスラボは設立して2年で、講師のアスリートや場所を提供してくださっている施設の関係者からは「お客さんからの反応は好評です」といったフィードバックをいただけています。概ね想定通りに進んできているとはいえ、ビジネス的にはまだまだこれからといった状態なので、売り上げを伸ばしてスポーツ界に還元したい。その結果として、僕らの考え方──デュアルキャリアだったり、アスリートの意識だったり、スポーツをリノベーションする思いなんかが広まればいいですよね。

個人的な目標としては、フットサルに育ててもらった思いがあるので、長年お世話になっているFリーグの冠スポンサーになりたいです。選手としては、もちろん2020年のFIFAフットサルW杯に出場することです。最低でもベスト4、その上の優勝を目指して最高の準備をしたいと考えています。

TEXT:中野渡淳一

星 翔太(ほし・しょうた)

プロフットサル選手、名古屋オーシャンズ所属。株式会社アスラボ 代表取締役。 1985年、東京都生まれ。2004年、関東フットサルリーグのBOTSUWANA FC MEGURO(現フウガドールすみだ)に入団。2009年、Fリーグ・バルドラール浦安に移籍。同年、フットサル日本代表に選出される。2010年から2012年にかけてスペイン1部リーグ、カタール国内リーグでプレー。帰国後、バルドラール浦安に復帰し、活躍。2012年のFIFAフットサルW杯に日本代表として出場。2018年、Fリーグ・名古屋オーシャンズに移籍。現役フットサル選手として活動しながら、2017年に株式会社アスラボを設立。起業家としてアスリートの価値向上、日本のスポーツ界の変革に取り組んでいる。