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江幡哲也

日々生活をしていく上で不安や知識不足を感じ、誰かにアドバイスを求めたいと思うことは多い。そんな時、さまざまな分野の専門家による有用な情報を提供してくれる総合情報サイトとして、圧倒的な支持を得ているのが「All About」だ。900人ものその道の専門家が、インターネットを介して、マネー、住宅、暮らし、健康、ビジネスから旅行や恋愛まで、多岐にわたる疑問や悩みに応え、情報を提供してくれる。
創業者は、かつて「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれた江幡哲也氏。㈱リクルートにはエンジニアとして入社し、その後営業や経営戦略を担当し辣腕を振るった経験を持つ。
近年、株式会社オールアバウトは人々の生活をより豊かにしたいと、新たに試供品を格安で提供する「サンプル百貨店」や生涯学習の場を提供し、最近では中古車の個人間売買にも進出している。
少子高齢社会や国内市場の縮小の中で、同社の売上高はこの3年間で2.4倍と好調だ。江幡社長はビジネス・チャンスをどのように見いだし、発展させてきたのか。その軌跡や発想の秘密を語ってもらった。

前編はこちらから

ITを利用して世の中を変える側になりたいとリクルートに入社

――ところでリクルート社は創業以来、「新規ビジネスに積極的に取り組むことが当たり前」というベンチャーの気風があったと思います。江幡社長がリクルート社に入社された動機は何だったのですか。

江幡 リクルートに入社した29年前は通信自由化が叫ばれていて、私はコンピューターや通信、今でいうIT系に大変興味がありました。武蔵工業大学(現 東京都市大学)電子工学科では、同級生のほとんどがメーカーの研究所や現場に就職しましたが、私はITを駆使して世の中を変える側の会社に入りたいと思っていたところ、リクルートが通信事業に参入すると聞いたのです。

実家は中小企業で私は長男でしたから、いずれ家を継ぐことが周囲から期待されていました。そのためには、若いうちに厳しい会社でいろいろな仕事を経験できて、実力を付けておく必要がある。リクルートはそうした条件に合っていた。

当時のリクルートは小さい会社で、私は700人もの大量採用の1期生でした。社員の3分の1が新人という状況で、新人が経営を語っているという、若くて勢いのある会社でした。飲みに行っても24時間、仕事の話ばかり。身体はきつかったですが、面白くて仕方がなかった。

100件もの事業企画を手掛けた「リクルートの立ち上げ屋」
ついに、オールアバウトの創業社長に

――「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれていたそうですね。オールアバウトの立ち上げにはどのような経緯があったのですか。

江幡 入社後は情報通信ネットワーク事業のエンジニアを皮切りに、営業などあらゆる職種を経験しました。98年に経営企画の戦略リーダーになったときは、リクルート全体がインターネット対応を迫られており、新規投資や既存事業の見直しなど100件を越える企画提案をしました。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(後編)

今のオールアバウトのようなアイデアは1996年ごろから温めていましたが、実際に始めるにはブロードバンドが普及する99年まで待たねばなりませんでした。リクルート自身での事業化も考えましたが、かなりの先行投資が必要で、リクルート伝統の短期高収益型ビジネスとはちょっと違う。そこで自分で独立してやろうと考え直しました。

ちょうどそのころ、アメリカで似たようなビジネスを手掛けるアバウトドットコムという会社が注目されていました。
そこで私は、さっそくニューヨークの本社に飛び、時にはケンカ腰になるほど真剣な議論を重ねた結果、対等なジョイント・ベンチャーで手を組むまで漕ぎ着けることができました。2000年の創業と同時にリクルートを退社して社長に就任したのです。

「企業」が「個人」にモノを売る時代のビジネスから
「個人間売買」の時代に照準を当てたビジネスを

――2014年7月には中古車の個人間売買をサポートする会社「カーコン・マーケット」を設立されています。車の個人間売買はこれまであまりないビジネス・モデルですが、どういう狙いがあるのですか。

江幡 インターネットは情報のやり取りを革新してきましたが、今やモノを作る、モノを売る過程の構造まで変えるフェーズに来ています。当社もそこに事業領域を広げていく必要があり、チャンスがあると考えています。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(後編)

企業が個人に売っている今の形を個人間売買に変えれば、流通の中抜きができてムダを省けます。受注生産による無在庫、自分仕様(カスタマイゼーション)、低価格という3つが成り立つことがこれからのマーケティングの理想です。

「カーコン・マーケット」は、板金修理店を全国に800店展開している「カーコンビニ倶楽部」との共同で設立しました。中古車を個人間で売買すると、車両本体には消費税がかからず中間コストを減らせるので、売る側は高く売れ、買う側は安く買える利点があります。個人間売買はこれから拡大する分野で、消費税が高いドイツでは中古車の多くが個人間売買と言われています。
ただ、車の売買には信用が不可欠なので、カーコンビニ倶楽部さんには高度な査定をしていただき、ローン手続きなどは金融機関の協力でネット上で完結する仕組みです。

また、中古の戸建てやマンションのリノベーションも、家族構成の変化や少子高齢化で住宅が余っていますから、今後は有望なビジネス対象だと思います。

失敗を恐れ、チャレンジをしない人には
成功のチャンスもめぐって来ない

――国内市場を中心にお話をお聞きしましたが、アジアの発展などグローバル化の大潮流が起きる中で、今後の海外展開をどのように考えておられますか。

江幡 すでに2つの取り組みを始めています。1つはグローバル向けのPRで、政府や官庁などが日本の良さを世界に伝える「HIGHLIGHTING JAPAN」という広報誌の編集を受託しています。これまで同誌には外国人の視点がやや少なく、誌面デザインもネイティブが読みやすいものではありませんでした。

もう1つは先生を育てる生涯学習ビジネスの海外展開です。アジア新興国の中間層にニーズがあることが分かったので、台湾では現地企業と提携してすでにスタートしています。タイでも時間に余裕のある日本人駐在員の奥様たちが先生として教え始めています。

――近年、若者が起業したり、企業内で新規事業を立ち上げたりするケースが増えています。有言実行で成功された先輩として、アドバイスをお願いします。

江幡 学生に就職や起業について話をする機会がよくあります。起業を希望する人はそう多くないですが、熱心な人はいます。気持ちがあるなら、できるだけ早めに個人としての力を付けて、チャレンジするよう勧めています。
失敗を恐れ、チャレンジをためらってばかりいる人には、成功のチャンスもめぐって来ません。

テキスト: 木代泰之

江幡哲也

えばた・てつや
江幡哲也

株式会社オールアバウト 代表取締役社長
1965年、神奈川県生まれ。1987年に武蔵工業大学(現東京都市大学)を卒業し、株式会社リクルート入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げ成功させ、社内外から 「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれるように。その間、1993年には早稲田大学ビジネススクール修了。2000年6月に株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現オールアバウト)を設立し、総合情報サイト「All About」をスタート。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。著書に「アスピレーション経営の時代」(講談社)。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


日々生活をしていく上で不安や知識不足を感じ、誰かにアドバイスを求めたいと思うことは多い。そんな時、さまざまな分野の専門家による有用な情報を提供してくれる総合情報サイトとして、圧倒的な支持を得ているのが「All About」だ。900人ものその道の専門家が、インターネットを介して、マネー、住宅、暮らし、健康、ビジネスから旅行や恋愛まで、多岐にわたる疑問や悩みに応え、情報を提供してくれる。
創業者は、かつて「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれた江幡哲也氏。㈱リクルートにはエンジニアとして入社し、その後営業や経営戦略を担当し辣腕を振るった経験を持つ。
近年、株式会社オールアバウトは人々の生活をより豊かにしたいと、新たに試供品を格安で提供する「サンプル百貨店」や生涯学習の場を提供し、最近では中古車の個人間売買にも進出している。
少子高齢社会や国内市場の縮小の中で、同社の売上高はこの3年間で2.4倍と好調だ。江幡社長はビジネス・チャンスをどのように見いだし、発展させてきたのか。その軌跡や発想の秘密を語ってもらった。

人々のニーズに的確に応えられる専門家の情報を幅広くネットで伝えたい

――「オールアバウト」のコーポレートサイトにある社長メッセージで、「不安なく、自分らしく、賢く生きる生活者の役に立ちたい」と創業の志を語っておられます。これはどのようなお考えから出たものでしょうか。

江幡 今の日本を見ると、先々に不安を感じている方が実に多い。特に東日本大震災の後はそうです。一方で、誰もが自分らしく生きたい、賢くいろいろな情報を調べて損をすることがないように暮らしたい、何か機会があればチャレンジしたいと願っている。この「不安なく」「自分らしく」「賢く」という3点に、人々の生活のニーズは集約できると思うのです。

また、世の中にはさまざまな分野の専門家たちが豊富な知識や経験を持っています。それなのに、情報がその人の中だけに閉じられていることが多い。それは社会全体で考えると大変もったいない。その情報を多くの人に伝えることができれば、必ず役に立つはずです。ちょうどインターネットという素晴らしい道具ができた時期だったので、その仕組みを作ったわけです。

専門家たちは「ガイド」としての自分のポジションを
ネット上で確立でき、活躍の場も広がる

――サイトを拝見すると、テーマ数が実に多岐にわたり、専門家の人選も充実していることに驚きます。

江幡 テーマ数は今1300ぐらいですが、日々増やしています。あくまで生活のハウツー情報が中心で、新しいニーズを科学的な手法を使って取り込むようにしています。簡単に言うと、検索エンジンで高い頻度で検索されているワードを調べ、ビジネスとの関係も踏まえて優先順位を決めて選びます。その分野に専門家がいなければ、育てることもします。当面の目標は2000テーマぐらい。範囲は「揺りかごから墓場まで」網羅しますが、いくらネットの受けが良くても芸能、アダルト、スポーツニュースは極力扱いません。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(前編)

私たちが「ガイド」と呼ぶ専門家は約900名います。自分なりのコンセプトに基づいて有益な情報を発信してくれますが、名前と顔をネットにさらして発信するわけですから時に批判もあり、結構苦労されています。でもなぜ皆さんが頑張っているかと言うと、人の役に立つ喜びがあるし、その道の専門家としてのポジションをネット上で確立できるからです。

私たちも、ガイドの方をテレビ番組のコメンテーターとして使ってもらえるよう関係を付けたり、本の出版をお手伝いしたり、企業の商品発表会に出席したりできるよう努めています。互いに持ちつ持たれつの関係がうまくできていて、今では「こういうテーマでガイド募集」とサイトに掲載すると、多くの方が手を挙げてくれます。

リーマン・ショックや3.11を機に収益源を広告から個人に転換

――情報サイトの業界では、創業したものの成長できずに撤退したケースも多くあると聞きます。オールアバウトの経営はずっと順調に伸びてきたのですか。

江幡 いろいろ紆余曲折がありました。当社の収入源は創業以来、企業からいただく広告が主な収益源でした。サイトには、これを知りたいというニーズが明確なお客さまが来るので、それに関連する商品やサービスをアピールしたい企業さんを結び付けています。いま流行りの「コンテンツ・マーケティング」を、我々は当初からやっていたわけです。 

しかし、2008年にはリーマン・ショックが起きて広告が激減し、2011年の大震災の時も1年ほどは経営が大変でした。その経験から広告のみに依存するビジネス形態は良くないと判断し、4年前に中期経営ビジョンを練り直したのです。

中期ビジョンでは「企業からいただく広告の売り上げを全体の2分の1にし、その分、個人からいただく売り上げを2分の1まで増やす」と宣言し、3年後に目標を達成しました。2015年3月期の売り上げは63億円で、3年間で2.4倍に伸ばすことができました。今は拡大基調に入っています。

サイトの月間総利用者は3360万人(スマートフォン、モバイル含む)です。2013年夏にはスマホからのページビュー数がパソコンを超え、現在では全体の6割がスマホからのアクセスです。

メーカーも消費者もオールアバウトも
皆がWin Winのビジネスへ

――個人からの売り上げというと、具体的にはどのようなビジネスなのでしょうか。

江幡 1つは「サンプル百貨店」という、会員制で「お試し買い」をやっていただくEC(電子商取引)サイトです。食品・飲料メーカーなどが新商品を出すとき、会員はそのサンプル、と言っても流通されるものと同じ商品を市価の半額以下で購入して試すことができる仕組みです。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(前編)

元々は買収した会社(現オールアバウトライフマーケティング)がやっていたビジネスでした。その当時は「メーカーがお金を出し、会員はサンプルを無料でもらう」というビジネス・モデルでしたが、自宅へのサンプル配送料がかさむために利益が出ず、業績は伸び悩んでいました。
私たちはそれを、「企業からはお金をもらわず、配送料と当社利益を加えた価格で会員にサンプルを試し買いしてもらう」というモデルに180度変えたのです。価格は格安ですが、会員は同じ商品を1回しか買えないようにして、2回目からは店頭で買っていただきます。
つまり企業はサンプルを無償で出すだけ。当社は販売促進のお手伝いをする。これが倍々ゲームで成長し、商品は酒や薬にも拡大。会員は100万人近くまで伸びています。今では本体の情報サイトの売り上げを抜くまでに成長しています。

サンプルを購入した会員が感想をブログなどに書く仕組みも作りました。中には私たちが「プロシューマー」と呼ぶ、商品開発に参加するぐらいの意気込みの方もいて、企業はその意見を商品開発に生かします。

地方、女性、モノづくりという
日本の重要課題に資するプラットフォーム

――まさに企業と個人が共に協力してイノベーションを生みだすプラットフォームを提供する、ということですね。

江幡 もう1つの個人向けビジネスは、手芸領域での先生を育成するという生涯学習のモデルです。これも買収した会社(現オールアバウトライフワークス)が手掛けていたもので、主婦の方たちが「好きを仕事にする」というコンセプトの下で、ジュエリー、クラフト、お花などを学び、やがて自らも先生になっていく。自宅で教室を開けるように技能、教本、道具立てをすべて提供しています。
42講座あり、すでに2万4000人の先生が生まれています。全国津々浦々に広がり、女性が活躍し、モノづくりもあるという、日本の3つの重要な視点をすべて備えています。

業界の不合理や不条理を排し
社会のイノベーションを促す会社になりたい

――社長メッセージの中に「業界の構造を知る中で、たくさんの不合理や不条理があることを目の当たりにした」とあります。それは具体的にどのようなものだったのですか。

個人を豊かに、社会を元気に。 ――1人ひとりが「自立と自律」をして活躍できるための情報を(前編)

江幡 私はリクルート時代に事業立ち上げを数多く手掛けてきました。コスト構造を分析してみると、ムダが多いとか値段が高いとか、なぜ改善できないのかとか、いろいろな不合理がありました。不条理というのは、社会の既得権益とか、時代遅れなのに慣習として残っている仕組みなどで、これらがイノベーションの障壁となっています。
オールアバウトは、世の中がイノベーションを起こすのをお手伝いする会社になりたい、業界のコスト構造を変えたい、権益を突破するよう頑張っていきたいと考えています。

――その改革の道具としてインターネットの活用があるわけですね。

江幡 インターネットで顕著に起きたことは「知の流通」、つまり口コミです。その量や鮮度が増す一方、匿名だったり、いい加減な情報であったりするので、使う側にリテラシー(利用する能力)が求められます。これまで専門家の情報は、本や新聞で読むとか面談で得るしかなく、コストが高かった。オールアバウトはそれを100分の1のコストで提供できるよう構造を変えたのです。

これからは個人の「自立と自律」。
的確な情報を得て、自分で強くなるしかない

――日本は超高齢社会に入り、国の社会保障や企業の終身雇用が揺らいでいます。江幡社長は個人の「自立と自律」による「世直し」を訴えておられますが、その思いを聞かせてください。

江幡 「失われた15年」とよく言われるように、戦後社会を支えてきた仕組みが根底から崩れつつあります。終身雇用はなくなり、退職金も不確か。健康保険は負担増が進んでいる。消費税率は15~18%に上げないと財政は理論上成り立たなくなっています。

それなのに人生の基盤である「お金」「健康・医療」「職・キャリア」の3つについて、学校では何も教育してくれません。その辺は国や企業が守るから大丈夫だという理屈だったからです。
これからは自分で気づいて知恵を蓄えておかないと、人生を楽しむどころではありません。自分で強くなるしかないのです。それが「自立と自律」。こういう基本的な構造を変えていかないと、世の中は変わりません。オールアバウトが生活情報を重要視しているのはそのためです。

テキスト: 木代泰之

後編はこちらから

江幡哲也

えばた・てつや
江幡哲也

株式会社オールアバウト 代表取締役社長
1965年、神奈川県生まれ。1987年に武蔵工業大学(現東京都市大学)を卒業し、株式会社リクルート入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げ成功させ、社内外から 「リクルートの立ち上げ屋」と呼ばれるように。その間、1993年には早稲田大学ビジネススクール修了。2000年6月に株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現オールアバウト)を設立し、総合情報サイト「All About」をスタート。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。著書に「アスピレーション経営の時代」(講談社)。


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※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。


IBMとメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターは、コグニティブ・コンピューティングを皮膚の症状の画像分析に応用する研究を行っています。このシステムは、医師ががんの症状を早期診断する際の支援ツールとなることが期待されているものです。

皮膚がん診断の重要性

アメリカにおいて、皮膚がんはよく知られているがんです。がんの中でも診断数がもっとも多く、毎年500万人が治療を受けており、その治療費は81億ドルにまで及びます。なかでも、悪性黒色腫はもっとも致死性の高い皮膚がんで、毎年9000人の死者を出しています。

がんと医療の長きに渡る戦いの結果、いまでは治療の選択肢はいくつもあります。しかし、早期の診断こそが治療のベストな結果を産みます。そのためには良性腫瘍から初期の悪性腫瘍を分類して見つけることが必要不可欠ですが、腫瘍の画像データから診断を下す病理医にとっても正確な判断を下すことは困難なのが実情です。現在、診断の正確さは病理医によって異なり、仮に機材を最新のものにし、知識と経験を可能な限り高めたとしても、75~84%だと言われています。悪性である明らかな兆候が微細であるときも多く、経験と慎重な調査が必要だからです。そこで、がんの画像を認識して、わずかな変化も見逃さずに解析をおこなうコンピュータがあれば、診断の助けになるとIBMは考えたのです。

”人の目”と”学習”が起こす革命

IBMの開発したコグニティブ・コンピューティングを使えば、コンピュータは色や形などの画像の要素を認識して、これまでに残された膨大な悪性腫瘍の画像パターンを学習できるようになります。そしてその学習を積み上げることで、コンピュータはベテランの病理医以上の測定技術を持てるようになるかもしれないのです。準備段階の実験でもコグニティブ・コンピューティングを用いた診断は高い精度を誇っています。97%の精度で画像を認識し、94%の精度で悪性腫瘍を特定したほどです。

IBMはメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターが主導する世界的な協力体制の中で、自動画像診断の研究を続けています。遠くない将来、どの病院でも早期のがん診断が実現される日がくるかもしれません。

photo:Thinkstock / Getty Images

オンライン販売は情報がたくさん得られることをはじめとして、さまざまな理由から実店舗での販売よりも拡大してきています。しかし、実店舗での販売もまだまだ伸びる余地があります。ブラジルのファッションブティック・Camisaria ColomboではIBMのモバイルテクノロジーを使うことで、豊富な経験をもつ店舗販売員が豊富なネットの情報を活かすシステムを作り、販売を拡大しています。

レコメンドするプロの目線を豊かに

ファッションブティックの良さは、来店客へ店舗販売員がプロの目線からオススメのファッションを提案してくれることです。しかし、プロの販売員とはいえ、ファッションブランドが展開している今季のコレクション情報をすべて把握することは難しく、まして来季の情報まで把握するのは困難です。また、自分が働く店舗以外の在庫を把握することも容易ではありません。Camisaria Colomboでは、これまでは、こういった情報を調べるために一人につき、一週間で9時間を要していました。

そこでCamisaria Colomboはタブレットやスマートフォンを活用しました。ここに販売増加の仕掛けがあります。手持ちのデバイスにアクセスするだけで、ブランドの情報や商品情報、他店舗の在庫情報などを即座に取得。これによって商品を探す時間を節約できるうえ、情報をもとに来店客に合ったファッションをオススメしたり、在庫がなくても近隣の在庫をもつ店舗を紹介したりできるようになりました。このことで、来店客は店舗の商品に縛られず、すばやく簡単に欲しいものを見つけられるようになったのです。欲しいものが決まっている人には購入に最適な店舗を、漠然とした欲しいものを持っている人にはファッションの提案を、と来店客の抱いていた”?”をセールスにつなげたのです。実際、導入前よりも25%売上が増加しています。

即時性を支えるモバイルソリューション

この事例にはIBMのもつデータ、サービス、アプリケーションを統合するIBM MobileFirstテクノロジーが役立っています。モバイルを通して、組織に属する人々の生産性の向上や、取引機会を逃さないための即時対応、顧客との親密な関係構築が可能です。この先も小売に限らず様々なビジネスの場面で活用されていくことでしょう。

photo:Thinkstock / Getty Images

イギリスの旅客鉄道会社National Expressグループは、クラウドをベースとしたサービスの導入によって、鉄道がよりスムーズに運行し、利用客のさまざまなニーズに応えることができるようになると発表しました。National Expressグループの一つc2cとIBMが開発したモバイルシステムは、鉄道を使った通勤や旅をより快適なものにします。

データを使えば鉄道が変わる

モバイルデバイスが普及した今、利用客は、正確でリアルタイムな情報を求めています。目的地までどういったルートで行くのが最短か、鉄道の遅延はないか、着いたらどこで食事をとろうか、といったことを調べながら移動することは、もはやごく当たり前の日常的なことになっています。c2cとIBMがIBM Cloudをベースに開発したモバイルアプリを使えば、こういった情報がいとも簡単に手に入るうえに、もっと鉄道を使いやすいものにしてくれます。例えば…

1.利用客は出発地と目的地の郵便番号を入力することで、ドア・トゥ・ドアの旅を簡単に計画できるようになります。またアプリを使えば、特定の列車の運行状況をチェック出来るだけでなく、駅で利用できるコーヒーショップや飲食店、そのほかのサービスを知ることができるのです。遅延情報もリアルタイムで知らせてくれます。

2.プラットフォームの駅員も、手持ちのモバイルデバイスから時々刻々と変化する運行情報を確認し、利用客へ知らせることができます。

3.アプリからは簡単に鉄道のチケットを取ることができます。また、車いす利用者はアプリから申し込みを行うだけでスムーズに駅員の補助を得ることができます。サービスについての感想も簡単にアプリから送信可能です。

4.遅延があった場合、利用客が被る損害を補填するサービスを2015年の終わりに開始する予定です。スマートカードの所持者に毎月、遅延に応じた分だけの損害額を分刻みでオートチャージします。

このように、利用客が望んでいた、痒いところに手が届くサービスが行われているのです。
また、アプリを利用してもらうことで得られた重要なデータをIBM Cloudで集積、解析することで、鉄道をより快適に利用してもらうために必要な見識を得ることができます。クラウドベースのモバイルアプリは鉄道と利用客の関係をより親密にする、イノベーションとなることでしょう。

アプリ開発のためのプラットフォーム「IBM Bluemix」

「仕事などの制約のないところで、存分に自分の力をふるってみたい!」
腕に自信のある開発者なら、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。

そんな方にぜひ参加していただきたいのが「IBM Bluemix Challenge 2015」です!
これは、IBMが開発者向けに提供するクラウド・プラットフォーム「Bluemix(ブルーミックス)」の豊富なサービスを利用して、まだ見たことのない優れたアプリやサービスの開発を競うコンテスト。

「Bluemix」とは、企業・個人を問わず利用できる、クラウドを基盤としたアプリ開発のためのプラットフォームです。
多様なプログラミング言語に対応した実行環境が整っていることにくわえ、アプリやサービスを開発するために便利な機能をご用意。必要なものを選択して追加することが可能です。開発者はわずらわしい準備をすることなく開発に専念できます。

「一般」と「学生」の2部門で募集

今年で2回目を迎える「IBM Bluemix Challenge 2015」ですが、今回は一般と学生の2部門でテーマを設定して作品を募集します。

まず一般部門のテーマは「身近なものから未来に向けた新しいビジネスやライフスタイルの創出まで、斬新なアイディアを具現化するために、さまざまなAPIを組合わせ、活用したアプリ開発」。
また学生部門のテーマは「インターネットに常時接続可能なコネクテッド・ビークルまたは自動車向けモビリティ・アプリの開発」です。

ちなみに昨年の最優秀賞は「BLUECOUPON (ブルークーポン)」。これは、店舗に来店したお客様の iPhone や iPad 向けに iBeacon を活用して QR コード付きクーポンを送信するアプリです。

参加にあたってプログラミング経験は関係ありません。斬新かつイノベーティブなアイディアで、「ありそうでなかったアプリ」「便利なサービスを実現できるアプリ」開発に、ぜひチャレンジしてください!

「IBM Bluemix Challenge 2015」の詳細はこちらから

経済成長著しいインドですが、支店やATMの不足などもあり、多くの人々が銀行を利用できない状況が続いていました。そこで2011年、ING バイシャ(ING Vysya)銀行※はそのような人々へ向け、モバイル・デバイスからアクセスできるモバイル・バンキング・アプリを開発しました。そのおかげで、銀行を使えなかった人たちも、安心して預金や決済などの銀行サービスを利用できるようになったのです。

※現在はKotak Mahindra Bank

モバイル・バンキング先進国インド

インドは、世界でもっともモバイル・バンキングを利用している国となりました。潜在的な銀行への需要があったためか、2012年の世界的な調査報告によると、インドでは76%の人が過去6ヶ月の間にモバイル・バンキングを利用している、と回答しています。同調査では、全体平均が35%、アメリカが38%、イギリスが31%だったということを鑑みると、インドの利用率の高さが浮き彫りになります。

インドにおけるNo1バンキング・サービスプロバイダーであるINGバイシャ銀行は、インドで長い歴史を誇り、また、インドの350以上の都市で530を超える支店を展開する銀行です。なぜ、これだけの支店を持ち利便性も高い銀行が、モバイル・バンキングに目をつけたのでしょうか?

応答の速さが支えるビジネスチャンス

それは、新規顧客獲得という目的があったのは確かですが、それ以上に、モバイル・バンキングには、既存顧客へのサービスを改善する可能性があったからです。その可能性とは、”スピード”。手持ちのモバイル・デバイスを使って、本来であれば、銀行へ行かなければならない各種手続きがその場でできれば、顧客が銀行とのやりとりに費やす時間は大幅に短縮できます。

そのためにINGバイシャ銀行は、IBM MobileFirstソリューションのキー・プラットフォーム、IBM MobileFirst Platform Foundationを用いて、各種スマートフォンやタブレット、OSに対応したモバイル・バンキング・アプリケーションを開発しました。このアプリを使えば、これまでATMや銀行へ行く必要のあった公共料金の支払いや別の口座への資金移動、明細書の確認、小切手の手続きといった数々のサービスを、モバイル・デバイスからすぐに行うことができるようになったのです。銀行やATMから出金したい場合でも、最寄りのATMや支店をアプリが教えてくれます。

この”スピード”の恩恵は顧客にとどまりません。銀行側にとっても、モバイル・アプリケーションを使うことによって、生産性の改善やカスタマー・サービス向上のためのサポートが得られているのです。

インドでのモバイル・バンキングは、今 やカスタマーサービスにとって重要なプラットフォームになっています。このようなモバイル・ベースのサービスの普及は、今まで対面が基本だった銀行のサービスに転換をもたらすものかもしれません。

photo:Thinkstock / Getty Images

エンド・ユーザーにとっては、使用しているアプリが弱体化しているかどうかを判別することは以前から難題でしたが、昨年のMasque攻撃を始め、企業システムに侵入する悪質なモバイル・アプリの脅威が姿を現している現在、IT部門にとっても判別は困難の度合いを増しています。

モバイル・アプリ拡大の危険

2014年11月にリリースされた「State of Mobile App Security(モバイル・アプリのセキュリティーに関する現状)」というレポートでは、2017年には2,530億個のアプリがダウンロードされると予測されています。これは2014年の1,270億個の約2倍です。特に、ビジネス・アプリは昨年、Apple App Storeで210パーセント、Google Play Storeで220パーセントという急激な伸びを見せました。このことから分かるのは、従業員が個人のデバイスで業務にアプリをますます使用するようになっているという傾向です。

現在、明らかにアプリは爆発的な伸びを見せていると言えます。IT部門は自社を守るために、社外はもちろん、社内のエンド・ユーザーから知らずに繰り出されるモバイル・アプリ攻撃に対しても備える必要があります。

どのモバイル・デバイスまたはオペレーティング・システムでも、何の対策も施さずに完璧に安全ということはありえません。脅威が存在しそうにない場合でも、1回のミスが致命的な漏洩を連続して引き起こし、短時間で業務に大損害を与える可能性もあるのです。これを考慮に入れ、モバイル・アプリの脅威が身近に迫っている現状に備えるために、企業にとって役に立つ4つのヒントを次に示します。

1.EMMソリューションを採用する

何よりもまず、企業はエンタープライズ・モビリティー・マネジメント(EMM)ソリューションを採用する必要があります。適切なEMMソリューションを適切な領域に導入すれば、同僚が使っているアプリとデバイスを監視および管理できます。これにより、社内のモバイル環境が可視化され、脅威が事業に影響を及ぼす前に対処できるようになります。EMMのもう1つの機能であるモバイル脅威管理では、モバイル・セキュリティー・リスクを発生時に検出、評価、軽減できるため、モバイル・マルウェアを防ぎ、より積極的な保護を実現します。

2.アプリの使用に関するポリシーを定める

エンド・ユーザーが使用しているモバイル・アプリでエンド・ユーザーの安全を確保する最も重要な要素の1つが、社内におけるアプリの使用に関するポリシーを定めることです。アプリのブラックリスト化やホワイトリスト化、コンプライアンス・チェックなどのセキュリティー・ポリシーを策定すると、社内のモビリティーに関する基本原則を定めることができます。また、それによりリアルタイムで対策をとることができるため、コンプライアンス順守を徹底させ、データ漏洩を予防できます。

3.エンタープライズ・アプリ・ストアを利用する

社内で使用しているアプリのセキュリティーと効果を最大限に確保するには、IT部門はエンタープライズ・アプリ・ストアの機能を活用する必要があります。エンタープライズ・アプリ・ストアを利用すると、セキュリティー・ポリシー、生産性、全体的なエンド・ユーザー・エクスペリエンスを維持しながら、各種の重要な一般アプリおよびエンタープライズ・アプリを安全かつ簡単に選択し、使用可能な状態にして配信できます。

4.エンド・ユーザーへの教育を続ける

アプリに関するセキュリティーの手続きはIT部門にとっては常識ですが、エンド・ユーザーにとってはそうではありません。企業は、アプリとモバイル・デバイスの使用に関するベスト・プラクティスという観点からユーザーを教育する必要があります。サード・パーティーのアプリ・ストアであっても、ITから送信されていないリンク(フィッシング)であっても、とにかく信頼できない場所からアプリをダウンロードするのは危険だとはっきり言う必要があるのです。
また、認証されていないアプリから企業データや文書にアクセスする行為も脅威になりうると明言してください。さらに、個人のスマートフォンを改造し、それを仕事に用いた場合、どのような問題が個人や企業に降りかかるかについても、エンド・ユーザーに伝えます。そのような機会を定期的に設ければ、今後起こりうる新しい形の攻撃についてもエンド・ユーザーに現状を知ってもらうことができるため、彼らを脅威から守る上で役に立つでしょう。

モバイル・アプリの脅威を撃退するために

モバイル・アプリをめぐる環境が大きく進化している現在、わずかな脆弱性を悪用する脅威もまた同じように進化を遂げています。以上の4つのヒントを参考にすれば、手遅れになる前に悪質な攻撃を食い止め、モバイル・アプリの脅威を撃退できるでしょう。

(出典:Security Intelligence より訳出 “Four Tips for Protecting the Enterprise Against Mobile App Threats”BY KEVIN OLIVIERI 2015年2月11日)


近年、高齢者の介護や作業現場などで、人の代わりに働くロボットや補助をする機器の開発に期待が高まっている。
東京理科大の小林宏教授は、人の筋肉の力を補強することで、作業を楽にする装着型の動作補助装置「マッスルスーツ」を開発した。身近で簡単に装着でき、比較的安価に設定されたマッスルスーツは、すでに高齢者の介護の現場や配送業者の倉庫での作業などで使用されており、2015年4月からは本格的な量産体制に入る。
小林教授は「動けない人を動けるようにする」「生きている限り、自立した生活を実現する」ための装置の開発を最終目標にしている。そのために、歩行訓練装置「アクティブ歩行器」の開発にも取り組んでおり、2015年中にはリリースし、病院や施設などに貸し出す計画だ。「マッスルスーツ」や「アクティブ歩行器」開発の経緯、ロボット開発に対するエンジニアとしての将来展望などについて、小林教授に聞いた。

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改良に改良を重ね、 細かな部分まで1つひとつがすべてノウハウ

パートナーとして、一緒にやれるかどうかは時間をかけて見極める以外にない。小林教授は「たくさんの企業からいろいろな話が来る。どんな会社もいちおう一生懸命にやるが、最終的には担当者の熱意。熱意が感じられない担当者を替えてほしいといっても、聞き入れない企業とは続かない」という。アサヒサンクリーンは、担当者の熱意に加えて、経営者が「開発はうまくいかないかもしれないが、それでも構わない。お金をドブに捨てるつもりでやる」と腹をくくっていたことが大きい、と振り返る。

マッスルスーツは1つひとつがすべてノウハウだ。問題点の指摘を受け、改良し、試して、また問題点を指摘され、改良する。作っては直し、作っては直しの積み重ねで、現在の形になっている。例えば、現在、人工筋肉は4本使っているが、最初は2本タイプと4本タイプの両方を用意していた。実際に使ってみて、4本の方が力が出るので、4本タイプに絞ることにした。

また、背中フレームは、今は腰の部分に横棒が入っていないが、横棒を入れて三角形になった物も作った。棒を入れる方が作るのは容易で、剛性を高めることもできる。横に棒を入れないと、三角形の底辺がないので、剛性が弱くなってしまう。そのため、いろいろな形で補強しなければならない。小林教授は「横棒がない方が、左右が独立しているので、動きやすい。そのため、もともと横棒はなかったが、すぐに壊れてしまった。そこで入れてみたが、今度は動きにくいといわれて、あちこち改良することになった。完成した今ではシンプルでよいといわれるが、現在のようになるまでには試行錯誤の連続で、本当に苦労した」と語る。

ものづくりの観点で最善と思う物を作っても、人間に通用するのは半分ほど

マッスルスーツはすべての力を身体で受ける。人工筋肉の収縮で、上半身を起こしていくが、そこで生じる反力をどこかで受けなければいけない。それを受けるのが腿パッドで、そこには背中フレームにつながる腿フレームが付いている。
「普通、腿フレームは腿パッドの真ん中に付いている方が安定すると思うが、実際には少し外側に付いている。装着している人にとって、その方が動きやすく、力の負担を感じない。それもやってみて初めて分かったことだった」

相手が機械であれば、精度をよくし、コストを抑えればよい。しかし、人間には個人差があり、動きだけではなく、感覚もある。そのため、ものづくりの観点からベストだと思って作ってみても、半分くらいしか通用しない。残りはやってみないと分からず、実際に付けてみて、初めて問題点や課題を理解することができる。
「その試行錯誤の過程すべてにつきあい続けてくれるのがパートナーで、パートナーなしにはマッスルスーツは今後も進化することはできない。その意味では、パートナーも覚悟が必要だ。今は大分認知されてきているので、協力企業も増えているが、アサヒサンクリーンが出てこなければ、マッスルスーツはなかっただろう」

2015年内にはマッスルスーツ以外に新たに3製品をリリース

2013年12月、小林教授はマッスルスーツを商品化し、販売するベンチャー企業「株式会社イノフィス」を東京理科大の葛飾キャンパス内に立ち上げた。そして、マッスルスーツを製造する企業として、菊池製作所と提携、本格的な量産体制に入った。また、マッスルスーツ以外の新しい機器の開発に取り組んでおり、2015年中に3つの製品をリリースする。開発はユーザーとの関係が基軸で、現場に行き、デモをし、改良する。さらにユーザーから様々な困っていることを相談されるので、それを聞いて、新たに作り始める。

リリース予定の1つ目はすでに生産ラインに載っている「軽補助」。人工筋肉が2本で、重さが5.5キログラムのマッスルスーツと比べると3割軽く、補助力も3分の2程度と十分だ。
2つ目が「前傾姿勢保持」で、農作業や介護現場でのおむつ交換、入浴補助などで使う。小林教授は「アサヒサンクリーンが使えると判断、導入することになっている。マッスルスーツは男性が着用して、利用者を抱え、入浴させる。そして、女性がバスタブに浸かった利用者の身体を洗うが、その時、ずっと前傾姿勢なので、出番となる。人工筋肉は使わずに、軽いので、10万円以下で販売する予定だ」と説明する。
3つ目が「腕補助」で、マッスルスーツのデモの時に、腕を上にかざす作業用の装置が欲しいと言われたことから開発した。倉庫などで重い物を上に持ち上げ、積み上げたりする際に使う。

動けない人を動けるようにすることを目指し、「アクティブ歩行器」を開発

小林教授は開発の最終目標を「動けない人を動けるようにする」「生きている限り自立した生活を実現する」ことに置いている。そこで、2015年冬には、誰もが立って歩けるようにするために、車椅子状態で取り付け、自動で立ち上がり、転倒の心配なく正しい姿勢を維持しながら、両足に着けた人工筋肉の収縮により歩行を補助する歩行訓練装置である「アクティブ歩行器」の提供を始める。

kobayashi_2-1「今まで、日本では車いすに乗れるようになると、何とか日常生活が送れるようになるので、病院や施設でのリハビリも終わりになってしまう。しかし、車いすの生活になってしまうと、筋肉の萎縮や筋力の低下、内臓の病気などが起こる廃用症候群(生活不活発病)になり、最終的には寝たきりになってしまう。それを防ぐには、立って歩くことが重要で、自分の足で歩く訓練をしていくと、車いすを使用するしかないと言われた人が歩けるようになることもあり、廃用症候群にならずに済む」

問題は、日本では上半身をコントロールできないと、リハビリで歩行訓練をしてもらえないことだ。小林教授は「上半身をコントロールできる人は赤ちゃんが乗るような歩行器や平行棒などで歩行訓練をする。しかし、それは正しいやり方ではない。転倒する心配がない形で立って、歩く訓練をするのが望ましい歩行訓練だ。アクティブ歩行器はそれができるようになっている」と解説する。

普通、脳梗塞などの後遺症で身体が不自由となった人が歩行訓練をする時には、療法士や看護師が2~3人がかりでベッドから車いすに移す。そして、リハビリ室で平行棒などを使って歩く練習をする。それに対して、アクティブ歩行器は訓練を受ける人の状態に合わせて、簡単に移れるように、3つのタイプを用意している。
1つ目はベッドから車いすに移して、そこで取り付ける車いすタイプ、2つ目はベッドに寝ている人をスライドボードのような器材を使って移し、回転して立ち上がらせるベッドタイプ、3つ目は寝た状態のままで、立ち上がらせるタイプのものだ。これによって、訓練を受ける人は最小限の手助けで歩行器に移り、歩くことができる。

本当に困っている人に使ってもらい、尊厳を持って生きていけるようにする

すでに何組かの人たちが研究室に来て、アクティブ歩行器を使って歩く訓練をしている。もちろん一生歩けないような状態の人もいるが、それでも歩く訓練はできる。それによって、廃用症候群に陥る可能性が大きく減る。小林教授は「マッスルスーツを販売して得た利益で、アクティブ歩行器を製作し、それを無償で貸し出して、病院や施設などで使ってもらおうと考えている。立てない人が立って歩く訓練の事例を積み重ね、協力してもらえる施設も増やしていく。そして、年内に5台くらいは貸し出しのメドを付けて、今後2~3年は販売せずに無償で提供していく」と語る。

一方、マッスルスーツの製造を担当する菊池製作所は福島第一原発事故の避難区域に整備した南相馬工場で、被災地の復興という目標も掲げて、マッスルスーツの本格的な生産に入っている。イノフィスの起業から1年半、マッスルスーツの販売を開始してから4カ月余り。マッスルスーツは福祉・介護、肉体労働、農業を主な領域に、販売代理店となる企業も増え、購入・レンタルの申し込みは急速に拡大している。その中で、マッスルスーツに対する問い合わせは、老老介護の当事者や、老老介護の親に使わせたいと考える子ども、障がい児を抱えた親など個人が多いのが特徴だ。

小林教授は「何よりも、エンドユーザーが大事だと考えている。障がいを持つ人々を始め、本当に困っている人に使ってもらいたい。その人たちが使えるということになれば、誰でも使える。そのため、エンドユーザーの意見を聞いて、開発を進めていく。それが普及への早道だ。マッスルスーツというブランドを前面に打ち出して、『困っているので、なんとかして欲しい』という当事者や家族の思いに応え、1人ひとりが尊厳を持って生きていけるようになることを目指していく」と抱負を語る。

TEXT:菊地原 博

小林宏氏

こばやし・ひろし
小林宏

東京理科大学 工学部第一部機械工学科 教授。博士(工学)
1966年生まれ。1995年、東京理科大学工学研究科機械工学専攻博士課程修了。
1996年~1998年、日本学術振興会海外特別研究員としてチューリヒ大学計算機科学科に留学。2008年から現職。2001年に科学技術振興事業団 さきがけ研究21「相互作用と賢さ」領域研究員。
専門は知能機械学、福祉工学、画像処理、ロボティクス、メカトロニクス。これまでの研究には、顔表情の認識に関する研究、顔表情ロボットの開発、ロボットのコミュニケーション知能に関する研究、マッスルスーツに関する研究、アクティブ歩行器に関する研究などがある。ユニークな研究に独自に取り組んでおり、企業に負けないコンセプトや技術力を保有、複数の企業と製品化、実用化のための共同研究や開発を推進している。
著書に『ロボット進化論–「人造人間」から「人と共存するシステム」へ』(オーム社)、『顔という知能- 顔ロボットによる「人工感情」の創発』 (共著、共立出版)がある。

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