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江幡哲也

日々生活をしていく上で不安や知識不足を感じ、誰かにアドバイスを求めたいと思うことは多い。そんな時、さまざまな分野の専門家による有用な情報を提供してくれる総合情報サイトとして、圧倒的な支持を得ているのが「All About」だ。900人ものその道の専門家が、インターネットを介して、マネー、住宅、暮らし、健康、ビジネスから旅行や恋愛まで、多岐にわたる疑問や悩みに応え、情報を提供してくれる。
創業者は、かつて「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれた江幡哲也氏。㈱リクルートにはエンジニアとして入社し、その後営業や経営戦略を担当し辣腕を振るった経験を持つ。
近年、株式会社オールアバウトは人々の生活をより豊かにしたいと、新たに試供品を格安で提供する「サンプル百貨店」や生涯学習の場を提供し、最近では中古車の個人間売買にも進出している。
少子高齢社会や国内市場の縮小の中で、同社の売上高はこの3年間で2.4倍と好調だ。江幡社長はビジネス・チャンスをどのように見いだし、発展させてきたのか。その軌跡や発想の秘密を語ってもらった。

前編はこちらから

ITを利用して世の中を変える側になりたいとリクルートに入社

――ところでリクルート社は創業以来、「新規ビジネスに積極的に取り組むことが当たり前」というベンチャーの気風があったと思います。江幡社長がリクルート社に入社された動機は何だったのですか。

江幡 リクルートに入社した29年前は通信自由化が叫ばれていて、私はコンピューターや通信、今でいうIT系に大変興味がありました。武蔵工業大学(現 東京都市大学)電子工学科では、同級生のほとんどがメーカーの研究所や現場に就職しましたが、私はITを駆使して世の中を変える側の会社に入りたいと思っていたところ、リクルートが通信事業に参入すると聞いたのです。

実家は中小企業で私は長男でしたから、いずれ家を継ぐことが周囲から期待されていました。そのためには、若いうちに厳しい会社でいろいろな仕事を経験できて、実力を付けておく必要がある。リクルートはそうした条件に合っていた。

当時のリクルートは小さい会社で、私は700人もの大量採用の1期生でした。社員の3分の1が新人という状況で、新人が経営を語っているという、若くて勢いのある会社でした。飲みに行っても24時間、仕事の話ばかり。身体はきつかったですが、面白くて仕方がなかった。

100件もの事業企画を手掛けた「リクルートの立ち上げ屋」
ついに、オールアバウトの創業社長に

――「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれていたそうですね。オールアバウトの立ち上げにはどのような経緯があったのですか。

江幡 入社後は情報通信ネットワーク事業のエンジニアを皮切りに、営業などあらゆる職種を経験しました。98年に経営企画の戦略リーダーになったときは、リクルート全体がインターネット対応を迫られており、新規投資や既存事業の見直しなど100件を越える企画提案をしました。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(後編)

今のオールアバウトのようなアイデアは1996年ごろから温めていましたが、実際に始めるにはブロードバンドが普及する99年まで待たねばなりませんでした。リクルート自身での事業化も考えましたが、かなりの先行投資が必要で、リクルート伝統の短期高収益型ビジネスとはちょっと違う。そこで自分で独立してやろうと考え直しました。

ちょうどそのころ、アメリカで似たようなビジネスを手掛けるアバウトドットコムという会社が注目されていました。
そこで私は、さっそくニューヨークの本社に飛び、時にはケンカ腰になるほど真剣な議論を重ねた結果、対等なジョイント・ベンチャーで手を組むまで漕ぎ着けることができました。2000年の創業と同時にリクルートを退社して社長に就任したのです。

「企業」が「個人」にモノを売る時代のビジネスから
「個人間売買」の時代に照準を当てたビジネスを

――2014年7月には中古車の個人間売買をサポートする会社「カーコン・マーケット」を設立されています。車の個人間売買はこれまであまりないビジネス・モデルですが、どういう狙いがあるのですか。

江幡 インターネットは情報のやり取りを革新してきましたが、今やモノを作る、モノを売る過程の構造まで変えるフェーズに来ています。当社もそこに事業領域を広げていく必要があり、チャンスがあると考えています。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(後編)

企業が個人に売っている今の形を個人間売買に変えれば、流通の中抜きができてムダを省けます。受注生産による無在庫、自分仕様(カスタマイゼーション)、低価格という3つが成り立つことがこれからのマーケティングの理想です。

「カーコン・マーケット」は、板金修理店を全国に800店展開している「カーコンビニ倶楽部」との共同で設立しました。中古車を個人間で売買すると、車両本体には消費税がかからず中間コストを減らせるので、売る側は高く売れ、買う側は安く買える利点があります。個人間売買はこれから拡大する分野で、消費税が高いドイツでは中古車の多くが個人間売買と言われています。
ただ、車の売買には信用が不可欠なので、カーコンビニ倶楽部さんには高度な査定をしていただき、ローン手続きなどは金融機関の協力でネット上で完結する仕組みです。

また、中古の戸建てやマンションのリノベーションも、家族構成の変化や少子高齢化で住宅が余っていますから、今後は有望なビジネス対象だと思います。

失敗を恐れ、チャレンジをしない人には
成功のチャンスもめぐって来ない

――国内市場を中心にお話をお聞きしましたが、アジアの発展などグローバル化の大潮流が起きる中で、今後の海外展開をどのように考えておられますか。

江幡 すでに2つの取り組みを始めています。1つはグローバル向けのPRで、政府や官庁などが日本の良さを世界に伝える「HIGHLIGHTING JAPAN」という広報誌の編集を受託しています。これまで同誌には外国人の視点がやや少なく、誌面デザインもネイティブが読みやすいものではありませんでした。

もう1つは先生を育てる生涯学習ビジネスの海外展開です。アジア新興国の中間層にニーズがあることが分かったので、台湾では現地企業と提携してすでにスタートしています。タイでも時間に余裕のある日本人駐在員の奥様たちが先生として教え始めています。

――近年、若者が起業したり、企業内で新規事業を立ち上げたりするケースが増えています。有言実行で成功された先輩として、アドバイスをお願いします。

江幡 学生に就職や起業について話をする機会がよくあります。起業を希望する人はそう多くないですが、熱心な人はいます。気持ちがあるなら、できるだけ早めに個人としての力を付けて、チャレンジするよう勧めています。
失敗を恐れ、チャレンジをためらってばかりいる人には、成功のチャンスもめぐって来ません。

テキスト: 木代泰之

江幡哲也

えばた・てつや
江幡哲也

株式会社オールアバウト 代表取締役社長
1965年、神奈川県生まれ。1987年に武蔵工業大学(現東京都市大学)を卒業し、株式会社リクルート入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げ成功させ、社内外から 「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれるように。その間、1993年には早稲田大学ビジネススクール修了。2000年6月に株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現オールアバウト)を設立し、総合情報サイト「All About」をスタート。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。著書に「アスピレーション経営の時代」(講談社)。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


日々生活をしていく上で不安や知識不足を感じ、誰かにアドバイスを求めたいと思うことは多い。そんな時、さまざまな分野の専門家による有用な情報を提供してくれる総合情報サイトとして、圧倒的な支持を得ているのが「All About」だ。900人ものその道の専門家が、インターネットを介して、マネー、住宅、暮らし、健康、ビジネスから旅行や恋愛まで、多岐にわたる疑問や悩みに応え、情報を提供してくれる。
創業者は、かつて「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれた江幡哲也氏。㈱リクルートにはエンジニアとして入社し、その後営業や経営戦略を担当し辣腕を振るった経験を持つ。
近年、株式会社オールアバウトは人々の生活をより豊かにしたいと、新たに試供品を格安で提供する「サンプル百貨店」や生涯学習の場を提供し、最近では中古車の個人間売買にも進出している。
少子高齢社会や国内市場の縮小の中で、同社の売上高はこの3年間で2.4倍と好調だ。江幡社長はビジネス・チャンスをどのように見いだし、発展させてきたのか。その軌跡や発想の秘密を語ってもらった。

人々のニーズに的確に応えられる専門家の情報を幅広くネットで伝えたい

――「オールアバウト」のコーポレートサイトにある社長メッセージで、「不安なく、自分らしく、賢く生きる生活者の役に立ちたい」と創業の志を語っておられます。これはどのようなお考えから出たものでしょうか。

江幡 今の日本を見ると、先々に不安を感じている方が実に多い。特に東日本大震災の後はそうです。一方で、誰もが自分らしく生きたい、賢くいろいろな情報を調べて損をすることがないように暮らしたい、何か機会があればチャレンジしたいと願っている。この「不安なく」「自分らしく」「賢く」という3点に、人々の生活のニーズは集約できると思うのです。

また、世の中にはさまざまな分野の専門家たちが豊富な知識や経験を持っています。それなのに、情報がその人の中だけに閉じられていることが多い。それは社会全体で考えると大変もったいない。その情報を多くの人に伝えることができれば、必ず役に立つはずです。ちょうどインターネットという素晴らしい道具ができた時期だったので、その仕組みを作ったわけです。

専門家たちは「ガイド」としての自分のポジションを
ネット上で確立でき、活躍の場も広がる

――サイトを拝見すると、テーマ数が実に多岐にわたり、専門家の人選も充実していることに驚きます。

江幡 テーマ数は今1300ぐらいですが、日々増やしています。あくまで生活のハウツー情報が中心で、新しいニーズを科学的な手法を使って取り込むようにしています。簡単に言うと、検索エンジンで高い頻度で検索されているワードを調べ、ビジネスとの関係も踏まえて優先順位を決めて選びます。その分野に専門家がいなければ、育てることもします。当面の目標は2000テーマぐらい。範囲は「揺りかごから墓場まで」網羅しますが、いくらネットの受けが良くても芸能、アダルト、スポーツニュースは極力扱いません。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(前編)

私たちが「ガイド」と呼ぶ専門家は約900名います。自分なりのコンセプトに基づいて有益な情報を発信してくれますが、名前と顔をネットにさらして発信するわけですから時に批判もあり、結構苦労されています。でもなぜ皆さんが頑張っているかと言うと、人の役に立つ喜びがあるし、その道の専門家としてのポジションをネット上で確立できるからです。

私たちも、ガイドの方をテレビ番組のコメンテーターとして使ってもらえるよう関係を付けたり、本の出版をお手伝いしたり、企業の商品発表会に出席したりできるよう努めています。互いに持ちつ持たれつの関係がうまくできていて、今では「こういうテーマでガイド募集」とサイトに掲載すると、多くの方が手を挙げてくれます。

リーマン・ショックや3.11を機に収益源を広告から個人に転換

――情報サイトの業界では、創業したものの成長できずに撤退したケースも多くあると聞きます。オールアバウトの経営はずっと順調に伸びてきたのですか。

江幡 いろいろ紆余曲折がありました。当社の収入源は創業以来、企業からいただく広告が主な収益源でした。サイトには、これを知りたいというニーズが明確なお客さまが来るので、それに関連する商品やサービスをアピールしたい企業さんを結び付けています。いま流行りの「コンテンツ・マーケティング」を、我々は当初からやっていたわけです。 

しかし、2008年にはリーマン・ショックが起きて広告が激減し、2011年の大震災の時も1年ほどは経営が大変でした。その経験から広告のみに依存するビジネス形態は良くないと判断し、4年前に中期経営ビジョンを練り直したのです。

中期ビジョンでは「企業からいただく広告の売り上げを全体の2分の1にし、その分、個人からいただく売り上げを2分の1まで増やす」と宣言し、3年後に目標を達成しました。2015年3月期の売り上げは63億円で、3年間で2.4倍に伸ばすことができました。今は拡大基調に入っています。

サイトの月間総利用者は3360万人(スマートフォン、モバイル含む)です。2013年夏にはスマホからのページビュー数がパソコンを超え、現在では全体の6割がスマホからのアクセスです。

メーカーも消費者もオールアバウトも
皆がWin Winのビジネスへ

――個人からの売り上げというと、具体的にはどのようなビジネスなのでしょうか。

江幡 1つは「サンプル百貨店」という、会員制で「お試し買い」をやっていただくEC(電子商取引)サイトです。食品・飲料メーカーなどが新商品を出すとき、会員はそのサンプル、と言っても流通されるものと同じ商品を市価の半額以下で購入して試すことができる仕組みです。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(前編)

元々は買収した会社(現オールアバウトライフマーケティング)がやっていたビジネスでした。その当時は「メーカーがお金を出し、会員はサンプルを無料でもらう」というビジネス・モデルでしたが、自宅へのサンプル配送料がかさむために利益が出ず、業績は伸び悩んでいました。
私たちはそれを、「企業からはお金をもらわず、配送料と当社利益を加えた価格で会員にサンプルを試し買いしてもらう」というモデルに180度変えたのです。価格は格安ですが、会員は同じ商品を1回しか買えないようにして、2回目からは店頭で買っていただきます。
つまり企業はサンプルを無償で出すだけ。当社は販売促進のお手伝いをする。これが倍々ゲームで成長し、商品は酒や薬にも拡大。会員は100万人近くまで伸びています。今では本体の情報サイトの売り上げを抜くまでに成長しています。

サンプルを購入した会員が感想をブログなどに書く仕組みも作りました。中には私たちが「プロシューマー」と呼ぶ、商品開発に参加するぐらいの意気込みの方もいて、企業はその意見を商品開発に生かします。

地方、女性、モノづくりという
日本の重要課題に資するプラットフォーム

――まさに企業と個人が共に協力してイノベーションを生みだすプラットフォームを提供する、ということですね。

江幡 もう1つの個人向けビジネスは、手芸領域での先生を育成するという生涯学習のモデルです。これも買収した会社(現オールアバウトライフワークス)が手掛けていたもので、主婦の方たちが「好きを仕事にする」というコンセプトの下で、ジュエリー、クラフト、お花などを学び、やがて自らも先生になっていく。自宅で教室を開けるように技能、教本、道具立てをすべて提供しています。
42講座あり、すでに2万4000人の先生が生まれています。全国津々浦々に広がり、女性が活躍し、モノづくりもあるという、日本の3つの重要な視点をすべて備えています。

業界の不合理や不条理を排し
社会のイノベーションを促す会社になりたい

――社長メッセージの中に「業界の構造を知る中で、たくさんの不合理や不条理があることを目の当たりにした」とあります。それは具体的にどのようなものだったのですか。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(前編)

江幡 私はリクルート時代に事業立ち上げを数多く手掛けてきました。コスト構造を分析してみると、ムダが多いとか値段が高いとか、なぜ改善できないのかとか、いろいろな不合理がありました。不条理というのは、社会の既得権益とか、時代遅れなのに慣習として残っている仕組みなどで、これらがイノベーションの障壁となっています。
オールアバウトは、世の中がイノベーションを起こすのをお手伝いする会社になりたい、業界のコスト構造を変えたい、権益を突破するよう頑張っていきたいと考えています。

――その改革の道具としてインターネットの活用があるわけですね。

江幡 インターネットで顕著に起きたことは「知の流通」、つまり口コミです。その量や鮮度が増す一方、匿名だったり、いい加減な情報であったりするので、使う側にリテラシー(利用する能力)が求められます。これまで専門家の情報は、本や新聞で読むとか面談で得るしかなく、コストが高かった。オールアバウトはそれを100分の1のコストで提供できるよう構造を変えたのです。

これからは個人の「自立と自律」。
的確な情報を得て、自分で強くなるしかない

――日本は超高齢社会に入り、国の社会保障や企業の終身雇用が揺らいでいます。江幡社長は個人の「自立と自律」による「世直し」を訴えておられますが、その思いを聞かせてください。

江幡 「失われた15年」とよく言われるように、戦後社会を支えてきた仕組みが根底から崩れつつあります。終身雇用はなくなり、退職金も不確か。健康保険は負担増が進んでいる。消費税率は15~18%に上げないと財政は理論上成り立たなくなっています。

それなのに人生の基盤である「お金」「健康・医療」「職・キャリア」の3つについて、学校では何も教育してくれません。その辺は国や企業が守るから大丈夫だという理屈だったからです。
これからは自分で気づいて知恵を蓄えておかないと、人生を楽しむどころではありません。自分で強くなるしかないのです。それが「自立と自律」。こういう基本的な構造を変えていかないと、世の中は変わりません。オールアバウトが生活情報を重要視しているのはそのためです。

テキスト: 木代泰之

後編はこちらから

江幡哲也

えばた・てつや
江幡哲也

株式会社オールアバウト 代表取締役社長
1965年、神奈川県生まれ。1987年に武蔵工業大学(現東京都市大学)を卒業し、株式会社リクルート入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げ成功させ、社内外から 「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれるように。その間、1993年には早稲田大学ビジネススクール修了。2000年6月に株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現オールアバウト)を設立し、総合情報サイト「All About」をスタート。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。著書に「アスピレーション経営の時代」(講談社)。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


IBMとメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターは、コグニティブ・コンピューティングを皮膚の症状の画像分析に応用する研究を行っています。このシステムは、医師ががんの症状を早期診断する際の支援ツールとなることが期待されているものです。

皮膚がん診断の重要性

アメリカにおいて、皮膚がんはよく知られているがんです。がんの中でも診断数がもっとも多く、毎年500万人が治療を受けており、その治療費は81億ドルにまで及びます。なかでも、悪性黒色腫はもっとも致死性の高い皮膚がんで、毎年9000人の死者を出しています。

がんと医療の長きに渡る戦いの結果、いまでは治療の選択肢はいくつもあります。しかし、早期の診断こそが治療のベストな結果を産みます。そのためには良性腫瘍から初期の悪性腫瘍を分類して見つけることが必要不可欠ですが、腫瘍の画像データから診断を下す病理医にとっても正確な判断を下すことは困難なのが実情です。現在、診断の正確さは病理医によって異なり、仮に機材を最新のものにし、知識と経験を可能な限り高めたとしても、75~84%だと言われています。悪性である明らかな兆候が微細であるときも多く、経験と慎重な調査が必要だからです。そこで、がんの画像を認識して、わずかな変化も見逃さずに解析をおこなうコンピュータがあれば、診断の助けになるとIBMは考えたのです。

”人の目”と”学習”が起こす革命

IBMの開発したコグニティブ・コンピューティングを使えば、コンピュータは色や形などの画像の要素を認識して、これまでに残された膨大な悪性腫瘍の画像パターンを学習できるようになります。そしてその学習を積み上げることで、コンピュータはベテランの病理医以上の測定技術を持てるようになるかもしれないのです。準備段階の実験でもコグニティブ・コンピューティングを用いた診断は高い精度を誇っています。97%の精度で画像を認識し、94%の精度で悪性腫瘍を特定したほどです。

IBMはメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターが主導する世界的な協力体制の中で、自動画像診断の研究を続けています。遠くない将来、どの病院でも早期のがん診断が実現される日がくるかもしれません。

photo:Thinkstock / Getty Images

オンライン販売は情報がたくさん得られることをはじめとして、さまざまな理由から実店舗での販売よりも拡大してきています。しかし、実店舗での販売もまだまだ伸びる余地があります。ブラジルのファッションブティック・Camisaria ColomboではIBMのモバイルテクノロジーを使うことで、豊富な経験をもつ店舗販売員が豊富なネットの情報を活かすシステムを作り、販売を拡大しています。

レコメンドするプロの目線を豊かに

ファッションブティックの良さは、来店客へ店舗販売員がプロの目線からオススメのファッションを提案してくれることです。しかし、プロの販売員とはいえ、ファッションブランドが展開している今季のコレクション情報をすべて把握することは難しく、まして来季の情報まで把握するのは困難です。また、自分が働く店舗以外の在庫を把握することも容易ではありません。Camisaria Colomboでは、これまでは、こういった情報を調べるために一人につき、一週間で9時間を要していました。

そこでCamisaria Colomboはタブレットやスマートフォンを活用しました。ここに販売増加の仕掛けがあります。手持ちのデバイスにアクセスするだけで、ブランドの情報や商品情報、他店舗の在庫情報などを即座に取得。これによって商品を探す時間を節約できるうえ、情報をもとに来店客に合ったファッションをオススメしたり、在庫がなくても近隣の在庫をもつ店舗を紹介したりできるようになりました。このことで、来店客は店舗の商品に縛られず、すばやく簡単に欲しいものを見つけられるようになったのです。欲しいものが決まっている人には購入に最適な店舗を、漠然とした欲しいものを持っている人にはファッションの提案を、と来店客の抱いていた”?”をセールスにつなげたのです。実際、導入前よりも25%売上が増加しています。

即時性を支えるモバイルソリューション

この事例にはIBMのもつデータ、サービス、アプリケーションを統合するIBM MobileFirstテクノロジーが役立っています。モバイルを通して、組織に属する人々の生産性の向上や、取引機会を逃さないための即時対応、顧客との親密な関係構築が可能です。この先も小売に限らず様々なビジネスの場面で活用されていくことでしょう。

photo:Thinkstock / Getty Images

イギリスの旅客鉄道会社National Expressグループは、クラウドをベースとしたサービスの導入によって、鉄道がよりスムーズに運行し、利用客のさまざまなニーズに応えることができるようになると発表しました。National Expressグループの一つc2cとIBMが開発したモバイルシステムは、鉄道を使った通勤や旅をより快適なものにします。

データを使えば鉄道が変わる

モバイルデバイスが普及した今、利用客は、正確でリアルタイムな情報を求めています。目的地までどういったルートで行くのが最短か、鉄道の遅延はないか、着いたらどこで食事をとろうか、といったことを調べながら移動することは、もはやごく当たり前の日常的なことになっています。c2cとIBMがIBM Cloudをベースに開発したモバイルアプリを使えば、こういった情報がいとも簡単に手に入るうえに、もっと鉄道を使いやすいものにしてくれます。例えば…

1.利用客は出発地と目的地の郵便番号を入力することで、ドア・トゥ・ドアの旅を簡単に計画できるようになります。またアプリを使えば、特定の列車の運行状況をチェック出来るだけでなく、駅で利用できるコーヒーショップや飲食店、そのほかのサービスを知ることができるのです。遅延情報もリアルタイムで知らせてくれます。

2.プラットフォームの駅員も、手持ちのモバイルデバイスから時々刻々と変化する運行情報を確認し、利用客へ知らせることができます。

3.アプリからは簡単に鉄道のチケットを取ることができます。また、車いす利用者はアプリから申し込みを行うだけでスムーズに駅員の補助を得ることができます。サービスについての感想も簡単にアプリから送信可能です。

4.遅延があった場合、利用客が被る損害を補填するサービスを2015年の終わりに開始する予定です。スマートカードの所持者に毎月、遅延に応じた分だけの損害額を分刻みでオートチャージします。

このように、利用客が望んでいた、痒いところに手が届くサービスが行われているのです。
また、アプリを利用してもらうことで得られた重要なデータをIBM Cloudで集積、解析することで、鉄道をより快適に利用してもらうために必要な見識を得ることができます。クラウドベースのモバイルアプリは鉄道と利用客の関係をより親密にする、イノベーションとなることでしょう。

アプリ開発のためのプラットフォーム「IBM Bluemix」

「仕事などの制約のないところで、存分に自分の力をふるってみたい!」
腕に自信のある開発者なら、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。

そんな方にぜひ参加していただきたいのが「IBM Bluemix Challenge 2015」です!
これは、IBMが開発者向けに提供するクラウド・プラットフォーム「Bluemix(ブルーミックス)」の豊富なサービスを利用して、まだ見たことのない優れたアプリやサービスの開発を競うコンテスト。

「Bluemix」とは、企業・個人を問わず利用できる、クラウドを基盤としたアプリ開発のためのプラットフォームです。
多様なプログラミング言語に対応した実行環境が整っていることにくわえ、アプリやサービスを開発するために便利な機能をご用意。必要なものを選択して追加することが可能です。開発者はわずらわしい準備をすることなく開発に専念できます。

「一般」と「学生」の2部門で募集

今年で2回目を迎える「IBM Bluemix Challenge 2015」ですが、今回は一般と学生の2部門でテーマを設定して作品を募集します。

まず一般部門のテーマは「身近なものから未来に向けた新しいビジネスやライフスタイルの創出まで、斬新なアイディアを具現化するために、さまざまなAPIを組合わせ、活用したアプリ開発」。
また学生部門のテーマは「インターネットに常時接続可能なコネクテッド・ビークルまたは自動車向けモビリティ・アプリの開発」です。

ちなみに昨年の最優秀賞は「BLUECOUPON (ブルークーポン)」。これは、店舗に来店したお客様の iPhone や iPad 向けに iBeacon を活用して QR コード付きクーポンを送信するアプリです。

参加にあたってプログラミング経験は関係ありません。斬新かつイノベーティブなアイディアで、「ありそうでなかったアプリ」「便利なサービスを実現できるアプリ」開発に、ぜひチャレンジしてください!

「IBM Bluemix Challenge 2015」の詳細はこちらから

経済成長著しいインドですが、支店やATMの不足などもあり、多くの人々が銀行を利用できない状況が続いていました。そこで2011年、ING バイシャ(ING Vysya)銀行※はそのような人々へ向け、モバイル・デバイスからアクセスできるモバイル・バンキング・アプリを開発しました。そのおかげで、銀行を使えなかった人たちも、安心して預金や決済などの銀行サービスを利用できるようになったのです。

※現在はKotak Mahindra Bank

モバイル・バンキング先進国インド

インドは、世界でもっともモバイル・バンキングを利用している国となりました。潜在的な銀行への需要があったためか、2012年の世界的な調査報告によると、インドでは76%の人が過去6ヶ月の間にモバイル・バンキングを利用している、と回答しています。同調査では、全体平均が35%、アメリカが38%、イギリスが31%だったということを鑑みると、インドの利用率の高さが浮き彫りになります。

インドにおけるNo1バンキング・サービスプロバイダーであるINGバイシャ銀行は、インドで長い歴史を誇り、また、インドの350以上の都市で530を超える支店を展開する銀行です。なぜ、これだけの支店を持ち利便性も高い銀行が、モバイル・バンキングに目をつけたのでしょうか?

応答の速さが支えるビジネスチャンス

それは、新規顧客獲得という目的があったのは確かですが、それ以上に、モバイル・バンキングには、既存顧客へのサービスを改善する可能性があったからです。その可能性とは、”スピード”。手持ちのモバイル・デバイスを使って、本来であれば、銀行へ行かなければならない各種手続きがその場でできれば、顧客が銀行とのやりとりに費やす時間は大幅に短縮できます。

そのためにINGバイシャ銀行は、IBM MobileFirstソリューションのキー・プラットフォーム、IBM MobileFirst Platform Foundationを用いて、各種スマートフォンやタブレット、OSに対応したモバイル・バンキング・アプリケーションを開発しました。このアプリを使えば、これまでATMや銀行へ行く必要のあった公共料金の支払いや別の口座への資金移動、明細書の確認、小切手の手続きといった数々のサービスを、モバイル・デバイスからすぐに行うことができるようになったのです。銀行やATMから出金したい場合でも、最寄りのATMや支店をアプリが教えてくれます。

この”スピード”の恩恵は顧客にとどまりません。銀行側にとっても、モバイル・アプリケーションを使うことによって、生産性の改善やカスタマー・サービス向上のためのサポートが得られているのです。

インドでのモバイル・バンキングは、今 やカスタマーサービスにとって重要なプラットフォームになっています。このようなモバイル・ベースのサービスの普及は、今まで対面が基本だった銀行のサービスに転換をもたらすものかもしれません。

photo:Thinkstock / Getty Images

エンド・ユーザーにとっては、使用しているアプリが弱体化しているかどうかを判別することは以前から難題でしたが、昨年のMasque攻撃を始め、企業システムに侵入する悪質なモバイル・アプリの脅威が姿を現している現在、IT部門にとっても判別は困難の度合いを増しています。

モバイル・アプリ拡大の危険

2014年11月にリリースされた「State of Mobile App Security(モバイル・アプリのセキュリティーに関する現状)」というレポートでは、2017年には2,530億個のアプリがダウンロードされると予測されています。これは2014年の1,270億個の約2倍です。特に、ビジネス・アプリは昨年、Apple App Storeで210パーセント、Google Play Storeで220パーセントという急激な伸びを見せました。このことから分かるのは、従業員が個人のデバイスで業務にアプリをますます使用するようになっているという傾向です。

現在、明らかにアプリは爆発的な伸びを見せていると言えます。IT部門は自社を守るために、社外はもちろん、社内のエンド・ユーザーから知らずに繰り出されるモバイル・アプリ攻撃に対しても備える必要があります。

どのモバイル・デバイスまたはオペレーティング・システムでも、何の対策も施さずに完璧に安全ということはありえません。脅威が存在しそうにない場合でも、1回のミスが致命的な漏洩を連続して引き起こし、短時間で業務に大損害を与える可能性もあるのです。これを考慮に入れ、モバイル・アプリの脅威が身近に迫っている現状に備えるために、企業にとって役に立つ4つのヒントを次に示します。

1.EMMソリューションを採用する

何よりもまず、企業はエンタープライズ・モビリティー・マネジメント(EMM)ソリューションを採用する必要があります。適切なEMMソリューションを適切な領域に導入すれば、同僚が使っているアプリとデバイスを監視および管理できます。これにより、社内のモバイル環境が可視化され、脅威が事業に影響を及ぼす前に対処できるようになります。EMMのもう1つの機能であるモバイル脅威管理では、モバイル・セキュリティー・リスクを発生時に検出、評価、軽減できるため、モバイル・マルウェアを防ぎ、より積極的な保護を実現します。

2.アプリの使用に関するポリシーを定める

エンド・ユーザーが使用しているモバイル・アプリでエンド・ユーザーの安全を確保する最も重要な要素の1つが、社内におけるアプリの使用に関するポリシーを定めることです。アプリのブラックリスト化やホワイトリスト化、コンプライアンス・チェックなどのセキュリティー・ポリシーを策定すると、社内のモビリティーに関する基本原則を定めることができます。また、それによりリアルタイムで対策をとることができるため、コンプライアンス順守を徹底させ、データ漏洩を予防できます。

3.エンタープライズ・アプリ・ストアを利用する

社内で使用しているアプリのセキュリティーと効果を最大限に確保するには、IT部門はエンタープライズ・アプリ・ストアの機能を活用する必要があります。エンタープライズ・アプリ・ストアを利用すると、セキュリティー・ポリシー、生産性、全体的なエンド・ユーザー・エクスペリエンスを維持しながら、各種の重要な一般アプリおよびエンタープライズ・アプリを安全かつ簡単に選択し、使用可能な状態にして配信できます。

4.エンド・ユーザーへの教育を続ける

アプリに関するセキュリティーの手続きはIT部門にとっては常識ですが、エンド・ユーザーにとってはそうではありません。企業は、アプリとモバイル・デバイスの使用に関するベスト・プラクティスという観点からユーザーを教育する必要があります。サード・パーティーのアプリ・ストアであっても、ITから送信されていないリンク(フィッシング)であっても、とにかく信頼できない場所からアプリをダウンロードするのは危険だとはっきり言う必要があるのです。
また、認証されていないアプリから企業データや文書にアクセスする行為も脅威になりうると明言してください。さらに、個人のスマートフォンを改造し、それを仕事に用いた場合、どのような問題が個人や企業に降りかかるかについても、エンド・ユーザーに伝えます。そのような機会を定期的に設ければ、今後起こりうる新しい形の攻撃についてもエンド・ユーザーに現状を知ってもらうことができるため、彼らを脅威から守る上で役に立つでしょう。

モバイル・アプリの脅威を撃退するために

モバイル・アプリをめぐる環境が大きく進化している現在、わずかな脆弱性を悪用する脅威もまた同じように進化を遂げています。以上の4つのヒントを参考にすれば、手遅れになる前に悪質な攻撃を食い止め、モバイル・アプリの脅威を撃退できるでしょう。

(出典:Security Intelligence より訳出 “Four Tips for Protecting the Enterprise Against Mobile App Threats”BY KEVIN OLIVIERI 2015年2月11日)


近年、高齢者の介護や作業現場などで、人の代わりに働くロボットや補助をする機器の開発に期待が高まっている。
東京理科大の小林宏教授は、人の筋肉の力を補強することで、作業を楽にする装着型の動作補助装置「マッスルスーツ」を開発した。身近で簡単に装着でき、比較的安価に設定されたマッスルスーツは、すでに高齢者の介護の現場や配送業者の倉庫での作業などで使用されており、2015年4月からは本格的な量産体制に入る。
小林教授は「動けない人を動けるようにする」「生きている限り、自立した生活を実現する」ための装置の開発を最終目標にしている。そのために、歩行訓練装置「アクティブ歩行器」の開発にも取り組んでおり、2015年中にはリリースし、病院や施設などに貸し出す計画だ。「マッスルスーツ」や「アクティブ歩行器」開発の経緯、ロボット開発に対するエンジニアとしての将来展望などについて、小林教授に聞いた。

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改良に改良を重ね、 細かな部分まで1つひとつがすべてノウハウ

パートナーとして、一緒にやれるかどうかは時間をかけて見極める以外にない。小林教授は「たくさんの企業からいろいろな話が来る。どんな会社もいちおう一生懸命にやるが、最終的には担当者の熱意。熱意が感じられない担当者を替えてほしいといっても、聞き入れない企業とは続かない」という。アサヒサンクリーンは、担当者の熱意に加えて、経営者が「開発はうまくいかないかもしれないが、それでも構わない。お金をドブに捨てるつもりでやる」と腹をくくっていたことが大きい、と振り返る。

マッスルスーツは1つひとつがすべてノウハウだ。問題点の指摘を受け、改良し、試して、また問題点を指摘され、改良する。作っては直し、作っては直しの積み重ねで、現在の形になっている。例えば、現在、人工筋肉は4本使っているが、最初は2本タイプと4本タイプの両方を用意していた。実際に使ってみて、4本の方が力が出るので、4本タイプに絞ることにした。

また、背中フレームは、今は腰の部分に横棒が入っていないが、横棒を入れて三角形になった物も作った。棒を入れる方が作るのは容易で、剛性を高めることもできる。横に棒を入れないと、三角形の底辺がないので、剛性が弱くなってしまう。そのため、いろいろな形で補強しなければならない。小林教授は「横棒がない方が、左右が独立しているので、動きやすい。そのため、もともと横棒はなかったが、すぐに壊れてしまった。そこで入れてみたが、今度は動きにくいといわれて、あちこち改良することになった。完成した今ではシンプルでよいといわれるが、現在のようになるまでには試行錯誤の連続で、本当に苦労した」と語る。

ものづくりの観点で最善と思う物を作っても、人間に通用するのは半分ほど

マッスルスーツはすべての力を身体で受ける。人工筋肉の収縮で、上半身を起こしていくが、そこで生じる反力をどこかで受けなければいけない。それを受けるのが腿パッドで、そこには背中フレームにつながる腿フレームが付いている。
「普通、腿フレームは腿パッドの真ん中に付いている方が安定すると思うが、実際には少し外側に付いている。装着している人にとって、その方が動きやすく、力の負担を感じない。それもやってみて初めて分かったことだった」

相手が機械であれば、精度をよくし、コストを抑えればよい。しかし、人間には個人差があり、動きだけではなく、感覚もある。そのため、ものづくりの観点からベストだと思って作ってみても、半分くらいしか通用しない。残りはやってみないと分からず、実際に付けてみて、初めて問題点や課題を理解することができる。
「その試行錯誤の過程すべてにつきあい続けてくれるのがパートナーで、パートナーなしにはマッスルスーツは今後も進化することはできない。その意味では、パートナーも覚悟が必要だ。今は大分認知されてきているので、協力企業も増えているが、アサヒサンクリーンが出てこなければ、マッスルスーツはなかっただろう」

2015年内にはマッスルスーツ以外に新たに3製品をリリース

2013年12月、小林教授はマッスルスーツを商品化し、販売するベンチャー企業「株式会社イノフィス」を東京理科大の葛飾キャンパス内に立ち上げた。そして、マッスルスーツを製造する企業として、菊池製作所と提携、本格的な量産体制に入った。また、マッスルスーツ以外の新しい機器の開発に取り組んでおり、2015年中に3つの製品をリリースする。開発はユーザーとの関係が基軸で、現場に行き、デモをし、改良する。さらにユーザーから様々な困っていることを相談されるので、それを聞いて、新たに作り始める。

リリース予定の1つ目はすでに生産ラインに載っている「軽補助」。人工筋肉が2本で、重さが5.5キログラムのマッスルスーツと比べると3割軽く、補助力も3分の2程度と十分だ。
2つ目が「前傾姿勢保持」で、農作業や介護現場でのおむつ交換、入浴補助などで使う。小林教授は「アサヒサンクリーンが使えると判断、導入することになっている。マッスルスーツは男性が着用して、利用者を抱え、入浴させる。そして、女性がバスタブに浸かった利用者の身体を洗うが、その時、ずっと前傾姿勢なので、出番となる。人工筋肉は使わずに、軽いので、10万円以下で販売する予定だ」と説明する。
3つ目が「腕補助」で、マッスルスーツのデモの時に、腕を上にかざす作業用の装置が欲しいと言われたことから開発した。倉庫などで重い物を上に持ち上げ、積み上げたりする際に使う。

動けない人を動けるようにすることを目指し、「アクティブ歩行器」を開発

小林教授は開発の最終目標を「動けない人を動けるようにする」「生きている限り自立した生活を実現する」ことに置いている。そこで、2015年冬には、誰もが立って歩けるようにするために、車椅子状態で取り付け、自動で立ち上がり、転倒の心配なく正しい姿勢を維持しながら、両足に着けた人工筋肉の収縮により歩行を補助する歩行訓練装置である「アクティブ歩行器」の提供を始める。

kobayashi_2-1「今まで、日本では車いすに乗れるようになると、何とか日常生活が送れるようになるので、病院や施設でのリハビリも終わりになってしまう。しかし、車いすの生活になってしまうと、筋肉の萎縮や筋力の低下、内臓の病気などが起こる廃用症候群(生活不活発病)になり、最終的には寝たきりになってしまう。それを防ぐには、立って歩くことが重要で、自分の足で歩く訓練をしていくと、車いすを使用するしかないと言われた人が歩けるようになることもあり、廃用症候群にならずに済む」

問題は、日本では上半身をコントロールできないと、リハビリで歩行訓練をしてもらえないことだ。小林教授は「上半身をコントロールできる人は赤ちゃんが乗るような歩行器や平行棒などで歩行訓練をする。しかし、それは正しいやり方ではない。転倒する心配がない形で立って、歩く訓練をするのが望ましい歩行訓練だ。アクティブ歩行器はそれができるようになっている」と解説する。

普通、脳梗塞などの後遺症で身体が不自由となった人が歩行訓練をする時には、療法士や看護師が2~3人がかりでベッドから車いすに移す。そして、リハビリ室で平行棒などを使って歩く練習をする。それに対して、アクティブ歩行器は訓練を受ける人の状態に合わせて、簡単に移れるように、3つのタイプを用意している。
1つ目はベッドから車いすに移して、そこで取り付ける車いすタイプ、2つ目はベッドに寝ている人をスライドボードのような器材を使って移し、回転して立ち上がらせるベッドタイプ、3つ目は寝た状態のままで、立ち上がらせるタイプのものだ。これによって、訓練を受ける人は最小限の手助けで歩行器に移り、歩くことができる。

本当に困っている人に使ってもらい、尊厳を持って生きていけるようにする

すでに何組かの人たちが研究室に来て、アクティブ歩行器を使って歩く訓練をしている。もちろん一生歩けないような状態の人もいるが、それでも歩く訓練はできる。それによって、廃用症候群に陥る可能性が大きく減る。小林教授は「マッスルスーツを販売して得た利益で、アクティブ歩行器を製作し、それを無償で貸し出して、病院や施設などで使ってもらおうと考えている。立てない人が立って歩く訓練の事例を積み重ね、協力してもらえる施設も増やしていく。そして、年内に5台くらいは貸し出しのメドを付けて、今後2~3年は販売せずに無償で提供していく」と語る。

一方、マッスルスーツの製造を担当する菊池製作所は福島第一原発事故の避難区域に整備した南相馬工場で、被災地の復興という目標も掲げて、マッスルスーツの本格的な生産に入っている。イノフィスの起業から1年半、マッスルスーツの販売を開始してから4カ月余り。マッスルスーツは福祉・介護、肉体労働、農業を主な領域に、販売代理店となる企業も増え、購入・レンタルの申し込みは急速に拡大している。その中で、マッスルスーツに対する問い合わせは、老老介護の当事者や、老老介護の親に使わせたいと考える子ども、障がい児を抱えた親など個人が多いのが特徴だ。

小林教授は「何よりも、エンドユーザーが大事だと考えている。障がいを持つ人々を始め、本当に困っている人に使ってもらいたい。その人たちが使えるということになれば、誰でも使える。そのため、エンドユーザーの意見を聞いて、開発を進めていく。それが普及への早道だ。マッスルスーツというブランドを前面に打ち出して、『困っているので、なんとかして欲しい』という当事者や家族の思いに応え、1人ひとりが尊厳を持って生きていけるようになることを目指していく」と抱負を語る。

TEXT:菊地原 博

小林宏氏

こばやし・ひろし
小林宏

東京理科大学 工学部第一部機械工学科 教授。博士(工学)
1966年生まれ。1995年、東京理科大学工学研究科機械工学専攻博士課程修了。
1996年~1998年、日本学術振興会海外特別研究員としてチューリヒ大学計算機科学科に留学。2008年から現職。2001年に科学技術振興事業団 さきがけ研究21「相互作用と賢さ」領域研究員。
専門は知能機械学、福祉工学、画像処理、ロボティクス、メカトロニクス。これまでの研究には、顔表情の認識に関する研究、顔表情ロボットの開発、ロボットのコミュニケーション知能に関する研究、マッスルスーツに関する研究、アクティブ歩行器に関する研究などがある。ユニークな研究に独自に取り組んでおり、企業に負けないコンセプトや技術力を保有、複数の企業と製品化、実用化のための共同研究や開発を推進している。
著書に『ロボット進化論–「人造人間」から「人と共存するシステム」へ』(オーム社)、『顔という知能- 顔ロボットによる「人工感情」の創発』 (共著、共立出版)がある。

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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


革新的なセキュリティー・インテリジェンス・ツールを使用すると、通常は垣根があるセキュリティー脅威データと脆弱性データの間を橋渡しできます。こうしたツールの主な機能の1つが、セキュリティーー・ダッシュボードやレポートを作成することです。ただし、CISO(Chief Information Security Officer:情報セキュリティー担当責任者)は、このレポートのデータを上層部に分かりやすい言葉で説明する必要があります。CISOは、より大きな影響力を役員室に与えますが、セキュリティーのメッセージを理解させることは難しい場合もあります。

レポート報告のポイント

効果的な上層部向けレポートの形式を策定する場合、上層部を理解すると役立ちます。彼らは情報セキュリティーについてどの程度知りたいと考えているでしょうか。彼らのビジョンは何ですか。たとえば、コスト削減に取り組んでいるディレクターに直属している場合、良好な情報セキュリティーが企業にもたらす財政面の利点について、根拠の一部をレポートに含めることができます。

または、議事録の上に追記がある場合、拡大企業のリスクを管理する上でセキュリティー・メカニズムがどのように役立つか、および他社製のセキュリティー管理がグローバル・ビジネス・モデルにとってどのように必要かについてレポートできます。上層部と直接コンタクトを取る機会がない場合、上層部とやり取りしている人間と関係を築くという方法もあります。上層部の企業戦略について彼らに尋ね、どの程度の詳細をレポートに含めるべきか、具体的な情報を手に入れましょう。

コラボレート

他のリスク領域の同僚と協力してレポートを作成すると、役に立つことがあります。情報セキュリティーは企業全体のリスクであり、情報および通信技術(ICT)の問題にとどまるものではありません。共同レポートでは、組織にとって最大のリスクを述べ、適切に管理されているかを説明します。そうしたリスクを一般的な表現で説明します。「ハックのリスクは高い/中程度だ/低い」などの曖昧な議論はしないでください。リスクの高低に関する認識は人によって異なり、「ハック」は複数の事象が非常に複雑な形で並んでいるものです。

たとえば、上層部がリスクを取って投機的な事業を進める性格の持ち主で、投資で利益を上げるチャンスが60パーセントあればリスクを取る価値があると考える人物だった場合、彼または彼女は、今後2年間でデータ不正利用の確率が19パーセントならば、リスクとしてはおおむね安全と考えるかもしれません。確率の低い事象でも大惨事につながりかねないことを上層部に理解させるようにレポートを作成するべきです。データ不正利用は財政面の損失をもたらすだけではなく、株主の利益、信頼、評判も毀損し、刑事責任の問題も引き起こすおそれがあると上層部に認識してもらう必要があります。

さらに、懸念材料は個人データ漏洩のリスクについてだけではありません。サイバーチャンネルを通じた産業スパイも増えています。ICT、マーケティング、販売、製品開発、法務部門などは、サーバースパイや顧客データ不正利用のリスクとリターンのトレードオフを共有する必要があります。リスクと管理のバランスをどのように取るかをあわせて示すことができれば、自説をより強力に論証することができるでしょう。

ベンチマーク

レポートの中で、自社と他社を比較する章を特に設ける方法もあります。情報セキュリティーの予算、リソース、インシデント、耐久力、知識の点で、自社が業界内でどのランクにあるかを提示してください。業界でベンチマークとなるデータにアクセスできない場合は、自社の過去と比較することも検討してください。セキュリティー・インテリジェンス・レポートで月、四半期、または年単位の傾向を示すこともできます。脅威を検出して防いだ比率、コンプライアンスの向上率、それに使われた予算を視覚的に示すという方法もあります。自分のチームの成功をアピールし、セキュリティーの投資が何をもたらすかを提示しましょう。

企業文化によっては、世間を最近騒がせたデータ不正利用の例を示すという方法もあります。上層部は、これが自社にも起こりうるかどうかを知りたがるでしょう。無闇に怖がらせることなく真実を伝えてください。こうした犯罪行為に対して自社がどのような緊急対策を備えているか、そして対策が不十分な領域を補うために何が必要かについて説明します。

将来をセキュリティーで守る

つまるところ、情報セキュリティー・レポートは、リスクと管理、コストと利益、脅威とチャンス、強みと弱みの間のバランスについて、過去、現在、そして将来のリスクの位置付けに関する情報を記載したものです。

レポートのスタイルを見つけても、もう一度変更しなければならない場合もあります。取締役会は情報セキュリティーへの関与を強め、その結果として、具体的な情報を要求してくるでしょう。彼らとのコンタクトを絶やさないでください。誰もが学び続けるのです。次世代のリーダーは、情報セキュリティーに関する知識を基本的なスキルとして持ち合わせるようになるでしょう。それまでは、将来をセキュリティーで守るために現在のリーダーを支え続ける必要があります。

(出典:Security Intelligence より訳出 “How to Create Impact With Your Information Security Report in the Boardroom” BY NICOLE VAN DEURSEN 2015年2月9日)


近年、高齢者の介護や作業現場などで、人の代わりに働くロボットや補助をする機器の開発に期待が高まっている。
東京理科大の小林宏教授は、人の筋肉の力を補強することで、作業を楽にする装着型の動作補助装置「マッスルスーツ」を開発した。身近で簡単に装着でき、比較的安価に設定されたマッスルスーツは、すでに高齢者の介護の現場や配送業者の倉庫での作業などで使用されており、2015年4月からは本格的な量産体制に入る。
小林教授は「動けない人を動けるようにする」「生きている限り、自立した生活を実現する」ための装置の開発を最終目標にしている。そのために、歩行訓練装置「アクティブ歩行器」の開発にも取り組んでおり、2015年中にはリリースし、病院や施設などに貸し出す計画だ。「マッスルスーツ」や「アクティブ歩行器」開発の経緯、ロボット開発に対するエンジニアとしての将来展望などについて、小林教授に聞いた。

人工筋肉による補助力で、物を持ち上げる時の腰の負担が3分の1に

今、介護や作業の現場で、ロボットが脚光を浴びている。その普及をさらに推し進めて行くには、安価で、誰もが簡単に使えるような製品の開発が必要になる。その先頭を走っているのが東京理科大学の小林宏教授が開発した装着型動作補助装置「マッスルスーツ」だ。

小林教授は「マッスルスーツはモーターではなく、ゴムチューブを筒状のナイロンメッシュで包んで両端をつなげた人工筋肉を使う。チューブの中に圧縮空気を入れると、膨張して、5気圧で最大150kgの張力が生じる。これが身体を起こす際の補助力となり、人や物を持ち上げる時の腰の負担が約3分の1になる」と説明する。人工筋肉は1950年代に発明され、1985年から10年間、日本のタイヤメーカーが製品化したこともあったが、その後見なくなったという。

kobayashi_1-1-2「人工筋肉は圧縮性がある空気を入れるため、正確な位置決めができない。それを正確さが必要なロボットや機械で使おうとしたため、うまくいかなかった。しかし、人間の動きは機械のようにきちんと位置決めする必要はなく融通がきくので、むしろ適している。加えて、軽くて柔らかいので、人間の生活空間で使うには都合がよい。そのために、マッスルスーツは人間になじむ動きができるようになっている」

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小林教授は大学院で学位取得後、1996年から2年間、チューリッヒ大学人工知能研究所に留学した。だが、人工知能といっても技術的には当面人間が全部プログラムを書いてやるしかなく、自分が考えていた真の人工知能の研究にはなかなか展望がないと見切りを付け、「もっと身近で人の役に立つことをやろう」と決めて日本に帰国した。小林教授は「当時はホンダのASIMOのような人型ロボットの全盛期だった。けれども、二足歩行は可能でも、まだまだ人間のようにアイデンティティを持って自分で何かやれるわけでもない。自分はできるだけ早く人の役に立つものを作りたいと考えると、直感的にその路線ではないと思った。人にとって一番つらいことの1つは、自分の意志で動くことができなくなることだろう。だったら、動けない人が動けるようにすることが目標だと思い至った」と語る。

動くものを作る時に、最も大事なのは何を使って動かすかである。通常はモーターを使うが、小林教授は人工筋肉の方が冗長でいい加減な動きをする人間には適している、逆にきちんとした制御をしたら、うまくいかないと考えた。

強力な力を補助力にして人間が動かされるという考え方で開発に着手

人間が身体に装着して動く装置は1960年代から開発されてきたが、今までうまくいっていない。その理由は、人間の筋肉の動きを補助しようとした時に、どの方向にどの位のスピードと強さ、加速度で動かすかは動かす本人にしか分からないことにある。人間が動くとおりに装置を動かそうとしても、腕だけならよいが、身体全体になるとバランスが問題になる。そうすると、動かす力を強くしていけなければならなくなり、装置は大型化し、とても装着できないような代物になってしまう。

小林教授は「私は逆に、人間が動かされてしまえばよいと考えた。強力な力を補助力にして、人間がそれにならって動けば、筋力もさほど要らなくなる。ロボットというと、制御という話になって、どうしたらインテリジェントな動きができるかというところに行ってしまう。私はそれとは反対に、人間の足りないところを補うことに特化した。腕、腰とそれぞれ動きは決まっているので、何かをきっかけに動き、人間はそれにつられて動くというやり方に切り替えた」と強調する。

マッスルスーツのお陰で、女性でも軽々と10Kgの荷物が持ち上げられる

マッスルスーツのお陰で、女性でも軽々と10Kgの荷物が持ち上げられる

14年間試行錯誤の連続。カギは「本当にそれを必要としている」パートナー企業の存在

マッスルスーツが誕生した2001年から現在までの14年間は、マッスルスーツを本当に役に立つものにするための試行錯誤の連続だった。

「最初は腕から取り組んだ。しかし、腕だと現場に行っても、『確かに楽になる』で終わってしまい、結局ミクロ的な需要しかなく、広がらないことに気づいた。
そこで、不特定多数の人が使えるところから始めなければいけないと考え、介護の現場や重い物を持ち上げる作業現場でほとんどの人が痛めている腰をやることにした。腰であれば需要が多いし、マーケットも大きく、まさにマクロ的だ。そこでアシスト技術が認知されたら、腕にも入っていくことができ、マクロからミクロに攻めていける」

腰を補助する装置で福祉ロボットというと、介護支援に限定されてしまう。そうすると、介護保険制度の制約が出てきて、活用スピードが鈍くなってしまう。実際に開発の最初の段階では、医療・介護関係からは全くコンタクトがなかった。
そこで、そもそもマッスルスーツは肉体労働全般に使えるので、医療・介護に絞らず、さまざまな分野での活用を目指した。特に企業内の労働環境改善のために開発を続けることにした。

kobayashi_1-3小林教授は「まずコアを作って、そこから派生していき、認知を得ることが重要だ。現場で使ってもらうために、どう作っていくのか、どう普及させていくのか。その流れを考え、そのための製品を出していくまでの過程が一番大変だった」と振り返る。
今は少子高齢社会を背景に、あらゆる分野から問い合わせが来ており、さらなる加速を求められている。

マッスルスーツの開発で最も重要なポイントはパートナーだ。ロボットは注目度も高いため、マッスルスーツについても多種多様な企業からコンタクトがあり、共同研究にも取り組んだ。しかし、ある程度の成果は出ても、すべて中途半端なものに終わった。
小林教授は「それは共同研究した企業が本当には困っていなかったところに理由がある。だから、結局うまくいかなかった」という。

訪問入浴業アサヒサンクリーンとの連携がマッスルスーツの完成度を高めた

そうした中で、2010年に出会ったのが、現在マッスルスーツを600台使っている訪問入浴介護の老舗企業アサヒサンクリーンだ。同社は訪問入浴サービスが主力事業で、専用車で利用者の家にバスタブを持っていき、ベッドから身体の自由がきかない利用者を抱き上げて、バスタブに下ろす。そして、身体を洗って、ベッドに戻すという作業をしている。しかし、この事業に携わる社員で、50歳以上の人はわずか数パーセントだ。利用者を抱き上げて、下ろすという一連の作業で、多くの人が腰を痛めてしまい、若い社員しか働けなくなるのだ。

「少子高齢化が進む中で、年配の社員も訪問入浴の仕事ができるようにしないと、会社として成り立たなくなる。アサヒサンクリーンの危機感は尋常なものではなかった。中高年齢者でも仕事が続けられるようにすることに会社の将来はかかっていて、まさに死活問題だった。そのため、マッスルスーツの開発に非常に真剣に取り組んでもらうことができた」

最初はアサヒサンクリーン側から、あれもダメ、これもダメといろいろな課題が出され、小林教授はそれにエンジニアとして、解決策を提案し続けた。そうしたやり取りを続け、課題にすべて答えていく中で、お互いの信頼関係が生まれていった。
「できること、できないことを正しく理解して答えを出すのがエンジニアだ。改善策をきちんと出していく中で、アサヒサンクリーンも問題点を出せば回答を出してくれるという実感を持ち、現場で使えるところまでやり切ろうという気持ちになっていった」

ものづくりには、問題点の所在を理解し、そこから改善のための要望を聞き出すことが欠かせない。そのため、小林教授はアサヒサンクリーンに行き、実際にバスタブに利用者を移す動作をしてもらった。その中で細かくヒアリングをして、改善項目を具体的に出す。そして、その問題点を1つずつ解決したマッスルスーツを持っていき、試してもらう。さらにそこで問題点が出たら、次の改善につなげる。気が遠くなるような、その作業を何度も何度も根気強く繰り返すことで、マッスルスーツの完成度は高まっていった。

TEXT:菊地原 博

後編はこちらから

小林宏氏

こばやし・ひろし
小林宏

東京理科大学 工学部第一部機械工学科 教授。博士(工学)
1966年生まれ。1995年、東京理科大学工学研究科機械工学専攻博士課程修了。
1996年~1998年、日本学術振興会海外特別研究員としてチューリヒ大学計算機科学科に留学。2008年から現職。2001年に科学技術振興事業団 さきがけ研究21「相互作用と賢さ」領域研究員。
専門は知能機械学、福祉工学、画像処理、ロボティクス、メカトロニクス。これまでの研究には、顔表情の認識に関する研究、顔表情ロボットの開発、ロボットのコミュニケーション知能に関する研究、マッスルスーツに関する研究、アクティブ歩行器に関する研究などがある。ユニークな研究に独自に取り組んでおり、企業に負けないコンセプトや技術力を保有、複数の企業と製品化、実用化のための共同研究や開発を推進している。
著書に『ロボット進化論–「人造人間」から「人と共存するシステム」へ』(オーム社)、『顔という知能- 顔ロボットによる「人工感情」の創発』 (共著、共立出版)がある。

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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


コーヒー・ショップから飛行機、電車、クルーズ船まで、労働者はほぼどこからでも習慣的にデータにアクセスしています。問題は、それがセキュリティーの脅威に対してどれだけ脆弱なものかを忘れがちになることです。IBMでも、この課題は他の企業の場合とまったく同じです。ただし、この規模の企業では、モビリティーの適用範囲が非常に広いという点が他とは異なります。

IBMは約40万人の従業員と契約社員を抱え、そのうち約50パーセントがモバイル環境または通常のオフィス以外の場所で働いています。また、IBMは70万台以上のラップトップを管理しており、そのうち5パーセントは個人が所有しています。さらに、同社が管理しているモバイル・デバイスは14万台以上あり、うち85パーセントが個人所有です。

この適用範囲を考慮に入れ、大規模かつ多様でグローバルな労働力―そしてそこで使うデバイス―のセキュリティーを確保するという考えはどのように生まれたのでしょうか。また、従業員が必要なデータへ柔軟にアクセスできるように配慮しながら、グローバル企業の管理に必要なセキュリティーを確保するには、どのようなソリューションが考えられたでしょうか。

IBM CIO Officeの上級アーキテクト、Bill Tworekは、IBM InterConnect 2015のセッション「Security in a Mobile World(モバイルの世界におけるセキュリティー)」で、次のように答えました。

「さまざまな報告から、モバイルは2014年には早くも従来のコンピューターよりセキュアになるでしょう。ただし、実際には、IBMをはじめ、ほぼあらゆる企業にとって重要な点は、モバイル・デバイスを管理してセキュリティー保護することだけではありません。モバイル、クラウド、IoT、ソーシャル、コンシューマライゼーション、ビッグ・データその他、現在繁栄している複数の異なる勢力のやり取りを管理することです。そのため、企業データに接続しているデバイスの数や多様性だけでなく、考慮すべき外部環境要因の数や多様性も、当然のことながら徐々に煩雑になっていきます。

図:なぜモバイルのセキュリティーを懸念しているのか?

図:なぜモバイルのセキュリティーを懸念しているのか?

モバイル・セキュリティーの管理

Tworekによれば、そのコツは、実際に重要な領域のセキュリティーに集中し、それほど重要ではない領域には柔軟性を与えることです。IBMは、クラウドやモバイルなど、各種要因の交差を管理するために、5段階の哲学で問題を解決しています。

  • ポリシーベースの法的保護を確立する
  • 一人一人の従業員の防御を最優先とする
  • データ重視の緻密なセキュリティーの枠組みを策定する
  • デザインと使い勝手に力点を置く
  • 迅速な対応が可能なクラウドを活用する

IBMの解決策は、自分で作った料理をしっかりと食べることでした。つまり、独自のMobileFirst Protect™ソリューションを企業全体で採用したのです。その結果、わずか1か月で7万人の従業員が参加し、SaaSモデルに移行することで50万ドル以上のコスト削減を実現しました。

Tworekは次のように語っています。「IBMの場合、『オフィス内』という失われつつある状況に対応することは、アクセスに対する従業員の需要と多様な環境要因をモバイルに集約し、さまざまなデバイスとロケーションを管理する必要があるということでした。私たちは、そのすべてを実現し、データのセキュリティーを確保するとともに、コンプライアンス要件を満たすために、十分な管理を維持する必要がありました。今、私たちはそれを手にしています」

図:IBM CIOからIBM MobileFirst Protect(MaaS360)に移行した場合のクラウドの速度

図:IBM CIOからIBM MobileFirst Protect(MaaS360)に移行した場合のクラウドの速度

従業員に必要なアクセスを提供するという哲学と、データを安全に保つという現実との間でバランスを取るやり方で、他の企業がどのようにモバイルを管理しているかについて学習してください。

(出典:Security Intelligence より訳出 “Philosophy vs. Reality: How IBM Achieves Mobile Security for 400,000 Employees” BY MITCH MAYNE 2015年2月24日)

セキュリティー脅威をもたらす犯罪者集団とは異なり、企業がマルウェアとの戦争に費やすリソースには限りがあります。ただし、企業にその余裕があり、今より多くの資金と人員をマルウェア封じ込めに注ぎ込んだからといって、立場が対等になるわけではなく、むしろ、既存のリソースを基により多くのことを行い、影響を与えることできます。

Ponemon Instituteから委託されたDamballaの調査によれば、APT(Advanced Persistent Threat)が防御対策からうまく逃げ回っている間、IT部門は誤検出を追い求めるだけで貴重な時間と資金を無駄にしているケース多く、企業は年間で平均120万ドルを費やし、誤検出を含む誤ったマルウェア・アラートへの対応に時間を取られています。しかも、5回のマルウェア・アラートのうち、信頼できるものは1つだけという調査結果が出ています。

たとえば、一般的な企業では、マルウェアの検出と封じ込めプロセスに携わっているITスタッフまたはITセキュリティー・スタッフの数は17人です。一方、調査回答者のわずか41パーセントが、インテリジェンスを手に入れ、マルウェアによる真の脅威を評価するために自動ツールを使っています。このツールを持っているITスタッフの報告によれば、マルウェア封じ込めのうち平均60パーセントは人間による入力や介入を必要としません。自動ツールを実装することで、IT部門はスタッフ・メンバーの一部をマルウェア関連の作業から解放できます。構造化されたマルウェア封じ込めプロセスを策定し、そのプロセスの監視を担当する人間を1人または機能を1つ用意すると、リソースをさらに最適化できます。

誤検出を追い続けて1週間で平均395時間を無駄にしている現状では、企業は、セキュリティー脅威に対する知識やナレッジをどこで手に入れるかを再評価する必要もあります。69パーセントの企業がそのインテリジェンスの主な入手源としてベンダーからの情報を利用しており、64パーセントがピアツーピア通信を使用しています。政府および警察当局は、インテリジェンスの入手源にはほとんどなりません。

IT部門はマルウェアに対する防御を強化できますが、時間的な制約があるため、依然として脅威をもたらす側に有利です。調査回答者の大半が、マルウェアの感染がかつてよりも深刻化しているか、著しく深刻化していると答えている一方、45パーセントの回答者がこの12か月でその規模は拡大していると述べています。IT部門がリソースの最適化を始めるまで、この傾向は変わらないと考えるべきでしょう。

このシリーズの第2部では、証拠がいくつあれば有罪にできるかについて説明します。引き続きご覧ください。

(出典:Security Intelligence より訳出 “Study: Enterprises Wasting Time, Money Hunting Down False Positives” BY BRIAN FOSTER 2015年2月24日)


ネット販売の拡大から業績が落ち込む店舗販売。これを打開して顧客を店舗に呼びこむため、ユーザーデータから個人個人に合わせた店舗サービスを提供する仕組みを、クラウドファウンディングベースのベンチャー企業eyeQ社が同名の製品とIBMのクラウド技術を使って実現しました。

ソーシャル時代のショッピング

TwitterやFacebook、価格評価サイトの発達など、商品情報はネット上に溢れています。なにか買いたいと思った時、今や多くの人々はネットで必要な情報を自分で集めて購入決定を行っています。実店舗に向かったとしても、ネットではわからない、写真では気づかない部分を確認するだけで、実際には値段の安いネットストアで購入する、という行動も多く見られます。

ショールーム的な扱いになりつつある実店舗型販売ですが、商品を手にとって確かめ、すぐに持ち帰ることができる利点は魅力的です。この利点を活かし、ネットでは味わえないショッピングエクスペリエンスを提供するためのカギは、店内で取得できる膨大なユーザーデータにありました。

あなただけの“コンシェルジュ”データ

店舗に訪れるだけで自分が必要な物や、漠然と欲しいと思っていた商品の情報を示し、勧めてくれるとしたら、買い物の手間がかなり省けることでしょう。スマホで調べる時間や、店内を右往左往する時間を必要とせず、スムーズな買い物を体験できます。

eyeQ社が製造する同名の製品は、顧客個人個人に合わせた“コンシェルジュ”サービスを可能にして、ショッピングのスムーズさだけでなく、満足度を向上させることができます。一見、薄型テレビのように見えるこの製品は、オンボードカメラで顧客の年齢や性別を認識し、店内に設置されたビデオカメラなどから店内での移動場所や手にとったものといった、ショッピングデータをクラウド上で取得します。
そして顧客の年代や性別によってカテゴライズされたデータに基づいて解析することで、嗜好や興味、購買傾向に合わせた情報をディスプレイ上に表示します。タッチパネルとなっているディスプレイを操作することで、顧客は表示された商品の詳細や店内の場所、在庫情報までを知ることができます。

まさにeyeQが顧客の隠された要望に答える“コンシェルジュ”となって、店舗販売の魅力を拡大するのです。また、このサービスで蓄積されたデータから顧客のパーソナリティを把握することで、販売店側にとっても人員配置と顧客の動線を最適化し、返品頻度を減少させ、顧客満足度と信頼感の向上につながります。

eyeQを導入したBRICK & MORTARストアではなんと、1000%もの顧客エンゲージメントの増加、eyeQの補助で全体の14%の顧客は商品購入を決定、ロイヤルティーは9%増加とすばらしい成果をあげています。これからの実店舗型販売には、eyeQのような顧客の要望をとらえて、必要なデータを示すコンシェルジュのようなデバイスが必要なのかもしれません。

photo:Thinkstock / Getty Images

情報技術を駆使して生み出される芸術表現、メディアアート。
日本を代表するメディアアーティストである真鍋大度さんは、「無駄だと思われるデータや作業に、新しい価値をもたらすこと」が、メディアアート的な発想だと語る。

(出典:ProVISION No.83 コグニティブ・コンピューティングが拓く未来 P30-32 ザ・プロフェッショナル コンピテンシーの道程[第47回]より転載 2014年10月31日発行)

 東京オリンピック招致の映像、Perfumeのステージ演出、さまざまなCM・広告クリエイティブなど、幅広い分野で活躍するメディアアーティスト、真鍋大度さん。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作られる作品は、世界で高い評価を受けている。

 「大学時代、数学を学びながら、趣味でバンドやDJなどの音楽活動を行っていました。今ではパソコンやモバイル端末を使ってDJができますが、当時はDJというとアナログレコードやCDが中心で、楽曲を“情報”として扱うことが難しかった。音楽に、数学やプログラミングを組み合わせると面白いのではないかという発想が、僕のメディアアートの活動の出発点になっています」

 子どもの頃から、自分の手で何かを作ることが好きだったという真鍋さん。レッスンを受けていたピアノの知識と、見よう見まねで覚えたプログラミングの技術を使い、MSXでゲームやゲーム音楽を作っては、友達に披露していた。

 真鍋さんの仕事は、大きく分けて2種類ある。広告や舞台演出といったクライアントから依頼される仕事と、自身が興味のあるテーマに基づいたアートプロジェクトだ。前者では、クライアントから提示されたテーマに対して、いかに新しいアイデアでスマートに応えるかが重要になるという。

真鍋大度氏 「例えばPerfumeのオープンソース・プロジェクトは、彼女たちの肖像以外の魅力をアピールするWebサイトを作ってほしい、という依頼をいただいたところからスタートしました。そこで、Perfumeのモーション・キャプチャー・データや楽曲を公開し、ファンがそれを使って2次創作できる環境を用意したのです。その結果、予想をはるかに超える数の人が、その素材を使って映像やサイト、アプリを作ってくれて、Perfumeのファンが多岐にわたる層によって形成されていることが分かりました。自分の作ったものが、2次創作で多様な広がりをみせたことが、とても興味深かったです」

 一方アートプロジェクトの場合には、何もないところから始まる。自身が面白そうだと感じたテーマを見つけ形にしていくわけだが、真鍋さんが最近気にかけているのが「どんなデータを使うと面白いか」ということだ。東京都現代美術館の「うさぎスマッシュ展」に展示した作品も、データに着目した作品だ。同作品では、東証の実際のトレーディング・データを使用し、株式の売買の動きをリアルタイムで可視化・可聴化した。

 「昼休みに入る直前に売買がすごく盛り上がって、昼休みに入った途端、静かになる。トレーディング・データが映像と音に変換されるだけなのですが、それらは人間の営みのようにも見えるし、人間とコンピューターが戦っているようにも見えます」

 無機質な株式のトレーディング・データも、映像や音に変換することで、意思を持った人間のように感じられるわけだ。インターフェースを変えることでまったく違う意味や価値をもたらす、こうしたメディアアートならではのアイデアを、今度はスマートフォンのゲームに応用してみたいと真鍋さんは考えている。

真鍋大度氏 「電車に乗ると、たくさんの人がスマートフォンでゲームをしていますが、ただゲームをするのではなく、一見ゲームをやっているようでいて実は裏側で別の“課題解決”につながっている…といったことができれば、なんだか面白いしエコなのではないでしょうか。ゲームを楽しみながら、それが同時に何かの役に立つような仕組みができれば、時間つぶしのゲームにも違った価値が生まれると思うのです。インターフェースを変えることで、無駄だと思われていたデータや作業に意味を与える。こうしたアプローチが、メディアアート的な発想だと思います」

 真鍋さんは世界各国でワークショップを行うなど、教育普及活動にも力を入れている。単にプログラミングを教えるのではなく、誰もが創作できて発表できるような環境を作りたいと考えているという。「誰もが簡単に創作できる環境を提供してあげて、それを使ってみんなに何かを作ってもらいたい。Perfumeのオープンソース・プロジェクトの時もそうでしたが、必ず僕の予想を超えたものを作ってくれる人がいます。そういう作品を僕自身、見てみたいのです。だれでも参加できて、それでいて深く追求したくなる、そんな環境を提供していきたいと思っています」

 ジャンルやフィールドを問わず、プログラミングを駆使してさまざまなプロジェクトに携わっている真鍋さん。その活動の舞台は日本にとどまらず、世界各国に及んでいる。

 「例えばコグニティブ・コンピューティングや機械学習といった分野は、メディアアートのシーンでも注目されています。そうした最新のトレンドを捉えつつ、誰もやっていないことを見つけることが、世界に通じる道だと思います。アートやエンターテインメントには、言葉の壁を越える力があります。世界に出て行くことで、表現の本当の楽しさが味わえると思います」

 プログラミングと自由な発想によって、見る人に驚きや発見をもたらすメディアアーティスト、真鍋さん。今後、さらに新しい情報技術を取り入れながら、その独創的な作品で世界中に新鮮な感動を届けてくれるに違いない。

まなべ だいと
真鍋 大度

1976年、東京都生まれ。東京理科大学理学部数学科、国際情報科学芸術アカデミーDSPコース卒業。2006年にウェブからインタラクティブデザインまで幅広いメディアをカバーするデザインファーム「ライゾマティクス」を設立。グッドデザイン賞、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞など受賞作多数。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。



膝の痛みに苦しむ人は全国に850万人いると言われる。大部分を占めるのは半月板や軟骨がすり減る「変形性膝関節症」の患者だ。これまで半月板は1度すり減ると2度と元に戻ることはないと言われてきた。そこに真っ向から挑戦し、幹細胞による半月板の再生を目指す医師がいる。東京医科歯科大学再生医療研究センター長の関矢一郎教授だ。
関矢教授が着目したのは、これまで膝の手術でゴミ箱に捨てられていた滑膜。これを培養して大量の幹細胞を採取し、膝の患部に注入して組織の再生を促す。iPS細胞による再生医療とともに国家プロジェクトに選ばれ、2014年8月からは、いよいよ半月板再生の臨床治療がスタートした。
「高価な人工材料や薬品を使わず低コストで、しかも手術の痛みや大きな傷を残さず、できるだけ多くの患者さんを膝痛から解放してあげたい」と言う関矢教授に、再生医療の成果や今後の見通しを聞いた。

前編はこちらから

再生医療の治療を受け積極的にスポーツをされている人も

――「変形性膝関節症の治療が究極の目標」だそうですが、研究は今どこまで進み、見通しはいかがでしょうか。

関矢 変形性膝関節症の患者さんへの再生医療は、正直なところ容易ではありません。その理由は、第一に再生すべき部位が複数あることです。膝にはこまかく分けると、内側、外側、お皿と3つの関節面があり、内側だけとっても大腿骨側の軟骨、内側半月板、脛骨側の軟骨という3層になっていて複雑です。
第二に変形性膝関節症には必ず原因があります。加齢、肥満、アライメント異常(O脚やX脚)、外傷、半月板機能不全、遺伝的要因など多様です。ですから、現状ではすべての変形性膝関節症を再生させることは不可能なのです。しかし、あるカテゴリーの症状なら再生や予防が可能ではないかと考えて、取り組んでいるところです。

その1つに半月板の逸脱があります。半月板の部分切除後、あるいは加齢とともに、半月板が中心からはずれるようになり、逸脱が起きます。すると半月板の機能が低下し、軟骨の摩耗が早くなります。この症状は40~50歳代から多く見られ、変形性膝関節症の大きな原因になっています。関節鏡手術で半月板を元に戻し、細胞移植をすると軟骨が再生することが期待できます。

もう1つの再生医療が可能な症状は、中等度の内側型変形性膝関節症です。典型的な変形性膝関節症では膝の内側の隙間が狭くなります。ひどいと隙間が完全になくなってしまいますが、そこまで行くと人工膝関節しかありません。半月板がまだ残っている場合には、再生医療が可能と考えられます。50歳代の男性のケースでは、骨切術でO脚を矯正するときに細胞移植を行ない、1年後には軟骨が再生しました。この方は積極的にスポーツをされています。

欧米の再生医療に比べ肉体的にも金銭的にも患者に負担が少なくシンプル

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――ところで膝関節の再生医療は海外でも研究が活発ですが、日本の基礎研究や臨床応用のレベルはどのあたりに位置しているのでしょうか。

関矢 よく言われることですが、日本は基礎研究がとても盛んな割に臨床に至るケースは海外に比べて少ないのが現状です。
欧米で行われている軟骨の再生医療は軟骨細胞移植が中心ですが、これにはいくつか問題があります。正常軟骨を採取するので患者さんへの侵襲を伴ないます。さらにコストの問題があり、欧米ではだいたい200万~300万円ぐらいかかります。肉体面でも経済面でも負担がかかります。

日本では軟骨細胞移植に健康保険が使えますが、残念ながら変形性膝関節症には適用になっていません。その理由は、変形性膝関節症の患者さんがあまりにも多いことがあげられます。また部分的に直してもO脚の人や、半月板がない方はまたすぐ悪くなってしまう。ですから何らかの外科的手術と組み合わせなければ、軟骨細胞移植はできません。

そこで、私たちが目指しているのは、患者さんにとって低侵襲でかつコストが欧米よりはるかに安い、そんな変形性膝関節症の再生医療なのです。私たちの方法は培養法が単純で、高価な薬品類や人工材料は使わず、シンプルに行います。

車イスで入院した患者さんが整形外科の治療で元気に歩いて退院される姿に感動

――ところで、関矢先生はどのような理由で整形外科の道に進まれたのですか。また、膝関節の再生医療一筋に歩んでこられた原動力は何だったのでしょうか。

関矢 整形外科を選んだ理由は3つあります。1つは私の祖父が大工で、父が建設業だったことです。ノミとかトンカチとか幼いころから見慣れていて、整形外科もそういうモノを使うので親しみがありました(笑)。

2つ目は若いころから患者さんのクオリティ・オブ・ライフを改善すること、今の言葉で言えば、健康寿命を延伸させることに強い関心がありました。実際、車イスで入院した患者さんが整形外科の治療によって元気に歩いて退院する姿を見ると、いまでも整形外科医になってよかったと思います。

3つ目は、大学受験の浪人中に作家・渡辺淳一さんの『白夜』を読んで、整形外科医の世界に魅力を感じたことです。渡辺さんも整形外科医で、『白夜』は自叙伝です。医学部に入る前から作家になるまでが描かれていて、当時から整形外科医に親近感を覚えていました。ちなみに今は、やはり渡辺さんの『鈍感力』を、つらいことがあるときに読んでいます。

大学病院では医師は専門のグループに分かれますが、私は膝足グループに属しています。再生医療だけやっているわけではなく、人工関節の手術などもしています。臨床医をやっていると、限界を感じることが多々あります。例えば高校生の半月板を切除しなければいけなくて、軟骨がその後、傷むのを目の当たりにしなければならないこともありました。50代以降の人では膝の痛みを訴える患者さんが本当に多い。こういう方たちを何とかしてあげたいという気持ちが、軟骨や半月板の再生医療に取り組む原動力になったと思います。

医学研究は臨床を目指していかないと患者さんに還元されない

――再生医療を志す若い研究者や医師たちに、先輩として一言、お聞かせください。

関矢 常に臨床を意識した研究をすることが大事です。医学研究は臨床を目指していかないと患者さんに還元されません。私は研究者であると同時に臨床医でもあるので、新しい治療法で患者さんを治し、感謝されるような生き方をしたい。そういうときの達成感や充実感は何物にも代えられません。すでに症状が進んだ方は難しいのですが、この方は将来きっと膝が悪くなるなと分かるケースがあります。そういう人をできるだけ早く治療して、変形性膝関節症にならないようにしてあげたいと思います。

テキスト:木代泰之

関矢一郎氏

せきや・いちろう
関矢一郎

東京医科歯科大学 再生医療研究センター長/応用再生医学分野教授(兼任)
1964年生まれ
1990年 東京医科歯科大学医学部卒業
東京医科歯科大学整形外科 医員。その後、整形外科医師として、のべ10カ所の病院で勤務
1996年 東京医科歯科大学大学院入学
2000年 東京医科歯科大学大学院修了
2000年4月 MCP Hahnemann University (米国 フィラデルフィア)留学
2000年7月 Tulane University, Gene Therapy Center (米国 ニューオリンズ)にて研究
ポスドク(Director Dr. Darwin J. Prockop)
2002年7月 東京医科歯科大学大学院運動器外科学 助手
2006年6月 東京医科歯科大学大学院軟骨再生学 助教授
2011年4月 東京医科歯科大学大学院軟骨再生学 教授
2013年4月 東京医科歯科大学再生医療研究センター長 教授
2013年6月 東京医科歯科大学応用再生医学分野 教授 (兼任)


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。



膝の痛みに苦しむ人は全国に850万人いると言われる。大部分を占めるのは半月板や軟骨がすり減る「変形性膝関節症」の患者だ。これまで半月板は1度すり減ると2度と元に戻ることはないと言われてきた。そこに真っ向から挑戦し、幹細胞による半月板の再生を目指す医師がいる。東京医科歯科大学再生医療研究センター長の関矢一郎教授だ。
関矢教授が着目したのは、これまで膝の手術でゴミ箱に捨てられていた滑膜。これを培養して大量の幹細胞を採取し、膝の患部に注入して組織の再生を促す。iPS細胞による再生医療とともに国家プロジェクトに選ばれ、2014年8月からは、いよいよ半月板再生の臨床治療がスタートした。
「高価な人工材料や薬品を使わず低コストで、しかも手術の痛みや大きな傷を残さず、できるだけ多くの患者さんを膝痛から解放してあげたい」と言う関矢教授に、再生医療の成果や今後の見通しを聞いた。

日本で850万人が膝関節の痛みに苦しんでいる

――関矢先生が研究されている膝関節の再生医療は、患者への負担が少なく、全国の膝痛に苦しむ人々から大きな期待が寄せられています。

関矢 膝関節の痛みに苦しむ患者は、日本に850万人いると推定されています。中でも多いのが、加齢、筋力低下、肥満、ケガなどから引き起こされる「変形性膝関節症」で、私たちはこの治療を究極の目標としています。

――高齢者は歩けなくなると認知症が進む傾向があり、超高齢社会を迎えつつある日本では、膝痛患者への効果的な治療は国家的課題の1つとも言えますね。

関矢 高齢者だけでなく、アスリートやスポーツを楽しむ人々の中にも半月板を損傷して、日常生活や運動に支障をきたす人は少なくありません。高齢者になるとその割合が圧倒的に大きくなります。

――そもそも膝関節の痛みはどのようにして起こるのでしょうか。

関矢 膝関節は大腿骨、脛骨、軟骨、半月板などで構成されています。歩いたり走ったりする際の衝撃は、ふつう半月板や軟骨がクッションとなって吸収してくれます。しかし、加齢などで半月板が次第にすり減って変形したり、傷ついたりすると、軟骨がぶつかりだします。半月板は1度すり減ると2度と元に戻ることはありません。そのうち軟骨もすり減り、クッションの機能をしていたものがなくなってくると、大腿骨と脛骨の骨の箇所が直接ぶつかるようになり、骨の知覚神経が刺激されて痛みだします。やがて関節炎が起き、関節液(いわゆる“水”)がたまったり、歩くことも困難になったりするのです。

――予防法はありませんか。

関矢 自分で簡単にできる予防法として、筋力を強くすることがあります。私のところに来られる患者さん10人のうち9人は、体操をすることで症状が良くなります。コツを理解して、1日3分間ぐらい体操するだけでもだいぶ違いますよ。

滑膜に由来する間葉系幹細胞を使った再生医療の治療手順はこうだ

――変形性膝関節症は人が年を取る以上、ある程度、覚悟しなければならない病気だとは思いますが、再生医療でこれをどのように治療するのでしょうか。

関矢 膝関節内は、軟骨と半月板以外を「滑膜」という関節腔を覆う膜で覆われています。患者さんからこの滑膜を約0.5グラム採取します。滑膜組織自体は再生能力が高く、高齢者からも容易に採取でき、日帰り手術も可能です。

滑膜             図提供:関矢一郎教授

滑膜  図提供:関矢一郎教授

その滑膜の細胞を酵素処理した後、あらかじめ患者さんの血液から作っておいた自己血清を使用して14日間培養します。すると、滑膜に由来する間葉系幹細胞を約5000万個作ることができます。

滑膜細胞を自己血清を使用して14日間、培養する。 (以下写真提供:関矢一郎教授)

滑膜細胞を自己血清を使用して14日間、培養する。
(以下写真提供:関矢一郎教授)

治療するときは、この細胞を浮遊液の状態にし、関節鏡で観察しながら注射器で軟骨の欠損部に乗せていきます。注入後に10分間静置すると、約6割の細胞が欠損部に接着します。

軟骨欠損部に注射器の針を刺入したところ

軟骨欠損部に注射器の針を刺入したところ

骨欠損部に幹細胞の浮遊液を10分間静置すると、およそ6割の細胞が軟骨欠損部に接着。残りの接着しない細胞は元の滑膜に戻る。

骨欠損部に幹細胞の浮遊液を10分間静置すると、およそ6割の細胞が軟骨欠損部に接着。残りの接着しない細胞は元の滑膜に戻る。

細胞移植4日後のMRI像。まだ、軟骨欠損部が観察される。

細胞移植4日後のMRI像。まだ、軟骨欠損部が観察される。

細胞移植2カ月後のMRI像。軟骨欠損部が軟骨様の組織ですでに覆われている

細胞移植2カ月後のMRI像。軟骨欠損部が軟骨様の組織ですでに覆われている

軟骨欠損の患者さんであれば、固くなった表面を少し削り、そこに細胞移植します。切開手術では長さ10cmぐらいの傷跡が残りますが、それに比べると、関節鏡手術は膝に小さい傷跡が2カ所できるだけで目立ちません。患者さんの負担は格段に少なく、社会復帰も早くできます。半月板を損傷した患者さんの場合、日本では半月板手術の9割が損傷部分を切除するものですが、周りの軟骨が早く傷むようになります。そこで私たちは損傷部分を手術で縫合し、再断裂のリスクを減らすために縫合部に細胞を移植する試みをしています。半月板の修復効果はMRIで調べて確認します。

半月板の変化が強い患者さんには、人工半月板を移植する試みが海外で行われていますが、私たちは患者さん自身の傷んだ半月板を足場にして細胞移植を行います。自分の半月板を生かすこのやり方は、どんな人工材料を使うより効果的だと考えています。これまで半月板を切除した後に骨髄由来の幹細胞を移植して再生を期待する臨床研究が米国で行われていますが、最初に切除してしまうと患者さんのダメージがとても大きくなってしまいます。私たちの方法は、変性の強い半月板を残して再生を期待する初めての再生医療になります。

臨床試験での成果や実績

――切開手術と違って患者さんの負担が格段に少なく、自分の半月板を生かせるのは何と言っても安心で素晴らしいですね。実際の臨床試験ではどのような成果や実績を上げていらっしゃるのか、具体例でお聞かせいただけますか。

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関矢 40歳代の軟骨損傷の女性では、細胞移植後1年で損傷部分が軟骨様のもので覆われて再生しました。40歳代の骨軟骨欠損(骨ごと軟骨が剥離)の男性の場合は、移植して半年たつと骨欠損が軟骨様組織で覆われ、3年たつと軟骨がきれいな良い形になりました。

大腿骨の軟骨欠損の患者さんに対して、MRIを使用した評価で、多くの方が手術後に改善しました。患者さんの満足度も手術前より良くなりました。中には完全に良くならない方もいましたが、部分的には改善がみられました。また、過去に半月板を広く切除された患者さんの場合は、治り方に限界があることも分かってきました。

何人かの患者さんには抜釘手術の際に関節鏡を入れて患部を見せてもらいましたが、軟骨の薄かったところが厚くなるなどの効果が確認できました。ただ、軟骨の奥の方は軟骨様のもので覆われているのに、表面に近いところは軟骨ではなく繊維組織で覆われることが多いです。このあたりが現在の軟骨再生医療の限界であり、いま各国の研究者がさらに良い方法を開発するために努力しているところです。

滑膜が軟骨に分化しやすいのは発生学的によく似ているから

――滑膜由来の間葉系幹細胞に着目されたきっかけは何だったのでしょうか。他の間葉系幹細胞とどこがどのように違うのでしょうか。

関矢 私は1990年に医学部を卒業し、6年間の臨床トレーニングを経験してから大学院に入りました。 大学院では分子生物学の手法を用いた研究を行いましたが、このころ、軟骨の細胞分化において中心的な役割を担うSox9という転写因子の機能が解明され始めてきました。この転写因子はいろいろな細胞を軟骨に分化させることができるもので、非常に注目されました。また、1999年に米国の科学雑誌「サイエンス」に、骨髄由来の「間葉系幹細胞」に関する報告が大きく掲載され、私は「これからは間葉系幹細胞を使う再生医療の時代になる」と確信しました。

私たちの身体は、母体の中で受精卵から細胞分裂して初期のころに外胚葉、中胚葉、内胚葉の3つに分かれますが、このうち中胚葉からは骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管などが形成されます。間葉系幹細胞というのは、主にこの中胚葉を起源とし、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞などに分化する能力を持っているのです。

そこで2000年に骨髄の間葉系幹細胞の研究が盛んな米国の大学に留学し、骨髄由来の間葉系幹細胞を試験管内で効率よく軟骨に分化させる方法を検討しました。ただ、ここでは神経系の研究がメインだったので、軟骨を専門にするのは私が初めてでした。このため、留学中は骨髄幹細胞をより効率よく体外で軟骨に分化させる方法を検討しました。

留学から帰って、患者さんへの応用に向けて本格的に挑戦したのですが、骨髄由来では安定して細胞の数を確保することができませんでした。そのため、私はどの間葉系幹細胞がいちばん安定して多くの細胞を確保でき、軟骨に分化しやすいのか研究を始めました。

幸いなことに、私は膝の手術にかかわっていたので、滑膜、骨膜、脂肪、筋肉など、関節周りの組織を研究に使用できる環境に恵まれていました。患者さんの承諾を得て、次々と実験していったところ、ついに滑膜由来の間葉系幹細胞が安定して数多くの細胞を獲得でき、軟骨に分化する能力が高いことを突き止めたのです。

実験では、試験管の中に滑膜由来の幹細胞を25万個入れ、10分間遠心すると、底に細胞の塊ができます。その塊にいくつかの薬剤を加えて培養すると、軟骨細胞に分化していくのです。滑膜が軟骨に分化しやすいのは、発生学的によく似ているからです。膝ができる際には空間ができ、そこに軟骨、半月板や滑膜ができます。滑膜は関節の空間を裏打ちする膜ですが、軟骨、半月板と滑膜は発生学的に元をたどれば一緒なのです。

半月板の損傷を修復するには、周囲の滑膜組織を損傷部に誘導することが大切ですが、ブタを使った実験により、幹細胞がそうした機能を果たして修復を促進していることを証明できました。患者さんの治療は2008年に軟骨欠損のケースから始め、2014年8月からは半月板損傷の患者さんの治療を開始しました。

滑膜はゴミとして捨てられていた

――滑膜というのは整形外科ではふつう手術室のゴミ箱にゴミとして捨てていると聞きますが、本当ですか。

関矢 そうです。もともと滑膜自体にはあまり良いイメージはありませんでした。例えばリウマチの患者さんでは滑膜が増え、軟骨や骨を溶かしていくので、以前は「滑膜などなくてもいい」という考え方がありました。実際、リウマチ患者さんには滑膜切除術という手術を行うこともあります。

しかし、膝の再生医療に滑膜を使うからといって、リウマチになる危険性はありませんのでご安心ください。実は膝関節の患者さんから抜く関節液の中には、滑膜由来幹細胞に似た幹細胞がたくさん含まれています。人間の身体には、膝の軟骨、半月板、靭帯を傷めると、滑膜から関節液を介して幹細胞が移動し、患部に接着して自己治癒をするという機能が備わっているのです。小さい損傷が自然に治るのは、この機能が働くからと考えられます。ですから少し水が溜まったぐらいで、むやみに抜くのはお勧めできません。

ただ、このとき動員される間葉系幹細胞の数は限られているので、大きく損傷した場合などは、自然に治るのには限界があるのです。そこで、滑膜由来の間葉系幹細胞を培養して数を増やし、損傷部に移植して治療するというのが、再生医療を使った私たちの治療法なのです。

テキスト:木代泰之

後編はこちらから

関矢一郎氏

せきや・いちろう
関矢一郎

東京医科歯科大学 再生医療研究センター長/応用再生医学分野教授(兼任)
1964年生まれ
1990年 東京医科歯科大学医学部卒業
東京医科歯科大学整形外科 医員。その後、整形外科医師として、のべ10カ所の病院で勤務
1996年 東京医科歯科大学大学院入学
2000年 東京医科歯科大学大学院修了
2000年4月 MCP Hahnemann University (米国 フィラデルフィア)留学
2000年7月 Tulane University, Gene Therapy Center (米国 ニューオリンズ)にて研究
ポスドク(Director Dr. Darwin J. Prockop)
2002年7月 東京医科歯科大学大学院運動器外科学 助手
2006年6月 東京医科歯科大学大学院軟骨再生学 助教授
2011年4月 東京医科歯科大学大学院軟骨再生学 教授
2013年4月 東京医科歯科大学再生医療研究センター長 教授
2013年6月 東京医科歯科大学応用再生医学分野 教授 (兼任)


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IBMが未来を担う学生を対象に行うイベント、IBM Future Leaders Forum 2014が、東北(仙台)、西日本(広島)、関西(京都)、中部(名古屋)の全国4カ所で開催され、多数の学生が来場した。その中から昨年12月に名古屋市内のホテルで行われた中部会場をピックアップして、セッションやパネルディスカッションをレポートする。

世界はますます近くなり
一人ひとりが変化を起こしていく時代

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役専務執行役員・エンタープライズ事業本部長 藪下真平「未来が見える。テクノロジーが社会を変える―― Technology, building smarter society」と冠したIBM Future Leaders Forum 2014。

冒頭の挨拶に立った日本アイ・ビー・エム株式会社取締役専務執行役員・エンタープライズ事業本部長、藪下真平は、自身が1985年に新卒として日本IBMに就職してから今日までの体験してきたことを振り返り、「過去の30年間より、これからの30年間のほうが、テクノロジーの変化は速くなる。企業の変化も同じ。日本では、国内での社会の動きやマーケットシェアを考えて日々生活することが多いが、日本と世界、両方の視点を持つことが大事」と、企業を取り巻く環境がグローバルに変化したこと、また今後テクノロジーの変化がますます加速していくことを語った。

そして、これまでの仕事を通じた気づきとして、これからの時代を担う人材に求められるのは、第1に大きな視野を持つこと、第2に、将来に向けて変化を予測すること、第3に変化に対して自らが対応する、リーダーシップを備えた人材になること、この3つであると呼びかけた。

未来に向かって変化を起こすために
ITの専門家がキーマンとなる

続いて行われたパネルディスカッションは、「ビッグデータがもたらす豊かな価値」をテーマに、名古屋大学の副総長・教授で未来社会創造機構長の松尾清一氏、名古屋大学医学部附属病院の病院長補佐・病院教授でメディカルITセンター長の白鳥義宗氏、モデレーターを務める日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員・研究開発担当の久世和資の3名が登壇した。

パネルディスカッションの様子

左からモデレーターの日本アイ・ビー・エム 久世和資、名古屋大学 副総長・未来社会創造機構長 松尾清一氏、名古屋大学医学部附属病院 病院長補佐・メディカルITセンター長 白鳥義宗氏

松尾清一氏

名古屋大学 副総長・未来社会創造機構長 松尾清一氏

このパネルディスカッションに先立って、イタリアの過疎の村がITを活用している様子がビデオ上映された。ビデオを見た松尾氏は、「超高齢化が世界でも進む現在、これからの日本社会をいかに活力あるものにしていくかという点で、テクノロジーや社会システムが果たす役割が問われている」と会場に語りかけた。

松尾氏が率いるのは、産官学からさまざまな分野の知恵と人材を結集し、名古屋大学が推進する未来社会創造機構だ。その特徴は、「10年後、20年後の日本のあるべき姿をまず描いて、それに到達するために、何をすべきかを考えるバックキャスト的な思考、つまり現在からの予測や予想基づくフォーキャストの反対の思考法」であると言う。「描いた『未来』のために必要な技術を開発しようというのが、我々の考え方である」

バックキャストの考え方が求められる背景にあるのは、日本の予測される近未来像だ。「30年後は労働人口が減って現役世代1人あたり高齢者1人を支えなければならない。当然GDPも減る。未来の日本を活力ある社会にするために、社会のシステムはどのようになっておくべきかを考え、やるべきことを実践していく」。様々な分野の人材が恊働して行うオープンイノベーションで、社会変革をデザインする未来社会創造機構のあり方が、これからのキーパーソンとなり得る若者のヒントになるのでは——。松尾氏の語り口からは、これからの時代を担う若者へかける期待度の高さが伺われた。

白鳥義宗氏

名古屋大学医学部附属病院 病院長補佐・メディカルITセンター長 白鳥義宗氏

一方、名古屋大学医学部附属病院のメディカルITセンターの責任者として、医療現場におけるITによる改革を特に推進している白鳥氏は、自身が医者になってから20年ちょっとの間に、「高齢者の重傷の患者さんが約2倍に増える一方で、病院の数は2倍になっているどころか、逆にベッドの数は減っている。医者の数、看護師さんの数は、日本は世界的に見ても少ない」と指摘。

「これからは医者だけで医療を支えるのは難しく、病院の中だけではなく、地域で、さまざまな専門家が関わることが求められる。そこで求められるのが『チーム医療』という考え方で、あり、地域の人々にも入ってもらって一緒に医療を行っていこう、という流れが生まれている。その際、皆で情報を共有しなければならず、ITが担う役割は大きい。ITの専門家が、実はキーマンになるのではないか」

そこで求められるのが、これまでの常識を破る、大胆な発想法だ。「小さく凝り固まっていた日本を、今、大きく変革させることが求められている」と白鳥氏は熱く語った。

データは「集める時代」から「活用する時代へ」
そのために必要なのは、幅広い勉強

パネルディスカッションの後半では、新生児が問題を抱えて生まれてくる事態を、ビッグデータを活用して予測するシステムを作った海外のIT専門家を紹介するビデオが上映された。

この事例において、松尾氏、白鳥氏の両氏が注目したのは、病院現場で改革を起こしたのが、医療の従事者ではなく、ITの専門家だったという点だ。

たとえば、松尾氏のいる名古屋大学では、現在、情報と農業を融合させたIT農業が行われており、「情報学の先生と、農業の先生とが一緒になって取り組んでいる」と言う。これは農林水産省が推進する異分野融合事業であるが、今後、社会構造改革のために異分野の専門家によるコラボレーションがますます求められる中での、高まるIT人材に対する期待をあらわす事例の1つと言える。

さらに「教育現場でも、テクノロジーが果たす役割は増大している」と松尾氏は言い、「これからITをどのように使っていくのか。ITの活用にあたっては、権利や社会のルールの問題が存在し、かつ未来を想像する力も必要となる。情報学は非常に奥深いものであり、単なるテクノロジーを扱う学問ではない。データの量はものすごく増える一方で、人間の能力は限られており、今後ますます、技術に対する考え方も重要になってくる。ITに興味があって今日この会場に足を運んだ皆さんには、ぜひ、幅広い勉強をしてもらいたい。そして情報社会を正しく作っていく素晴らしい人材になってほしい」と締めくくった。

一方、白鳥氏は、「新しいアイデア、いい切り口があると、ITによって世の中が大きく変わる。それによって、医療も変わり、人を救うことができる。その際、重要なのは、データの中で、何が真実なのか、という見極めだ。ビッグデータをいうと、集めることに目が行きがちだが、データをいかに活用するかが重要であり、いわゆるスマートアナリティックスと言われる、データをどういう切り口で、どう解析するか、といったアイデアが求められる。それによって医療も変わる」と語り、「これからまさにITが活躍する時代。ぜひ、たくさんのアイデアを出し、新たな発見をし、人を助けられる人材になってほしい」と来場した学生たちにエールを送った。

パネルディスカッションの様子

最後にモデレーターの久世氏から、総括としてIT人材の重要性に触れつつ、「今勉強していることと違った分野にチャレンジすることが特に大切です」と未来の社会を担う学生たちに向けてメッセージを送り、パネルディスカッションを終えた。会場の別フロアでは、IBMの基礎研究による最先端テクノロジー(Watson)をロボットとのインタラクションに応用したデモや、IoT(モノのインターネット)を支える実際のソリューション事例を展示。興味を持った学生が真剣に質問する姿も多く見られた。

※登壇者の所属組織、お役職は2014年12月9日時点のものです

展示の様子

text:野田香里


2014年の全米オープンテニストーナメントで、ある挑戦的な試みがなされました。IBMと、米国のミュージシャンで音楽プロデューサーのジェームス・マーフィー氏が行った、試合データから音楽をつくるUS OPEN SESSIONSプロジェクトです。

試合データを音楽に変えるアルゴリズム

試合データを音楽に変えるという試みを実現させたのは、マーフィー氏とIBMが開発したコンピューターアルゴリズム。開発には、IBMの、数年間におよぶデータ集めと解析という地道な努力と、マーフィー氏の持つ音楽的感性と経験の相乗効果が必要でした。

このアルゴリズムを通して、今回の全米オープンテニス187試合でのボールの動きや歓声、選手の雄叫びや試合動向などのデータが、400時間にもおよぶ音楽データへと生まれ変わりました。試合中の音や雰囲気がすべて、電子音楽に置き換えられたのです。
そして現在、そのすべてが視聴できるだけでなく、中でも選りすぐりのリミックス12曲にマーフィー氏のさらなる手が加えられ、「Remixes Made With Tennis Data」というアルバムとしてIBM SoundCloud上で無料試聴可能になっています。

聞いているだけでもイメージが描ける音楽

驚くべきことに、このデータから音楽への変換はリアルタイムで行われ、試合中に試合を見る余裕がない人でも、試合を”聞く”ことで、音楽から試合を想像しながら楽しむことが出来たのです。中でもリミックスのうち2曲については、マーフィー氏が、音楽から試合をどう捉えられるか興味深いコメントをしています。

Match 104 Remix
「試合開始当初、どちらに転ぶかわからないゲームでした。その試合展開にインスパイアされるように、この曲もバランスのとれたビートで始まります。選手に共鳴するようにリード音もなく、試合に差がつきはじめる後半まで音楽は安定したペースで脈打っています。そして、やわらかく高いホイッスルの音で、敗北した選手をコートの外に誘うようにして終わります」

Match 4 Remix
「8月25日に行われたこの試合のように、若手選手が第一シード選手を破るときには、必ずいくつかのノイズが発生します。そして、この場合のノイズは栄誉の象徴です。シンプルで甘いオープニング音は徐々に変化し、意外なほど強く熟成したサウンドへと変化していきます。そしてどこからともなくビートが湧き、力強い新たな方向性を持つトラックとなります」

マーフィー氏の次なる関心は、雑多な音が不協和音を奏で続けるニューヨークの地下鉄に向かっています。不協和音の発生源である、改札機が鳴らす電子音を調和の取れた音とすることで、混雑する改札での不快感を取り除こうというプロジェクトです。マーフィー氏のチャレンジは、これからも、私たちが想像もしていなかった場面で広がっていきそうです。

photo:Thinkstock / Getty Images


日本は世界でも類いまれなる森林大国だ。四季に恵まれ、夏は高温多湿な風土で樹木がよく育つ。その自然を利用した林業は、かつて日本の代表的産業だったが、戦後は安い輸入材に押され、国産材による供給率が少なくなった。それでも、国土の7割を森林が占め、今でも先進国ではトップクラスの緑の国土を誇っていることに変わりはない。
私たちにとってそんな身近な「木」という天然資源が、いま、夢の材料として大いに注目され始めているのをご存知だろうか。その材料とは、「セルロースナノファイバー」。植物の構造の骨格を成している基本物質「セルロース」をほどいて再構成した繊維材料、それがセルロースナノファイバーだ。
「セルロースナノファイバー」は、炭素繊維(カーボンファイバー)の6分の1程度のコストで、車のボディから家電製品まであらゆる工業製品の材料になる可能性を秘めている。
この新材料が社会で本格的に活用される時代を迎えれば、日本はまさに再生可能な資源大国になるといった未来像さえも描ける。
そこで、この夢の新材料の生みの親、京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授に、セルロースナノファイバーの研究開発のいきさつから実用化に向けた道筋、そしてその“先”に見えているものを語っていただいた。

前編はこちらから

評判と実質の一致に向け、今はまだ解決すべき課題が残っている

2001年に鋼鉄の強度を超えてから14年あまり。セルロースナノファイバーの実用化が間近に迫っている雰囲気が出はじめている。企業がセルロースナノファイバー量産への道筋をつければ、あとは夢の材料が実用化される日を待つばかり、とつい思ってしまう。 だが、矢野教授は、そんな今の雰囲気を「まだ羊頭狗肉の状況」と表現する。素晴らしい機能ばかりが注目されているが、実用化までにはまだ解決すべき技術的課題がいくつかあり、現状は評判と実質が一致していないと率直に語る。

「実際は大変です。たとえば、セルロースナノファイバーをプラスチックに配合して、これを自動車用材料などに使えば、軽くて安くて使い勝手のよい自動車が実現することになります。ところが、大部分のプラスチック材料は油分でできています。一方のセルロースは植物中では水と親和性が強い。油と水の性質のものを混ぜても、サラダドレッシングと同様、なじんでくれないのです」

この課題に対しては、矢野教授の研究チームの一員である京都大学の中坪文明名誉教授が、プラスチックとセルロースナノファイバーの相溶性を高めるための化学修飾の技術を研究開発しているところだ。有効な解決が期待される。 透明化できることを考えると、ガラス材の代替材あるいは配合材としての用途も考えられる。

「ガラスと置き換えられたら、確かに面白いですね。でも、車のフロントガラスを代替するのはまだ難しい。厚みをもたせながら透明感を出さなければならないし、ワイパーが動いても削られないようにしなければなりません」 矢野教授は「まだ本当のところは完成度は高くありません。知恵を絞っていますが、今はまだ解決すべき課題は残っています」と語る。

“作り手”の思いにさらに寄り添い、自然の力を借りて、日本人ならではの材料作りを

yano_2-1研究者として根源的に持ち続けている「“作り手”の思いをどのように形にしていくか」という考え。矢野教授はこの考えを強調する。 「自然の力をどう借りるかが、基本的な考え方です。人が開発した炭素繊維や金属、セラミックスとはだいぶスタンスが異なると思います。 材料を作る過程のうち、一番大変なところである99.9%は植物が既にやってくれています。残りの0.1%を人間の知恵を一所懸命出すことで材料としての形に変えて行く。セルロースナノファイバーとはそういう素材です」

“作り手”の思いに本気で従っていることを感じさせる、こんな発言も飛び出した。
「植物がどうなりたかったのか聞いた結果として、強くなるという方向が見えたため、今は植物が創りだした力を借りて、セルロースナノファイバーという形にしています。でも、この研究をずっと続けるかは分かりません。“作り手”の植物からすれば、完成度が最も高いのは樹木の状態なのです。そこからブレークダウンした構造体であるセルロースナノファイバーは、人間にとっては使い勝手がよいけれど、“作り手”からすればあくまで1つのパーツに過ぎません。だから将来的には、木材というより高次な構造体から、ハイパフォーマンスな材料を創り出せたらなとも思っているのです」

すでに私たちは、構造体からすれば木材という高次の材料を使って、家を立てたり、家具を作ったりしてきた。だが、矢野教授の頭の中には、そうした木製品よりもさらに“作り手”の思いを活かせるような材料の姿があるようだ。 「従来の木製材料で、自動車を作りました、飛行機を作りましたというような、エコを前面に押し出すような感じではありません。研究としては、セルロースナノファイバーよりももっと先のものを作りたいという気持ちはあります」

矢野教授の示すこうした考え方は、同じセルロースナノファイバー関連の材料を研究する世界の研究者とも一線を画すものだ。それは、自然にある資源を搾取しようとするのではなく、使わせてもらうという日本人の感性がストレートに研究姿勢に反映されたものといえよう。

「人間が自然を支配するという感性だと、自然に対する驚き、つまりセンス・オブ・ワンダーは生まれてこないと思います。世界初のものを作り出して、海外の研究者から『どうしてお前はこれをつくったんだ』と聞かれたら、『私はジャパニーズだから』と答えられたらうれしいなと思っています」

text:漆原次郎

矢野浩之氏

やの・ひろゆき
矢野浩之

京都大学生存圏研究所生物機能材料分野教授。農学博士。
長野県松本市出身。1982年3月、京都大学農学部林産工学科を卒業。1984年、同大学大学院農学研究科修士課程林産工学専攻を修了。1989年に論文により農学博士を取得。1986年から京都府立大学農学部助手、1992年から同大学講師を務める。1998年に京都大学木質科学研究所助教授に就任。2002年に秋田県立大学木材高度加工研究所客員助教授。2004年より京都大学生存圏研究所教授。主にバイオ系ナノ材料の研究・開発に力を注ぐ。2000年から植物の基本骨格物質となるセルロースナノファイバーを用いた材料開発を進める。研究分野はセルロース、ナノファイバー、ナノ材料、バイオマス、木材。
日本木材学会や日本材料学会、セルロース学会などに所属。ナノセルロースフォーラム会長。1989年に日本木材学会奨励賞、2005年にセルロース学会林治助賞、2009年に日本木材学会賞を受賞している。

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