商取引を支えるもっとも原則的かつ重要な基盤は「信頼」です。「あの商品は偽物かもしれない」という疑念があれば購買には結びつかず、取引相手が持つ紙幣がニセ札かもしれないという疑惑がある状態で物を売ることはできません。売り手と買い手の間に相互信頼が確立されて初めて、商品・モノの売買が成り立ちます。

しかし、そうした信頼の隙を突くようにして利益を得ようとする人物も存在します。

偽造品との闘い

社会が成熟して商取引の規模が拡大していく中で、人類は信頼を担保するためのさまざまな仕組みを構築してきました。たとえば、私たちが金銭を通じて当たり前に物を売買できるのは、通貨制度という仕組みがあってこそ成り立っています。食品や医薬品、家電製品などの商品を安心して購入できるのも、製品の安全性を監視する仕組みが存在するからです。

偽造品の流通を防止するための取り組みも、数多く試されてきました。しかし、複数の国の複数のサプライヤーから成る複雑なサプライチェーンには、不正を企てる者がその隙を狙っています。

IBM Researchの調べによれば、こうした不正行為が近年の世界経済に与える損害は、なんと年間6000億ドルを超えるといいます。その被害は紙幣や家電、さらには薬品にまで及び、一部の国においては人命に関わる薬品の実に7割近くが偽造品であるという調査結果もあるほどです。

「信頼」の在り方を塗り替えるブロックチェーン

このような問題を解決する鍵を握ると考えられているのが、「ブロックチェーン(分散台帳)」という技術。取引の記録を分散管理することによりデータの改ざんを防ぐ仕組みです。

従来の信頼性確保の仕組みのほとんどは、中央集約型で実現されていました。ブロックチェーンは、取引の記録(台帳)を複数のコンピューター上に保存して参加者間でリアルタイムに共有すると共に、高度な暗号化技術を用いて情報の複製や改ざんを防ぎます。ブロックチェーンを応用すれば、中央に監視機能を置くことなく、取引の信頼性を担保することも可能になります。実際、民間発行の仮想通貨が多くの人に支持されているのも、ブロックチェーンのおかげです。

ブロックチェーンを物理領域へ拡張する「塩粒大のコンピューター」

ブロックチェーン上では記録された内容をほぼリアルタイムに把握することができるため、複雑なサプライチェーン内における信頼性の確保にも多大な効果が期待されています。ただし、ブロックチェーンはあくまでもデジタルの世界で動作する仕組みであり、それ自体に物理的な「モノ」の信頼性を保証する力はありません。

そこでIBMでは、ブロックチェーンを物理領域に拡張するための「暗号化アンカー(crypto-anchors)」の研究を進めています。暗号化アンカーとは、簡単にいえば製品の製造元などを証明するための「タグ」のようなもの。先日米国で開催された「IBM THINK 2018」では、世界最小のコンピューターを活用した画期的な暗号化アンカーが紹介されました。

この画期的な暗号化アンカーは塩粒よりも小さなコンピューターを用いてつくられたもので、ブロックチェーンと連携してデータの監視や分析、更新などを行います。これを製品に取り付ければ、流通過程におけるモノの流れをリアルタイムかつ正確に把握し、偽造品の混入を始めとした不正防止に役立てることが可能となります。

あらゆる製品にパッとスマホをかざすだけで製品の製造場所から消費者の手元に届くまでの経路を瞬時に確認できる――。ブロックチェーンと暗号化アンカーの技術により、流通における信頼の確保は今後、劇的に変化していくことでしょう。

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